2017年4月26日水曜日

侵害訴訟 特許  平成28(ワ)20818  東京地裁 請求認容

事件名
 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日
 平成29年4月19日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第29部 
 裁判長裁判官 嶋 末 和 秀 
裁判官 天 野 研 司

裁判官笹本哲朗は,転勤につき,署名押印することができない。

      裁判長裁判官  嶋 末 和 秀  
 
「 2  争点1(被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について
  (1) 争点1-1(被告各製品は構成要件1Dを充足するか)について
  ア  構成要件1Dは,「隣接する基材(1)同士はロープ止め突起(3)の外側が可撓性連結材(13)で連結されず,ロープ止め突起(3)の内側が2本の可撓性連結材(13)と一体に樹脂成型されて連結され,」と規定する。
  ここで,構成要件1Dにいう「ロープ止め突起(3)」とは,構成要件1Aに係る特許請求の範囲の記載からして,細長の基材において,両端に突設された貝止め突起よりも軸方向内側に,貝止め突起と同方向にハ字状に突設された突起であることを要し,「ロープ止め突起」という語の意義からして,ロープに差し込んだ貝係止具を抜け止めすることを目的とする突起部分をいうと解される。
  イ  被告製品2を生産するために用いられる被告製品1の構成は,別紙1イ号物件目録の写真1(ただし,係止具の連続体を20本の単位で切断した形態)及び同2(ただし,係止具の連続体を3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕)のとおりであるところ(参考のため,写真2を次に引用する。),被告製品1における原告の主張に係る「ロープ止め突起」(以下,単に「ロープ止め突起」ということがある。)は,細長の基材の両端に突設された貝止め突起よりも軸方向内側に設けられ,貝止め突起と同方向にハ字状に突設されていることが認められる。そして,被告製品1の「ロープ止め突起」が,ロープに差し込んだ貝係止具を抜け止めする作用を奏することは,被告らも(2次的又は副次的という表現を用いているとはいえ)争うものではない。したがって,被告製品1における「ロープ止め突起」は,構成要件1Dの「ロープ止め突起(3)」に当たるといえる。
  
   (写真1)

  ウ  これに対し,被告らは,被告製品1の可撓性連結材をピンセッターで切断すると,その切り残し部分の形状は下図の符号20のようになって,この場合には同切り残し部分が第1次的にロープを抜け止めするから,被告製品1において本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に相当するのは「可撓性連結材」であると主張する。
 
  (図1)

  しかしながら,被告製品1の可撓性連結材は,(切断される前は)基材と連結されているのであるから,「貝止め突起と同方向にハ字状に突設された突起」ということはできず,本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に当たるということはできないし,切断された可撓性連結材の切り残し部分がロープを抜け止めすることがあったとしても,そのことのみをもって被告製品1における「ロープ止め突起」が,本件各発明にいう「ロープ止め突起(3)」に当たらなくなるというものでもないから,被告らの上記主張は採用することができない。
  エ  以上によれば,被告製品1における基材は,本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に相当する「ロープ止め突起」の軸方向外側では連結されておらず,軸方向内側において,2本の可撓性連結材により連結されていると認められるから,被告製品1は,構成要件1Dを充足する。 

  (2) 争点1-2(被告各製品は構成要件1Eを充足するか)について
  ア  構成要件1Eは,「可撓性連結材(13)はロープ止め突起(3)よりも細く且つロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状であり,」と規定する。
  ここで,「細紐状」とは,「紐」という語が有する一般的な語義(物をしばったり束ねたりするのに用いる細長いもの。乙35,36)などからして,細長い形状を意味するものと解される。
  イ  証拠(甲21)によれば,被告製品2を構成する被告製品1において,可撓性連結材の太さが0.7ミリメートルであるのに対し,ロープ止め突起の太さは0.8ミリメートルであることが認められる。また,被告製品1の構成は,別紙1イ号物件目録の写真1(ただし,係止具の連続体を20本の単位で切断した形態)及び同2(ただし,係止具の連続体を3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕)のとおりであるところ(参考のため,写真2を次に引用する。),被告製品1の可撓性連結材は,わずかに屈曲しており,基材上部との連結点において膨出連結部を有するものの,いまだ細長い形状を有しているものと認められる。 
 
  (写真1)
 したがって,被告製品1における可撓性連結材は,ロープ止め突起よりも細く,かつロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状のものであるといえるから,被告製品1は,構成要件1Eを充足する。 ・・・

 (3) 争点1-3(被告各製品は構成要件1Fを充足するか)について
  ア  構成要件1Fは,「前記2本の可撓性連結材(13)による連結箇所は,2本のロープ止め突起(3)の夫々から内側に離れた場所であり且つ前記2本のロープ止め突起(3)間の中心よりも夫々のロープ止め突起(3)寄りの箇所として,」と規定する。
  ここで,本件各発明は,前記1(3)で述べたとおり,貝係止具を一本ずつ切断するときに可撓性連結材の一部が切り残し突起となって基材に残って突出しても,貝係止具を手で持って貝へ差し込むときなどに手(指)が切り残し突起に当たらないため手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて作業しても手袋が破れたりしにくいと効果を奏するものであるところ,可撓性連結材の連結箇所がロープ止め突起から「内側」に離れた箇所とすることの技術的意義は,かかる構成を採用することにより,貝係止具を手で持って作業する際に,可撓性連結材が切断されて切り残し突起が基材上に残存していたとしても,ロープ止め突起が障壁となって手が当該切り残し突起に当たりにくくなることにあると解される。そうすると,可撓性連結材の連結箇所がロープ止め突起から「内側」に離れた箇所にあるとは,当該連結箇所が,ロープ止め突起からみて,基材の軸方向内側に位置することを意味するものと解するのが相当である。
  イ  被告製品2を構成する被告製品1の構成は,別紙1イ号物件目録の写真1(ただし,係止具の連続体を20本の単位で切断した形態)及び同2(ただし,係止具の連続体を3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕)のとおりであるところ(参考のため,写真2を次に引用する。),2本の可撓性連結材と基材とが連結する箇所(膨出連結部)は,ロープ止め突起からみて,基材の軸方向内側に位置しているものと認められる。また,膨出連結部が,2本のロープ止め突起の間の(基材の軸方向)中心よりもそれぞれのロープ止め突起寄りに位置していることも明らかである。 
 (写真1)
  したがって,被告製品1は,構成要件1Fを充足する。・・・
 
  (4) 争点1-4(被告各製品は構成要件1Gを充足するか)について
  ア  構成要件1Gは,「2本の可撓性連結材(13)を切断すると,その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした」と規定する。
  ここで,切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の「内側」に残るようにすることの技術的意義は,上記(3)アで述べたとおり,かかる構成を採用することにより,貝係止具を手で持って作業する際に,可撓性連結材が切断されて切り残し突起が基材上に残存していたとしても,ロープ止め突起が障壁となって手が当該切り残し突起に当たりにくくなることにあると解されるから,可撓性連結材を切断した際の切り残し突起が2本のロープ止め突起の「内側」に残るとは,当該切り残し突起が,ロープ止め突起からみて,基材の軸方向内側に位置することを意味するものと解するのが相当である。
  イ  被告製品2を生産するために用いられる被告製品1の構成は,別紙1イ号物件目録の写真1(ただし,係止具の連続体を20本の単位で切断した形態)及び同2(ただし,係止具の連続体を3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕)のとおりであるところ(参考のため,写真2を次に引用する。),2本の可撓性連結材と基材とが連結する箇所は,基材の上部・下部とも,ロープ止め突起からみて,基材の軸方向内側に位置しているものと認められる。したがって,可撓性連結材が切断されて切り残し突起が残ると,当該切り残し突起は,いずれもロープ止め突起からみて,基材の軸方向内側に位置することが明らかである。
  (写真1)
  したがって,被告製品1は,構成要件1Gを充足する。・・・
 
 (5)  争点1-5(被告各製品は,本件各発明の作用効果を奏しないために,本件各発明の技術的範囲に含まれないといえるか)について
  被告らは,要するに,被告各製品は切断機械(ピンセッター)を用いて切断し,個別の貝係止具となることが想定された製品であるところ,被告各製品を切断機械で切断した場合には,可撓性連結材の切り残し突起が下図の符号20のようにロープ止め突起よりも高く突出することとなり,貝係止具をロープに差し込むなどの作業時に,当該切り残し突起が邪魔になり,また,手に当たって怪我したり作業用手袋が破れたりする可能性があるから,被告各製品は,本件特許発明の作用効果を奏しないと主張する。    
 
  しかしながら,前記1(3),2(3)ア及び2(4)アなどで述べたとおり,本件各発明は,可撓性連結材による基材の連結箇所を2本の各ロープ止め突起からみて軸方向内側の箇所とし,可撓性連結材を切断した際の切り残し突起も2本の各ロープ止め突起からみて軸方向内側に残るような構成を採用したことにより,貝係止具を手に持って作業する際に,ロープ止め突起が障壁となって手が当該切り残し突起に当たりにくくなり,ひいては手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて作業しても手袋が破れたりしにくいとの効果を奏することを特徴とする発明と認められるところ,被告各製品においても,可撓性連結材による基材の連結箇所を2本の各ロープ止め突起からみて軸方向内側の箇所とし,可撓性連結材を切断した際の切り残し突起も2本の各ロープ止め突起からみて軸方向内側に残るような構成となっているのであるから,貝係止具を手に持って作業する際に,ロープ止め突起が障壁となって手が当該切り残し突起に当たりにくくなるのであって,本件各発明の作用効果を奏しないということはできない。
  なお,被告らの主張するとおり,被告各製品の可撓性連結材を切断した際に,その切り残し突起がロープ止め突起よりも高く突出した場合には,これが突出しない場合と比べて,切り残し突起が手に当たる可能性が高くなることが考えられるものの,そのことをもって,被告各製品が本件各発明の作用効果を奏しないと断ずることはできないというべきである。 」
 
【コメント】
  養殖用の貝の係止具の特許(特許第4802252号 )に関する特許侵害訴訟の事件です。
 
 クレームからです。
 
1A:ロープと貝にあけた孔に差し込みできる細長の基材(1)と,その軸方向両端側の夫々に突設された貝止め突起(2)と,夫々の貝止め突起(2)よりも内側に貝止め突起(2)と同方向にハ字状に突設された2本のロープ止め突起(3)を備えた貝係止具(11)が基材(1)の間隔をあけて平行に多数本連結されて樹脂成型された連続貝係止具において,
1B:前記多数本の貝係止具(11)がロープ止め突起(3)を同じ向きにして多数本配列され,
1C:配列方向に隣接する貝係止具(11)のロープ止め突起(3)の先端が,他方の貝係止具(11)の基材から離れて平行に配列され,
1D:隣接する基材(1)同士はロープ止め突起(3)の外側が可撓性連結材(13)で連結されず,ロープ止め突起(3)の内側が2本の可撓性連結材(13)と一体に樹脂成型されて連結され,
1E:可撓性連結材(13)はロープ止め突起(3)よりも細く且つロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状であり,
1F:前記2本の可撓性連結材(13)による連結箇所は,2本のロープ止め突起(3)の夫々から内側に離れた箇所であり且つ前記2本のロープ止め突起(3)間の中心よりも夫々のロープ止め突起(3)寄りの箇所として,
1G:2本の可撓性連結材(13)を切断すると,その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした
1H:ことを特徴とする連続貝係止具。
 
 これはどのように使うかを直感的に理解できないと さっぱり訳が分からないでしょうね。
 
 使い方はこんな感じです。
 
 これでかなり分かるのではないでしょうか。
 
 Bが貝です。貝に穴を開け(養殖なので,勿論死なないように),端っこから通し,Gがその抜け防止です。もう一方も同様にします。
 で,そのままだと使いにくいので,上げ下げするようのロープ(C)に引っ掛けます。引っ掛け用のロープ止め突起がEです。

 で,この係止具を一本一本作ったり売ったりするのは面倒臭いのか,何なのかわかりませんが,これをプラモデルの部品状に樹脂成形で連結して作り売りしているようなのですね。クレームもその連結体としてのクレームです。
 
 で,クレーム解釈で争点になったのは,結局,連結部を切断したときの連結部のあとが,結構残ってしまし,引っ掛け用のロープ止め突起の高さを越えるほど残るけど,これはどうなの?というところです。
 この上の図のとおりです。20が連結部のあとです。

 そこで,被告としては,この残った連結部が,ロープ止め突起に当たるのだ!とか,この部分がちょっと外側にセットバックしているから,「内側」じゃないとか,ロープ止め突起よりも高いからウンタラカンタラ~と主張していたわけなのですね。
 
 しかし, 上記判旨のとおり,ことごとく退けられています。
 
 実は原告と被告には前の事件もあり,そこでの和解があったようで,初めての争いではないのですね。なので,被告がもう少し大胆な設計変更をすれば良かったのではないかと思います(例えば,連結部を内側じゃなくて外側に持っていくとかね。)。
 
 生海苔の異物除去装置の発明の事件など,意外とこの分野は,争訟が盛んな気がします。恐らく,特許カルテルが昔から結ばれていない分野なのでしょうね。