2017年10月25日水曜日

侵害訴訟 著作権 平成29(ネ)10061  知財高裁 控訴棄却(請求棄却)

事件名
 著作者人格権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日
 平成29年10月13日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 鶴      岡      稔      彦 
裁判官   寺      田      利      彦
裁判官大西勝滋は,填補のため署名押印することができない。     
裁判長裁判官 鶴      岡      稔      彦  

「ア  まず,控訴人(控訴人代表者)は,控訴人設計資料を作成するに当たり,外装スクリーン部分以外は全て被控訴人竹中工務店作成に係る資料を流用しており,手を加えていない事実を自認している。したがって,控訴人外観設計のうち外装スクリーンを除くその余の部分については,そもそも控訴人代表者の創作的関与を認める余地がない。
イ  次に,外装スクリーン部分について,控訴人設計資料及び控訴人模型に基づく控訴人代表者の提案内容が「建築の著作物」の創作に関与したと認め得るだけの具体性ある表現といえないことは,原判決が指摘するとおりであって,控訴理由を踏まえてもその認定判断は覆らない。
 控訴人は,控訴人代表者の上記提案が「実際建築される建物に用いられる組亀甲柄より大きいイメージ」として作成されていた点に関し,たとえそうであったとしても,「具体的な建物の外観が視覚的に,一般人にとって看取可能な形で図面上表現されていれば,それは具体的な表現である(から,上記提案がアイデアにすぎないことの根拠にはならない)」などとも主張するが,格子の大きさ一つ取っても,その大きさ次第で,いくらでも集合体としての外観デザインが変わり得ることは後記のとおりであるから,控訴人が想定していた現実の外観は,控訴人設計資料及び控訴人模型をもってしては,いまだ「視覚的に,一般人にとって看取可能な形で図面上表現されていた」といえず,その主張はやはり採用できないといわざるを得ない。
ウ  また,仮に,控訴人設計資料及び控訴人模型に現れた外装スクリーン部分の表現そのもの(図案)に関して,「建築の著作物」に限らず,何らかの著作物性(創作性)を認め得るとしても,(外装スクリーンに関する)控訴人代表者の提案と現実に完成した本件建物の外観とでは,2層3方向の連続的な立体格子構造(組亀甲柄)が採用されている点と,せいぜい色(白色)が共通するのみであり,少なくとも立体格子の柄や向き,ピッチ,幅,隙間,方向が相違することは原判決が認定するとおりであるところ,実際に本件建物の外観を撮影した写真(甲5の1・2)と控訴人設計資料及び控訴人模型とを見比べてみても(あるいは,乙2の比較図面を参照しても),例えば,個々の格子を意識させるものであるかどうか(本件建物は全体として細かい編み込み模様になっており,遠目に見ると個々の格子をそれほど意識させない態様であるのに対し,控訴人代表者の提案は,個々の格子が大きく,格子を構成する直線も際立っており,遠目に見てもその存在を意識させるとともに,六角形のデザインがより強調される態様となっている。),編み込み模様の編み目の向き(本件建物は横方向を意識させるのに対し,控訴人代表者の提案は縦方向を意識させる。),外装スクリーンの裏側にある建物自体の骨格を意識させるかどうか(本件建物の外装スクリーンは編み目が細かく,裏側にある建物自体の骨格を意識させないのに対し,控訴人代表者の提案のそれは編み目が粗く,裏側にある建物自体の骨格が透けて見えてその存在を意識させる。)などの点において大きく異なっており,全体としての表現や見る者に与える印象が全く異なることは明らかといえる。
 この点,控訴人は,控訴理由書等において,立体格子のピッチ,幅,隙間や,向き,方向などの相違は,いずれも本件建物の外観(見た目)に特段の違いをもたらすとはいえず,表現の本質的特徴を違えるほどの違いとはいえない旨主張するが,同じ組亀甲柄を採用したデザインでも,上記の諸要素等の違い(格子自体のデザインはもちろん,その大きさや配置,組み合わせ方等の違い)により,様々な表現があり得ることは,本件で提出されている関係各証拠(甲30~34,乙12,13など。乙号証は枝番号を含む。)からも明らかといえるし,実際に本件建物外観と控訴人代表者の提案とで表現が大きく異なることは前記のとおりであるから,採用できない。
エ  そうすると,結局のところ,外装スクリーン部分に関し本件建物外観と控訴人代表者の提案とで共通するのは,ほぼ2層3方向の連続的な立体格子構造(組亀甲柄)を採用した点に尽きるのであって,それ自体はアイデアにすぎない(前記のとおり,建物の外観デザインに組亀甲柄を採用するとしても,その具体的表現は様々なものがあり得るのであるから,組亀甲柄を採用するということ自体は,抽象的なアイデアにすぎない。)というべきであるから,控訴人代表者が本件建物外観について創作的に関与したとは認められないし,控訴人代表者の提案が本件建物の原著作物に当たるとも認められない。
(3) 以上によれば,原判決が,本件建物外観の設計に関し,控訴人代表者の創作的関与並びに共同創作の意思及び事実を認めず,かつ,本件建物外観を控訴人外観設計の二次的著作物とも認めなかったことは相当であり,その認定判断に誤りはない。 」

【コメント】
 建築の著作物?をめぐる争いです。原告は照井信三建築研究所‏で,被告は竹中工務店と彰国社(建築系の出版社です。)です。

 争いの対象となった本件建物は,青山にあるステラ・マッカートニーの店舗です。
 写真は誰かの著作権があると思いますので,ここで引用するのは避けておきます。

 代わりに,ステラ・マッカートニー自身のサイト( https://www.stellamccartney.com/experience/jp/press-room/stella-mccartney-opens-tokyo-flagship-store-aoyama/)で,問題がよくわかる写真が載っている所がありますので,こちらを引用しておきます。


 さて,そのサイトを見てわかるとおり,建物の外側に外装スクリーンがあり,これが特徴的です。そして,この外装スクリーンは,組亀甲模様となっております。
 
 組亀甲模様というはどういうものかというと,こんな感じです。
 

 他にもこういうものがあります。
 
 
 
 まあ,要するに,組亀甲と言っても色々な種類があるのです(すべてフリー素材です。)。

 このように組まれているため,見方によっては,亀の甲羅のように六角形と見えるわけです。
 さて,このような組亀甲で外装スクリーンを作り,それで建物を覆うというアイデアを原告は出したようです。

 しかし, 上記のとおり,アイデア出しをしたに過ぎないよね,ということで,請求は一審(東京地裁平成27(ワ)23694号,平成29年4月27日判決,47部,沖中部長の合議体です。)に続いて棄却されております。

 原告も商売でやっている以上,本件ではお金を既に貰っていると思います。そんなこんなことからすると, なかなか厳しい所があります。

 原告がこの件に携わった経緯は,上記の一審の判決に詳しいのですが,施主から設計を依頼されたのは,被告の竹中工務店だけです。
 では原告がどのようにこの件に関わったかというと,施主から外観デザイン監修を依頼されたためです。
 つまり,竹中工務店が知らない間に,施主が勝手に原告に外観デザイン監修を依頼していたようなのですね。

 まあ何かこの辺から躓きの石が見えてくるような気がしますが,施主もお金を掛ける以上,良い成果物を得たいというのは当然で,これはこれで仕方がありません。


 ですので,この事件は,どっちがどうだということではなく,様々な視点から色んな考え方のできる事件ではないかと思います。


 なお,本件では著作者人格権による請求しかありませんが,これは,著作権の場合,著作権法46条柱書及び2号があるためと思われます。