2017年6月14日水曜日

審決取消訴訟 意匠 平成28(行ケ)10239  拒絶査定不服審判 不成立審決 請求棄却


事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成29年5月30日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官    森   義 之       
 裁判官      片 岡 早 苗       
 裁判官     古 庄   研 

「 1  意匠法2条2項は,「物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像であって,当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるもの」は,同条1項の「物品の部分の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」に含まれ,意匠法上の意匠に当たる旨を規定する。同条2項は,平成18年法律第55号による意匠法の改正(以下「平成18年改正」という。)によって設けられたものである。 
 ところで,平成18年改正前から,家電機器や情報機器に用いられてきた操作ボタン等の物理的な部品を電子的な画面に置き換え,この画面上に表示された図形等からなる,いわゆる「画面デザイン」を利用して操作をする機器が増加してきていた。このような画面デザインは,機器の使用状態を考慮して使いやすさ,分かりやすさ,美しさ等の工夫がされ,家電機器等の品質や需要者の選択にとって大きな要素となってきており,企業においても画面デザインへの投資の重要性が増大している状況にあった。
  しかしながら,平成18年改正前においては,特許庁の運用として,意匠法2条1項に規定されている物品について,画面デザインの一部のみしか保護対象としない解釈が行われ,液晶時計の時計表示部のようにそれがなければ物品自体が成り立たない画面デザインや,携帯電話の初期画面のように機器の初動操作に必要不可欠な画面デザインについては,その機器の意匠の構成要素として意匠法によって保護されるとの解釈が行われていたが,それら以外の画面デザインや,機器からの信号や操作によってその機器とは別のディスプレイ等に表示される画面デザインについては,意匠法では保護されないとの解釈が行われていた(意匠登録出願の願書及び図面の記載に関するガイドライン-基本編-液晶表示等に関するガイドライン[部分意匠対応版])。
  そこで,画面デザインを意匠権により保護できるようにするために,平成18年改正により,意匠法2条2項が設けられた。
  このような立法経緯を踏まえて解釈すると,同項の「物品の操作…の用に供される画像」とは,家電機器や情報機器に用いられてきた操作ボタン等の物理的な部品に代わって,画面上に表示された図形等を利用して物品の操作を行うことができるものを指すというべきであるから,特段の事情がない限り,物品の操作に使用される図形等が選択又は指定可能に表示されるものをいうものと解される。
  これを本願部分についてみると,本願部分の画像は,別紙第1のとおりのものであって,「意匠に係る物品の説明」欄の記載(補正後のもの,別紙第1)を併せて考慮すると,画像の変化により運転者の操作が促され,運転者の操作により更なる画像の変化が引き起こされるというものであると認められ,本願部分の画像は,自動車の開錠から発進前(又は後退前)までの自動車の各作動状態を表示することにより,運転者に対してエンジンキー,シフトレバー,ブレーキペダル,アクセルペダル等の物理的な部品による操作を促すものにすぎず,運転者は,本願部分の画像に表示された図形等を選択又は指定することにより,物品(映像装置付き自動車)の操作をするものではないというべきである(甲1,5)。
  そうすると,本願部分の画像は,物品の操作に使用される図形等が選択又は指定可能に表示されるものということはできない。また,本願部分の画像について,特段の事情も認められない。
  したがって,本願部分の画像は,意匠法2条2項所定の「物品の操作…の用に供される画像」には当たらないから,本願意匠は,意匠法3条1項柱書所定の「工業上利用することができる意匠」に当たらない。」

【コメント】 
 意匠の拒絶査定不服審判(不成立審決)に対する審決取消訴訟の事件です。
 このブログで意匠を取り上げるのは初めてです。つまり,それくらい大きな話というわけです。

 当事者(出願人,原告)は,大手メーカーの三菱電機です。

 その意匠出願は以下のようなものです。
 
  
 部分意匠なわけです。

 で,特許庁の審決は,工業上利用性なし(3条1項柱書)で拒絶しました。というのは,2条2項に反するからという理由です。

 ちなみに,意匠法2条2項はこんな条文です。
2 前項において、物品の部分の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合には、物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像であつて、当該物品又はこれと一体として用いられる物品に表示されるものが含まれるものとする。

  審決のポイントは,「物品の操作(当該物品がその機能を発揮できる状態にするために行われるものに限る。)の用に供される画像」に該当しないという判断だったのですね。

 で,不服のある原告が出訴したわけです。つまりは,近時の法改正のあった所,つまりは解釈があやふやな所について,アグレッシブに攻めたということですね。まあこういう冒険できるのは,リソースが豊富な大手ならではという感じが実にします。

 で,その原告の,狙いとおりか?知財高裁での2条2項の解釈を引き出すことができました。
 その実質的内容は特許庁と同じで,操作に使う画像じゃないでしょ!ということです。平行線やら矢印っぽい画像は,すべて車の状態を表しているだけ(つまり操作の結果の状態),その平行線やら矢印っぽい画像をクリックしたりスワイプしたりして車を操作するわけじゃないでしょ,ということです。まあそりゃそうですね。

 平成18年の改正本には,
「 機 能 を 発 揮 で き る 状 態 」 と は 、 当 該 物 品 の 機 能 を 働 か せ る こ と が 可 能 と な っ て い る 状 態 で あ り 、 実 際 に 当 該 物 品 が そ の 機 能 に 従 っ て 働 い て い る 状 態 は 保 護 対 象 に 含 ま な い こ と を 意 味 す る 。 し た が っ て 、 ゲ ー ム 機 を 使 用 し て ゲ ー ム を 行 っ て い る 状 態 は 既 に ゲ ー ム 機 の 機 能 を 発 揮 さ せ て い る 状 態 に 当 た り 、 ゲ ー ム ソ フ ト に よ っ て 表 示 さ れ る 画 像 は 保 護 対 象 と な ら な い 。
とはありますが(p16),「物品の操作・・・の用に供される画像」自体のまとまった解釈は載っていません。

 しかし,今般,上記の知財高裁での判示が出ましたので,これからこの解釈でしばらく進むのではないでしょうか。ただし,この解釈,実にわかりやすいのですが(要するにハードウエアの代わり),非常に狭いものです。

 なので,今後,ちょっとの冒険ももはや許すことができず,結局,アメリカのデザインパテントみたいなものを望むのであれば,法改正が必要だということも明らかになりました。とは言え,最近はあまり要望はないようなので,このままでもよいのかもしれません。

 なお,同日に, 平成28(行ケ)10240,平成28(行ケ)10241,平成28(行ケ)10242という,同じ当事者の他の3つの判決も出ております(内容はどれも同じ系統の話です。)。