2018年10月19日金曜日

 特許取消決定取消訴訟 特許    平成29(行ケ)10232  知財高裁 取消決定 請求認容

事件名
 特許取消決定取消請求事件
裁判年月日
 平成30年10月17日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部                      
裁判長裁判官        森   義 之
裁判官            森 岡 礼 子                                 
裁判官          古 庄   研


「 エ  一方,本件計量機等は,「札」,「計量機」及び「シール(印し)」といった特定の物品又は機器(装置)であり,「札」に「お客様を案内したテーブル番号が記載され」,「計量機」が,「上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量」し,「計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力」し,この「シール」を「お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印し」として用いることにより,お客様の要望に応じてカットした肉が他のお客様の肉と混同することを防止することができるという効果を奏するものである。
  そして,札によりテーブル番号の情報を正確に持ち運ぶことができるから,計量機においてテーブル番号の情報がお客様の注文した肉の量の情報と組み合わされる際に,他のテーブル番号(他のお客様)と混同が生じることが抑制されるということができ,「札」にテーブル番号を記載して,テーブル番号の情報を結合することには,他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。また,肉の量はお客様ごとに異なるのであるから,「計量機」がテーブル番号と肉の量とを組み合わせて出力することには,他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。さらに,「シール」は,本件明細書に「オーダー票に貼着」(【0012】),「カットした肉Aに付す」(【0013】)と記載されているとおり,お客様の肉やオーダー票に固定することにより,他のお客様のための印しと混じることを防止することができるから,シールを他のお客様の肉との混同防止のための印しとすることには,他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。このように,「札」,「計量機」及び「シール(印し)」は,本件明細書の記載及び当業者の技術常識を考慮すると,いずれも,他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義を有すると認められる。
  他方,他のお客様の肉との混同を防止するという効果は,お客様に好みの量のステーキを提供することを目的(課題)として,「お客様からステーキの量を伺うステップ」及び「伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップ」を含む本件ステーキ提供方法を実施する構成(前記ア(イ)①)を採用したことから,カットした肉とその肉の量を要望したお客様とを1対1に対応付ける必要が生じたことによって不可避的に生じる要請を満たしたものであり,このことは,外食産業の当業者にとって,本件明細書に明示的に記載されていなくても自明なものということができる。このように,他のお客様の肉との混同を防止するという効果は,本件特許発明1の課題解決に直接寄与するものであると認められる。
      オ  以上によると,本件特許発明1は,ステーキ店において注文を受けて配膳をするまでの人の手順(本件ステーキ提供方法)を要素として含むものの,これにとどまるものではなく,札,計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(装置)からなる本件計量機等に係る構成を採用し,他のお客様の肉との混同が生じることを防止することにより,本件ステーキ提供方法を実施する際に不可避的に生じる要請を満たして,「お客様に好みの量のステーキを安価に提供する」という本件特許発明1の課題を解決するものであると理解することができる。
    (2)  本件特許発明1の発明該当性
  前記(1)のとおり,本件特許発明1の技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らすと,本件特許発明1は,札,計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(本件計量機等)を,他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するための技術的手段とするものであり,全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するということができる。
  したがって,本件特許発明1は,特許法2条1項所定の「発明」に該当するということができる。
    (3)  被告らの主張について 
・・・
  イ  被告らは,本件特許発明1において,「テーブル番号」は,その番号が「テーブル」に割り当てられており,お客様がそのテーブル番号のテーブルにおいてステーキを食べるという人為的な取決めを前提に初めて意味を持つものであるから,そのようなテーブル番号を含む情報が伝達されるからといって,本件特許発明1の技術的意義が自然法則を利用した技術的思想として特徴付けられるものではないなどと主張する。
  しかし,お客様がそのテーブル番号のテーブルにおいてステーキを食べることが人為的な取決めであることと,そのテーブル番号を含む情報を本件計量機等により伝達することが自然法則を利用した技術的思想に該当するかどうかとは,別の問題であり,前者から直ちに後者についての結論が導かれるものではない。そして,本件計量機等が,他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するための技術的手段として用いられており,本件特許発明1が「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当することは,前記(2)のとおりである。・・・ 」

【コメント】
 特許異議申立で,訂正後取り消しになったため(法上の発明でない),これに不服の原告(ペッパーフードサービス) が取消決定の取消訴訟を提起した事案です。

 原告の特許権は,名称を「ステーキの提供システム」とする発明(特許第5946491号)です。

 クレームは,以下のとおりです。
【請求項1】
  A  お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと,お客様からステーキの量を伺うステップと,伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと,カットした肉を焼くステップと,焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって,
  B  上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と,
  C  上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と,
  D  上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え,
  E  上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと
  F  上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする
  G  ステーキの提供システム。
  」

 こんな感じです。訂正で加わったのが,EとFです。
  
  
 クレームも難しくないので,上の図を参照すると大体分かると思います。
 計量した肉の量とテープル番号が記載されたシールが出力され,そのシールを当該肉の皿か肉に貼り付けるって寸法です。

 まあしかし,昔ながらのビジネスモデル特許という気がしますが,何故か特許になって,しかも何故か異議申立てされても,逆転で復活しております(本件訴訟)。

 いや,確かに判決の言うとおり,技術的意義のある部分は多少あると思うのです。しかし,その部分はほんの僅かです。
 特許庁の審査基準的には,従前FAXにより受け付けていた通信販売を,ウェブサイトで受け付けるようにした,この程度では,発明該当性はない!と言われていたわけです。

 ところが,これは店員がやるメモ(別にシールでもいいですが)を,機械システムでのシールに置き換えただけ! です。機械システムで置き換えたときに,人がやる以上の優れたinventive concept,つまりはプラスαがないとダメなはずなのに・・・よくわかりません(つまりITも使っていないということです。)。

 プラスαのハードルは小さくても良くなったのか(プロパテントか),それとも,2部の森部長の合議体が勘違いというか,適当に判断しただけなのかよくわかりませんけど,これは結構問題になる事件だと思います。

 被告が特許庁長官ですので,ぜひ,上告してもらいたいと思います。

【追伸】11/19
 本日,11/19付の日本経済新聞の朝刊に,特許庁側が上告を断念し,11/1でこの判決が確定したということです。何てことでしょうか!
 アメリカ以上にプロパテント,いや,これは暴走でしょう。将来に禍根を残すことにならなきゃいいのですが。