2018年12月10日月曜日

侵害訴訟 特許  平成29(ネ)10055  知財高裁 控訴認容(請求棄却)


事件名
 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日
 平成30年11月26日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部                      
裁判長裁判官          森   義 之                                  
裁判官       森 岡 礼 子                                  
裁判官        古 庄   研  
 
「  (3)  争点2-3-2(新規性欠如)について
      ア(ア)  前記(2)アのとおり,控訴人らは,被控訴人外1名を原告,控訴人ら外3名を被告とする商標権侵害差止等請求事件において,当該事件の原告訴訟代理人弁護士G及び同Hが平成19年5月22日に東京地方裁判所に証拠として提出した乙69の4及び証拠説明書として提出した乙69の5を,その頃受領していること,乙69の5には,乙69の4の説明として,「被告シンワのチラシ(2006年用)(写し)」,作成日「2006(平成18)年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。」旨記載されていることが認められるところ,乙69の4には,「2006年販売促進キャンペーン」,「キャンペーン期間  ・予約5月末まで  ・納品5月20日~9月末」,「有限会社シンワ」,「つりピンロールバラ色  抜落防止対策品」,「サンプル価格」,「早期出荷用グリーンピン  特別感謝価格48000円」などの記載があり,複数の種類の「つりピン」が添付されており,その中には,5本のピンが中央付近においてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のもの(つりピンロールバラ色と記載された部分の直近下に写し出されているもの)があることが認められる。
  上記「つりピン」の形状は,上記事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月22日に,乙69の4とともに,上記商標権侵害差止等請求事件において,東京地方裁判所に証拠として提出した乙69の3に「つりピンロール(バラ色)抜落防止対策品」として記載されているピンク色の「つりピン」と,その形状が一致していると認められる。乙69の3は,乙69の4と同じ証拠説明書による説明を付して,提出されたものであり,「2006年度  取扱いピンサンプル一覧」,「有限会社シンワ」,「早期出荷用」などの記載がある。
  また,乙69の4は,上記事件の上記原告訴訟代理人が,平成19年5月22日に,乙69の4とともに,「被告シンワのチラシ(2005年用)(写し)」,作成日「2005(平成17)年」,作成者「(有)シンワ」,立証趣旨「被告シンワが原告むつ家電得意先へ営業した事実を立証する。」旨の証拠説明書による説明を付して,上記商標権侵害差止等請求事件において,東京地方裁判所に提出した乙69の1と,レイアウトが類似しているところ,乙69の1には,「2005年開業キャンペーン  下記価格は2005年4月25日現在の価格(税込)です。」,「有限会社シンワ」,「当社では売れ残り品は販売しておりません。お客様からの注文後製造いたします。」などの記載がある。
  以上によると,乙69の3及び4は,いずれも,控訴人シンワが,被控訴人の顧客であった者に交付したものを,平成19年5月22日までに,被控訴人が入手し,控訴人シンワらが,被控訴人の得意先へ営業した事実を裏付ける証拠であるとして,上記事件において,提出したものであると認められる。
  そして,乙69の4の上記記載内容,特に「販売促進キャンペーン」,「納品5月20日~」と記載されていることからすると,乙69の4と同じ書面が,平成18年5月20日以前に,控訴人シンワにより,ホタテ養殖業者等の相当数の見込み客に配布されていたことを推認することができる。
      (イ)  また,前記(ア)の認定事実及び弁論の全趣旨によると,乙69の4に記載されている,5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のものは,控訴人シンワにより見込み客に配布されていた前記(ア)の乙69の4と同じ書面にも添付されていたと認められる。
(ウ)  前記の5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線状の部分が連通する形で連結された形状のものの形状は,両端部において折り返した部分の端部の形状が,乙69の4では,下から上へ曲線を描いて跳ね上がっているのに対し,本件明細書等の図8(a)では,釣り針状に下方に曲がっている以外は,本件明細書の図8(a)記載の形状と一致している。
  そして,本件明細書等の図8(a)は,本件各発明に係るロール状連続貝係止具の実施の形態として記載されたものである。
(エ)  そうすると,前記(ア)及び(イ)の5本の「つりピン」が中央付近においてそれぞれハの字型の1対の突起を有するとともに,そのハの字型の間の部分を2本の直線が連通する形で連結された形状のものは,形状については,本件発明1の構成要件1A~Hにある形状をすべて充足する。そして,証拠(乙69の1~5)及び弁論の全趣旨によると,その材質は,樹脂であり,「つりピンロール」とされていることから,ロール状に巻き取られるものであり,その連結材は,ロール状に巻き取られることが可能な可撓性を備えているものと認められる。したがって,乙69の4に記載されている「つりピン」は,本件発明1の構成要件1A~Hを,すべて充足すると認められる。
  また,上記の「つりピン」は,ロープ止め突起の先端と連結部材とが極めて近接した位置にあり,2本のロープ止め突起の先端の間隔よりも一定程度狭い縦ロープとの関係では,2本の可撓性連結材の間隔が,貝係止具が差し込まれる縦ロープの直径よりも広くなるから,本件発明2の構成要件である2Aも充足すると認められる。
 さらに,上記の「つりピン」が,ロール状に巻き取られるものであることは,上記のとおりであるから,上記の「つりピン」は,本件発明3の構成要件である3A及び3Bも充足すると認められる。
      (オ)  そうすると,本件発明1~3は,本件特許が出願されたとみなされる日である平成18年5月24日よりも前に日本国内において公然知られた発明であったということができ,新規性を欠き,特許を受けることができない。」
 
【コメント】
 養殖用の貝の係止具の特許(特許第4802252号 )に関する特許侵害訴訟の控訴審の事件です。  
 一審は,ここでも紹介しました。ですので,クレームや事件の概要はそちらを見てください。
 
 一審では,構成要件該当性があり,無効でないとして,請求を認容しました。ところが,この控訴審では,逆転で請求棄却です。
 
 ポイントは刊行物記載の発明・・・ではなく,公然知られた発明との同一性(つまり新規性なし)という,かなり稀有な事例です。
 
 さて,この公然知られた発明は,チラシに載っていた発明です。
 この特許の事件以前に,平成19年(ワ)第12683号 という商標の事件があり(和解で終わったため,検索できません。),本件の被告の一人であるシンワの配ったそのチラシを本件の原告(むつ家電特機)がその商標の訴訟で提出していたということです。
 そして,そのチラシには,「キャンペーン期間」「予約5月末まで」,「納品」「5月20日~9月末」と記載があったらしく,そうすると,平成18年5月20日には,公然知られた発明ということになったようです。

 他方,本件の特許の出願日は,分割出願のため,原出願日が平成18年5月24日です。いやあ,ほんの4日ですか~。

 同業他社間でのこういう状況だと,冒認出願だったということも十分考えられますけど,日数のギリギリ具合からすると,偶然の可能性が高そうです。チラシ掲載で発明が把握できるくらいのものですから。
 
 あと,気になるのは,原審の審理ですね。
平成29年2月28日頃,控訴人進和化学工業の取締役であったFは,同社のピンの開発に関する未整理の資料の中に,上記陳述書が紛れていることを発見した。  
 控訴人ら代理人は,直ぐにその連絡を受け,上記陳述書の送付を受けた。当時, 本件は,原審の弁論終結後の和解協議中であった。控訴人ら代理人は,上記陳述書 が,前訴和解の検討過程や,前訴和解に企図した解決方法(ロールピンを含めた全種類のピンを対象に異議を唱えられないよう区別がつくようにし,販売活動に専念すること)を示す重要な証拠でもあったことから,平成29年3月2日付け第6準備書面(弁論再開申立補充書2)に,上記陳述書を添付して弁論の再開を求めたが,原審裁判所は弁論の再開を認めなかった。
 原審は,争点確認等を行わないまま,予告もなく突然かつ強引に弁論準備手続を終結し,即時に口頭弁論期日に移行して口頭弁論を終結したものであり,上記のとおり,弁論再開を申請しても受け入れなかったことから,審理不尽である。
 
 これは控訴人らの主張ですが, かなり不満のあったことが分かります。
 
 ま,裁判における裁判官はヒトラーやスターリンも真っ青の独裁者ですので,裁判所がこうと決めたら利用者としてはどうしようもありません。

 今回は,知財高裁がきちんと聞く耳を持ってくれたから良いですが,いつも聞いてくれるとは限りません。最高裁がこんなことを聞いてくれるわけがありませんから,本来勝つべき所が負けているということは実際多いのかもしれませんね。