2017年12月8日金曜日

侵害訴訟 特許  平成28(ワ)7649  大阪地裁 請求棄却 /追伸あり

事件番号
事件名
 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 平成29年11月21日
裁判所名
大阪地方裁判所所第21民事部    
裁判長裁判官     森    崎    英    二        
裁判官      野    上    誠    一    
裁判官       大    川    潤    子 

「 (3) 構成要件Gの「裾絞り部」の意義
ア  構成要件Gは,「胴部には,上下方向に伸縮自在な蛇腹部を有し,」とある構成要件Fに続き,「且つ該蛇腹部と前記底部との間には,底部に近づくに連れて先細りとなる裾絞り部を備え,」とあるから,これらによれば,「裾絞り部」の位置は,胴部において蛇腹部と底部との間にあり,またその形状は底部に近づくに連れて先細りとなるものと定義される。
イ  蛇腹部に続く「裾絞り部」がいかなる態様で接続しているか検討するに, 本件明細書をみると,裾絞り部と「蛇腹部との接続部などは,局地的に垂直に延在していても構わない。」(【0015】)との記載,「底部との接続部には曲面を介在させてもよい。」(【0010】)との記載があるから,蛇腹部から裾絞り部を経て底部に至る胴部は,それぞれの間の接続部が一定の幅をもって存在することが許容されていると解される。
 しかし,本件明細書において,蛇腹部と裾絞り部の接続部が「垂直に延在して」よいとしても,その接続部は「局地的」,すなわち「ある区域に限られているさま。」(広辞苑第6版)という,場所的限定を意味する言葉が用いられていることからすると,同所で「垂直に延在」することが許される接続部は,蛇腹部及び裾絞り部に対して,より狭い限られた範囲であると解されるべきことになる。
 そして,このように,胴部を「蛇腹部」と「裾絞り部」で構成し,その接続部を狭い限られた範囲にすべきことは,胴部に「蛇腹部」と「裾絞り部」を設ける技術的意義に関係するものである。  
 すなわち,本件特許発明は,ボトル全体をPET樹脂によって形成することで,液体を充填した際でも自立的に形状を維持できるようにした(【0003】,【0004】,【0006】,【0008】,【0011】)一方で,効率よく(効果的に)ボトルの容積を縮小(削減)させる(【0012】,【0018】,【0020】,【0027】,【0032】)ことを課題の一つとしており,その課題を解決するために,ボトルの胴部に蛇腹部を備えて押し潰されやすい構造にし(【0008】,【0012】,【0023】,【0026】),これに加え,蛇腹部と底部との間に裾絞り部を設けることで,裾絞り部に作用する大気圧をボトルの中心に向かわせ,ボトル内部の液体の排出に伴って,裾絞り部をボトルの内部に陥没するように変形させ(【0015】,【0031】),もってボトルを内部に向けて押し潰されやすくし,効率よくボトルの容積を縮小することを目的としている(【0018】,【0020】,【0027】,【0032】)ものであるが,そうであればその作用効果に関係しない接続部が必然的に狭い範囲に限られることは自ずと明らかといえる。
ウ  そして,裾絞り部に以上のような作用効果があり,またそのため胴部を構成 25 する蛇腹部のほか裾絞り部以外の接続部が狭い限られた範囲と解されるべきことは,以下のとおり,上記(2)認定の本件特許の出願経過に照らしても根拠づけられているといえる。
 すなわち,本件特許は,出願当初の特許請求の範囲においては ,本件特許発明のうち,「裾絞り部」に関する構成要件(構成要件G)及び「裾絞り部」の機能に関する構成要件(構成要件H)を含まない構成要件を請求項1,「裾絞り部」の機能に関する構成要件(構成要件H)を含まない構成要件を請求項2としていたが,特許庁審査官の拒絶理由通知を受けて,上記請求項1を削除し,上記請求項2に構成要件Hを付け加える補正をなし,もって現在の請求項1としたというのである。要するに,胴部における「蛇腹部」以外の構成を特定しない請求項を削除し,同部分の構成を「裾絞り部」と特定することにより特許されるに至ったというのであるから,同部分と「蛇腹部」の接続部において「局地的」に存在することが許容されるにすぎない「垂直に延在」する部分は,極く限られた幅のものにすぎないと解すべきことが明らかといえる。
(4)  「裾絞り部」の形状
「裾絞り部」の形状については,構成要件Gで特定されているとおり「底部に近づくに連れて先細りとなる」ものであり,本件明細書において,「裾絞り部」につき,「垂直に延在するのではなく,裾絞り状に傾斜している」(【0015】)と説明されている上,構成要件G及びHを含まない出願当初の特許請求の範囲の請求項 1 を削除した上記(2)認定の本件特許の出願経過に照らしても,裾絞り部は,それが直線であっても,曲線であっても,少なくとも,垂直の部分を含むことなく,蛇腹部から底部にかけて,徐々に先細りになっていくものに限定されていると解される。
(5)  まとめ 
 したがって,構成要件Gにいう「裾絞り部」とは,胴部において「蛇腹部」と「底部」の間にあって,それぞれに接続部で連続して存在するものであり,また「蛇腹 25 部」との接続部において「垂直に延在」する部分があっても許容されるが,それは極く限られた幅のものにすぎないのであり,またその形状は,「蛇腹部」方向から「底部」方向に向けて,徐々に先細りになっているものということになる。
(6) 以上の「裾絞り部」の解釈を踏まえ,被告容器が裾絞り部を備え,構成要件Gを充足しているかを検討する。
ア  原告は,別紙「被告容器の構成(原告の主張)」記載の図面で「湾曲部」と 5 指示した部分が「裾絞り部」に相当し,同部分の存在により構成要件Gを充足すると主張し,併せて,その上部にある垂直部分は,本件明細書の【0015】にいう「接続部」にすぎないとしている。
 しかしながら,上記検討したとおり,「裾絞り部」は,「蛇腹部」から接続部で連続しているものであるが,この接続部は,極く限られた幅の範囲であるべきであって,上記図面に明らかなように,被告容器における原告主張に係る「裾絞り部」に相当する湾曲部と蛇腹部の間に存する,湾曲部と高さ方向の幅がほぼ一緒である垂直に延在する部分をもって「接続部」にすぎないということはできない。
 したがって,被告容器は,上記定義した「裾絞り部」で構成されるべき「蛇腹部」から「底部」にかけて胴部の大半が,「裾絞り部」に該当しない部分で構成されているということになるから,被告容器は,「裾絞り部」を備えているものということはできない。
イ  原告の主張は,被告容器のうち,「裾絞り部」が備えるべき形状を有すると説明しやすい部分を切り取り出して,これが「裾絞り部」に該当するというものであるが,被告容器は,「裾絞り部」で構成されるべき蛇腹部と底部との間の部分が,「裾絞り部」に該当するといえない以上,仮に原告主張に係る湾曲部が「裾絞り部」に相当する形状を備えていると評価できるとしても,被告容器が構成要件Gの「裾絞り部」を備えているということはできない。
(7)  以上より,被告容器は,少なくとも構成要件Gを充足しないことが明らかであるから,本件発明1の技術的範囲に属するとはいえず,同様に本件発明3の技術的範囲に属するともいえない。 」

【コメント】
 ウオーターサーバのボトルの特許に関する特許権侵害訴訟の事件です。
 クレームは以下のとおりです。 

A  底部と,
 B  該底部の周縁から連続する胴部と,
 C  該胴部の上端縁から中央部に向かって上向きに傾斜する肩部と, 
 D  前記中央部に配設する筒状の首部と,からなり, 
 E  全体がPET樹脂によって形成されており,
 F  前記胴部には,上下方向に伸縮自在な蛇腹部を有し,
 G  且つ該蛇腹部と前記底部との間には,底部に近づくに連れて先細りとなる裾絞り部を備え,
 H  内部の液体の排出に伴って,前記裾絞り部がボトル内部に引き込まれること 
 I  を特徴とするウォーターサーバー用ボトル。

 まあこういうさほど難しくない発明でも,クレーム文言からではなかなか分かりにくいです。
  
  この図でいう21蛇腹部と24裾絞り部が問題になってきます。
 
  ほんで,ウオーターサーバが会社やら事務所にある人は見てほしいのですが,こういう風にひっくり返して使うのです。
 そして,使っているうちに水が減って, 「前記裾絞り部がボトル内部に引き込まれる」ということになるわけです。
 さて,被告の方です。 

 殆ど同じ~という感がします。どうでしょうか?
 しかし,違いもありまして,上記の本件の特許の図では, 21蛇腹部と24裾絞り部がツライチくらい,少なくともあまり幅はありません。
 他方,被告製品は,蛇腹部と湾曲部の間に余白(接続部)がかなりあります。大凡,湾曲部と同じくらいの幅です。
 本件の判決は,そういう所が違うから, 構成要件Gの該当性がないとしたわけです。
 しかし,これどうですか?クレームには,接続部なんかあっちゃいかん!ってな制限もありません。
 また,判旨でも指摘した接続部も, 明細書にあるのは,「蛇腹部との接続部などは,局地的に垂直に延在していても構わない。」(【0015】)程度の記載だけで,幅の大きいものじゃいかん(勿論,その幅も限度があるとは思いますけどね。)なんていう記載もありません。
 
 何だかいかにも結論ありきで,詭弁を弄したという感じの判決です。 これで原告を勝たせるのに何か不都合があったのでしょうか?それともどうしても被告を勝たせたい理由があったとか・・・。
 二審は大阪高裁ではなく知財高裁ですので,まだまだチャンスはあるでしょう。

【追伸】
 控訴審の判決がありました。
 知財高裁平成29(ネ)10102 (平成30年5月21日判決

 今度は構成要件Hではねられております。
  上記のとおり,構成要件Gの該当性は結構行けるかなと思ったのですが,他にも違う所があれが致し方ありません。

控訴人は, 被告容器における湾曲部は構成要件Gの「裾絞り部」に該当する旨主張するところ, 証拠(甲18,乙11 の1~3) によれば, 被告容器における湾曲部の潰れ方は,排水開始時に湾曲部の底部に近い方が容器の内部に引き込まれるに止まり,それ以降は,蛇腹部の収縮に伴い下方へと下降するのみであると認められる。 したがって,仮に,被告容器における湾曲部が構成要件Gの「裾絞り部」に該当するものであるとしても,被告容器は,「ウォーターサーバー用ボトル内部の液体の排出に伴って,裾絞り部が蛇腹部の内部に引き込まれる」ものではなく, 構成要件Hを充足しない。
 
 上記の本件特許の2番めの図のとおり,本件特許では,底の部分が,凹の形に凹みます。
 ところが,被告製品ではこんなことがなく,単に潰れるだけだった模様です。

 ですので,これは致し方無いのでしょう。