2018年10月3日水曜日

侵害訴訟 特許 平成29(ワ)10742  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日
 平成30年9月19日
裁判所名
 東京地方裁判所第29部 
裁判長裁判官 山 田 真 紀
 裁判官  棚 橋 知 子
 裁判官  西 山 芳 樹  
「2  争点1(被告製品関連製品は構成要件Eを充足するか)について
⑴  「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」の意義
 構成要件Eのうち,「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」の意義について検討する。  
 上記各文言は,調理容器との関係をもって加熱調理器の構成を示すものであり,文言のみから一義的にその意義を明らかにすることができないことから,本件明細書等の発明の詳細な説明の内容を考慮して検討する必要がある。そこで,1⑴においてみたとおりの本件明細書等の記載を考慮すると,本件明細書等(【0003】,【0005】,【0021】,【0028】,【0029】,【0030】,【0032】)には,リング状枠はトッププレート上に印刷表示され,調理容器を有効に加熱できる領域として使用者に示されるものであること(【0003】),リング状枠は加熱部の領域を示し,鍋の最大径と同径で,鍋の外殻を表すものであること(【0005】,【0021】)及び加熱部は最大の鍋径と同径で,リング状枠であること(【0028】,【0029】)が示され,これ以外に,上記各文言の 意義の解釈を導くような説明がされていることは認められない。そうすると,「最大径の調理容器」は,トップレート上に印刷表示され左右の加熱部の領域を示し,また,リング状枠と同径のものであり,また,「調理容器の外殻」と一致するものであると解するのが一般的かつ自然である。
 この点,被告は,構成要件Eの内容は不特定であるなどと主張するが,同主張は,前記認定に照らし採用することができない。 
⑵  被告製品関連製品の構成
ア  原告は,別紙3被告製品説明書(原告)において,被告各製品は,「左IHヒーター及び右IHヒーター上で,調理容器の鍋底全体を加熱できる最大径である直径26cmの領域を示す外殻線11,12」という構成を有し,これが「調理容器の外殻」であり「最大径の調理容器」である旨主張する。そして,被告各製品を除く被告製品関連製品も被告各製品と同様の構成を有する旨主張する。
イ  しかしながら,前記⑴において認定したとおり,「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」は,トッププレート上に印刷表示された加熱部及び有効加熱領域の領域を示すリング状枠と同径のものであるところ,原告の主張する外殻線11,12は,原告において付しているものにすぎず,トッププレート上に表示されているものではないから,これらを「調理容器の外殻」又は「最大径の調理容器」であるとみることはできない。そして,本件全証拠によっても,被告各製品には,加熱部及び有効加熱領域を示す直径26cmのリング状枠が表示されているとは認められず,加熱部及び有効加熱領域を示すリング状枠と同径である「調理容器の外殻」及び「最大径の調理容器」が直径26cmであると認めることもできない。   原告は,「調理容器の外殻」は,鍋底の最大径であり,被告は被告各製品において鍋底が直径26cmまでの鍋を使用することができる旨説明しているから,被告各製品の「最大径の調理容器」は26cmのものであると主張する。しかしながら,被告において上記のように説明することが,被告各製品で使用可能な最大径の鍋底を示すものといえるか否かについてひとまず措くとしても,前記⑴において認定し たとおり,「調理容器の外径」及び「最大径の調理容器」と同一であるリング状枠及び有効加熱領域は,トッププレートに表示される必要があるのであって,表示されていない有効加熱領域に基づく原告の主張はその前提を欠き失当である。
⑶  小括
 以上のとおり,被告各製品は,原告主張の「調理容器の鍋底全体を加熱できる最大径である直径26cmの領域を示す外殻線」という構成を有するとは認められないから,この外殻線を前提に被告各製品が構成要件Eを充足するという原告の主張は採用できず,ほかにこれを認めるに足りる証拠もない。また,被告各製品を除く被告製品関連製品が構成要件Eを充足することを認めるに足りる証拠もない。
 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告製品関連製品は,構成要件Eを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。 ]

【コメント】
 加熱調理器の発明について(特許第3895312号 )の特許権侵害訴訟の事例です。
 原告がアイリスオーヤマで, 被告が日立アプライアンスという,結構なガチンコ具合です。
 まずは,クレームです。
「G  ドロップインタイプの加熱調理器であって,
A  横幅寸法を560mm以下に設定したケース本体内に左右に配設され被加熱物を調理容器を介して加熱する複数の誘導加熱コイルと,
B  この複数の誘導加熱コイルの下方に設けられたロースタと,
C  前記誘導加熱コイル及びロースタの上方を覆うように設けられたトッププレートとその周縁部に装着したフレームとからなる天板とを備え,
D  前記フレームの係り代を除く横幅寸法を700mm以上に設定した前記トッププレートには,前記誘導加熱コイルと対応する左右位置に前記調理容器を載置する加熱部を設けるとともに,
E  これら加熱部に前記調理容器を所定の間隔を存して並置可能とする最大径の調理容器を載置したとき,この所定の間隔より該調理容器の外殻から前記トッププレートの前記フレームの係り代を除く左右端部までの距離を長くなる構成としたこと
F  を特徴とする加熱調理器。」
 こういうのも図があるといいでしょう。
 
  構成要件Eがポイントなのですけど,この図でいうと,所定の間隔がTであり,・・・左右端部までの距離はDです。
 ですので,構成要件Eは,T<Dを言っているわけです。
 こうすると,何がいいかというと,「業界標準となっている限られた寸法内にロースタを一体に組み込んだケース本体を落とし込んで配置するような加熱調理器においても,最大径の調理容器がトッププレート上から左右方向にはみ出るのを抑えて不具合な加熱形態を回避するとともに,調理容器の外殻から左右端部までの距離に余裕ができて調理容器の取扱いに支障を来すこともないという効果」があるようです。つまり鍋が端からはみ出さない~ってことです。

 でもちょっと考えると分かる通り,どこに鍋を置くかでずいぶん違うような気がしますけどね。

 で,被告製品はこんな感じです。
 
 ただし,赤い線は原告が付したものです。

 この原告の示した図のとおりだとすると,T=40mmで,D=90mmなので,構成要件EのT<Dを満たします。
 しかし,判旨のとおり, 被告製品に,加熱部の外枠は示されておりませんでした(その内側が加熱領域となる)。被告製品にあるのは,ただの目安~(20cmΦ)。そう,上記の赤い線(26cmΦ)は,原告が勝手に付した原告に有利になるだけのものです。
 ですので,上記のとおりの結論となったわけです。

 とは言え,加熱部の外枠等がトッププレート上に表示されている必要があるというのは,クレーム上のことではなく,明細書を考慮した解釈上のことです。つまりかなり限定的に解釈されたわけです。裁判官が変われば結論が変わる可能性がないことはないかなと思います。
 どちらにせよ,原告の立証活動もイマイチだし,裁判所の判示もイマイチだという,みんながイマイチだったので,こんな判決になったというようなものです。

【追伸】
 控訴審の判決も出ました(知財高裁平成30(ネ)10078,平成31年4月24日判決)。
 しかし,特段着目すべき所のないものでしたので,わざわざのコメントはなしということにします。