2016年6月13日月曜日

侵害訴訟 特許 平成26(ワ)28449  東京地裁 請求一部認容


事件番号
事件名
 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 平成28年5月26日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官長谷川浩二
裁判官藤原典子
裁判官中嶋邦人
 
「(1)原告は,被告製品の金属板が本件発明における「アンテナ素子」に当たると主張する。
 そこで検討するに,特許請求の範囲の文言上,「アンテナ素子」は少なくともFM放送の信号を増幅するアンプの入力にアンテナコイルを介して接続され(構成要件D,E),アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振する(構成要件F)ものであり,アンテナ素子のみでFM波帯で共振することは要しない。そして,被告製品において金属板と巻線が接続されることによりFM波帯で共振すること(前記前提事実(4)イの構成f)は当事者間に争いがなく,金属板のみあるいは巻線のみではFM波帯で共振しないことを被告は争っていない(甲8,9,乙7参照)。これらの事実によれば,被告製品の金属板は,巻線と接続されることによりFM波帯で共振するものであって,「アンテナ素子」に該当すると解するのが相当である。 
(2)これに対し,被告は,① 被告製品は容量装荷型アンテナであって金属板は容量装荷板であり,コイル装荷型アンテナである本件発明とは原理が全く異なる,② 金属板はその固有共振周波数や減衰幅に照らしFM波帯のアンテナ素子ではあり得ない,③ 共振とは電流量が極大になる現象をいい,金属板が共振しているというためには金属板に流れる電流量が極大でなければならないところ,金属板と巻線を接続しFM波帯で共振している状態において金属板にはほとんど電流が流れていない旨主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。
 上記①については,装荷の方法は特許請求の範囲に記載されておらず,金属板がアンテナコイルと接続されることでFM波帯で共振すれば本件発明におけるアンテナ素子に該当するから,装荷方法に違いがあったとしてもそのことが構成要件該当性の判断に影響することはない。
 上記②については,上記(1)のとおりアンテナ素子が単体で共振する必要はないから,この点も金属板がアンテナ素子に該当することを否定する根拠となるものではない。
 上記③についてみるに,被告が行った電磁界シミュレーション(乙12,17)によれば,金属板と巻線が接続されFM波帯で共振している状態の被告製品において金属板部分に流れる電流量が巻線部分に比べかなり少ないということができるが,この実験において観測されたのが電流密度(A/m)であること,実験結果を示す図において金属板の大部分は青色に表示されているが,電流密度が0ではなく1~2であってもそのように表示されることからすれば,上記シミュレーションをもって金属板部分に電流が流れていないとはいえない。この点に関し,被告は鏡像効果により被告製品の金属板に流れる電流はない旨指摘するが,鏡像効果による電流の打消しが完全に生じるのはアンテナがグランド面と平行な場合であるところ(乙13~16),被告製品の金属板のうち完全にグランド面と平行な部分はほとんどなく,相当の部分はグランド面に対し垂直に近い角度にある上(甲8),被告製品が設置されるのはさほど広くない自動車の屋根であるから,鏡像効果により金属板に流れるべき全ての電流が打ち消されるとは考え難い。かえって,証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば,アンテナ
で共振が生じているというとき,電流量が最大になる点は波長及びアンテナの構造に応じて決まるが,その両端に必ず電流量が0となる点があること,電流量の分布はアンテナの構造により緩やかに増減する場合もあれば急激に増減する場合もあること,いずれの場合でも共振は当該アンテナ全体で生じていることが認められる。そうすると,被告製品において金属板と巻線が接続されるとFM波帯で共振する以上,金属板も共振していると認められるのであり,巻線の電流量に比し金属板の電流量が極めて少ないとしても,そのことは金属板の共振を否定する根拠とはならないというべきである。
(3)したがって,被告製品は,構成要件D~Fを充足し,本件発明の技術的範囲に属すると認められる。 」

【コメント】
 報道でもシャークフィンアンテナの特許事件ということで,話題になったものです。
 
 クレームは訂正前で以下のとおりです。
 
A: 車両に取り付けられた際に,車両から約70mm以下の高さで突出するアンテナケースと,
B: 該アンテナケース内に収納されるアンテナ部
C: からなるアンテナ装置であって,
D: 前記アンテナ部は,アンテナ素子と,該アンテナ素子により受信された少なくともFM放送の信号を増幅するアンプを有するアンプ基板とからなり,
E: 前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力にアンテナコイルを介して接続され,
F: 前記アンテナ素子は前記アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振し,
G: 前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信する
H: ことを特徴とするアンテナ装置。
 
 さて私が注目したのは,構成要件EとFのアンテナコイルの所です。
 
 被告が,「本件発明はコイル装荷型アンテナであり,インダクタンス分の不足するアンテナ素子にアンテナコイルによりインダクタンス分を付加して共振させるものである(本件明細書段落【0017】)。これに対し,被告製品は容量装荷型アンテナであり,対向するグランド面との静電容量(キャパシタンス分)と抵抗成分をアンテナ素子に装荷しアンテナ利得の増加を図るもので,両者は目的も効果も全く異なる。被告製品におけるアンテナ素子は巻線であって,金属板はアンテナ素子ではなく容量装荷板であり,構成要件D~Fを充足しない。 」と主張したからです。
 
 つまり,明細書等の記載からすると,本件特許は,アンテナにコイルを直列接続し,短いアンテナでも利得を稼ぐことのできるコイル装荷型だ,他方被告製品は,アンテナの先の方などに導電性のある板(線でもよいようです。)をつけて,全体の長さを短くできるという容量装荷型だと主張したのですね。
 ただ,この方式は両立するようで,容量装荷型アンテナにコイルを装荷し,更に利得を稼ぐということができるようです。
 
 まあそうすると,本件では,コイルを装荷していることは確かなようですので,文言上は該当するということになりそうです。
 
 あとは,それ以上に明細書の記載などから限定解釈されるような所があるかということになるのですが,容量装荷型と両立はしない,とまでは書かれておらず,判決が特段限定解釈しなかったのもやむを得ない所でしょう。 

 とは言え,被告は,トヨタ,日産,スバル,三菱などへ納入しており,このまま判決を確定させるわけにはいかないでしょう。
 また,無効審判の審決もまだ出ていないようで,そのため,第二幕の知財高裁が,メインイベントとなるような気配です。