2018年11月22日木曜日

侵害訴訟 特許   平成29(ワ)24174  東京地裁 請求認容/追伸あり

事件番号
事件名
 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日
 平成30年10月24日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官                山    田    真    紀 
 裁判官            伊    藤    清    隆
 裁判官            西    山    芳    樹  

「  ⑴  争点1-1(被告サーバは構成要件BないしHの「注文情報」を充足するか)  
ア  本件発明の「注文情報」の意義
(ア) 本件特許の特許請求の範囲において,「注文情報」は,「金融商品の買い注文を行うための複数の買い注文情報」(構成要件B),「前記買い注文の約定によって保有したポジションを,約定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報」(構成要件C)として,買い注文又は売り注文を行うための情報であるとされており,「売り注文情報」は「売り注文価格の情報」を含むものである(構成要件F)とされているものの,それ以外の具体的な内容,項目等については規定されていない。
 そして,本件明細書の【0094】には,図14で示される新規注文情報18101及び決済注文情報18102が有する情報として,「注文の通し番号としての注文情報181A,顧客毎に一意に付される顧客番号181B,売買の対象となる通貨の組合せ…を識別するための通貨ペア情報181C,一の注文における外貨の持高としてのポジション…の価格情報としての注文金額情報181D,注文が発注された時刻の情報としての注文時刻情報181E,注文が「売り注文」「買い注文」の何れであるかを識別するフラグ情報としての売買方向情報181F,「約定価格の情報」としての注文価格情報181G,各注文情報1811~1816の有効期限を示す情報としての注文有効期限情報181H,例えば「成行注文」「イフダン注文」等の注文の種別を識別するフラグ情報としての注文種別情報181J,スルー値幅情報181K,トレール幅情報181L,各注文情報が「新規注文」なのか「決済注文」なのか,また,「指値注文」なのかを識別するフラグ情報としての新規/決済情報181M」が挙げられているところ,これらは「注文情報」の一例を 示すものと理解できるものの,実施例に関するものであって,その他,本件明細書において,「注文情報」が特定の内容,項目等を含むものでなければならないとする説明等は見当たらない。
 そうであれば,注文価格の情報のように,個々の買い注文又は売り注文を行うために必要となる情報であれば,本件発明の「注文情報」に含まれ,その他の限定は ないものと認められる。
(イ) この点について,被告は,本件発明の「注文情報」は,本件明細書の「発明の実施の形態1」で,少なくとも約定に関しては,注文の状態又は結果を事後的に「注文情報」に反映させていること(【0102】)から,注文の状態又は結果を反映した記録ないしログであると解すべきであると主張する
 しかしながら,前記(ア)のとおり,本件特許の特許請求の範囲において,「注文情報」は,買い注文又は売り注文を行うための情報であるとされているから,これを注文の状態又は結果を反映した記録ないしログであるというのは,特許請求の範囲の記載と整合しない解釈であり,採用することができない。
(ウ) 原告は,注文情報について,個々の注文を金融商品取引管理システムというシステム上で取り扱い,管理するための情報である旨を主張しているところ,その意味する内容は必ずしも明確ではないものの,前記(ア)において認定した意義を有する注文情報に包含されるか,又は,矛盾しないものであるということができる。
  イ  被告サーバにおける「注文情報」
  (ア) 前記第2の2⑷イ認定のとおり,被告サービスにおいて注文が行われると,別表のとおり被告サーバの処理が記録されるところ,前記2認定の被告サービスの内容,別表の各欄の内容及び被告サーバの処理に照らすと,被告サーバにおいて,注文が行われた時点,すなわち,「注文日時」欄記載の日時に,同欄記載の注文を識別するための注文番号,「注文日時」欄記載の注文日時,「取引」欄記載の新規注文又は決済注文の別,「通貨P」欄記載の取引対象となる通貨の種類,「売」欄記載の売り注文であるか否か,「買」欄記載の買い注文であるか否か,「新規注文」 欄記載のイフダンオーダーを構成する新規注文の注文番号,「執行条件」欄記載の成行注文,指値注文,逆指値注文の注文種別,「指定R」欄記載の指定価格,「期限」欄記載の注文の有効期限といった個々の注文の内容を規定する情報が生成されていると推認することができる。
 また,被告サーバにおいて,市場に発注された個々の注文が約定等したことが検 知されると,「注文状況」欄に,その注文が「無効」,「約定」,「取消」のいずれの状況にあるかが,「約定R」欄に,約定価格が,「約定等日時」欄に,注文が約定等した日時が,すなわち,約定等の結果に係る情報が記録されていると推認することができる。
 そうすると,少なくとも,被告サーバに記録されている注文番号,注文日時,新 規注文又は決済注文の別,取引対象となる通貨の種類,売り注文であるか,買い注文であるか,イフダンオーダーを構成する新規注文の注文番号,成行注文,指値注文,逆指値注文の注文種別,指定価格,注文の有効期限といった個々の注文の内容を規定する情報は,個々の買い注文又は売り注文を行うために必要となる情報であるということができ,本件発明の「注文情報」に該当する。
(イ) 以上より,被告サーバでは,本件発明の構成要件BないしHの「注文情報」 に相当する情報が生成されていると認められる。
ウ  小括
 前記のとおり,被告サーバでは,構成要件BないしHの「注文情報」に相当する情報が生成されているところ,これらの構成要件の充足性について,後記⑵,⑶において検討する構成要件G及びHを除いた構成要件BないしFの充足性については次のとおりであり,被告サーバは構成要件BないしFをいずれも充足する。
 すなわち,本件発明の「注文情報」に関する前記判示を踏まえ,被告サーバの構成を構成要件BないしFと対比すると,被告サーバは,例えば,番号114,111,108,105の買い注文に係る買い注文情報のような複数の買い注文情報を生成する買い注文情報生成手段を備えるものであるから,「金融商品の買い注文を 行うための複数の買い注文情報を生成する買い注文情報生成手段」(構成要件B)を備えており,また,例えば,番号113,110,107,104の売り注文に係る売り注文情報のような複数の売り注文情報を生成する売り注文情報生成手段を備えるものであるから,「前記買い注文の約定によって保有したポジションを,約定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報を生成する売り注文 情報生成手段とを有する注文情報生成手段」(構成要件C及びD)を備えている。
 さらに,被告サーバは,別表に「注文状況」欄及び「約定等日時」欄等があることから明らかなように,「前記買い注文及び前記売り注文の約定を検知する約定検知手段とを備え」(構成要件E)るものであり,また,例えば,番号113,110,107,104の売り注文のように,指定価格が114.90円,114.2 8円,113.66円,113.04円と,0.62円ずつ等しい値幅で価格が異なるものであるから,「前記複数の売り注文情報に含まれる売り注文価格の情報は,それぞれ等しい値幅で価格が異なる情報」(構成要件F)を備えている。 」

【コメント】
 同一の原告(マネースクウェア)と被告(外為オンライン)との間で繰り広げられている特許権侵害訴訟の3発目のものです。

 一発目は,控訴審までここで紹介しました。そして,近時最高裁で上告棄却等の判断が出て確定したそうです。

 つぎに,二発目は一審をここで紹介しました。これはまだフォロー出来ていないのですが,知財高裁での判断が出たとのことです。こちらは一審とおり請求棄却だそうで,被告の勝ちだったようです。

 そして,これが三発目です。
 特許は, 発明の名称 「金融商品取引管理装置,金融商品取引管理システム,金融商品取引管理システムにおける金融商品取引管理方法 」(特許第6154978号)です。
 
 クレームは以下のとおりです。
A  相場価格の変動に応じて継続的に金融商品の取引を行うための金融商品取引管理装置であって,
  B  前記金融商品の買い注文を行うための複数の買い注文情報を生成する買い注文情報生成手段と,
  C  前記買い注文の約定によって保有したポジションを,約定によって決済する売り注文を行うための複数の売り注文情報を生成する売り注文情報生成手段と
  D  を有する注文情報生成手段と,
  E  前記買い注文及び前記売り注文の約定を検知する約定検知手段とを備え,
  F  前記複数の売り注文情報に含まれる売り注文価格の情報は,それぞれ等しい値幅で価格が異なる情報であり,
  G  前記注文情報生成手段は,前記複数の売り注文情報を一の注文手続で生成し,
  H  前記相場価格が変動して,前記約定検知手段が,前記複数の売り注文のうち,最も高い売り注文価格の売り注文が約定されたことを検知すると,
  前記注文情報生成手段は,前記約定検知手段の前記検知の情報を受けて,前記複数の売り注文のうち最も高い売り注文価格よりもさらに所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む売り注文情報を生成することを特徴とする
I  金融商品取引管理装置。


 リピートイフダン取引前提のようですが,判旨によると,「 本件発明は,買い注文の約定によって保有したポジションを,売り注文の約定によって決済する注文形態(構成要件C),すなわち,新規注文である買い注文の約定により決済注文である売り注文が有効,発注済の状態(市場に発注され,約定可能な状態)になるイフダンオーダーに係る注文形態を前提として,それぞれ等しい値幅で価格が異なる複数の売り注文を一の注文手続で生成する構成(構成要件F及びG)を採用した上で,最も高い売り注文価格の売り注文が約定すると,最も高い売り注文価格よりも所定価格だけ高い売り注文価格の情報を含む新たな売り注文情報を生成するという構成(構成要件H)を採用することにより,相場価格の変動によって,元の売り注文価格よりも相場価格の変動方向側である高値側に新たな売り注文価格の注文情報を生成し,相場価格を反映した注文の発注を行うことができるようにし,もって,コンピュータシステムを用いて行う金融商品の取引において,多くの利益を得る機会を提供することができるという作用効果を奏する」というものです。

 要するに,最初の設定よりもさらに欲をかきたい,一番高い設定値より上振れしそうなときは,さらに高い売値を設定するというものです。特許権者側では,これをシフト機能と呼んでいるようです。

 他方,被告のサービス,「iサイクル注文」というのはどういうものかというと,下記の図のようなものだったらしいです。
  
  このような相場追従機能があるということで,そうすると,原告の特許権の機能と同じかなという気がします。

 その上で,私が取り上げたのは,「注文情報」の構成要件充足性の所です。
 ここで,被告は, 注文情報とは,ログだ!結果だ!と唱えたのですが,案の定,斥けられております。
 上記のとおり,サービスとしては特許そのままかなあと思いますので,なかなか逃げ場が無かったのでしょうね。でも,ちょっと受け入れられる主張とは言えない気がします。


 とは言え,これはまだ一審です。一発目を最高裁まで争った外為オンラインですから,これも当然控訴されるでしょう。天王山はそこだと思いますね。
 
【追伸】
 本件の裏でやられている無効審判の審決取消訴訟について,判決が出ました。
 知財高裁平成31年(行ケ)第10056号 (令和元年10月8日判決)です。

 まあこの件は普通に無効にするのは大変だと思いますね。そして,結論もそのとおりになっております。
 知財高裁で侵害訴訟も争われていると思いますが,それは損害論があるので,判決は少し先なのかもしれません。