2018年9月28日金曜日

侵害訴訟 商標 平成29(ワ)43698  東京地裁 請求全部認容


事件番号
事件名
 商標権侵害行為差止等請求事件
裁判年月日
 平成30年9月12日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第29部            
裁判長裁判官           山    田    真    紀                    
裁判官               伊    藤    清    隆 
裁判官      棚    橋    知    子  

「⑵  争点2-2(原告表示と被告標章とは類似するか)について 
ア  不競法2条1項2号の「類似」に該当するか否かは,取引の実情の下において,需要者又は取引者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準に判断すべきである
イ  これを本件についてみるに,原告表示と被告標章とは,外観において,いずれも,円形に収まるように描かれた鶴ないし鳥類の頭部,首元及び翼から成り,正面からみて左を向いた鶴ないし鳥類の頭部及び首元を囲むような態様で,下部から頂点に向かって円形の外周に沿うように翼が描かれた全体として円形の赤色の図形であり,鶴ないし鳥類の頭部,首及び翼の形状や赤色の色彩が共通する。他方,被告標章の図形には鶴ないし鳥類の頭部に目とみられる白抜きされた小さい円形様の部分が存在するのに対して,原告表示にはそれが存在しない点,原告表示と被告標章の円形の内側下部には,円形の直径と比較して縦が5分の1ないし7分の1程度,横が2分の1程度の大きさで白色の文字が記されているところ,原告表示には「JAL」との文字が,被告標章には「南急」との文字が記載されている点で相違する。また,原告表示のうち「JAL」との文字は,「ジャル」との称呼を有するのに対し,被告標章のうち「南急」との文字は「ナンキュウ」との称呼を有し,これらの称呼は相違する。さらに,原告表示と被告標章は,全体として鶴ないし鳥類の観念を生ずる点が共通する。
 以上の共通点及び相違点を総合すると,相違点である白抜きされた部分や文字部分は,図形全体に占める割合がそれほど大きなものではなく,地の色と同じ色彩である白色が用いられていること,文字部分は図形全体の下方に一般的なフォントで示されているにすぎないことからすれば,原告表示及び被告標章の図形全体及び各構成部分の形状や色彩の共通点は,上記相違点よりも需要者に強い印象を与えるものであると 評価することができる。したがって,原告表示と被告標章については,称呼が相違するものではあるが,需要者が外観及び観念に基づく印象として,両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあると認められる。
ウ  これに対し,被告は,全体を観察すれば,原告表示と被告標章は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれはなく,類似するとはいえない旨を主張するが,不競法2条1項1号の不正競争においては,混同が発生する可能性があるのか否かが重視されるべきであるのに対し,同項2号の不正競争にあっては,著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し,稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か,すなわち,容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものであるから,被告指摘の事情は類似性の判断に影響を与えるものではなく,失当である。 」

【コメント】
 原告の有する商標権又は不正競争防止法に基づき,被告の被告標章の差止を求めた事案です。

 この事件,選択的併合が取られており(訴訟物は2つと思われます。),しかも,お金の請求はしていませんので,不正競争防止法に基づいた請求のみ判断しております。
 さて,原告はJALであり,商標権(上図,商標登録第5461762号)や商品等表示(下図)は以下のとおりです。

  
 
 

 他方,被告は,静岡県にある自動車での運送会社のようです。 
 被告標章は,以下のようなものです。
  
  
 うーん,これは・・・という感じですね。

 しかしながら,この手のものを商標権や不競法2条1項1号(混同惹起行為)で捉えるにはちょっと苦労しそうな感じがします。
 というのは,被告標章には「南急」という読みやすい表示が入ってますので,これが打ち消し表示として,混同するわけがない!という結論に傾きそうだからです。 

 他方,まさにこういうのを捕捉するためのものが,不競法2条1項2号(著名表示冒用行為)ですので,これをも請求したのは,原告代理人のナイスプレーでしょう(商標権だけなら,非類似と言われてた可能性があります。)。