2018年11月9日金曜日

侵害訴訟 特許 平成28(ワ)38103  東京地裁 請求一部認容

事件名
 損害賠償請求事件
裁判年月日
 平成30年10月17日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第29部           
裁判長裁判官                    山    田    真    紀                 
裁判官                           棚    橋    知    子 
裁判官                        西    山    芳    樹 

「 ア  「地面に形成された基礎形成用溝」の意義
  (ア) 構成要件Bは,「前記基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝に沿って前記柱部材を配置し」というものであるところ,一般に,「地面」には「地の表面」という字義があり,「溝」には「細長いくぼみ」という字義があることからすると,文言上,底面が地面に接するように地上に形成された型枠であっても,「地面に形成された基礎形成用溝」に当たり得る。
 また,上記のとおり,「基礎形成用溝」は,基礎部材を形成するためのものであるから,コンクリートを流し込み基礎部材を形成することができる形状のものであることが必要であるものの,本件明細書に,それが地面を掘って地中に形成されたものでなければならないとする説明は見当たらない。
  そうすると,底面が地面に接するように地上に形成された型枠で,そこにコンク リートを流し込み基礎部材を形成することができるものであれば,構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」に含まれると解するのが相当である。
  (イ) これに対し,被告は,構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」は,地面を掘って地中に形成された基礎形成用溝であると解すべきであり,その理由として,①上記の文言,【0035】,【0036】の記載並びに図4A及びBから明らかであること,②本件発明は,太陽光発電装置を地面から引き抜こうとする力への対策として考案されたものであり,基礎形成用溝が地上に形成される場合には,上記の対策として機能しないこと,③基礎形成用溝を地上に形成するためには,地中に形成するのと比べて余分の作業が必要になり,かつ,相応の追加の部材も必要になるから,「施工コストの低減」,「施工の簡略化」といった【0021】, 【0034】の記載の趣旨に反することなどを主張する。
  しかしながら,①について,文言上,底面が地面に接するように地上に形成された型枠であっても,「地面に形成された基礎形成用溝」に当たり得ることは上記のとおりであり,また,被告が指摘する本件明細書の説明及び図面は,いずれも実施例を示すものにすぎず,仮に,地面を掘って地中に形成された基礎形成用溝を開示するものであったとしても,この説明によって,基礎形成用溝を地中に形成されるものに限定されるということもできない。
  また,②について,本件発明は,前記1⑵認定のとおり,従来技術の太陽電池パネル架台ユニット10では,アンカー8によって基礎ブロック1と支柱2とを固定しただけであったため,場合によっては,太陽電池パネル架台ユニット10に取り 付けられた太陽電池パネル5が受ける風荷重に耐えられず,また,基礎ブロック1が支柱2に対して個別に形成されていたため,太陽電池パネル架台ユニット10の施工が煩雑になるという課題があったことに鑑み,施工が容易で高い強度を有する太陽光発電装置を提供することを目的としてされたものであり,その作用効果は,従来技術の基礎ブロック1に代えて,構成要件BないしDに示されているように,隣接する柱部材を接続する接続部材をコンクリートに内包して形成される基礎部材に係る構成を採用することによって,基礎部材と柱部材とを強固に一体にし,特に風荷重に対する高い強度を有する太陽光発電装置を簡単な作業で容易に設置する点にあるから,このような従来技術の課題,本件発明の目的,構成,作用効果に照らせば,本件発明は太陽光発電装置を地面から引き抜こうとする力への対策として機能するか否かという観点から規定されているものではないのであって,上記の機能を有するように「地面に形成された基礎形成用溝」について限定解釈をすべきであるということはできない。
 さらに,③について,基礎形成用溝を地上に形成することによって相応の作業や部材が必要になるとしても,従来技術のように基礎ブロック1を複数形成することによる施工の負担は軽減されるから,本件発明の作用効果を損なうものともいえない。
  したがって,被告の主張は採用することができない。
  イ  被告方法1の構成
  前記2⑴のとおり,被告方法1は,構成1bを有する,すなわち,木製の型枠板を互いに適当な距離を隔てて対向するように起立配置することで,地上に型枠を形 成し,この型枠は,地上梁を形成するためのものであり,底面が地面に接するものであるところ,上記の地上梁は構成要件Bの「基礎部材」に相当するから,構成要件Bの「地面に形成された基礎形成用溝」を充足する。 」

【コメント】
 発明の名称を「太陽光発電装置,太陽光発電パネル載置架台,太陽光発電装置の施工方法,太陽光発電パネル載置架台の施工方法」とする特許第5279937号を巡る特許権侵害訴訟の事件です。
 
 クレームは以下のとおりです。
A  太陽光発電パネル及び前記太陽光発電パネルを載置する太陽光発電パネル載置架台であって,基礎部材,足場パイプにより形成される柱部材及び足場パイプにより形成される接続部材を有する太陽光発電パネル載置架台を有する太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法であって, 
  B  前記基礎部材を形成するために地面に形成された基礎形成用溝に沿って前記柱部材を配置し,
  C  前記基礎形成用溝の内部において,隣接する前記柱部材を前記接続部材で接続し,
  D  前記基礎形成用溝に所定のコンクリートを流し込んで,前記接続部材をコンクリートに内包する基礎部材を形成し,
  E  前記基礎部材上に前記太陽光発電パネル載置架台を生成し,
  F  生成した前記太陽光発電パネル載置架台に前記太陽光発電パネルを載置すること,によって前記太陽光発電装置を施工する太陽光発電装置の施工方法。
 
 
 
  こういう感じの太陽光発電のパネル設置の発明です。
 
 さてここでのポイントは, 構成要件Bの所です。「基礎形成用溝」って何だ?というものです。
 

  基礎には,溝を形成し,そこで基礎部材103cは,コンクリートなどの基礎部材103aに内包されているのです。つまり,接続部材103cは,「基礎形成用溝」の内部で,柱部材103bの下部を接続するという役割があるのですね。

 ただ,ポイントは,この溝が地面に掘った溝かどうか?ということです。
 被告は,溝なんだから地面に掘ったものに限る(被告の方法は,型枠を地面に置いてそこにコンクリートを流し込むタイプのもので,地面に溝を掘っていたわけじゃないかったのです。)。

 他方,原告は,地面に掘るなんて限定ないでしょ,と主張し,それが採用されない場合に備えて,均等論も主張していました。
 
 そして,結論は判旨のとおりです。限定解釈することなく,型枠で作った溝も, 「基礎形成用溝」に当たるとしたわけです。
 
 これは裁判官の胸先三寸の話でありますけどね。
 
 あと,他の構成要件や無効論も問題になってはいますが,この構成要件の議論が一番のメインだと思われましたので,ここに的を絞りました。