2018年2月23日金曜日

侵害訴訟 商標 平成28(ネ)10104 知財高裁 原判決取消(請求棄却)

事件番号
事件名
 販売差し止め等請求控訴事件
裁判年月日
 平成30年2月7日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官         森              義      之                            
裁判官  永      田      早      苗  
裁判官    古      庄              研  

「 ・・・
イ  被控訴人は,控訴人がPVZ社から輸入したと主張する商品のうち,PVZ社のカタログ掲載商品と一致しない物があるから,控訴人商品にはPVZ社由来ではない物が含まれると主張する。しかし,前記1(17)のとおり,控訴人は,PVZ社のカタログのみならず,香港フェアにPVZ社が持参したサンプルを元に注文することもあり,カタログやサンプルの色や色の組合せを変更して注文することもある上,被控訴人が指摘する控訴人の商品(甲52)は,いずれも,PVZ社の商品の特徴であるレース模様のPVZ社パーツが使用されている(乙48)。したがって,控訴人商品は,いずれもPVZ社から輸入された商品であると認められる。
    (2)ア  商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,その登録商標と同一の商標を付されたものを輸入する行為は,許諾を受けない限り,商標権を侵害する(商標法2条3項,25条)。しかし,そのような商品の輸入であっても,①当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり,②当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって(以下,「第2要件」という。),③我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される(以下,「第3要件」という。)場合には,商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である。(最高裁第一小法廷平成15年2月27日判決民集57巻2号125頁)
 そして,商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,その登録商標と同一の商標を広告に付する行為は,許諾を受けない限り,商標権を侵害する(商標法2条3項,25条)。しかし,そのような行為であっても,登録商標と同一の商標を付されたものを輸入する行為と同様に,商標権侵害としての実質的違法性を欠く場合があり,その場合の上記①の要件は,当該商品に当該商標を使用することが外国における商標権者との関係で適法であること(以下,「第1要件」という。)とすべきである。
イ  第1要件について
(ア)  前記1(1)のとおり,PVZ社は,本件商標2と同一の標章を用いてその商品を販売している。PVZ社商標は,別紙PVZ社商標目録のとおり,デザイン化した「NEONERO」の欧文字の下部に左から右にかけて緩やかにカーブしながら下がる曲線を配し,その曲線の下に小さく「FORME  PREZIOSE」の欧文字を記したものである。「NEONERO」の文字が「FORME  PREZIOSE」の文字より格段に大きいこと,前記1(1)のとおり,PVZ社は「NEONERO」の本件ブランド名を用いて身飾品を製造及び販売してきたことからすると,PVZ社商標の要部はデザイン化された「NEONERO」の文字部分であるものと認められる。
 控訴人標章2は,別紙控訴人標章目録のとおり,「PIZZO  D’ORO」の欧文字を上段に小さく,「NEONERO」の欧文字を下段に大きく配してなるものであり,その文字の大小に各段の差があることから,要部は「NEONERO」部分であるものと認められる。したがって,控訴人標章2の要部は,PVZ社商標の要部とその外観が類似し,称呼を同一にする。以上より,PVZ社商標と控訴人標章2とは,類似する。
 控訴人標章1は,別紙控訴人標章目録のとおり,「NEONERO」の欧文字を書してなるものであるから,PVZ社商標の要部とその外観が類似し,称呼を同一にするものであって,PVZ社商標と控訴人標章1は類似する。
 そうすると,控訴人標章1及び2は,欧州においては,PVZ社の許諾なくして適法に使用することはできないものであると認められる。
      (イ)  上記のとおり,控訴人標章1及び2は,PVZ社商標と類似するものであるが,前記(1)のとおり,控訴人商品は,いずれもPVZ社から輸入されたものである上,控訴人がこれに手を加えて販売したとも認められないから,控訴人が控訴人商品の広告に控訴人標章1及び2を付する行為は,PVZ社の商標権の出所識別機能や品質保持機能を害するものではなく,PVZ社との関係で適法なものということができる。
(ウ)  したがって,本件被疑侵害行為は,第1要件を充足する。
ウ  第2要件について
  第2要件は,内外権利者の実質的同一性をいうものであって,「法律的に同一人と同視し得るような関係がある」とは,外国における商標権者と我が国の商標権者が親子会社の関係や総販売代理店である場合をいい,「経済的に同一人と同視し得るような関係がある」とは,外国における商標権者と我が国の商標権者が同一の企業グループを構成している等の密接な関係が存在することをいうものである。
 前記1(6)のとおり,被控訴人はPVZ社と本件ブランド商品について日本における本件販売代理店契約を締結し,被控訴人はPVZ社の日本における独占的な販売代理店となったものであるから,PVZ社と被控訴人とは,法律的に同一人と同視し得るような関係にあるといえ,本件被疑侵害行為は,第2要件を充足する。
エ  第3要件について
   (ア)  第3要件は,我が国の商標権者の品質管理可能性についていうものであるところ,外国の商標権者と我が国の商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合には,原則として,外国の商標権者の品質管理可能性と我が国の商標権者の品質管理可能性は同一に帰すべきものであるといえる。ただし,外国の商標権者と我が国の商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合であっても,我が国の商標権の独占権能を活用して,自己の出所に係る商品独自の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるにもかかわらず,外国における商標権者の出所に係る商品が輸入されることによって,そのような品質又は信用を害する結果が生じたといえるような場合には,この利益は保護に値するということができる。
(イ)  前記1の認定事実によると,PVZ社は,本件商標登録以前から本件ブランドを付した商品を控訴人及び被控訴人に対して販売し,日本において流通させていたところ,被控訴人が本件商標権を登録したのは,PVZ社の商品を独占的に輸入し販売するためであり,その登録は,PVZ社の許諾を得て行ったものであり,本件商標1は本件ブランド名そのものであり,本件商標2は,PVZ社が本件ブランドのために使用していた標章を用いたものであると認められる。本件において,被控訴人商品は身飾品であり,使用者が他人から見えるように装用して,商品の美しさでもって使用者を飾るという機能を有するところ,前記1(16)のとおり,被控訴人が,PVZ社パーツの組合せや鎖の長さなどを指定し,引き輪やイヤリングのパーツを取り付けたことは認められるものの,引き輪やイヤリングのパーツは身体を飾るという被控訴人商品の主たる機能からみて付随的な部分にすぎない。被控訴人のウェブサイトには,PVZ社作成の画像及びPVZ社が使用するのと同じ本件ブランドのロゴが用いられ,PVZ社パーツのレース状の模様は明確に認識できるが,被控訴人が独自に付したパーツが強調されている部分はなく,また,PVZ社パーツのレース状の細工以外のデザインが良いことや,引き輪やイヤリングのパーツが使用しやすいといったことは,上記ウェブサイトには記載されておらず,このような事項が需要者に認識されていたとは認められない。さらに,被控訴人は,被控訴人商品について保証書を発行していたものの,その内容は,「品番」「仕様」のみであり(甲23),保証内容から被控訴人独自のパーツが付されていることを購入者が認識できるものとは認められない。
 これらの事情を総合考慮すると,被控訴人が,PVZ社とは独自に,被控訴人の商品の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるとまで認めることはできず,控訴人商品の輸入や本件被疑侵害行為によって,被控訴人の商品の品質又は信用を害する結果が生じたということはできない。したがって,被控訴人に保護に値する利益があるということはできない。
 なお,被控訴人は,独自の検査体制によって商品の品質維持を図り,販売した商品の無償での部品交換に応じて商品の信用維持に努めているなどと主張するが,被控訴人が身飾品の輸入販売業者が通常行っている品質や信用を維持するための行為を超えてこれらの行為を行っているとまで認めるに足りる証拠はなく,上記判断を左右するものではない。
(ウ)  以上より,控訴人商品と被控訴人商品とは,本件商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価すべきであり,本件被疑侵害行為は,第3要件を充足する。
  (3)  以上より,本件被疑侵害行為は,第1要件~第3要件をいずれも充足し,実質的違法性を欠く。
  3  したがって,その余の点を判断するまでもなく,被控訴人の請求には,理由がない。」 

【コメント】
 商標権侵害訴訟の控訴事案です。一審では侵害が認められたのですが,知財高裁では逆転で侵害なし,という結論になりました。
 
 原告である被控訴人が商標権者です。
 
 商標は以下のようなものです。
登録番号  第5799743号
商標  NEONERO(標準文字)
指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分
第14類
宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,キーホルダー,宝石箱,記念カップ,記念たて,身飾品,貴金属製靴飾り,時計 
 もう一つあるようですが,これだけで分かると思います。
 
 他方,被告である控訴人は,NEONEROブランドの身飾品等の並行輸入をしていたのです。

 このような事案で一審(民事46部です。色々おもしろい判決を残してくれた長谷川部長の合議体です。東京地裁 平成28(ワ)10643,平成28年10月20日 判決) はこんな感じでした。
 
被告は,被告商品をPVZ社から輸入して販売する行為がいわゆる並行輸入による商標権侵害の違法性阻却事由に該当すると主張する。 
 そこで判断するに, 上記(1)ア,イ及び カ の事実関係によれば,①本件商標の商標権者である原告の販売する商品の 多くは原告の定めた仕様によっている上,PVZ社製以外の部品を組み合わせた商品もあるから,原告商品のほとんどはPVZ社が本件ブランド名で原告以外に販売する商品とは異なること,②被告が販売する商品には被告独自の仕様が含まれており,その仕様は,原告の仕様とは異なるもので,かつ,原告を通さずに被告からPVZ社に伝えられること,以上のことが明らかである。 また,身飾品という商品の性質上,部品の組合せ方,用いられる金具等が異なるときは品質が同一であるとはいえないと解される。そうすると,被告商品の品質管理に原告が直接的又は間接的に関与する余地はなく,被告商品と原告商品の品質に差異がないということはできない 。したがって,被告による販売行為がいわゆる真正商品の並行輸入として商標権侵害の実質的な違法性を欠くとは認められない。 
 これに対し,被告は,①原告商品はPVZ社のブランドコンセプトと異なるものでなく,需要者が被告商品との相違点を感得できないこと,②身飾品業界において部品の配置等を販売者が工夫するのが通常であることからすれば,原告商品と被告商品の同一性が損なわれるものでない旨主張する。そこで判断するに,上記①の点については , 仮にブランドコンセプトが共通するとしても,原告商品と被告商品 の品質が同一であるといえないことは前記のとおりである。また , 上記②の販売者各自により工夫が行われるとの点は ,むしろ各商品の品質の同一性を否定する事情と解される。したがって,被告の主張はいずれも失当である。」
 
 つまり,一審は,被告がオリジナルでPVZに発注した品があるでしょう,それはいくらPVZ由来のものだと言っても,原告の売っている商品と違いますよね,だからダメ!と判断したわけです。

 これに対して,二審の知財高裁の方はどう判断したかというと,ブランドというものをもっと実質的に考えたような感じです。
 物理的に同じものかどうかではなく(最高裁の規範も物理的同一性までは求めておりません。) ,ブランドとして同じかどうか?これが大事だと考えたわけです。そうすると,オリジナルの発注かもしれないけど,第1要件から第3要件まで全部満たしているよね,だからOKとしたわけです。

 どちらがより腑に落ちるかというと,やはり知財高裁の方かなあという感があります。ちょっと,一審の判断は杓子定規というか省エネ判断というか,そんな感じがします。

 

 

2018年2月20日火曜日

侵害訴訟 商標 平成29(ワ)123  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 差止請求事件
裁判年月日
 平成30年2月14日
裁判所名
 東京地方裁判所第29部    
裁判長裁判官  嶋      末      和      秀     
 裁判官          伊      藤      清      隆      
裁判官        西      山      芳      樹

「2  争点1(被告各商品は本件指定役務に類似するか)について
⑴  役務と商品とが類似のものであるかどうかは,取引の実情として,商品の製造・販売と役務の提供とが,通常,同一事業者によって行われている等の事情により,商品又は役務に同一又は類似の商標を使用する場合には,需要者において,当該商品が当該役務を提供する事業者の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係があるか否かによって判断するのが相当である(最高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁,最高裁昭和36年(オ)第1388号同38年10月4日第二小法廷判決・民集17巻9号1155頁,最高裁昭和37年(オ)第955号同39年6月16日第三小法廷判決・民集18巻5号774頁参照)。  ・・・・
 ⑵  そこで,まず,本件指定役務と被告商品1(緑みかんシロップ)の類否について検討すると,本件指定役務は「加工食料品」という特定された取扱商品についての小売等役務であるのに対して,前記前提事実⑶,⑷のとおり,被告商品1は,「シロップ」であって,第32類の「清涼飲料」に属する商品であると認められる(被告商品1が第29類の「加工野菜及び加工果実」に含まれる旨の原告の主張は採用することができない。)ところ,「清涼飲料」と「加工食料品」は,いずれも一般消費者の飲食の用に供される商品であるとはいえ,取引の実情として,「清涼飲料」の製造・販売と「加工食料品」を対象とする小売等役務の提供とが同一事業者によって行われているのが通常であると認めるに足る証拠はない
 そうすると,被告商品1に本件商標と同一又は類似の商標を使用する場合に,需要者において,被告商品1が「加工食料品」を対象とする小売等役務を提供する事業者の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあるとは認められる関係にはなく,被告商品1が本件指定役務に類似するとはいえないというべきである。 
  ⑶ア  他方で,前記前提事実⑶,⑷のとおり,被告商品2(梅ジャム)及び3(ブルーベリージャム)については,いずれも「ジャム」であって,第29類の「加工野菜及び加工果実」に属する商品であり,本件指定役務において小売等役務の対象とされている「加工食料品」と関連する商品であると認められる。
  イ  しかしながら,一般に,ジャム等の加工食料品の取引において,製造者は小売業者又は卸売業者に商品を販売し,小売業者等によって一般消費者に商品が販売される業態は見られるところであり,本件の証拠上も,被告は,その製造に係る梅ジャム等の商品をパルシステム,生協,ケンコーコム等に販売し,これらの事業者によって一般消費者に商品が販売されていると認められるほか(上記1⑵),原告も,商品を自ら一般消費者に販売する以外に,らでぃっしゅぼーや,生協,デパートに販売し,これらの事業者によって一般消費者に商品が販売されていたと認められる(上記1⑴)。
 そうすると,他方で,ジャム等を製造して直接一般消費者に販売する事業者が存在するとして原告が提出する証拠(甲40の1・2)の内容を踏まえたとしても,ジャム等の加工食料品の取引の実情として,製造・販売と小売等役務の提供が同一事業者によって行われているのが通常であるとまでは認めることができないというべきである。
ウ  また,商品又は役務の類否を検討するに当たっては,実際の取引態様を前提にすべきところ,被告標章2を包装に付した被告商品2及び3の取引態様は,上記1⑵イで認定したとおり,被告と継続的な取引関係があるケンコーコムにおいて,被告から商品を購入して自社が運営する通販サイトを通じて一般消費者に販売するというものであり,その通販サイトには,ケンコーコムの名称及びロゴが表示されていると共に,商品ごとに製造・販売者が表示されている。
 そうすると,ケンコーコムにおいて,被告商品2及び3が小売等役務を提供する事業者の製造又は販売に係る商品であると誤認するおそれがあるとは認め難く,また,通販サイトで被告商品2及び3を購入する一般消費者においても,製造・販売者とインターネット販売業者を区別して認識すると考えられるから,小売等役務を提供するインターネット販売業者の製造又は販売に係る商品であると誤認するおそれがあるとは認め難い。
 なお,原告は,将来,原告がケンコーコムと取引を開始した場合には,同社において誤認混同のおそれが生じる旨主張するが,上記1⑴で認定した原告の取引態様を前提とする限り,同社において小売等役務を提供する事業者の製造又は販売に係る商品と誤認するおそれを生じるとは認め難い。
エ  以上のとおり,本件の証拠上,ジャム等の加工食料品の取引の実情として,製造・販売と小売等役務の提供が同一事業者によって行われているのが通常であるとまでは認めることができないというべきであり,被告商品2及び3の実際の取引態様を踏まえて検討しても,被告商品2及び3に本件商標と同一又は類似の商標を使用する場合に,需要者において,被告商品2及び3が本件小売等役務を提供する事業者の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にはないというべきである。
 したがって,被告商品2及び3が本件指定役務に類似するとはいえないというべきである。 
⑷  これに対し,原告は,類似商品・役務審査基準において,被告商品2及び3はいずれも「加工野菜及び加工果実」(32F04)に分類され,本件指定役務(35K03)に類似すると推定されていることから,被告商品2及び3は本件指定役務と類似する旨主張する。
 しかしながら,類似商品・役務審査基準は,商標登録出願審査事務の便宜と統一のために定められたものであり,裁判所の判断を拘束するものではないから,類似商品・役務審査基準において類似すると推定されているというだけで,本件指定役務と被告商品2及び3が類似するということはできない。
 とりわけ,商標権侵害訴訟における商品又は役務の類否の判断の際には,需要者において,商品の製造・販売者と役務の提供者の出所が誤認混同されるおそれがあるかを実際の取引態様を踏まえて具体的に検討する必要があるというべきところ,本件の証拠上,被告商品2及び3についてそのようなおそれがあると認められないことは上記で認定,説示したとおりである。
 したがって,原告の主張は採用することができない。」

【コメント】 
 商標権侵害訴訟の事件であり,法的に何か画期的な論点があったわけではありません。
でもこの事件を紹介したのには理由があります。非常に居心地の悪い判決だという気がするからです。

 商標権は以下のとおりです。
 登録番号  第5848068号 
   登録商標  ジョイファーム(標準文字)  
   指定役務 35類「加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する
便益の提供(本件指定役務) 」

 所謂小売役務商標です。

 対する被告の方です。

 使用商標等は以下のとおりらしいです。
 
 3つの使用態様があります。

  商標は,「ジョイファーム小田原」ですね。
 そして,一番上が,被告商品1(緑みかんシロップ)で,中が被告商品2(梅ジャム)で,一番下が被告商品3(ブルーベリージャム) です。

 ということで,東京地裁の29部はこれで役務・商品が似ていないとしました。
 でも本当でしょうか?

 この判決で引用した判例は,所謂橘正宗事件です。 
 この判例では確かに,判示に似た,「それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは」とあります。
 つまり,一見,事業者の同一性を重視しているようにも見えます。

 でも本当でしょうか?
  この判例にも「等」がありますよね。絶対必ず「事業者の同一性」が一番か?というとそうではないと思います。
 だって,最終的には,事業主側の事情ではなく,消費者側が 「出所について誤認混同を生ずる」かどうかが一番大事ですもの。

 本件で,普通に考えれば,商標は同一と言ってよいでしょう。 
 そして,シロップは大目に見るとしても,梅ジャムとブルーベリージャムに今回のこの「ジョイファーム」商標を使うと,そうか,原告がこういう事業をやり始めたか,やっているのかと誤認混同を起こすのではないかと思うのですね。

 実に腑に落ちません。形式的に判断し,何だかそれっぽい理由で,非類似と判断しておりますけど,非常に不可解なものを感じます。
 判決は,「需要者において,商品の製造・販売者と役務の提供者の出所が誤認混同されるおそれがあるかを実際の取引態様を踏まえて具体的に検討する必要があるというべきところ」と判示していますが,そういう検討をしていないのは,お前だろと言いたくなります。
 
 その理由の一つは,本件で,原告は本人訴訟なのですね。なので,裁判所が原告を舐めたからではないでしょうか。だから結論ありきで判断したのではないかと推測されます。
 ですので,もうあまり日にちはありませんが,控訴した方がいいでしょうね。こんな分かったような分からない判決の確定なんてとても許せることではありませんから。