2018年12月26日水曜日

不正競争  平成27(ワ)16423  東京地裁 請求一部認容

事件番号
事件名
裁判年月日
 平成30年11月29日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第46部      
裁判長裁判官  柴 田 義 明         
裁判官  佐 藤 雅 浩              
裁判官  大 下 良 仁 

「 (1)本件鑑定で用いられたソースコードの分析の手法及びその鑑定結果の概要は以下のとおりである。(鑑定の結果〔4頁ないし12頁,17頁,24頁ないし27頁〕)
      ア  本件鑑定においては,原告の意見等も踏まえ,本件ソースコードのうち114種類のソースファイルが鑑定対象とされ,本件ソースコードのうち一つまたは複数のソースコードに対して被告ソフトウェアの複数のソースコードを比較すべき場合があることから,300組のソースコードのペアについて,一致点の有無等が判断された。  
イ  前記の300組のソースコードのペアについて,類似性や共通性を判断す るため,8種類のコードクローン検出(コードクローンとはソースコード中に相互に一致又は類似したコード断片をいう。)を実施した。
 8種類のコードクローン検出の方法の概要は,①識別子とリテラルのオーバーラップ係数を用いて名前の包含度合いを確認する,②識別子とリテラルのコサイン係数を用いて名前の一致度合いを確認する,③識別子とリテラルの部分文字列のオーバーラップ係数を用いて名前の文字並びの包含度合いを確認する,④識別子とリテラルの部分文字列のコサイン係数を用いて名前の文字並びの一致度合いを確認する,⑤コメントの部分文字列のオーバーラップ係数を用いてコメントの文字並びの包含度合いを確認する,⑥コメントの文字列のコサイン係数を用いてコメントの文字並びの一致度合いを確認する,⑦キーワードや記号の系列にSmith-Watermanアルゴリズムを適用してソースコードの文字並びの一致度合いを確認する,⑧前記アルゴリズムをソースコードの長さで正規化してソースコードの構造の一致度合いを確認するというものであった。
      ウ  前記イの8種類のコードクローン検出を実施し,1種類以上の方法で類似性についての一定の閾値を超えたものを要注意コード・ペアとして取り扱っ た。この要注意コード・ペアは,300組中57組存在した。
      エ  前記ウの結果を参考にしつつ,鑑定人が300組全てのソースコードのペアについて目視確認を行い,共通性や類似性が疑われるソースコードのペアを選んだ。その結果,原告ソフトウェアのソースファイルと被告ソフトウェアのソースファイルには,①「GlobalSettings.h」と「S ourceDefault.h」(順に,原告ソフトウェアのソースファイルと被告ソフトウェアのソースファイル。以下,同じ。),②「GlobalSettings.cpp」と「SourceDefault.cpp」,③「SSTDB.cpp」と「Mdb.cpp」,④「AutoLocker.h」と「SafeLocker.h」,⑤「AutoLocker.cpp」と「SafeLocker.cpp」につき,共通性や類似性が疑われる箇所が発見された(類似箇所1ないし5)。 
・・・
 カ  鑑定人は,類似箇所1ないし4について原告と被告のソースコードが不自然に類似・共通する箇所が存在すると判断し,類似箇所5については原告と被告のソースコードに類似性や共通性が見られるがその理由が不自然であ るとまではいえないと判断した。
 また,類似箇所1ないし5のほかに,鑑定対象とされた300組のソースコードのペアの中に共通性や類似性が疑われる箇所は発見されなかった。
      キ  鑑定人は,類似箇所1ないし5について,原告ソフトウェアを参照せずに被告らが独自に作成することが可能であるか否かにつき,以下のとおり判断した。 
   (ア)類似箇所1について
 原告ソフトウェアのソースコードの一部がサンプルで公開されていたなどといった外部要因がないことを前提とすれば,原告ソフトウェアと被告ソフトウェアの開発者は必ず同一人物である。被告ソフトウェアを開発する際に原告ソフトウェアを参照した可能性が高いが,参照せずに開発す ることが全く不可能であるとまでは言い切れない。
 もっとも,原告ソフトウェアと被告ソフトウェアの開発者が同一人物であり,その人物の記憶を手掛かりとしても,原告ソフトウェアのソースコードを参照せずに類似箇所1で見られるような細かい特徴まで一致させることは難しいと考えることが自然である。 
・・・
 2  争点1(本件ソースコード等についての被告らによる使用等の有無)について
  (1)前記1(1)によれば,本件ソースコードについて,鑑定対象とされた300組のソースコードのペアにおいて,共通性や類似性が疑われる箇所は類似箇所1ないし5のみであったこと,本件鑑定の手法に不合理な部分は認められないことが認められ,また,本件ソースコードについて被告らによる使用等の根拠として原告が主張する事実は,そもそも被告らによる使用等を推認させるとはいえないとの意見を鑑定人が述べたものがあるほか(前記1(2)イ,ウ,ク,ケ),その内容から,いずれも被告らによる本件ソースコードの使用等を直接裏付け るものとはいえない。更に,後記(5)ウのとおり,Template.mdbに関する原告の主張は採用することはできない。
 これらを総合すれば,鑑定において類似箇所として指摘された部分である類似箇所1ないし5は別として,本件ソースコード全体やTemplate.mdbに関して原告が主張する情報,前記類似箇所以外の本件ソースコードの一 部について,被告らによる使用等はなかったと認めるのが相当である。 
(2)類似箇所1ないし3について
 前記1(1)によれば,類似箇所1ないし3について,本件ソースコードの被告らによる使用等があったと認められる。そして,Bが,原告ソフトウェアの開発に携わった者の一人であり,被告ソフトウェアについて実際の開発,制作を担当したこと(前提事実 )及び弁論の全趣旨から,Bは,被告ソフトウェア の開発の際,本件ソースコードの類似箇所1ないし3に対応する部分を使用して被告ソフトウェアを制作等し,もって,類似箇所1ないし3を被告フェイスに対して開示し,また,被告フェイスにおいてそれを取得して使用したと認められる。 
(3)類似箇所4について      
    前記1(1)よれば,類似箇所4については,被告ソフトウェアのデータベースで用いられている52件のフィールドの名前が原告ソフトウェアのデータベースで用いられているものと同じであると指摘されており,被告らもTemplate.mdbの複製について認めていることに照らせば,類似箇所4については,類似箇所1ないし3についてと同様の理由から,Bから被告フェイスに対する開示及び被告フェイスによるその使用があったと認められる。   
・・・
 (6)小括
        以上によれば,本件ソースコード等のうち,類似箇所1ないし4について,Bの被告フェイスに対する開示及び被告フェイスによるその使用等があったと認められるが,その余の部分についての被告らによる使用等は認められない。 
・・・
 これらを考慮すると,被告らの不正競争行為が被告ソフトウェアの利用者に関係する機能を同種のソフトウェアに関する機能と大きく異なるものにしたとは直ちにはいえず,被告ソフトウェアの売上げは,基本的には,被告ソフトウェアの不正競争行為ではない行為により作成された機能に基づく商品としての価値や被告フェイスの営業努力等によって実現されていたとするのが相当である。
 以上によれば,被告ソフトウェアの譲渡数量のうちの相当程度の数量の原告ソフトウェアについて,原告が販売することができなかった事情があると認めるのが相当であり,以上のほか,本件にあらわれた一切の事情を総合的に勘案すれば前記ウの推定は95パーセントの限度で覆滅し,被告フェイス及びBによる不正競争によって原告に生じた損害は,前記ウ記載の損害の5パーセントであると認めるのが相当である。また,弁護士費用としては,10万円をもって相当と認める。 」

【コメント】
 不正競争の事件ですが,経緯を知る者にとっては,執念の勝利と言えるでしょうね。

 概要としては,日本語の字幕ソフトウェアであるSSTG1を開発した原告さんが,「Babel」という同種のソフトウェアを製造・販売していた被告に対し差止め等を求めて提訴した事件です。
 ま,原告のソフトウェアを開発していた人たちが被告の方に移ったという経緯もあるようで,しかも被告のソフトウェアの方がかなり廉価で売られたということもあり,原告としては怒り心頭に達したのでしょう。
 しかし,実は訴訟は2回めです。
 一回目は,ソフトウェアの著作権で提訴したのですが,棄却されました。知財高裁でも請求棄却でした。
 前者の一審が東京地裁平成 25 年 (ワ) 第18110 号(平成27年6月25日判決)です。
 後者の控訴審が知財高裁平成 2 7 年 ( ネ ) 第 10102 号(平成 2 8 年 3 月 2 3 日判決)です(このブログでも取り上げました。)。 

 人の動きは当然原告も把握していただろうから,上記一審の前に証拠保全をやったようなのですが,このときは,営業秘密だからと言って記録することが許されなかったようです。しかし,原告がこっそり記録削除したはずのものを復活させたりなどのこともあったようです。

 そういうこともあったためかわかりませんが,著作権の争いでは原告では負けました。

 ですが,今回,営業秘密~ということに衣替えさせ,そして,鑑定に持ち込んだことで勝利したのでしょうね。

 どうやって鑑定にまで持ち込めたのかはわかりませんが,そこで類似の部分がありましたので,それによって営業秘密の無断使用等まで一気呵成だったと言えると思います。

 ただし,お金関係はほぼ負けです。被告オリジナルの部分が多い~ということですね。
 
 なかなかおもしろい事例だと思います。