2016年4月14日木曜日

審決取消訴訟 商標 平成27(行ケ)10219 無効審判 無効審決 請求認容

事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成28年4月12日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴 岡 稔 彦
裁判官 大 西 勝 滋
裁判官 神 谷 厚 毅
 
4条1項11号
「 ア 本件商標と引用商標1の類否について
(ア) 本件商標と引用商標1を対比すると,本件商標より生じる「フランクミウラ」の称呼と引用商標1から生じる「フランクミュラー」の称呼は,第4音までの「フ」「ラ」「ン」「ク」においては共通するが,第5音目以降につき,本件商標が「ミウラ」であり,引用商標1が「ミュラー」であって,本件商標の称呼が第5音目と第6音目において「ミ」「ウ」であり,語尾の長音がないのに対して,引用商標1においては,第5音目において「ミュ」であり,語尾に長音がある点で異なっている。しかし,第5音目以降において,「ミ」及び「ラ」の音は共通すること,両者で異なる「ウ」の音と拗音「ュ」の音は母音を共通にする近似音である上に,いずれも構成全体の中間の位置にあるから,本件商標と引用商標1をそれぞれ一連に称呼する場合, 聴者は差異音「ウ」,「ュ」からは特に強い印象を受けないままに聞き流してしまう可能性が高いこと,引用商標1の称呼中の語尾の長音は,語尾に位置するものである上に,その前音である「ラ」の音に吸収されやすいものであるから,長音を有するか否かの相違は,明瞭に聴取することが困難であることに照らすと,両商標を一連に称呼するときは,全体の語感,語調が近似した紛らわしいものというべきであり,本件商標と引用商標1は,称呼において類似する
 他方,本件商標は手書き風の片仮名及び漢字を組み合わせた構成から成るのに対し,引用商標1は片仮名のみの構成から成るものであるから,本件商標と引用商標1は,その外観において明確に区別し得る。さらに,本件商標からは,「フランク三浦」との名ないしは名称を用いる日本人ないしは日本と関係を有する人物との観念が生じるのに対し,引用商標1からは,外国の高級ブランドである被告商品の観念が生じるから,両者は観念において大きく相違する
 そして,本件商標及び引用商標1の指定商品において,専ら商標の称呼のみによって商標を識別し,商品の出所が判別される実情があることを認めるに足りる証拠はない。
 以上によれば,本件商標と引用商標1は,称呼においては類似するものの,外観において明確に区別し得るものであり,観念においても大きく異なるものである上に,本件商標及び引用商標1の指定商品において,商標の称呼のみで出所が識別されるような実情も認められず,称呼による識別性が,外観及び観念による識別性を上回るともいえないから,本件商標及び引用商標1が同一又は類似の商品に使用されたとしても,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。
 そうすると,本件商標は引用商標1に類似するものということはできない。」
 
4条1項15号
「(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。
 そこで,以下においては,上記の観点を踏まえて,本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」(商標法4条1項15号)に該当するかどうかについて判断する。
(2)ア 本件商標と被告使用商標の類似性の程度
 本件商標と被告使用商標1及び2とは,それぞれ,その称呼においては類似するものの,外観及び観念において相違することは前記1及び2のとおりである。
イ 被告使用商標の周知著名性等
 被告使用商標は,いずれもフランク・ミュラー氏の氏名をそのまま商標としたものであるから,独創性の程度は低いものの,前記1(2)アのとおり,本件商標の商標登録出願時及び登録査定時において,外国の高級ブランドである被告商品を表示するものとして,我が国において,需要者の間に広く認識され,周知となっていたものである。
ウ 本件商標の指定商品と被告商品等の関係等
 本件商標はその指定商品に「時計」を含むものであるから,これは被告使用商標が周知性を獲得した商品と同一である。また,本件商標の指定商品のうち「時計」以外の商品「宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,キーホルダー,身飾品」については,いずれも,デザインやブランド,装飾性が重視されるとともに,身に付けたり又は所持したりして用いられるものであるほか,被告においても,指輪やネックレスが時計と共に販売されるなど(甲66,67),時計と共に販売される機会も多いものと認められるから,本件商標の指定商品は,被告商品とその性質,用途,目的において関連し,また,取引者及び需要者においても共通するものと認められる。
 そして,本件商標の商標登録出願時及び登録査定時において,被告使用商標2を付した時計が,百貨店や時計店において展示する方法により販売され,また,商品の外観を撮影した写真を付して雑誌において広告宣伝されていた(甲35ないし196)。他方,本件商標の商標登録出願時及び登録査定時よりも後の事情ではあるが,原告商品は,インターネットで販売され,その際には,商品の外観を示す写真が掲載されている(甲200ないし202)。
 なお,被告がその業務において日本人の姓又は日本の地名を用いた商標を使用している事実はないことは前記1(3)ア(イ)aのとおりである。
エ 検討
 前記アないしウによれば,被告使用商標は, 外国ブランドである被告商品を示すものとして周知であり,本件商標の指定商品は被告商品と,その性質,用途,目的において関連し,本件商標の指定商品と被告商品とでは,商品の取引者及び需要者は共通するものである。
 しかしながら,他方で,本件商標と被告使用商標とは,生じる称呼は類似するものの,外観及び観念が相違し,かつ,前記1(3)アのとおり,本件商標の指定商品において,称呼のみによって商標を識別し,商品の出所を判別するものとはいえないものである。かえって,前記ウのとおり,被告使用商標2を付した時計が,時計そのものを展示する方法により販売がされたり,被告商品の外観を示す写真を掲載して宣伝広告がなされていること,本件商標の登録査定時以後の事情ではあるものの,本件商標を付した原告商品も,インターネットで販売される際に,商品の写真を掲載した上で販売されていることに照らすと,本件商標の指定商品のうちの「時計」については,商品の出所を識別するに当たり,商標の外観及び観念も重視されるものと認められ,その余の指定商品についても,時計と性質,用途,目的において関連するのであるから,これと異なるものではない。加えて,被告がその業務において日本人の姓又は日本の地名を用いた商標を使用している事実はないことに照らすと,本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準としても,本件商標を上記指定商品に使用したときに,当該商品が被告又は被告と一定の緊密な営業上の関係若しくは被告と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるとはいえないというべきである。
 そうすると,本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものとは認められない。 」

【コメント】
 数日前からマスコミで大きく取り上げられていたいわゆるフランクミュラー事件の判決です。

 原告,つまりパロディ側の商標はこんなのでした。
 
 結構ふざけた感じです。浦という字もわざと間違えています。指定商品は,第14類の「時計,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,キーホルダー,身飾品」です。
 
 対して,被告,つまりは無効審判請求人の商標(引用商標1)です。
 
  フランク ミュラー(標準文字) 
 
 指定商品は, 第14類「貴金属(「貴金属の合金」を含む。),宝飾品,身飾品(「カフスボタン」を含む。),宝玉及びその模造品,宝玉の原石,宝石,時計(「計時用具」を含む。)」  

 なので,少なくとも商品は,類似の範囲です。
 
 審決はどう言ったかというと,こんな感じでした。
以上によれば,本件商標と引用商標とは,外観において相違があるものの,称呼及び観念において類似し,かつ,その指定商品は類似するものであるから,両商標は,類似するというのが相当であり,本件商標は,商標法4条1項11号に該当する。
 
被告使用商標は,被告の業務に係る商品である「時計」に使用され,本件商標の商標登録出願時及び登録査定時において既に著名であったこと,本件商標が被告使用商標と類似する商標であること,本件商標の指定商品は,被告の業務に係る商品「時計」を含み,かつ,それ以外の指定商品である「宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,キーホルダー,身飾品」と商品「時計」とは,共にデザイン,ブランド,装飾性が重視される商品であり,その販売場所,需要者を共通にすることも多い,近似した商品といえることに照らすと,本件商標は,これをその指定商品について使用した場合には,他人の業務に係る商品と混同を生じるおそれのある商標に該当すると認められるから,仮に本件商標が商標法4条1項10号及び同項11号に該当しないとしても,同項15号に該当する。
    原告は,原告商品はパロディウォッチに徹しており,本件商標は需要者が被告商品の時計と出所を混同して購入することなど一切ないように使用されており,原告商品は被告商品とは明らかに別のものとして需要者に広く認識されている旨主張するが,前記(2)のとおり,原告商品は,パロディ商品である旨をその特徴としており,これは,原告商品に接した需要者が一見した際に,被告商品並びに引用商標及び被告使用商標を想起することを意図していることを示すものであるから,原告が被告の著名な被告使用商標に係る業務上の使用にただ乗り(いわゆるフリーライド)していることは明らかであって,原告の上記主張は採用することができない。
 
 その他,4条1項10号と4条1項19号の論点もありましたが,省きました。両方とも類否の論点ですので,4条1項11号に包摂されるからです。
 
 さて,では,審決と判決で何が違ったのだろうかというと,私は2点あると思います。
 
 一つは,当然,類否の論点です。 
 上記2つの商標って似ていますかね。
 そりゃ少しは似ているでしょうが,最高裁の規範「 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきである」に照らしてどうか?って話です。
 
 こんなへんてこな日本語(カタカナと誤字)と 凄く著名なブランドです。なかなか似ているというには無理があるのではないかと思います。
 
 次に,もう一つは,フリーライドとか希釈化の話です。審決は,ここをかなり重視していたがために,類否の論点でも類似としたのではないかと思います。
 
 では判決は何故ここを重視しなかったのか,少なくとも審決ほどに重視しなかったかというと,「そもそも,原告が本件商標を付した時計の販売を開始したのは,本件商標の商標設定登録以後であることは当事者間に争いがない」のです。
 つまり,商品との関連付けがかなり薄いのです。それ故,パロディ商標の事件は,大体淡々と類否を判断されるのですが,それ以上にパロディ側に有利だったのではないかと思います。
 
 なお,4条1項15号の規範は,レールデュタン事件です。11号の方は,氷山事件です。両方とも極めて有名な事件です。