2018年9月26日水曜日

侵害訴訟 特許 平成29(ワ)40193  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 損害賠償請求事件
裁判年月日
 平成30年9月6日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第46部      
裁判長裁判官  柴 田 義 明    
裁判官  安   岡   美 香 子              
裁判官  佐 藤 雅 浩

「 ア  構成要件1C及び2Dは「ゲーム媒体の配置位置を規定する,他プレイヤの攻撃に対する防御に用いるテンプレートを作成することであって,プレイヤによって選択されたゲーム空間の全体に配置済のゲーム媒体及びその配置位置を前記テンプレートとする」というものである。 
    これらの構成要件においては,「プレイヤによって選択されたゲーム空間の全体」に配置済みのゲーム媒体及びその配置位置をテンプレートとすることが定められていて,プレイヤが「ゲーム空間の全体」を選択することとされているが,「ゲーム空間の全体」に関して,プレイヤによってどのような選択がされるかについては,特許請求の範囲には記載がない。
イ  本件明細書には,前記1 の記載のほか,【発明を実施するための形態】と して,以下の記載がある。
          「本実施形態では,プレイヤは,ゲーム空間内で街作りを行う。プレイヤは,ゲーム空間内にゲーム媒体の一例である様々な施設を配置することができる。また,プレイヤは,ゲーム空間内の所定の範囲について,その範囲内に配置された施設の種類や施設の配置位置に基づいて,施設の種類 や施設の配置位置を規定するテンプレートを作成することもできる。さらに,プレイヤは,作成したテンプレートを,ゲーム空間内の所定の範囲に適用することもできる。テンプレートが適用されると,ゲーム空間内に配置された施設は,テンプレートにより規定された当該施設に自動的に変更されたり,規定された配置位置に自動的に移動される。」(段落【0021】) 
          「図3(b)には,図3(a)に示されるゲーム進行画面300でテンプレートの作成を指示したときに表示される範囲選択画面310が示されている。範囲選択画面310にはゲーム空間301が表示されており,例えば,任意の二点のタップにより,当該二点を対頂点とする範囲311が選択される。また,範囲選択画面310下部には「決定」ボタン312  が表示されており,当該ボタンの押下により,選択された範囲311についてテンプレート作成の実行が指示される。」(段落【0037】)
「図3(d)には,図3(c)に示されるテンプレート選択画面320でテンプレートを選択したときに表示されるテンプレート表示画面330が示されている。テンプレート表示画面330左部には,テンプレート をゲーム空間内の所定の範囲(例えば,中央周辺)に適用したプレビュー画像331が表示されている。また,テンプレート表示画面330右部には,テンプレートにより配置位置が規定された各施設の名称及び数332が一覧表示されている。さらに,テンプレート表示画面330下部には「決定」ボタン333が表示されており,当該ボタンの押下により,テンプレートが決定される。」(段落【0039】)  
「図3(e)には,図3(d)に示されるテンプレート表示画面330でテンプレートを決定したときに表示される範囲選択画面340が示されている。範囲選択画面340にはゲーム空間301が表示されており,例えば,任意の二点のタップにより,当該二点を対頂点とする範囲341が選択される。また,範囲選択画面340下部には「決定」ボタン342が表示されており,当該ボタンの押下により,選択された範囲341についてテンプレート適用の実行が指示される。」(段落【0040】)
          「図4は,テンプレートの作成及び適用の概念を示す図である。400は,ゲーム空間を示している。ゲーム空間400内には,九つの施設が配置されている。即ち,施設「●」が四つ,施設「▲」が三つ,及び施設「■」 が二つ配置されている。ゲーム空間400内の範囲401について,テンプレートを作成したとする。410は,作成したテンプレートを示している。テンプレート410により,種類「○」の施設「●」が(1,1)及び(1,2)に,種類「△」の施設「▲」が(1,3),(2,1),及び(2,2)に,種類「□」の施設「■」が(2,3)に配置されることが規定さ れている。」(段落【0041】,【0042】,【0043】)
            「ゲーム空間420内の範囲421について,テンプレート410を適用したとする。ゲーム空間420内に配置された施設の各種類の数は,テンプレート410により配置位置が規定された施設の各種類の数と同じである。したがって,ゲーム空間420内に配置されたすべての施設が, テンプレート410により規定された当該施設の配置位置に移動される。 実際には,範囲421外に配置された施設422~425が,範囲421内の当該施設の配置位置に移動される。420’は,施設422~425が移動された後のゲーム空間420を示している。」(段落【0045】) ・・・・

ウ  原告は,本件特許の出願に際し,特許庁審査官から本件各発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,当該出願は同法36条6項2号に規定する要件を満たしていないなどとされたことを受け,「プレイヤによって選択されたゲーム空間の全体に配置済のゲーム媒体及びその配置位置を前記テンプレートとすること」という文言を含む請求項2を新たに追加等する特許請求の範囲の補正をした上で,平成27年12月7日,特許庁審査官に対して意見書(以下「本件意見書」という。)を提出した。(甲22)
 本件意見書には,「「プレイヤによって選択されたゲーム空間の全体に」との文言は,例えば段落0037の「任意の二点のタップにより,当該二点を  対頂点とする範囲311が選択される」との記載において,「任意の二点」をゲーム空間の左上の点および右下の点とすれば「ゲーム空間の全体」となることから,当初明細書の記載から自明な事項と言えます。」との記載がある。 
(3)前記1(2) のとおり,本件各発明は,街作りゲームの利便性を向上させることを目的として,ゲーム空間内の所定の範囲に配置された施設の配置を規定する テンプレートを作成し,これをゲーム空間内の所定の範囲に適用することによって,ゲーム空間内の施設の配置をテンプレートに従って変更するというものである。
 そして,前記 のとおり,本件明細書には,課題を解決するための手段として,プレイヤからの指示に基づいてゲーム空間内の所定の範囲についてテン プレートが作成されることがあることや,プレイヤからの指示に基づいてテンプレートがゲーム空間内の所定の範囲に適用されることがあることが記載され,また前記(2)イのとおり,本件明細書には,発明を実施するための形態として,プレイヤがテンプレートの作成を指示したとき,「範囲選択画面」が表示され,そこにおいては,ゲーム空間の一部について,テンプレートが作成される範囲が表示されていること,テンプレートが作成される範囲について,例として,プレイヤが任意の2点をタップして,当該2点を対頂点とすることで定められることがあること,ゲーム空間の一部に対して,そのテンプレートが適用されることが記載されている。他方,本件明細書には,「ゲーム空間」の選択に関して,上記内容とは異なる内容の記載はない。
 さらに, 原告は,本件意見書において,補正により加え られた「プレイヤによって選択されたゲーム空間の全体」との記載について,プレイヤがゲーム空間のうちのテンプレートが作成される範囲を指定するという段落【0037】の記載を挙げた上で,プレイヤがゲーム空間の左上の点および右下の点をタップすることで,ゲーム空間の全部の範囲を選択することができることを意味する旨述べて,その記載が当初明細書から自明であると述べている。
 以上によれば,本件明細書には,本件各発明のテンプレートはゲーム空間内の所定の範囲について作成,適用されるもので,その範囲についてプレイヤが定めることが記載されており,原告もそのことを前提として,プレイヤがゲーム空間内の全部の範囲をテンプレートの範囲とすると定めることによりゲー ム空間の全体が選択されることになるという意見を述べたといえる。
 上記の本件明細書及び本件意見書の記載を参酌すれば,構成要件1C及び2Dの「プレイヤによって選択されたゲーム空間の全体」における「選択」とは,テンプレートの作成について,プレイヤがテンプレートとするゲーム空間内の一定の範囲を選択することを前提として,テンプレートを作成する際に,プレイヤがゲーム空間内の全部の範囲を選択することを意味するものと解釈するのが相当である。
 (4)これに対し,原告は,構成要件1C及び2Dにおける「ゲーム空間の全体」とは文字通りゲーム空間全体を意味するのであってゲーム空間のうちどの部分を選択するかの決定権をプレイヤが有していることを必須の構成要素とはするものではないと主張し,また,本件明細書の第1及び第2実施形態は,テンプレートの作成,適用の具体例を示したにすぎないなどと主張する。
 しかし,「ゲーム空間の全体」がプレイヤによって選択されるとしても,プレイヤによってどのような態様による選択がされるかについては,特許請求の範囲の記載からは明らかではない。本件明細書には,テンプレートの作成に当たって,プレイヤがゲーム空間内の一定の範囲を選択することは記載されているが,それ以外の選択に関する構成については何ら記載も示唆もないから,前記(3)と異なる態様でのプレイヤによる選択について,本件明細書に記載や示唆が
あるとはいえないし,原出願日の当業者の技術常識に照らして明らかであるともいえない。また,原告は,本件特許の出願経過(甲22)において,プレイヤがタップする任意の2点をゲーム空間の左上及び右下の点とすれば「ゲーム空間の全体」になるなどと説明しており,この説明はプレイヤにおいてゲーム空間内の一定の範囲を選択することを前提としているものといえ,前記 の解釈に沿うものといえる。原告の主張は採用することができない。 
(5)上記(1)で認定のとおり,本件ゲームは,プレイヤが基本画面においてレイアウトエディタのアイコンをタップしてレイアウトエディタ画面を表示させ,レイアウトに対応する縮小画面を選択,保存することによって新たなレイアウトを作成するというものである。そうすると,そこにはプレイヤがゲーム空間内の一定の範囲を選択するという機能や動作は全く存在していない。
        したがって,本件プログラム及び本件携帯端末は,いずれも構成要件1C及び2Dを充足しない。   」

【コメント】
 原告がグリー,被告がスーパーセルというゲーム会社同士による特許権侵害訴訟の事件です。
 特許権は,発明の名称を「コンピュータ,その制御方法,及びその制御プログラム」とする特ものです(第5952947号)。

 他方,実施者側の製品は,「クラッシュ・オブ・クラン」というものです。

 こんな画面のものです(スマホ用のゲームアプリですね。)。
 
 公式ツイッターからの引用です。

 さて,クレームですが,以下のとおりです(クレーム6です。)。
1A  記憶部を備えるコンピュータの制御プログラムであって, 
1B  プレイヤからの指示に基づいて,少なくとも他プレイヤの攻撃から防御するためのゲーム媒体を含み得るゲーム媒体をゲーム空間内に配置することによりゲームを進行させることと,
1C  ゲーム媒体の配置位置を規定する,他プレイヤの攻撃に対する防御に用いるテンプレートを作成することであって,プレイヤによって選択されたゲーム空間の全体に配置済のゲーム媒体及びその配置位置を前記テンプレートとすることと,
1D  前記ゲーム空間内に配置されたゲーム媒体の種類及び位置と,前記テンプレートと,前記テンプレートに対応するサムネイルと,を前記記憶部に記憶することと, 
1E  前記ゲーム空間と,所定のボタンと,を含むゲーム進行画面を表示することと,
1F  前記ゲーム進行画面において,前記所定のボタンがプレイヤによって選択されたことに応答して,テンプレートに対応するサムネイルを含むテンプレート選択画面を表示することと, 
1G  前記テンプレート選択画面において,プレイヤの指示に応答して,特定のサムネイルに対応するテンプレートを選択することと,
1H  前記選択されたテンプレートを適用することと,
1I  を実行させる,コンピュータの制御プログラム。

 これはどういうものかというと,街づくりゲームの一種なのですね(私は詳しくありませんが)。そして,単に街づくりするだけじゃなく,敵が攻め込んで来て(自分も攻め込むのでしょう。),その敵を色んな施設や兵士で迎え討つと,こんなゲームなのです。

 しかし,街を作るのは,ゲームと言えども大変で,そのうち街を作らず,兵士や武器の配置だけで済ますようになり,さらにそのうち飽きてやらなくなる~目に見えるようです。
 
 そのため,飽きずにやれるように,そうだ街づくりをテンプレート式にやればいいんじゃね,簡単だし早いし,イイねイイね~♡となった発明が本件発明です。
 
  こちらが参考になる図3です。テンプレートの作成方法が図示されております。

 だけど,そのテンプレートを適用する範囲について,クレームでは,「プレイヤによって選択されたゲーム空間の全体に配置済のゲーム媒体及びその配置位置を前記テンプレートとすること」となっているわけです。

 他方,本件ゲーム(クラッシュ・オブ・クラン)はどうだったかというと,プレイヤによる範囲選択が無かったのですね。テンプレート的なものはあるのだけれど,兎に角全部一切合切を,作り直したり,とっかえひっかえしたりするものだったわけです。
 勿論,原告もそういうのも特許の技術的範囲に含まれるのだと主張しているようですが,残念ながら聞いてもらえなかったようですね。


 で,本件,一審では均等論の主張は無かったようです。
 一見すると,この程度の差なら,均等論で行けそうです。しかし,判旨にあるように,この問題となった部分「プレイヤによって選択されたゲーム空間の全体」が補正で加わったという経緯があるようです。
 ですので,この部分の構成要件該当性がなしなら,均等論の第五要件で切られるのは目に見えております。
 
 ということで,よっぽどのことがない限り,仮に知財高裁に行っても同じような結論になるのではないかと思います。
 なお,ちなみに,クラッシュ・オブ・クランの方は, この問題が勃発してから,街づくりのエディタ機能を凍結したらしいです。ですが,上記のような判断ということであれば,この機能は復活してもいいのではないでしょうか。