2017年5月16日火曜日

侵害訴訟 特許権 平成28(ネ)10111  知財高裁 控訴棄却


事件番号
事件名
 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日
 平成29年4月27日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部 
裁判長裁判官    森   義 之       
裁判官     森 岡 礼 子      
裁判官中村恭は,転補のため,署名押印することができない。 
 裁判長裁判官       森   義 之 

「  (1)  控訴人は,本件明細書の「緩衝剤」の定義(【0022】,【0023】)によると,「緩衝剤」は,本件発明の対象である「オキサリプラチン溶液組成物」において,一定のモル濃度で存在するものであり,不純物の生成を防止,遅延するあらゆる酸性又は塩基性剤を意味する旨主張する。
 しかし,前記説示(原判決「事実及び理由」の第4の2(2)ア,イ)のとおりであって,控訴人の前記主張は採用することができない。
 オキサリプラチン水溶液において,水溶液中のオキサリプラチンの一部は,水と反応して分解し,ジアクオDACHプラチン及びシュウ酸となるが,水溶液中のジアクオDACHプラチン及びシュウ酸の一部は,反応してオキサリプラチンとなるところ,①オキサリプラチンの分解に係る平衡状態が生じるよりも前の段階では,水溶液中のオキサリプラチンの量は減少し,ジアクオDACHプラチン及びこれの一部から生成されたジアクオDACHプラチン二量体並びにシュウ酸の量は増加していく(乙3,35)のであって,オキサリプラチンの分解により生成された解離シュウ酸の存在が,不純物であるジアクオDACHプラチン等の生成を防止し又は遅延させているとは評価できない。
 オキサリプラチン水溶液が,②オキサリプラチンの分解に係る平衡状態に至った段階では,オキサリプラチンと水の反応によるオキサリプラチンの分解の速度と,ジアクオDACHプラチン及びシュウ酸の反応によるオキサリプラチンの生成の速度が,等しくなる。なお,オキサリプラチン溶液中のオキサリプラチンの分解によって生じたジアクオDACHプラチンの一部から,ジアクオDACHプラチン二量体が生成される。その結果,水溶液中のオキサリプラチン及びシュウ酸の量(濃度)は,いずれも一定の値となり,不変となる(乙3,35)。この段階において,オキサリプラチンの量が減少しないのは,平衡状態に達したからであり,オキサリプラチンの分解により生成された解離シュウ酸の存在が,不純物であるジアクオDACHプラチンやこれから生成されたジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止し又は遅延させているとは評価できない。
 前記②の段階にあるオキサリプラチン水溶液から,解離シュウ酸の一部を取り除けば,ル・シャトリエの原理によって,シュウ酸の量を増加させる方向,すなわち,オキサリプラチンが分解してジアクオDACHプラチンとシュウ酸が生成される方向の反応が進行し,新たな平衡状態に至ると考えられるが,この新たな平衡状態に至るまでの段階は,前記①の段階と同様,水溶液中のオキサリプラチンの量は減少し,ジアクオDACHプラチン及びこれの一部から生成されたジアクオDACHプラチン二量体並びにシュウ酸の量は増加していき,新たな平衡状態に至れば,前記②の段階と同様,水溶液中のオキサリプラチン及びシュウ酸の量(濃度)は,いずれも一定の値になり,不変となる。平衡状態にあるオキサリプラチン水溶液から,解離シュウ酸の一部を取り除けば,オキサリプラチン水溶液中のオキサリプラチンが更に分解して減少するという事実は,解離シュウ酸が,オキサリプラチン水溶液中におけるオキサリプラチンの分解とジアクオDACHプラチン及びシュウ酸の反応の平衡状態を構成する要素の一つであることを示しているにすぎず,これをもって,オキサリプラチンの分解により生成された解離シュウ酸の存在が,不純物であるジアクオDACHプラチン等の生成を防止し又は遅延させているとは評価できない。
 以上のとおり,解離シュウ酸の存在は,オキサリプラチンの分解の結果生じるものであって,不純物の生成を防止し又は遅延させているとは評価できない以上,解離シュウ酸を,オキサリプラチンの分解を防止し又は遅延させ,不純物の生成を防止し又は遅延させるものということはできない。 」

【コメント】
 例のオキサリプラチンの特許(特許第4430229号)の事件,アグレッシブな原告さんのやつです。
 
 クレームももういいでしょう。このブログの過去の記事(http://chizaihanketu.blogspot.jp/2016/12/2729001.html)を見てください。 
 さあ,またまとめておきましょう。
 あと何件この関係事件を紹介するのだろうなあ。
 
1  平成27()12416   46部 被告1  差し止めのみ 請求認容 原告寄りクレーム解釈
2  平成27()28849  29部 被告12 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
3  平成28()15355   29部 被告1  賠償請求のみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
4  平成27()28468    40部 被告2  差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
5  平成27()12415    40部 被告3  差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
6  平成27()28699等 40部 被告4~6 差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
7  平成27()29001   47部 被告7  差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
8  平成27()29158    40部 被告8  差し止めのみ 請求棄却 被告寄りクレーム解釈
9  平成28()10031   知財高裁3部 被告1 請求棄却 被告寄りクレーム解釈  1の控訴審 
10  平成27()28467   46部 被告9  差し止めのみ 請求棄却 進歩性なし
11 平成27()28698  46部 被告10 差し止めのみ 請求棄却 進歩性なし
12 平成27()29159   46部 被告11 差し止めのみ 請求棄却 進歩性なし
13 平成27(行ケ)10167 知財高裁3部 不成立審決の取消し
14  平成28()10103   知財高裁2部 被告12 控訴棄却 被告寄りクレーム解釈  2の控訴審
15  平成28()10111   知財高裁2部 被告2 控訴棄却 被告寄りクレーム解釈  4の控訴審