2017年11月10日金曜日

審決取消訴訟 特許   平成28(行ケ)10092  無効審判 不成立審決 請求棄却

事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成29年10月25日
裁判所名
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 清水 節 
裁判官 中島基至 
裁判官 岡田慎吾 

「  ⑴  甲1ウェブページについて
  被告は,甲1ウェブページは,本件出願日前の平成19年6月14日の時点では公開されていなかったと主張するので,取消事由を検討する前提として,甲1ウェブページについて,本件出願日前に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるかを検討する。
      ア  甲1ウェブページの記載事項
  甲1ウェブページ(甲1)には,以下の事項が記載されている。
         「商品名  エフ  スクエア  アイ  インフィルトレート  セラム  リンクル  エッセンス
販売元  フジフイルム
発売日  2007/01/15 
  分類  ジェル・美容液 
1.水 
2.グリセリン 
3.BG 
4.ペンチレングリコール 
5.クエン酸 
6.リン酸アスコルビルMg 
7.PEG-60水添ヒマシ油 
8.ベタイン 
9.グリコシルトレハロース 
10.水酸化Na 
11.キサンタンガム 
12.加水分解水添デンプン 
13.メチルパラベン 
14.アルギニン 
15.プルラン 
16.トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル 
17.オレイン酸ポリグリセリル-10 
18.ヘマトコッカスプルビアリス油 
19.ステアリン酸スクロース 
20.トコフェロール 
21.レシチン 
22.エチドロン酸4Na 
23.アセチルヒドロキシプロリン 
24.ダマスクバラ花油 
25.加水分解バレイショタンパク 
26.PCA-Na 
27.グルコシルルチン 
28.ニンジン根エキス 
29.フェノキシエタノール 
30.コメヌカスフィンゴ糖脂質 
31.水添レシチン 
32.オクラエキス 
33.エチルパラベン 
34.リゾレシチン 
35.プロピルパラベン」
          「以下の商品の全成分リストと類似性があります
        商品名                            類似性指数
アスタリフト  エッセンス(フジフイルム)    78
アスタリフト  ローション(フジフイルム)    72
アスタリフト  クリーム(フジフイルム)      54」
      イ  検討
  甲1ウェブページには,前記アのとおり,「以下の商品の全成分リストと類似性があります」との記載に続いて,「アスタリフト  エッセンス(フジフイルム)」,「アスタリフト  ローション(フジフイルム)」及び「アスタリフト  クリーム(フジフイルム)」との商品名が記載されているところ,証拠(乙1の1,2,乙4,5)及び弁論の全趣旨によれば,上記各商品は,いずれも,平成19年7月10日にニュースリリースされ,同年9月12日に発売が開始されたものであること,甲1ウェブページに記載された上記各商品の情報は,「Cosmetic-Info.jp」内に登録された情報(発売された市販品及び公開された成分情報)に基づいて作成されていることが認められる。そうすると,甲1ウェブページには,本件出願日である平成19年6月27日よりも後にニュースリリース及び発売された商品が掲載されていることになるから,甲1ウェブページの「エフ  スクエア  アイ」の全成分について記載された部分が,甲1ウェブページにより,本件出願日前に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものと認めることはできない
      ウ  原告の主張について
       (ア)原告は,甲1ウェブページの最下行の記載から,甲1ウェブページが,「Cosmetic-Info.jp」と題するウェブサイトを,インターネットアーカイブのWayback  Machineというサービスが複製したウェブページの写しであり,その複製元のウェブページは,久光工房のウェブサイト(乙1の1)における平成19年1月15日に発売された「エフ  スクエア  アイ」の全成分を表示したページであるから,久光工房によって遅くとも平成19年6月14日までにインターネットに公開されていたものであると主張する。
  しかしながら,甲1ウェブページには,本件出願日より後にニュースリリース及び発売された商品が掲載されており,甲1ウェブページ自体は,本件出願日前に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものということはできないのは,前記認定のとおりである。そして,その他,甲1ウェブページの「エフ  スクエア  アイ」の全成分について記載された部分が,甲1ウェブページ自体が電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったときよりも前に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能であったことを推認させるような記載は,甲1ウェブページにはない。そうすると,甲1ウェブページの「エフ  スクエア  アイ」の全成分について記載された部分が,本件出願日前に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものということもできない。
  したがって,原告の上記主張は採用することができない。
       (イ)原告は,「えふくん応援します  ~お試しコスメ日記~」と題するブログの平成19年1月17日付けの「インフィルトレートセラムってどんなの?」と題する記事(甲58),及び「@COSME」と題するウェブサイトの平成19年1月27日付けのクチコミ(甲59)に,甲1ウェブページと同じく「エフ  スクエア  アイ」の全成分が掲載されており,また,平成13年薬事法改正により化粧品の全成分表示が義務付けられたため(甲60),「エフ  スクエア  アイ」の全成分の情報は,その発売日である平成19年1月15日(甲1,2)以降,インターネット上で広く利用可能となっていたといえるから,甲1ウェブページに記載された引用発明1は,本件出願日前に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたものであると主張する。
  しかしながら,上記各ウェブページ(甲58,59)が本件出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたものであったとしても,このことは,上記各ウェブページに記載された内容が本件出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能であったことを示すにとどまるものであり,上記と同内容が甲1ウェブページに記載されていたとしても,甲1ウェブページにおける「エフ  スクエア  アイ」の成分についての記載部分が,本件出願日前に,甲1ウェブページにより電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものということはできない。
  したがって,原告の上記主張は採用することができない。
    (2)  以上によれば,甲1ウェブページが,本件出願日前に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであることを前提として,引用発明1に基づき本件発明が容易に発明することができたとの無効理由2は,その前提に誤りがあり, 結局,本件発明は,引用発明1に基づき容易に発明をすることができたとはいえないから,無効理由2によって,本件特許を無効とすることはできないと判断した審決の結論に誤りはないことになる。
  したがって,その余の点について判断するまでもなく,取消事由1は理由がない。」

【コメント】
 大手の会社同士(富士フィルムとDHC)で化粧品を巡って争われた特許の無効審判の事件です。
 しかし,この裏で侵害訴訟が動いており,そちらの方が重要です。 

 で,侵害訴訟の一審は,無効の抗弁成立で,請求棄却となっております。
 理由は,この事件でも問題になったウェブページに記載された発明に基づいて,想到容易!という進歩性なし! のものでした。

 ところが,無効審判では,これとは真逆の結論(本事件の原審とも言える審判です。)で,進歩性あり!でした。
  
 ですので,高裁でどういう判断が下されるか色々予想しながら待ったのですが,実に予想外でした。

 結論は,審決同様,進歩性ありということで,審決を追認したような話と思いきや,そうではないです。
 何と,上記のウェブページが,特許法29条1項3号の「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった」に該当しない!というのです。
 
 これは驚きました。侵害訴訟の一審ではその辺の審理もありましたので,所変われば品変わるも酷すぎやしませんか,という感じが致します。 

 私のように傍から見ているだけでは,証拠を見ることが出来ませんので,イマイチ狐につままれたような感もあります。
 原告の方は,Wayback  Machine(世界中のありとあらゆるサイトの過去のキャッシュが見れるサイトです。)の結果などから,出願日前に公知になっていたのだと主張したのですが,難しかったようです。
 
 さて,侵害訴訟と審決取消訴訟は,同日の判決が多いのですが,今のところ,侵害訴訟の方の判決はありません。
 
 侵害訴訟についてもこのとおりに高裁が判断しているでしょうから,進歩性ありで特許は有効です。そうると,一審で行われていなかった損害論に入っている可能性が大です。
 
 ですので,特許権者の富士フィルムはウシウシでしょうし, DHCはもう一度早めに甲58と甲59で,無効審判を起こした方がいいと思います(侵害訴訟で甲58や甲59での進歩性なしを主張したのかもしれませんが,時機後れにされる可能性がありますので。)。