2015年10月19日月曜日

侵害訴訟 特許 平成25(ワ)3360 東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日
 平成27年9月29日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川 浩 二
裁判官 清野正彦
裁判官 藤原典子

「 1  争点(1)(被告製品1の構成要件1-B充足性)について
 (1)前記前提事実(4)のとおり,構成要件1-Bは研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子が粗大粒子(半径2μmの仮想円を内包する大きさの粒子)でないことを要件とするところ,鑑定嘱託の結果及び当事者の主張によれば,被告製品1には2回目の研磨後の研磨面に少なくとも4か所の粗大粒子が存在することが明らかである。そうすると,被告製品1は構成要件1-Bを充足せず,本件発明1の技術的範囲に属しない(したがって,本件発明2,3及び6の技術的範囲にも属しない)と判断するのが相当である。 
(2)これに対し,原告は,① 不可避的な粗大粒子は「全粒子」に含まれない,② 「研磨面」とは1回目の研磨後の面をいう,③ 非磁性材の粒子中に含まれる強磁性材は除外される,④ 被告製品1は本件発明1の構成と均等であるとして,構成要件1-Bを充足する旨主張するが,以下のとおり,いずれも失当と解すべきである。
ア 上記①(不可避的な粗大粒子)について 構成要件1-Bに係る特許請求の範囲の記載は「前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2μmの全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり,」というものであり,非磁性材の全ての粒子が「非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2μmの全ての仮想円よりも小さい」か,又は「該仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する」形状及び寸法であること,すなわち,半径2μmの仮想円を内包する大きさでないことを要件としている。
 そうすると,特許請求の範囲の文言上,非磁性材の粗大粒子が存在する場合には構成要件1-Bを充足しないと解するのが相当である。・・・
(ウ)上記(イ)の事実関係に照らすと,本件発明1は,粗大な非磁性材の粒子が存在することによりパーティクルが発生するとの従来技術の問題点を解決するため,非磁性材の粒子を特許請求の範囲に記載された形状及び寸法に限定するという構成を採用したものであり,これにより上記の効果が得られたと認められる。そうすると,非磁性材の粒子の大きさが上記の範囲内にあること,すなわち,非磁性材の粗大粒子が存在しないことは課題解決のための本質的部分であり,粗大粒子の存在は本件発明1の目的に反するとみることができる。 ・・・」

【コメント】
 念のために無効の抗弁も判断しておりますが(こちらも成立で権利行使不能です。),基本的には,構成要件充足性なしとされた事例です。

 クレームは以下のとおりです。
1-A Co若しくはFe又は双方を主成分とする材料の強磁性材の中に酸化物,窒化物,炭化物,珪化物から選択した1成分以上の材料からなる非磁性材の粒子が分散した材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって,
1-B 前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2μmの全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり,
1-C 研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40μm以下であり,
1-D 直径10μm以上40μm以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が1000個/mm2以下である
1-E ことを特徴とする焼結体からなる非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。

 これは半導体等の製膜に使うスパッタリングのターゲット材の発明です。そのうち,問題となったのは,1-Bです。
 焼結体中の粒子の大きさが問題になったわけです。
 
 さて,本件では,被告製品に対して, 鑑定嘱託を行ったのですが,「観察の結果,① 観察試料1及び3の表面積はそれぞれ126.9mm2,98.3mm2であった,② 1回目の研磨後の観察では,観察試料1及び3のいずれにも非磁性材の粗大粒子は確認できなかった,③ 2回目の研磨後の観察では,観察試料1につき1か所,観察試料3につき6か所,非磁性材の粗大粒子を確認できたとされた。」という結果が出ております。

 そして,この結果のうち,原告も,上記③の観察試料1の1か所について粗大粒子が観測できたことについては争っていないようです。
 それ故,文言に形式的には非該当のようだけども,その原則を貫くとおかしいといえる例外的な状況があるかどうかなど問題となったわけです。
 つまり,そういう大きな粗大粒子は他の所からやってきた, 観測されたものは例外的な不可避粒子だ,それは許容されるなどなど・・・です。
 しかし,上記のとおり,明細書などには,そのような例外的な事情を許容するような部分はなく, 原則とおり,充足性はないと裁判所に判断されております。
 客観的な第三者に原告被告双方同意して鑑定を依頼したのですから,その結果が変だからとして,妙な言い訳を考えるのは若干筋が悪いような気がします。文句をつけるのでしたら,はじめから鑑定嘱託なんぞOKしないことですね。