2016年3月3日木曜日

審決取消訴訟 特許 平成27(行ケ)10051 無効審判 無効審決 請求認容

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成28年2月18日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 田 中 正 哉
裁判官 神 谷 厚 毅

「(ウ) 以上の本件訂正発明1の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項1)の記載及び本件訂正明細書の記載によれば,本件訂正発明1の「略V字形の防草傾斜面」とは,「略V字形」の連接傾斜面を構成する「下向き傾斜面」を利用して,植物の屈地性及び屈光性の特性を阻害することにより雑草の成長を阻止する「防草機能」を有する「傾斜面」を意味するものと解される。
イ 甲1発明の「連接傾斜面」について甲1発明は,甲1の図3のコンクリートブロックの左側面に示すように,「ブロックに設けた下向き傾斜面と,この下向き傾斜面に連設して設けた上向き傾斜面で構成した連接傾斜面」を有することは,前記1(3)認定のとおりである。
 前記1(2)の甲1の記載事項によれば,甲1には,①従来のコンクリートブロック(1)又はコンクリート壁(12)とアスファルト又はコンクリート(3)が接する面に,水切り又は排水孔が設けられていないため,アスファルト又はコンクリート(3)の収縮により,上記接する面に隙間ができ,その隙間から,雨水が入り込み,雑草が生え,更に雑草が生えることにより,より多くの雨水が入り込むため,クラッシャラン(4)が沈下し,それに伴いアスファルト又はコンクリート(3)も沈下又はひび割れが生じ,多量に雑草が生え,危険を伴うといった問題点があること(段落【0003】),②「この発明は,アスファルトまたはコンクリート(3)に接するコンクリートブロック(2)またはコンクリート壁(11)の面に雨水が流れるのを防止し,従って,雑草が生えにくく,クラッシャラン(4)やアスファルトまたはコンクリート(3)も沈下したりひび割れしたりすることがない,コンクリートブロック(2)またはコンクリート壁(11)および,コンクリート壁(11)の製造のための部材(14)を提供することを目的とする」こと(段落【0005】),③「発明の効果」として,「コンクリートブロック(2)またはコンクリート壁(11)が,アスファルトまたはコンクリート(3)に接する部分に内方向に下り勾配の棚を付けたことにより,アスファルトまたはコンクリートが棚面を覆う
ので,クラッシャラン(4)からの直接の雑草が生えることを防止する」こと(段落【0022】),「そして,棚を設け,排水孔(6)を設けることにより,水はブロックの背面を伝わらず,ブロックの前方へ流出するので,背面側のアスファルトまたはコンクリート(3),または,クラッシャラン(4)の沈下またはひび割れを防げる」こと(段落【0023】)が記載されていることが認められる。上記記載によれば,甲1記載のコンクリートブロック又はコンクリート壁は,コンクリートブロック又はコンクリート壁がアスファルト又はコンクリートに接する部分に内方向に下り勾配の棚を付ける構成とし,アスファルト又はコンクリートが棚面を覆うことにより,クラッシャランからの直接の雑草が生えることを防止し,さらに,その棚に排水孔を設けることにより,水はブロックの背面を伝わらず,ブロックの前方へ流出するので,クラッシャランに水が入り込むことがなく,背面側のアスファルト若しくはコンクリート又はクラッシャランの沈下又はひび割れを防げる効果を奏することを理解することができる。
 このように甲1には,コンクリートブロック又はコンクリート壁がアスファルト又はコンクリートに接する部分に内方向に下り勾配の棚を付ける構成とし,アスファルト又はコンクリートが棚面を覆い,さらには,その棚に排水孔を設けることにより,クラッシャランからの直接の雑草が生えることやクラッシャランの沈下を防止する発明を開示するものであり,その技術的意義は,コンクリートブロック又はコンクリート壁とアスファルト又はコンクリートとの接合面に隙間を発生させないようにし,さらには,排水孔を設けることで,クラッシャランに水が流れ込まないようにすることにより,クラッシャランからの直接の雑草が生えることやクラッシャランの沈下を防止することにあるものと理解することができる。
 他方で,前記1(3)のとおり,甲1には,図3におけるコンクリートブロックの左側面の切り欠き棚について言及した記載はなく,その構成の技術的意義についての明示的な記載もない。
 また,甲1の記載事項(図面を含む。)を全体としてみても,コンクリートブロック又はコンクリート壁がアスファルト又はコンクリートに接する部分に内方向に下り勾配の棚を付ける構成は,このような棚を設けてもコンクリートブロック又はコンクリート壁とアスファルト又はコンクリートとの接合面に隙間が発生することを想定して,所定角度の下向き傾斜面を利用して,植物の屈地性及び屈光性の特性を阻害することにより雑草の成長を阻止するものであることについての記載や示唆はない
 さらに,本件訂正明細書には,甲1を従来技術として挙げて,単純な切り欠き棚による防草では,雑草の屈光性及び屈地性を阻害するまでの角度がなく,望むような防草効果は期待できない旨の記載(段落【0008】,【0012】)がある。
 以上を総合すると,植物の屈地性及び屈光性により,植物の茎・葉は上方へ成長するが,下方へ成長せず,根は下方へ成長するが,上方へ成長しない性質を有することは,一般に知られていたことを勘案しても,甲1から,甲1の図3におけるコンクリートブロックの左側面の切り欠き棚の上面(棚面)が,植物の屈地性及び屈光性の特性を阻害することにより雑草の成長を阻止する「防草機能」を有することが開示されているとまで認めることはできない。
 したがって,本件審決認定の甲1発明の「連接傾斜面」は,本件訂正発明1の「略V字形の防草傾斜面」にいう「防草傾斜面」に相当するものとは認められないから,甲1発明の「連接傾斜面」は,実質的に本件訂正発明1の「略V字形の防草傾斜面」の構成に相当するとして,相違点(ア)は実質的な相違点であるとは認められないとした本件審決の判断は誤りである。 」

【コメント】
 防草効果のある歩道と車道と間の目地,に関する発明です。
 
 問題となったのは進歩性ですので,まずは本願発明のクレームから。

【請求項1】
  ブロックに設けた下向き傾斜面と,この下向き傾斜面に連設して設けた上向き傾斜面で構成した略V字形の防草傾斜面と,この略V字形の防草傾斜面に充填された舗装又は他の構造物の逆略V字形の防草傾斜面とで構成される構造物の目地であって,
  このブロックの下向き傾斜面と,側面鉛直面との連結箇所を湾曲連結部(9),(29),(49),(69),(89),(109),(129),(149),(169)又は(189)とし, この湾曲連結部(9),(29),(49),(69),(89),(109),(129),(149),(169)又は(189)は,前記ブロックの略V字形の防草傾斜面に,舗装面を舗装,又は他の構造物を設置した際に,この舗装又は他の構造物の下側に位置する構成とし,
  この舗装又は他の構造物の下側に位置する湾曲連結部(9),(29),(49),(69),(89),(109),(129),(149),(169)又は(189)は,前記下向き傾斜面と,前記側面鉛直面との連設箇所に形成した構造物の目地の構造
。」
 
 図で示すとこのようなもののようです。
 ポイントは,4上向き傾斜面と5下向き傾斜面の織りなす,「略V字型の防草傾斜面」です。
 
 他方,引用発明はこんな感じです。
 
 このポイントは 11のコンクリート壁(図の左下の棚みたいになっている所)です。

 一致点・相違点はこんな感じです。
イ 本件訂正発明1と甲1発明の一致点
「ブロックに設けた下向き傾斜面と,この下向き傾斜面に連設して設けた上向き傾斜面で構成した連接傾斜面と,この連接傾斜面に充填された舗装とで構成される構造物の目地であって,
 このブロックの下向き傾斜面と,ブロックの側面との連結箇所を連結部として,
 この連結部は,前記ブロックの連接傾斜面に舗装面を舗装した際に,
 この舗装の下側に位置する構成とし,
 この舗装の下側に位置する連結部は,前記下向き傾斜面と,前記ブロックの側面との連設箇所に形成した構造物の目地の構造。」である点。

ウ 本件訂正発明1と甲1発明の相違点
(ア) 相違点(ア)
「ブロックに設けた下向き傾斜面と,この下向き傾斜面に連設して設けた上向き傾斜面で構成した」「連接傾斜面」を,本件訂正発明1では「略V字形」であり機能的に「防草傾斜面」であるとしているのに対して,甲1発明では,このような特定をしていない点。

(イ) 相違点(イ)
「ブロックの下向き傾斜面と,ブロックの側面との連結箇所を連結部として,この連結部は,前記ブロックの連接傾斜面に舗装面を舗装した際に,この舗装の下側に位置する構成とし,この舗装の下側に位置する連結部は,前記下向き傾斜面と,前記ブロックの側面との連設箇所に形成」される「連結部」を,本件訂正発明1では「湾曲連結部(9),(29),(49),(69),(89),(109),(129),(149),(169)又は(189)」としているのに対して,甲1発明では「湾曲」した連結部としてはいない点。
(ウ) 相違点(ウ)
ブロックの下向き傾斜面に連結する側面が,本件訂正発明1では鉛直
面であるのに対して,甲1発明ではそうではない点
。」

 さて,審決は, 4上向き傾斜面と5下向き傾斜面の織りなす,「略V字型の防草傾斜面」が,上記甲1の図3の11のコンクリート壁(図の左下の棚みたいになっている所)に当たり,実質的に差がないとしました。

 ところが,判決は,そこは実質的な差であり,それを実質的な差でないと判断した審決に誤りあり,としたわけです。

 確かに,甲1の図3の切り欠き棚の上面(棚面)は,棚っぽく,角度がついていないのです。つまりはV字というよりL字です。
 ですので,判決は,本願発明の防草効果がないし,そのようなことも書いていないから,ダメと判断したのです。

 これはちょっと審決の勇み足という感じがします。ですので,判決の判断は仕方のない所です。

 ところで,今回の発明はV字型をとることにより,「自然の摂理」 による防草効果が出る,と明細書にも書いております。しかし,明細書には,この自然の摂理が書かれておらず,どんなメカニズムで防草効果が発揮されるのかイマイチわかりません。
 勿論,私はこの分野の当業者ではありませんので,当業者だったら立ち所にわかるのかもしれませんが,ちょっと違和感はあります。メカニズムや作用機序の記載は必須ではないのでしょうが,ちょっと考えどころだなと思った次第です。