2018年3月9日金曜日

不正競争  平成28(ワ)10736  東京地裁 請求一部認容

事件番号
事件名
 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日
 平成30年2月27日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第46部  
 裁判長裁判官            柴      田      義      明        
裁判官            萩      原      孝      基                                    
裁判官            大      下      良      仁

「 (2)不正競争防止法2条1項1号の趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示 機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,同法の目的である事業者間の公正な競争を確保することにある。
        商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等によ 20 り,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要すると解するのが相当である。
  (3)原告商品形態の特徴について
      ア  まず,原告商品形態の特徴について検討する。
          一般的な折り畳み傘は,折り畳んで包袋に入れた状態において円筒形の形態をしているのに対し,原告商品の形態は,折り畳んで包袋に入れた状態において,原告商品形態を有しているところ,当該形態によって,原告商品は,全体的に薄く扁平な板のような形状を有することが認められ,円筒形でないだけでなく,それが全体的に薄く,扁平な板のような形状である点で,一般的な折り畳み傘の形状とは明らかに異なる特徴を有しているといえる。
          そして,上記(1) のとおり,原告商品の広告では原告商品が薄いことが強調されたこと(上記 (1)ウ (ア)),発売から間もない平成17年1月頃に日本経済新聞社が主催する2004年日経優秀製品・サービス賞の優秀賞及び日経産業新聞賞を受賞し,原告商品の形態が説明された上で「新しい時代に先駆けた独創的な新製品」との評価を受けたこと(上記(1) カ),新聞,雑誌,テレビ番組等の多数のメディアにおいて原告商品が取り上げられたところ,そこでは原告商品が薄いことが強調されていること(上記(1) エ),そもそも原告商品の形態がそれまでの商品の形態とは明らかに異なる原告商品形態であることから上記のような多数の媒体で取り上げられたと考えられること,一般消費者もインターネット上の商品販売サイト等に原告商品が薄いとの原告商品形態を強調する感想を多く書き込んでいること(上記(1) オ)などからすると,原告商品は需要者に対し,全体的に薄く扁平な板のような形状を有する商品であるという強い印象を与えるものといえる。
          そうすると,原告商品形態は,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していたといえ,原告商品形態には特別顕著性があるといえる。
      イ  これに対し,被告は,原告商品の他にも折り畳んで包袋に入れた状態が薄く扁平な板のような形状となる折り畳み傘(乙5(乙15~17は乙5の折り畳み傘の写真である。),7,18~21)や折り畳んだときの形状が薄く扁平な板のような形状になる折り畳み傘の骨組み(乙10,11,13)が存在し,このうち,乙第5号証及び乙第7号証の商品は原告商品が販売されるより前から販売されていたこと,折り畳んだときの傘の骨組みが直方体となる形状の実用新案登録及び特許出願もされていた(乙1~4)ことから, 薄く扁平な板のような形状を有する折り畳み傘はありふれた形態であって原告商品形態に特別顕著性はない旨主張する。
 しかし,原告商品が販売される前から,一定の形状の折り畳み傘の骨組みが存在し,また,骨組みの形状に関する実用新案登録等がされていたとしても,それは骨組みに関するものであって,それを利用した折り畳み傘の形態 は不明であり,折り畳み傘の形態としての原告商品形態の特別顕著性の有無を直ちに左右するものとはいえない。また,被告が指摘する商品(乙5,7,18~21)には,折り畳んで包袋に入れた状態が円筒形ではなく,直方体に似た形状を有するものもある。しかし,被告が指摘する商品はいずれも販売数量及び売上高は明らかになっておらず,市場において広く流通している商品であると認めるに足りる証拠はないこと,乙第5号証及び乙第7号証の商品は既に販売が終了していること(乙6,8,41)などからすると,上記各商品によって,原告商品形態がありふれており,他の商品と識別し得る特徴を有しないとはいえない。
(4)周知性について 
        上記(1)のとおり,原告は原告商品形態を有する原告商品を平成16年11月以降継続的に販売し,その販売実績は相当の本数に及び,折り畳み傘全体の販売本数に対しても一定の割合に及んでいること(上記 (1)ア),原告商品は全国の多数の店舗で展示,販売され,それによって原告商品形態は全国の店舗に訪れた顧客の目に触れたこと(上記(1) イ),原告の広告活動や広告媒体からの取 20 材等によって,原告商品形態が分かる写真やその特徴である薄く扁平な板のような形状を強調する多数の雑誌や新聞等の発行,テレビCMや番組による放送が行われ,原告商品形態が全国の一般消費者の目に触れたこと(上記(1)ウ,エ),その結果,原告商品は,原告商品形態を一見して認識し得る形で長期間,相当大規模に宣伝等され,爆発的な販売実績を記録したこと(上記(1)ア)が認められる。
 上記(3) のとおり,薄く扁平な板のような形状という特徴がある原告商品形態を有する原告商品が,上記のような極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,購入者を含む需要者の目に触れてきたこと,その結果,インターネット上の商品販売サイト等において消費者から原告商品を紹介する書き込みが多数され,かかる書き込みの多くで原告商品形態の特徴が強調されていることからすると,原告商品形態は,遅くとも平成27年初め頃の時点において,原告の出所を示すものとして需要者に広く認識されたと認めることができる。
        そして,上記 のとおり,原告商品は,平成27年以降も,販売規模及び広告媒体の取材等による宣伝が従前と同様に継続されていることからすると,原告商品形態は,現在においても,原告の出所を示すものとして需要者に広く認識されていると認めることができる。
  (5)小活
        以上によれば,原告商品形態は,不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に該当すると認められる。  」

【コメント】
 折りたたみ傘の不正競争行為に関する事件です。
 原告の商品の形態に関する資料の添付はないのですが,おおよそこのようなものと解されます。
 
  この写真のとおり,平べったい扁平状の形態なのです。

 他方,被告の方の商品形態はよくわかりません。ちょっと検索してみたのですが,検索にかからず,恐らく判決の出る前に事実上回収したのだと思われます。
 上記の判旨からすると,原告の商品にそっくりだったことが推測されます。
 ところで,この判決も所謂セカンダリーミーニング説に依って立っております。 

 昨年は,金属棚の事件や不規則充填物の事件など,これで商品等表示!と思うような事件が相次ぎました。
 
 そして,今回の事件は,それらの事件に比べればずっと腑に落ちる感じの事件ですので,このような結果になったにはさほど違和感はありません。
 ですが,このままで行くと,意匠法は確実に不要になるのではないかと思う今日このごろです。