2017年7月19日水曜日

不正競争  平成27(ワ)24688  東京地裁 請求一部認容

事件番号
事件名
 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日
 平成29年6月28日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第40部 
裁判長裁判官  東  海  林              保 
裁判官 遠      山      敦      士 
裁判官 勝      又      来  未  子  

「(2) 原告商品の形態の「商品等表示」該当性について
ア  不競法2条1項1号の趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自 25 己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,同法の目的である事業者間の公正な競争を確保することにある。  
 商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不競法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性),需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である。
イ  これを本件について検討するに,前記第2の2(2)及び上記第4の1(1)アないしオによれば,原告製品は,原告主張に係る原告製品の形態的特徴のうち,①中央リングと中央リングの周囲から外側に向かって放射状に延伸する多数の周辺リングからなり,これら周辺リングと中央リングとは略直交するように一体化されている形状について共通した特徴を有している点,②原告商品のうちL型,M型,S型については,上記①に加えて,周辺リングの外側を外周リングで囲繞する構成を付加した形状を有する点,③原告商品のうちS-Ⅱ型,LL型,L-Ⅱ型については,上記①及び②に加えて,隣接する周辺リング同士を連結部材で連結するとともに,周辺リングの一部には外環リングと直交する半径方向に縦棒を付加した構造を有する点がそれぞれ認められ,当該形態は,上記(1)カの他の充填物とは明らかに異なる特徴を有していることからすれば,上記に掲げた点において,特別顕著性が認められる。
 さらに,上記(1)アないしオによれば,原告製品はいずれも,日本国内において,①販売開始当初の頃から,その形状を撮影した写真等と共に,全国的に宣伝広告され,文献や業界誌にも多数掲載されていたことが認められ,②また,需要者である不規則充填物の購入者間において需要が高く,直接の販売あるいは代理店を通じて,相当多数が販売されてきたものと推認できる。したがって,周知性が認められる。
ウ  この点に関し被告は,不規則充填物は,商品の陳列棚に陳列される物とは異なり,技術評価も経た上で採用に至るものであることからすれば,原告商品の形態が商品等表示として需要者に認識されるような取引形態ではない旨主張する。
 しかし,原告商品の形態が多数の広告,文献,雑誌等に写真や図付きで紹介されているものが多いこと,実際の注文においても,不規則充填物の形状に基づいて見積り依頼がされる場合があること(甲108)からすれば,不規則充填物の取引形態が被告の主張のとおりの取引形態であると認めることはできず,原告商品について,需要者がその形態を認識していないとみることはできない。
 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 
(3) 原告商品の形態が技術的機能に由来する形態であるか否かについて
ア  被告は原告商品の形態が充填物としての商品の技術的機能にのみ由来する形態であるから,商品等表示にはなり得ないと主張しているため,この点について判断をする。
      イ  上記(2)アのとおり,商品の形態が不競法2条1項1号の「商品等表示」 に該当する場合があるとしても,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合,そのような商品の形態自体が「商品等表示」に当たるとすると,当該形態を有する商品の販売が一切禁止されることになり,結果的に,特許権等の産業財産権制度によることなく,当該形態によって実現される技 25 術的な機能及び効用を奏する商品の販売を特定の事業者に独占させることにつながり,しかも,不正競争行為の禁止には時間制限が設けられていないことから,上記独占状態が事実上永続することになる。したがって,上記のような商品の形態に「商品等表示」該当性を認めると,不競法2条1項1号の趣旨である周知な商品等表示の有する出所表示機能の保護にとどまらず,商品の技術的機能及び効用を第三者が商品として利用することま で許されなくなり,それは,当該商品についての事業者間の公正な競争を制約することにほかならず,かえって不競法の目的に反する結果を招くことになる。
 他方,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来するものであっても,他の形態を選択する余地がある場合は,そのような商品の形態が「商 品等表示」に当たるとして同形態を有する商品の販売が禁止されても,他の形態に変更することにより同一の機能及び効能を奏する商品を販売することは可能であり,上記のような弊害は生じない。
 そうすると,商品の形態が商品の技術的機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合には,「商  品等表示」に該当しないものと解されるものの,商品の形態が商品の技術的機能及び効用に由来するものであっても,他の形態を選択する余地がある場合は,当該商品の形態につき,上記(2)アの特別顕著性及び周知性が認められる限り,「商品等表示」に該当するものと解するのが相当である。
ウ  原告商品は,化学工場等の充填塔と呼ばれる装置の内部に充填され塔内 でのガス吸収操作などを行うための部材であるところ,証拠(甲1,14)によれば,「充填塔の設計には物質移動,熱移動における考慮はもちろんのこと,圧力損失,基礎荷重のような機械的要因,ならびに,ガス・液相互接触に影響を及ぼす因子に対しても十分に検討する必要がある。なかでも充填物の選定は充填塔設計の最も重要な項目である」とされ,充填物の  説明として「充填物を大きく分けると,面構造からなっている充填物と線構造からなっている充填物の2つに分けられる。代表するものが前者は,ラシヒリング,バールサドルなど,後者はテラレット,マクマホンパッキングなどである」とされている。また,充填物の持つべき特性として,①濡れ面積が大きく,装置内の単位容積当りの接触面積の大きいこと(容量係数),②空間率の大きいこと(圧損失),③充填物材質の密度が小さい こと(塔重量,支持枚),④腐食性の小さいこと,⑤価格の低廉なことが挙げられており(乙8),その特性に応じて材質を変えるほか,様々な形態が選択されているものと認められる(なお,甲102及び甲103によれば,原告商品以外の充填物においても,その材質や形態により,上記①から⑤に係る様々な特長を有しているものと認められる。)。 
 そして,上記のとおり,充填物の選定は充填塔設計の最も重要な項目であるとされているものの,充填塔に関する特許発明に係る公開特許公報及び特許公報においては,たとえば,「耐蝕性のラシヒリング,レッシングリング,ベルルサドル,インタロックスサドル,テラレットパッキングおよびポールリングよりなる群から選ばれてなる少なくとも1種の充填物が 充填されている充填部」との記載があり(甲104),充填層に用いる充填材としては「従来公知の各種のもの,例えば,ラシッヒリング,テラレット,ポールリング,サドル,レッシングリング,木格子等を挙げることができる。」との記載があり(甲105),「充填塔において,不規則充填物としてはラシヒリング,インタロックスサドル,ポールリング,イン ターロックスメタルタワーパッキング,テラレット等があり,規則充填物としてはメラパック,スルザーパッキング,インタロックスハイパフォーマンスストタクチャードパッキング等があり,フラッディングしない範囲で運転できれば,どれを使用してもよい。」との記載があり(甲106),充填材層に充填される充填材は,「ラヒシリング,ネットリング,テラレ  ット,メラパックと呼ばれる気液接触効率を高めるために表面積を大きくしたプラスチック製のものより選択することができる」との記載がある(乙1の【0018】)など,原告商品の形態でなければ充填塔におけるガス吸収操作などの機能・効用を果たすことができないとの事実はうかがわれず,上記(1)カのとおり,充填物として多くの商品が,様々な形態で製造され,販売・使用されているものと認められる。 
 そうすると,原告商品は上記①から⑤の特徴を満たすため,一定の空間率や表面積を備えるように設計されているという点で,原告商品の形態が原告商品の技術的な機能及び効用に由来するものであるといえるものの,充填塔におけるガス吸収操作などの機能・効用を果たすという点では,他の形態を選択する余地が十分にあるから,商品の形態が商品の技術的な機 能及び効用に由来するものであっても他の形態を選択する余地がある場合に該当するというべきである。
 したがって,被告の上記主張は採用することができない。」

【コメント】
 蒸留塔などに使用される不規則充填物についての不正競争防止法の事件です。

 この蒸留塔の分野に詳しくないのですが,不規則充填物とは,例えば,この記事を見てもらうといいかもしれません。
 蒸留するときに均一に混ぜ混ぜするときに必要なものらしいです。

 判旨にも,「原告商品は,化学工場等の充填塔と呼ばれる装置の内部に充填され塔内 でのガス吸収操作などを行うための部材であるところ,証拠(甲1,14)によれば,「充填塔の設計には物質移動,熱移動における考慮はもちろんのこと,圧力損失,基礎荷重のような機械的要因,ならびに,ガス・液相互接触に影響を及ぼす因子に対しても十分に検討する必要がある。なかでも充填物の選定は充填塔設計の最も重要な項目である」とされ,充填物の  説明として「充填物を大きく分けると,面構造からなっている充填物と線構造からなっている充填物の2つに分けられる。」とあります。
 で,原告商品は以下のようなものです。
 他方, 被告商品は,以下のとおりです。
 
 なので,似ているというか,まあそっくり。ほぼデッドコピーと言って良いくらいです。

 しかし,これは形態模倣の事案ではありません。既に日本国内での販売は,50年くらい経っているものです。
  
 ですので,原告は,判旨のとおり,2条1項1号の周知表示の混同惹起行為として請求したわけです。
 
 ということで,論点は,こういうデザインのパクリで,2条1項1号の場合いかに?という,ある意味典型論点です。

 この鏑矢は,ご存知のとおり,ナイロール眼鏡事件(東京地裁昭和46(ワ)5813号)です。
 要するに,特徴のあるデザインで,長く使っているか短くても宣伝をたくさんして周知になった場合,セカンダリーミーニングが生じることもある,ってやつです。
 本件もそういう場合です。
 そして,ただしとして,技術的なものについて,意匠権や特許権がエクスパイアした後も保護されちゃうのではマズイので,技術的な幅がある場合じゃないといけないとしたわけですね(上記判旨の後半)。
 と,講学的には,有り得るよねという話はたくさんあるのですが,まあこのパターンで保護された試しはあまりありません。

 しかし,例のコメダ珈琲の事件は(東京地裁平成27(ヨ)22042号),この枠組みで保護されることが確定しました(和解で決着しましたので。)。そして,本件も,その珍しいパターンで保護されると判示されました。
 40部の東海林部長の合議体は,意外とプロパテントな合議体ですので,こういう判断も有り得る所だと思います。
 しかし,こういう純粋技術的な部材のデザインを不競法2条1項1号で保護するというのでは,影響が大きすぎますので(個人的には若干やり過ぎではないかと思います。),上級審たる知財高裁でどう判断されるか見てみたいと思います。