2017年10月27日金曜日

審決取消訴訟 特許 平成28(行ケ)10185  却下審決 請求認容

事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成29年10月23日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴      岡      稔      彦
裁判官  寺      田      利      彦 
裁判官大西勝滋は,転補のため,署名押印することができない。 
裁判長裁判官 鶴      岡      稔      彦  

「2  原告本人尋問における原告の陳述内容
  本件審判手続において,請求人(原告)の本人尋問が行われていたが,当裁判所は,改めて原告本人尋問を実施した。 その際,原告は,本件審判請求を行った動機,経緯等について,要旨次のとおり陳述した。
(1) 原告は,特許権取得のための支援活動等を行う個人事業主であり,自らも特許技術製品の開発等を行っている。
(2) 特許願(甲54)の請求項に記載されている発明(原告発明)は,自分(原告)の発明である。
(3) 原告発明に係るおむつの開発に着手した理由は,日頃から医療分野に興味を持っていたこと,特に子供の頃から●●(省略)●●ことや,●●(省略)●●,排せつの問題に関する知識があったこと,さらには,災害の発生,外国人の需要などにより,商品開発をして市場に提供するチャンスがあると考えたことによる。
(4) 原告発明は,紙おむつの外層シートに新たな構造を付加することを特徴とするものであり,弾性構造のない部分を有し,かつ,(テープ型でなく)パンツ型のおむつが最も適する。
(5) 原告としては,自ら発明を実施する能力がないので,ライセンスや他の業者に委託して製造してもらうことなどを考えており,製品化の準備として,市販品のおむつ(被告製品など)に手を加えて試作品(サンプル)を製作していた。
(6) 実際に上記試作品をおむつの製造業者等に持ち込んだことはまだないが,インターネット上で特許発明の実施の仲介を行う業者や不織布を取り扱う業者に対し,原告発明の実施の可能性について尋ねたことはある。
(7) その際,原告としては,原告発明を製品化する場合,被告の本件特許に抵触する可能性があると考えていたので,率直にその旨を上記の業者らに伝えたところ,いずれも,その問題(特許権侵害の可能性)をクリアしてからでないと,依頼を受けたり,検討したりすることはできないといわれ,それ以上話が進められなかった。
(8) 原告としては,設計変更等による回避も考えたが,原告発明を最も生かせる構造(実施例)は,被告の本件特許発明の技術的範囲にあると思われたため,原告発明を実施する(事業化する)には,本件特許に抵触する可能性を解消する必要性があると判断し,また,専門家から本件特許に無効理由があるとの意見をもらったことから,本件無効審判請求を行った。 

3  検討
  以上のとおり,原告は,単なる思い付きで本件無効審判請求を行っているわけではなく,現実に本件特許発明と同じ技術分野に属する原告発明について特許出願を行い,かつ,後に出願審査の請求をも行っているところ,原告としては,将来的にライセンスや製造委託による原告発明の実施(事業化)を考えて
おり,そのためには,あらかじめ被告の本件特許に抵触する可能性(特許権侵害の可能性)を解消しておく必要性があると考えて,本件無効審判請求を行ったというのであり,その動機や経緯について,あえて虚偽の主張や陳述を行っていることを疑わせるに足りる証拠や事情は存しない。
  以上によれば,原告は,製造委託等の方法により,原告発明の実施を計画しているものであって,その事業化に向けて特許出願(出願審査の請求を含む。)をしたり,試作品(サンプル)を製作したり,インターネットを通じて業者と接触をするなど計画の実現に向けた行為を行っているものであると認められるところ,原告発明の実施に当たって本件特許との抵触があり得るというのであるから,本件特許の無効を求めることについて十分な利害関係を有するものというべきである。 」

【コメント】
 パンツ型使い捨ておしめの発明に対する無効審判の審決取消訴訟の事件です。

 さて,この事件が特異なのは,特許庁の審判で却下!審決という実に珍しいものが下された点です。
 
 私もそろそろ特許実務生活20年という所なのですが,却下判決というのにお目にかかったことはあっても,却下審決というのにお目にかかったことはありません。
 
 で,本件では,無効審判を請求できる「利害関係人」に当たらないということで,却下となったわけです。
 
 なので,クレームの話より,その話が重要ですので,条文を見てみましょう。特許法123条2項です。
 
2 特許無効審判は、利害関係人(前項第二号(特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に該当することを理由として特許無効審判を請求する場合にあつては、特許を受ける権利を有する者)に限り請求することができる。」 

 なお,この「利害関係人」については,特許庁の所謂青本にはこう記載されております。 

利害関係人に該当するか否かは個々の事件で個別に判断 されることになるが、例えば 「実際に特許権侵害で訴えられている者 」、「類似の特許を有する者 」、「特許発明と同種の製品を製造する者」 等がこれまでの裁判例で利害関係人と認められている。」

 却下したところを見ると,ダミーかなとも思ったのですが,この判決を見ると,自分で特許出願もしているようで,これはちょっと利害関係人と言ってよいのではないかと思えます。
 
 にもかかわらず,どうして特許庁が勇み足とも言える却下を選択したのかが解せない所です。 

 恐らく,被請求人が大手の企業なので,忖度したのかもしれません。