2018年10月25日木曜日

不正競争 平成29(ワ)6293 東京地裁 請求一部認容

事件番号
事件名
 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日
 平成30年9月27日
裁判所名
 東京地方裁判所第46部
裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 安 岡 美 香 子
裁判官 佐 藤 雅 浩

不正競争行為
「 (イ) 事案に鑑み,原告文字表示のうち,原告文字表示マリカーである「マリカー」の周知性について検討する。
「マリカー」は,前記(ア)gないしkのとおり,「マリオカート」の略称として使用されている表示である。「マリオカート」は,原告が平成4年から順次発売したゲームシリーズの名称である。そして,「マリオカート」のゲームシリーズは,累計出荷本数が相当数に及ぶほか,歴代の出荷本数ランキングにも複数の作品が入り(前記(ア)b及びc),人気ゲームとして雑誌に取り上げられたり,人気ゲームのランキングにも入ったりするなどし(同d),複数のライセンス商品が販売され(同f),テレビコマーシャルも相当数放送された(同e)ことなどから,人気ゲームシリーズとして,日本全国のゲームに関心を有する者の間で相当に広く知られていたといえる。
 そして,「マリカー」は,①ゲームソフト「マリオカート」の略称として,遅くとも平成8年頃には,ゲーム雑誌において使用されていて(前記(ア)g),②少なくとも平成22年頃には,ゲームとは関係性の薄い漫画作品においても何らの注釈を付することなく使用されることがあったこと(前記(ア)h),③被告会社が設立される前日である平成27年6月3日には,その一日をとってみても,「マリオカート」を「マリカー」との略称で表現するツイートが600以上投稿されたこと(前記(ア)i)が認められる。また,被告会社の設立後においても,テレビ
番組においてタレントが,子供の頃から原告のゲームシリーズである 「マリオカート」の略称として「マリカー」を使用していたと発言し(前記(ア)j),本件訴訟提起に係る報道が出された後には,複数の一般人から,被告会社の社名である「マリカー」が原告のゲームシリーズ「マリオカート」を意味するにもかかわらず,被告会社が原告から許可を得ていなかったことに驚く内容の投稿がされた事実が認められる(前記(ア)k)。
 これらの事実からすると,原告文字表示マリカーは,広く知られていたゲームシリーズである「マリオカート」を意味する原告の商品等表示として,本件証拠上,遅くとも平成22年頃には,日本全国のゲームに関心を有する者の間で,広く知られていたということができる。そして,日本においてゲームに関心を有する層は相当広範囲にわたっていることは明らかであり,観光の体験等で公道カートを運転してみたい一般人も含まれ,原告文字表示マリカーは,日本全国の本件レンタル事業の需要者において広く知られていたと認めることができる。
 他方,原告文字表示マリカーは「マリカー」という日本語の表示であり,日本語を解しない者の間で,原告の商品等表示として広く知られていたとは認められない(乙53)。
ウ 被告標章第1と原告文字表示との類否
 被告標章第1のうち被告標章第1の1(マリカー)は,原告文字表示マリカーと外観,称呼が同一であるから,同一の標章と認められる。また, 被告標章第1 のうち被告標章第1 の2 ないし4 ( MariCar ,MARICAR,maricarは,いずれも大文字と小文字のアルファベットから構成されており,原告文字表示マリカーとは外観において異なるものの,称呼はどちらも「マリカー」であり同一である。また前記各被告標章は,ひとまとまりの語として独自の意味をもった英語その他の外国語の単語と認識されるものではないが,「Car」「CAR「car」との部分については,英語における「車」と同一の綴りであるから,全体として「マリ」と「車」を結合したものとの観念を生じさせる。そして,前記のとおり「マリオカート」が広く知られており,ゲームシリーズである「マリオカート」が「マリオ」等のキャラクターがカートに乗車して様々なコースを走行することを特徴とすることなどを考慮すると,「マリ」は「マリオ」を連想させ,「車」はカートを連想させることからすれば,両者の観念は類似するといえ,前記各被告標章と原告文字表示マリカーは類似のものとして受け取られるおそれがあるというべきである。
 したがって,被告標章第1は原告文字表示マリカーと同一若しくは類似の標章と認めることができる。
・・・
 被告らは,被告会社は,「マリカー」の標準文字からなる本件商標を有しており,「マリカー」という標章を使用する正当な権限を有するから,不競25 法3条1項に基づく差止請求は認められない旨主張する。
 しかしながら,被告会社が本件商標の登録を出願したのは平成27年5月13日であるところ(前記前提事実(9)),前記2(1)イ(イ)で述べたとおり,その5年程度前である平成22年頃には,既に原告文字表示マリカーは原告の商品を識別するものとして需要者の間に広く知られていたということができる。
 被告標章第1を使用する被5 告会社の行為は不正競争行為となるところ,上記事情を考えると,原告に対して,被告会社が本件商標に係る権利を有すると主張することは権利の濫用として許されないというべきである。
 したがって,被告会社の前記主張には理由がない。
・・・
 (イ) これらの事実によれば,原告表現物マリオは,その人物のイラストとしての基本的な表現上の特徴を同じくする「マリオ」が登場する原告のゲームソフトである「マリオ」シリーズの長年にわたる販売及び人気により,原告の商品の出所を表示する商品等表示となったというべきであり,遅くとも,国内出荷本数ランキングで2位を,国内及び世界における出荷本数ランキングで5位を獲得する売上げを記録した「Newスーパーマリオブラザーズ」が発売された平成18年5月には,日本全国の者の間で,原告の商品等表示として少なくとも周知性を得ており,また,遅くとも,「マリオ」が「ギネス世界記録」が発表した「ゲーム史上最も有名なゲームキャラクターTop50」において1位を獲得した平23年11月には,外国に在住して日本を訪問する者の間でも,原告の商品等表示として広く認識されていたと認めることが相当である。
 さらに,原告表現物ルイージ,原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパについても,その人物又は生物のイラストとしての基本的な表現上の特徴を同じくする「ルイージ」,「ヨッシー」及び「クッパ」が登場する原告のゲームソフトである「マリオ」シリーズ等の長年にわたる販売及び人気により,原告の商品の出所を表示する商品等表示となったというべきであり,遅くとも,前記「Newスーパーマリオブラザーズ」が発売された平成18年5月には,日本全国の者の間で,原告の商品等表示として広く認識されていたと認められ,また,①「マリオカート」シリーズ及び「マリオ」シリーズが日本国内のみならず海外においても大きな売上げを記録した5 こと( b),②「ルイージ」や「ヨッシー」を主役とするゲーム作品も世界歴代ミリオン出荷タイトルの96位及び108位にランクインしたこと( d),③「ヨッシー」は「ギネス世界記録」が平成23年11月に発表した「ゲーム史上最も有名なゲームキャラクターTop50」において21位を,「クッパ」は同じく「ギネス世界記録」が発表した「ビデオゲーム史に名を残す悪役トップ50」において1位をそれぞれ獲得したこと( e)からすれば,原告表現物ルイージ,原告表現物ヨッシー及び原告表現物クッパもまた,遅くとも,前記ギネス記録が発表された平成25年1月までには,外国に在住して日本を訪問する者の間でも,原告の商品等表示として広く認識されていたと認めることが相当である。
イ 原告表現物と本件宣伝行為との類否
(ア) 原告表現物の特徴
a 原告表現物マリオは別紙原告表現物目録記載1のとおりである。
その人物のイラストとしての表現上の特徴として,(A)赤い帽子をかぶり,赤い長袖シャツと青いオーバーオールを着た人物であり,(B)顔は,目は楕円形を縦長にした形で瞳はより小さな青色と黒色の楕円形で表現され,つり上がった「へ」の字型の眉をし,大きな横長の楕円形の鼻と,その下に両端が上を向き下が波形になった形のひげを生やし,(C)帽子は正面前方に大きな膨らみと後方に小さな膨らみをもたせ,双方の膨らみの間にくぼみを設け,正面に半円形のつばがついた形状であり,正面中央につばの縁に沿って円の下方部が切り取られた横長の楕円状の白い丸があり,その中に帽子及び長袖シャツと同色の赤色でM(上からつぶして横に広げたような形状で中央のへこみは浅く描かれ,両端の辺の部分は上部に向けて幅が狭く,下部に向けて広がる形状)と書かれた部分があり,(D)赤い長袖シャツは,両腕部分及びオーバーオールに覆われていない首下部分が表面に見えており,(E)オーバーオールは,長ズボン部分と,正面の胸当てからなる前面部と,背中部分と,当該前面部と背中部分とをつなぐサスペンダー(太い肩紐からなるズボンつり部分)から構成され,赤い長袖シャツが見えている部分を除いた足首から肩にかけての全身を覆い,腹部はゆったりと膨らんで前方にせり出し,胸当てとサスペンダーの下部が重なるように描かれ,当該重なり部分に,サスペンダーの幅と直径が概ね一致する大きさの円形の黄色いボタンが付され,(F)白い手袋をし,(G)茶色の靴を履いているという特徴がある(甲112。以下,これらを「原告表現物マリオの特徴(A)」などといい,その他の原告表現物の特徴についても同様にいうことがある。)。
・・・
b 本件写真2には,公道カートに乗車した人物が2名表示されているところ,手前の人物は,少なくとも,原告表現物マリオの特徴(C)ないし(E)を備えているコスチューム(以下,同様の特徴を備えたコスチュームを「本件マリオコスチューム」という。)を着用しており,本件写真3には,公道カートに乗車した人物が2名表示されているところ,手前の人物は,原告表現物ヨッシーの特徴(A)及び(B)を備えているコスチューム(以下,同様の特徴を備えたコスチュームを「本件
ヨッシーコスチューム」という。)を着用している。
c 本件写真2及び3は,河口湖店サイトに掲載されていたものである。公道カートのレンタル事業のサイトにおいて,原告の商品等表示といえる原告表現物と同一又は類似の表示がされた場合,その表示は,少なくとも,提供している役務に関する広告において営業の出所を示す表示としてされたということができる。
 そして,本件写真2及び3において,いずれも原告表現物マリオ及びヨッシーの特徴の一部を備えたコスチューム(被告標章第2の1ないし3,8,9のいずれかのコスチューム)を着用した人物が表示されていること,これらの人物は,いずれも公道カートに乗車していること,「マリオ」,「ヨッシー」等がカートの運転手となるゲームシリーズ「マリオカート」が日本及び全世界において相当の出荷本数を有すること(前記2(1)イ(ア)),これらの写真が「マリカー」と称する本件レンタル事業を宣伝するウェブサイトにおいて掲載されていたことからすれば(甲6の2),これらのコスチュームを着用した人物の表示は,本件レンタル事業の需要者をして,ゲームシリーズ「マリオカート」のキャラクターである「マリオ」,「ヨッシー」を連想させるといえる。そして,これらの人物と,本
件レンタル事業の需要者において周知の商品等表示である原告表現物マリオ,原告表現物ヨッシーとを類似のものと受け取り,前記2(1)エで述べたとおり,その商品等表示が示す原告の業務と被告会社が行っている役務には関連性があるといえることから,被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるおそれがある。
・・・
これらのコスチュームを着用した動画上の人物は,本件レンタル事業の需要者をして,ゲームシリーズ「マリオカート」のキャラクターである「マリオ」,「ルイージ」,「ヨッシー」,「クッパ」を連想させ,上記各人物と,本件レンタル事業の需要者において周知の商品等表示である原告表現物とを類似のものと受け取らせ,その商品等表示と被告会社が行っている役務に関連性があると誤認させ,被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるおそれがある。
・・・
 原告表現物は,原告の周知な商品等表示である(前記(1)ア)。そして,上記請求において,差止めの対象となる標章は別紙被告標章目録第2における各標章(コスチューム又は人形)として特定されているところ,これらの被告標章第2の各標章は原告表現物の特徴の一部又は全部を備えている。そして,被告会社がこのような標章を使用する場合,その営業の内容,「マリオカート」のゲームの内容,出荷本数等のほか,原告表現物の周知性の程度の高さからも,被告標章第2の各標章は商品等表示として使用されたものとなり,それに接した需要者に対して,被告会社と原告との間に同一の営業を営むグループに属する関係又は原告から使用許諾を受けている関係が存すると誤信させるといえるものである。また,後記イのとおり,本件においては,差止めの必要性もあるというべきである。
 そうすると,被告会社に対し,被告標章第2を営業上の施設及び活動において使用することの差止めを求める原告の請求には理由がある。したがって,被告会社は,上記標章を営業上の施設及び活動において使用してはならない。これによって,被告会社は,上記標章が使用された本件写真2及び3を同社が運営するウェブサイトに掲載すること,本件各動画を動画共有サービスに掲載すること,従業員に被告標章第2の1ないし10のコスチュームを着用させること,店舗内に同目録記載11の人形を設置することや,営業活動において上記標章である上記各コスチュームを貸与という形で使用すること(上記各コスチュームを貸与すること)など,被告標章第2の各標章を営業上の施設及び活動において使用することが禁止されることとなる。」

著作権
「(1) 争点10(複製又は翻案の差止請求の可否及び範囲)について
 原告は,請求の趣旨第4項において,原告表現物の複製又は翻案の差止めを求め,請求の趣旨第5項において,原告表現物の複製物又は翻案物の自動公衆送信又は送信可能化の差止めを求めている。
 原告表現物を複製又は翻案する行為には,広範かつ多様な行為があるところ,原告の請求は,絵画の著作物である原告表現物を絵画上複製するという行為がされていない本件において,差止めの対象となる行為を具体的に特定することなく,広範かつ多様な態様な行為のすべてを差止めの対象とするものといえ,自動公衆送信又は送信可能化の差止めについても,その差止めの対象自体を複製物又は翻案物とすることから,同様のものといえる。このような無限定な内容の行為について,被告会社がこれを行うおそれがあるものとして差止めの必要性を認めるに足りる立証はされていない。原告の前記請求には理由がない。
(2) 争点9(本件各写真及び本5 件各動画が原告表現物の複製物又は翻案物に
当たるか否か)及び争点11(本件各コスチュームが原告表現物の複製物
又は翻案物に当たるか否か)について
 本件各写真及び本件各動画が原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か(争点9)については,これらが複製物又は翻案物に当たることを前提とする請求である請求の趣旨第4項,第5項に係る請求が前記3(1)の理由により認められないため,判断するに及ばない。
 また,原告は,請求の趣旨第11項において,本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たることを前提として会社である被告会社にその貸与の禁止を求めている。本件各コスチュームである別紙貸与物目録記載1ないし6の各コスチュームは,それぞれ,被告標章第2の2,3,5,6,8,10のコスチュームである。ここで,不競法に基づく請求の趣旨第6項に係る請求には被告会社がこれらのコスチュームを使用(貸与)することの禁止を求める請求が含まれると解され,この部分は,請求の趣旨第11項に係る請求と選択的併合の関係に立つと解される。前記3のとおり,不競法に基づき被告会社がこれらのコスチュームの貸与をすることが禁止されることによって,請求の趣旨第11項に係る請求について判断をするに及ばなくなるから,本件各コスチュームが原告表現物の複製物又は翻案物に当たるか否か(争点11)は判断するには及ばない。」

【コメント】
 かなり報道もされたマリカーの民事訴訟です。判決からずいぶん公開が遅れましたが,お金関係のベタ塗りに多少時間がかかったのではないかと思います。

 さて,報道のとおり,不正競争防止法による差し止めと損害賠償は認められたわけです。
 私が,この判決において着目したのは,以下の点でしょうか。
 ①「マリカー」の周知性はある。

 ②原告表現物
  
  等は,商品等表示と言え,しかもコスチュームを着用した人物の表示は,この原告表現物を連想させ,需要者をして類似のものと受け取らせる。
 
 ③著作権に関しては,絵画の著作物である原告表現物を絵画上複製するという行為がされていない本件において,広範かつ多様な態様な行為のすべてを差止めの対象とするのはダメ。

 まず,①については,被告の登録商標に関する異議申立て(異議2016-900309)では,「マリカー」自体の周知性は認められませんでした。 ですので,今回任天堂は,「マリカー」自体の周知性を認めてもらうべく,証拠を初めとして相当の準備をしたのだと思います。

 次,②です。①の文字の話は相応の話だと思いますが,この②はイマイチのような気がします。
 上記のようなマリオの図が商品等表示に当たることは良いとしても,それと被告のコスチューム等が本当に類似だったのかというと,よくわからない所が残ります。例えば,体型,性別,髪の色,などなどで,同じコスチュームでも着る人によって外観から大きく変わってくると思います。
 そういうところの分析なく,連想させるから類似だというのは(もちろん,多少のプラスαはありますが),少々乱暴な認定なのではないでしょうか。
 ちょっとここはよくわからない所ですね。

 ③ですが, 結論はいいとしても,では逆に,原告の方で,きちんとした特定をした場合,類似としてもいいのでしょうか(なお,判決で「前記3(1)の理由により」とあるのは,誤植じゃないかと思います。)。
 ②で類似としたのですから,著作物性を認めたら,類似という結論以外取りようがない気がします。
 どうも今回の結論は,マリカーに加え,マリオの図に関しても何らかの結論を出したかったために,足して二で割ったようなものに思えてなりません。論理性等は二の次という所でしょうか。
 
 報道によると,知財高裁への控訴がすでになされたそうですので,そこでの整合性等のある判断を期待いたします。