2015年9月24日木曜日

審決取消訴訟 商標 平成27(行ケ)10025 無効審判 不成立審決 請求認容

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成27年9月15日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官清 水 節
裁判官片 岡 早 苗
裁判官新 谷 貴 昭

「 2 取消事由2について
(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最(三)判平成12年7月11日,民集54巻6号1848頁)。
(2) これを本件について見ると,以下のとおりである。
ア 本件商標は,その外観上,「舞妓図形」,「舞妓マークの」の文字,「京都赤帽」の文字からなる結合商標であって,その構成中に「赤帽」商標と同一の「赤帽」の語を含むものである。また,本件商標は,全体として一個不可分の既成の概念を示すものとは認められないし,その称呼は「マイコマークノキョートアカボー」と14音からなる比較的長い商標であるから,簡易迅速性を重んずる取引の実際においては,その一部分だけによって簡略に表記ないし称呼され得るものであるということができる。
イ 他方,上記認定のとおり,原告の前身団体が,昭和50年5月12日から,「赤帽」の標章を貨物軽自動車に付し,運送事業を開始し,昭和51年7月には,赤帽軽自動車運送共同組合を設立し,その後,全国の京都府を含む各都道府県ごとに,会員組合を設立した上で,昭和53年には各会員組合を連合会組織にして原告が成立し,その組合員に運送業のノウハウを提供する一方,「赤帽」の文字よりなる商標を会員組合員の貨物自動車運送事業のサービスマークとして使用することを許諾する方式の営業を行ってきており,本件商標出願前である平成19年12月には,原告の組合員数は約1万5000名,車両台数は1万8000台となり,平成22年8月ころ以降,組合員数1万3000名程度,車両台数1万5000台程度となった。また,近年においては,原告は,「赤帽」商標の外に,平仮名の「あかぼう」,キャラクターの「あかぼうくん」及び欧文字の「Akabou」をデザイン化した商標も用いているが,原告ないし原告の営業を簡略に表示する場合には「赤帽」の語が用いられ(甲30ないし34),原告の組合員の屋号には「赤帽」の語が冠されるのが通常である。そうすると,「赤帽」商標は,原告の営業を示すものとして,我が国の貨物自動車及び軽自動車等による輸送の役務において,その取引者及び需要者の間に広く認識されているものであって,周知著名性の程度が高い表示である。
 もっとも,「赤帽」の語は,造語ではなく,赤い帽子又は駅において乗降客の荷物を運ぶ人の意味があり,駅において乗降客の荷物を運ぶ人の意味は,本件商標の指定役務である貨物運送業と関連するといえるから,「赤帽」商標の独創性の程度は,造語による商標に比して,低いとも考えられる。しかしながら,駅において乗降客の荷物を運ぶ人を「赤帽」と称することがほとんど見られなくなった現在では,前記認定の事実に照らせば,「赤帽」といえば駅において乗降客の荷物を運ぶ人より原告を想起すると考えられるから,「赤帽」の語が,本件商標の指定役務との関係で識別力が低いとはいえない。そうすると,本件商標の本号該当性の判断をする上で,「赤帽」商標の独創性の程度が低いことを重視するのは相当でないというべきである。
ウ 本件商標を構成する「赤帽」の語以外の部分のうち,「京都」は,地名としての京都府や京都市との観念を生じ,「舞妓図形」及び「舞妓マークの」は,京都の「舞妓さん」を想起させるものである。そして,原告を構成する組合は,京都府にも存在する。
 さらに,「赤帽」商標の周知著名性の程度の高さや,本件商標と「赤帽」商標とにおける役務の同一性並びに取引者及び需要者の共通性に照らすと,本件商標が指定役務に使用されたときは,その構成中の「赤帽」部分がこれに接する取引者及び需要者の注意を特に強く引くであろうことは容易に予想できるのであって,本件商標からは,原告又は原告と緊密な関係にある営業主の業務に係る役務であるとの観念も生ずるということができる。
 この点につき,被告は,被告の顧客が,原告の営業と被告の営業とを混同したことはない旨を証明した「証明願」と題する文書を複数提出する(乙17ないし44)。
 しかしながら,これら文書は,被告と取引関係のある顧客のみが被告の依頼に基づいて提出したものであって,被告と特定の取引のない一般の顧客の認識を証明するものではないから,上記認定を左右するに足りない。
(3) 以上のとおり,本件商標は,「赤帽」商標と同一の部分をその構成の一部に含む結合商標であって,その外観,称呼及び観念上,この同一の部分がその余の部分から分離して認識され得るものであることに加え,「赤帽」商標の周知著名性の程度が高く,しかも,本件商標の指定役務と「赤帽」商標の使用されている役務とが重複し,両者の取引者及び需要者も共通している。これらの事情を総合的に判断すれば,本件商標は,これに接した取引者及び需要者に対し「赤帽」商標を連想させて役務の出所につき誤認を生じさせるものであり,その商標登録を維持する場合には,「赤帽」商標の持つ顧客吸引力へのただ乗りやその希釈化を招くという結果を生じ兼ねないと考えられる。そうすると,本件商標は,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」に当たると判断するのが相当であって,「赤帽」商標の独創性の程度が造語による商標に比して低いことや,原告が「赤帽」商標以外の標章も使用していることは,この判断を左右するものでないというべきである(最(二)判平成13年7月6日,裁判集民事202号599頁参照)。
(4) したがって,本件商標の登録は,商標法4条1項15号に違反してなされたものであり,原告の主張する取消事由2は理由があるから,他の取消事由を判断するまでもなく,原告の請求には理由がある。

【コメント】
 被告の商標権(本件商標)は,以下のような商標です。
  
 他方,原告の所有し,原告が引用商標(「赤帽」商標)としたのは,以下を代表とするものです。
 
 そして,本件で問題となったのは,商標法4条1項15号でした。この条文は,「他人の業務に係る・・・役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)」とあり,条文中に,「類似」などという言葉は全く入ってないことに注意です。
 それ故, 「混同を生じるおそれ」とは一体どういう状態のことか,条文からはよくわからない点があるのです。
 この点については,この判決でも引用した判例,(最(三)判平成12年7月11日,民集54巻6号1848頁,デュールダン事件)が,いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標の定義みたいなもの, 「混同を生ずるおそれ」の有無を判断する基準及びその当てはめを示しました。
 ですので,4条1項15号が問題になったときには,何も考えず,この判例を引いてくればよく,場合によっては,この1年後に出た,パームスプリングスポロクラブ事件(最(二)判平成13年7月6日,裁判集民事202号599頁参照) を補充的に確認すれば済むような感じさえします(この判決も引いてます。)。
 要するに,「混同を生ずるおそれ」=類似+周知のことに過ぎないのではないかと思ってしまうわけです。
 他方,類似の基準に,混同のおそれが入り込んでおります(小僧寿し事件,最高裁平成9年3月11日判決,民集51巻3号1055頁)。
 
 そうすると,これらは何だかトートロジーの様相を呈するのではないかと思います。どうもこの辺が商標って分かりにくいなあって感じる所です。

 さて,本件については,「赤帽」商標が周知でもあり,かつ本件商標の一部がその「赤帽」商標と重複することもあり(審査基準参照),この結論となるのはやむを得ない所だと考えます。