2017年5月16日火曜日

侵害訴訟 特許権 平成28(ネ)10046  知財高裁 控訴棄却


事件番号
事件名
 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日
 平成29年4月27日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部 
裁判長裁判官    森   義 之       
裁判官     森 岡 礼 子      
裁判官中村恭は,転補のため,署名押印することができない。 
 裁判長裁判官       森   義 之 
 
「ア  控訴人は,本件明細書の「緩衝剤」の定義(【0022】,【0023】)によると,「緩衝剤」は,「オキサリプラチン溶液組成物」において,本件明細書記載のモル濃度で存在するものであり,あらゆる酸性又は塩基性剤を意味する,本件発明1の課題,作用効果の観点からすると,添加シュウ酸であろうと解離シュウ酸であろうと,オキサリプラチン溶液中に存在するすべてのシュウ酸の濃度が問題となる旨主張する。
 しかしながら,前記説示(原判決「事実及び理由」の第3の1(1)イ,ウ(イ))のとおりであって,控訴人の前記主張は採用することができない。
 オキサリプラチン水溶液においては,オキサリプラチンと水が反応し,オキサリプラチンの一部が分解されて,ジアクオDACHプラチンとシュウ酸(解離シュウ酸)が生成される。その際,これとは逆に,ジアクオDACHプラチンとシュウ酸が反応してオキサリプラチンが生成される反応も同時に進行することになるが,十分な時間が経過すると,両反応(正反応と逆反応)の速度が等しい状態(化学平衡の状態)が生じ,オキサリプラチン,ジアクオDACHプラチン及びシュウ酸の量(濃度)が一定となる。
 また,上記のオキサリプラチンの分解によって生じたジアクオDACHプラチンからジアクオDACHプラチン二量体が生成されることになるが,その際にもこれとは逆の反応が同時に進行し,化学平衡の状態が生じることになる。
 上記のような平衡状態にあるオキサリプラチン水溶液にシュウ酸を添加すると,ルシャトリエの原理(ある可逆反応が化学平衡にあるとき,温度,圧力,濃度などの条件を変えると,その影響を打ち消す方向に化学平衡は移動するという原理。乙35)によって,シュウ酸の量を減少させる方向,すなわち,ジアクオDACHプラチンとシュウ酸が反応してオキサリプラチンが生成される方向の反応が進行し,新たな平衡状態が生じることになる。そして,この新たな平衡状態においては,シュウ酸を添加する前の平衡状態に比べ,ジアクオDACHプラチンの量が少なくなるから,上記の添加されたシュウ酸は,不純物であるジアクオDACHプラチンの生成を防止し,かつ,ジアクオDACHプラチンから生成されるジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止する作用を果たすものといえる。
 他方,解離シュウ酸は,水溶液中のオキサリプラチンの一部が分解され,ジアクオDACHプラチンとともに生成されるもの,すなわち,オキサリプラチン水溶液において,オキサリプラチンと水とが反応して自然に生じる上記平衡状態を構成する要素の一つにすぎないものであるから,このような解離シュウ酸をもって,当該平衡状態に至る反応の中でジアクオDACHプラチン等の生成を防止したり,遅延させたりする作用を果たす物質とみることはできないというべきである。  」
 
【コメント】
 例のオキサリプラチンの特許(特許第4430229号)の事件,アグレッシブな原告さんのやつです。
 
 クレームももういいでしょう。このブログの過去の記事を見てください。 

 ただ,かなりこの事件に注目していたものの,本件の一審は紹介漏れがあったようです。ですので,ここで,今までの事件をまとめておきましょう。
 
 以下のとおりです。2番が漏れで,14番が今回加わったものです。13番が異色で,これは審決取消訴訟になります。
 これで無効が確定すると,もうこんなに多くの訴訟を起こすことは出来なくなるでしょうね。
 
1  平成27()12416   46部 被告1  差し止めのみ 請求認容 原告寄りクレーム解釈
2  平成27()28849  29部 被告12 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
3  平成28()15355   29部 被告1  賠償請求のみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
4  平成27()28468    40部 被告2  差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
5  平成27()12415    40部 被告3  差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
6  平成27()28699等 40部 被告4~6 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
7  平成27()29001   47部 被告7  差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
8  平成27()29158    40部 被告8  差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
9  平成28()10031   知財高裁3部 被告1 請求棄却 被告寄りクレーム解釈  1の控訴審 
10  平成27()28467   46部 被告9  差し止めのみ 請求棄却 進歩性なし
11 平成27()28698  46部 被告10 差し止めのみ 請求棄却 進歩性なし
12 平成27()29159   46部 被告11 差し止めのみ 請求棄却 進歩性なし
13 平成27(行ケ)10167 知財高裁3部 不成立審決の取消し
14  平成28()10103   知財高裁2部 被告12 控訴棄却 被告寄りクレーム解釈  2の控訴審