2017年5月31日水曜日

審決取消訴訟 特許 平成28(行ケ)10190  不成立審決 知財高裁 請求棄却

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成29年5月30日
裁判所名
 知的財産高等裁判所所第4部 
裁判長裁判官         髙 部   眞規子  
裁判官         古河    謙一 
裁判官         片瀬   亮  
 
「 ⑷  相違点2及び3について
ア  原告は,引用発明1において,情報記録体(分離して使用するもの)は,中央面部であって,左側面部と右側面部が重なる位置に配置されるから,本件発明1と引用発明1との間には,相違点2及び3は存在しない,又は,相違点2及び3は実質的相違点ではないと主張する。
イ  しかし,そもそも,前記1⑵のとおり,本件発明1は,はがき等が広告に付いている印刷物について,はがき等を広告から切り取るという手間を省くことを目的とするものであって,本件発明1の構成を採用することにより,使用者は,はがき等を切り取ろうとする意思を持たずに,印刷物を開くと自動的に,これを手にすることになるという効果を奏するものである。
 一方,前記⑴イのとおり,引用発明1は,情報記録体を,低コストで手間や時間がかかることなく,受取人に郵送等することを目的とするものであって,引用発明1の構成を採用することにより,封筒や専用ケースを使用するコストを削減し,封入の手間も省くことになるという効果を奏するものである。 
 このように,本件発明1と引用発明1の目的,効果は大きく相違するから,本件発明1と引用発明1の技術的思想は全く異なるというべきである。
ウ  また,引用例1には,シート状基材を通常の2倍寸で作成し,半分から折り返して2つ折りの状態で被覆材に代えることも可能であるとした上で,「当然2つ折り以上の3つ折り以上も可能で,その場合には巻き折りやZ折り,観音開き折り等の各種形態が採用できる」との記載がある(【0008】)。しかし,シート状基材を2倍寸で作成しつつ,シート状基材を巻き折りやZ折り形態にすることはできないから,「3つ折り以上も可能で,…観音開き折り等の各種形態が採用できる」との上記記載は,2倍寸で作成したシート状基材を3つ折り以上にすることを意味するものではない。また,シート状基材を,通常の2倍寸で作成し,観音開き折りにしたとしても,引用例1には,シート状基材と情報記録体の大きさを比較するような記載もない。そうすると,シート状基材を観音開き折りにする場合において,情報記録体をシート状基材のどの位置に配置するかという相違点2に関する構成,また,情報記録体を配置する位置との関係において,シート状基材をどのように折り畳むかという相違点3に関する構成について,引用例1に具体的な構成が記載されているということはできない。
 さらに,前記(1)イのとおり,引用例1には,引用発明1について,シート状基材に情報記録体を形成することにより,情報記録体を別途封筒や専用ケースに入れることなく,そのままで受取人に配達することを可能とし,通常はがきとして配達したり,専用ケースを不要としたりすることでコストを削減し,また,封入の手間も省くという効果を奏する旨記載されている。このように,引用例1に記載された発明は,シート状基材に情報記録体を形成すること自体によって,効果を奏するものであって,引用例1には,他に情報記録体の配置を調整することや,それにより何らかの効果を奏するという技術的思想は開示も示唆もされていない。
エ  したがって,引用発明1に,情報記録体が中央面部にあるという相違点2に係る構成,情報記録体が折り畳んだ左側面部と右側面部に重なる位置に配置されているという相違点3に係る構成が記載されているということはできない。・・・
 
イ  甲5発明を組み合わせる動機付け
(ア)  構成の相違
 引用発明1は,シート状基材に情報記録体を形成し,それを容易に分離可能に形成したことを特徴とする。そして,情報記録体が形成されたシート状基材の面は,別のシート状基材等で剥離可能に被覆されている。
 一方,甲5発明は,折り畳まれるパネル用材と,カードが一体に作られるカード担体とは別個のものである。また,“C”字形状に巻き折りをした上部パネル及び下部パネルは,中間パネルに接着されており,カードないしカード担体に貼着されるものでもない。
 このように,引用発明1と甲5発明は,その構成が大きく相違するものである。
(イ)  目的の相違 
 引用発明1は,情報記録体をシート状基材に形成し,そのままで受取人に配達することを可能にすることにより,封筒代等のコストを削減し,また,封入等の手間を省くことを目的とするものである。
 一方,甲5発明は,カードを,特に販売場所において,パッケージに取り付けて展示するために,新規の改良されたカード用組み立て式パッケージを提供することを目的とするものである。カードを配達するに当たってのコストの削減とは無関係な発明であり,また,カードないしカード担体をパッケージに取り付けることが前提となっており,カード等をパッケージに取り付ける手間を省くことを目的とするものでもない。
 このように,引用発明1と甲5発明は,その目的も大きく相違するものである。
(ウ)  以上のとおり,引用発明1と甲5発明は,その構成も目的も大きく相違することからすれば,引用発明1に,甲5発明を組み合わせる動機付けはないというべきである。  」

【コメント】
 久々に特許の進歩性が問題になった事件の判決の紹介です。

 クレームからです。

【請求項1】左側面部と中央面部と右側面部とからなる印刷物であって,/中央面部(1)は,所定の箇所に所定の大きさの分離して使用するもの(4)が印刷されていること, /左側面部(2)の裏面は,当該分離して使用するもの(4)の上部,下部,左側部の内側及び外側に該当する部分(5,6)に一過性の粘着剤が塗布されていること,/右側面部(3)の裏面は,当該分離して使用するもの(4)の上部,下部,右側部の内側及び外側に該当する部分(7,8)に一過性の粘着剤が塗布されていること,/当該左側面部(2)の裏面及び当該右側面部(3)の裏面が,前記中央面部(1)の裏面及び当該分離して使用するもの(4)に貼着していること/当該分離して使用するもの(4)の周囲に切り込みが入っていること,/からなることを特徴とする印刷物。
 
 図がないとわからないですね。
 
 こんな感じです。
 クレームの番号とこの図での数字は一致しておりますので,照らし合わせるとすぐにわかると思います。
 
 さて,主引例である引用発明1との一致点相違点です(他の主引例もあります。)。
 
イ  本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点
(ア)  一致点
 左側面部と中央面部と右側面部とからなる印刷物であって,/所定の面部は,所定の箇所に所定の大きさの分離して使用するものが設けられていること,/当該左側面部の裏面及び当該右側面部の裏面が,前記中央面部の裏面に貼着していること,/当該分離して使用するものの周囲に切り込みが入っていること,/からなる印刷物。
(イ)  相違点1
 本件発明1においては,分離して使用するものが印刷されているのに対し,引用発明1においては,その点につき,明らかでない点。
(ウ)  相違点2
 本件発明1においては,「中央面部」は,所定の箇所に所定の大きさの分離して使用するものがあるのに対し,引用発明1においては,「中央面部」に,そのような情報記録体(所定の大きさの分離して使用するもの)があるのか否か明らかでない点。
(エ)  相違点3
 本件発明1においては,「左側面部の裏面は,当該分離して使用するものの上部,下部,左側部の内側及び外側に該当する部分に一過性の粘着剤が塗布されていること」,「右側面部の裏面は,当該分離して使用するものの上部,下部,右側部の内側及び外側に該当する部分に一過性の粘着剤が塗布されていること」,及び「当該左側面部の裏面及び当該右側面部の裏面が,当該分離して使用するものに貼着している」のに対し,引用発明1においては,その点につき,明らかでない点。
 
 
 で,引用発明というのは, 番号の1が例えばCDで,CD等をパッキングすることなくそのまま送れるということが特徴のものです。

 他方,本件発明の分離して使用するものって,これはハガキとかチケットとかです。しかも本件発明の本体は広告です。
 そのため,判旨にあるとおり,本件発明の場合,広告からハガキとかチケットとかを分離するのが面倒くさくない!という発明なのですね。

 つまり,本件発明と引用発明1とは結構違う発明です。要するに,よっぽどのことがないと動機づけできないほど本来違うものです。
 
 そして,副引例の引用発明5も引用発明1とはかなり異なるタイプの発明でしたから,これはもう動機づけできないとなったわけです。

 原告である無効審判の請求人は他の副引例や他の主引例での主張もしたのですが,主引例1がこの程度ですので,あとは推して知るべしという所でした。
 
 近い主引例を探せなかった時点で,この事件の勝負はついていたと思います。