2017年2月9日木曜日

侵害訴訟 商標 平成28(ワ)17092 東京地裁 請求棄却

事件名
 損害賠償等請求事件
裁判年月日
 平成29年1月26日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長谷川 浩 二
裁判官 萩原孝基
裁判官 中嶋邦人
 
「 原告商標1との類否につき検討する。
ア 原告商標1は,赤系統の色のゴシック体様の漢字「赤帽」を横書きしたものであり,その構成から「あかぼう」の称呼及び「赤い帽子」との観念が生じる。また,「赤帽」の語は,駅で乗降客の手荷物を運ぶ者その他運搬人(ポーター)を指す普通名詞であるので,「運搬人」といった観念も生じると認められる(乙9,10)。
イ 被告標章1は,別紙被告標章目録記載1のとおり,図形部分と文字部分から構成されており,図形部分は,直立して両手で荷物を捧げ持つ舞妓姿の女性の正面像を示す図形(以下「舞妓の図形」という。)が中央に大きく配置され,その右上方に小さく五重塔の図形が配置されている。文字部分は,舞妓の形の下部に配置されており,左端に左右2列に分けて縦書きに記載した「株式会社」の文字と,その右側に,これより大きな,同一の書体の漢字で等間隔に横書きに記載した「京都赤帽」の文字から成る。文字部分は,横幅は図形部分の2倍程度あるが,高さは図形部分の5分の1程度である。被告標章1は,中央に大きく描かれた舞妓の図形から「まいこのマーク」という称呼及び「舞妓に関係するもの」といった観念を生じさせる。また,その文字部分の全体から「かぶしきがいしゃきょうとあかぼう」,うち大きい字の部分から「きょうとあかぼう」の称呼及び「京都の赤い帽子」との観念が生じるほか,上記普通名詞が含まれることにより「手荷物を運搬する京都の会社」といった観念が生じ得る。
ウ 以上に基づき,原告商標1と被告標章1の類否についてみるに,これらを全体的に観察した場合には,外観,称呼及び観念がいずれも大きく相違する。また,被告標章1のうちその構成上その余の部分と識別可能な「京都赤帽」との文字部分のみをみた場合でも,原告商標1とは「京都」の有無並びに文字数(2字か4字か)及び音数(4音か7音か)が異なっており,外観,称呼及び観念共に明確に区別し得ると解される。さらに,原告商標1と被告標章1は,被告標章1に「赤帽」の文字が含まれることから称呼等の一部に共通点があるが,被告標章1の構成上この2字のみに着目することは困難と解される上,「赤帽」の語は前記意味を有する普通名詞であることに照らすと,上記共通点を類否の判断において重視することは相当でない(なお,原告商標1が周知であるとの原告の主張については後述する。)。
 これに加えて,取引の実情をみるに,本件の証拠上,被告標章1の使用により原告と被告の提供する役務の間に出所の混同ないしそのおそれが生じていること,例えば,原告商標1の指定役務の需要者において,地名と「赤帽」の語を組み合わせた名称が原告(その組合員を含む。以下同じ。)の提供する役務を示すものとして広く認識されていること,被告の提供する役務が「あかぼう」と略称されていること,原告が舞妓を想起させる図形を被告による使用開始前から用いていることなどの事情はうかがわれない。
 以上によれば,原告商標1と被告標章1は類似しないと判断するのが相当である。
エ これに対し,原告は,被告標章1のうち「赤帽」以外の部分が識別力を有しないこと,原告商標1が周知であることを理由に,「赤帽」の部分が被告標章1の要部であり,これが原告商標1と同一であるので,被告標章1は原告商標1に類似する旨主張する。
 そこで判断するに,被告標章1の構成は前記イのとおりであり,「赤帽」の文字は「京都赤帽」という一連表記された文字列の一部に存するにとどまる一方,舞妓の図形が中央上部に大きく配置されており,これが被告標章1に接する者の注意を引くことに照らすと,被告標章1のうち「赤帽」の部分のみが識別力を有し,その余の部分から出所識別機能としての称呼又は観念が生じないとは認められない。
 また,原告商標1の周知性を裏付ける証拠として原告が提出するのは,昭和52年~56年の新聞記事(甲53~59,60の1),原告作成の機関誌等(甲60の2~5)のほか,一部(平成20年発行のサンデー毎日。甲68)を除いては広く頒布されているか定かでない雑誌の記事等や放映地域が限られたテレビ報道等(甲70~75,78,79),専ら子供向けと解される書籍又は玩具(甲69の1及び2,76,77)にとど
まる。さらに,これらの証拠上も,原告が常に「赤帽」と略称されるのではなく,「Akabou」,「あかぼう」等の表示も用いられていることが認められる。そうすると,「赤帽」の表示が原告の提供する役務を示すものとして原告商標1の指定役務の取引者又は需要者に広く認識されていると認めるに足りないから,被告標章1のうち「赤帽」の部分が役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると解することは困難である。
 したがって,本件において被告標章1の構成から「赤帽」の部分を抽出してこの部分だけを原告商標1と比較して商標の類否を判断することは相当でなく(最高裁平成20年9月8日判決・裁判集民事228号561頁参照),原告の上記主張を採用することはできない。」

【コメント】
 商標権侵害の件です。赤帽の事件ですが,ここで扱うのは2回めですね。
 前の事件はこちらです。
 
 さて,前の事件は,今回の原告が原告の赤帽商標,
 
について,被告の登録商標
 
と混同を生じるおそれがあるから(4条1項15号),無効だ!と主張し,これが認められた行政訴訟です。
  
 他方,本件は,上記の商標が似ているか似ていないか判断した民事訴訟です。なので,結論が違っていてもいいと言えばいいのですが,類似の本質は誤認混同ですので,何か釈然としません。
 
 知財高裁の方は,「赤帽」が著名であり,しかも,被告の商標は,赤帽部分を分離して認識できるとして, 4条1項15号該当としました。

 ところが,本件は,赤帽部分を分離しちゃダメだし,舞妓さんの絵もあるし,全然違う,しかも「赤帽」は周知じゃない!と,まるで真逆の判断をしたわけです。
 
 ちょっとこれは,原告としても収まらないと思います。知財高裁で1部に係属すると逆転もあり得る所だと思います。