2019年12月30日月曜日

審決取消訴訟 特許 平成31(行ケ)10053 知財高裁 無効審判 却下審決 請求棄却

事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 令和元年12月19日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部 
裁判長裁判官          大      鷹      一      郎 
裁判官          古      河      謙      一
裁判官          岡      山      忠      広  

「 ア  本件和解契約2条は,「乙らは,自ら又は第三者を通じて,無効審判の請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない。ただし,甲が特許侵害を理由として乙らに対し訴訟提起した場合に,当該訴訟における抗弁として本件特許権の無効を主張することはこの限りではない。」と規定する。
 しかるところ,2条の上記文言によれば,同条は,「乙ら」(原告,センティリオン及びB)は,「甲」(被告)に対し,被告が原告らに対し提起した本件特許権侵害を理由とする訴訟において本件特許の無効の抗弁を主張する場合(同条ただし書の場合)を除き,特許無効審判請求により本件特許権の効力(有効性)を争ってはならない旨の不争義務を負うことを定めた条項であって,原告が本件特許に対し特許無効審判を請求することは,およそ許されないことを定めた趣旨の条項であることを自然に理解できる。
 そして,前記(1)認定の本件和解契約の交渉経緯によれば,本件和解契約2条の文案については,被告の代理人弁護士と原告,センティリオン及びBの代理人弁護士が,それぞれが修正案を提案するなどして十分な協議を重ね,最終的な合意に至ったものであり,このような交渉経緯に照らしても,同条は,その文言どおり,原告が本件特許に対し特許無効審判を請求することは,およそ許されないことを定めた趣旨の条項と解するのが妥当である。
 そうすると,原告による本件特許無効審判の請求は,本件和解契約2条の不争条項に反するというべきである。
 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 」

【コメント】
 本件は,被告(特許権者)が有する,発明の名称を「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」とする特許権(特許第3277180号)を巡る無効審判の審決取消訴訟の事件です。
 
 まず,審決では却下審決となりました。その理由は,原告(無効審判請求人)は,「特許法123条2項に規定する「利害関係人」であるとはいえない」というものです。
 なかなかに恐るべき理由というか,マジかそれ!という感じの話です。
 
 で,この審決取消訴訟もその審決を認容していますから(請求棄却),それでいいということになります。

 要するに,原告と被告で一旦和解がなされ,その条項に,「2  乙らは,自ら又は第三者を通じて,無効審判の請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない。ただし,甲が特許侵害を理由として乙らに対し訴訟提起した場合に,当該訴訟における抗弁として本件特許権の無効を主張することはこの限りではない。」 とあり,これが有効というわけです。

 非常に教科書事例というか,司法試験の知財科目や弁理士試験の特許の2問目的な,ありそうなんだけど実務上そんなにないと思われる件なので,ここで取り上げた次第です。
 
 ただ,個人的には,この経緯を見ると,もう少し,原告の方で和解締結に至るまで暴れた方が良かった(つまりは無効資料を沢山探す)ような気が実にします。 
 それに,和解の範囲も狭く,今後の品を売ってもいいような条項もなく,ちょっと何だなあと思う次第です。

 

侵害訴訟 特許 令和1(ネ)10052 知財高裁 控訴棄却(請求棄却)

事件番号
事件名
 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日
 令和元年12月19日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部                    
裁判長裁判官      森              義      之                                  
裁判官         眞      鍋      美  穂  子 
裁判官       佐      野              信  

「 (2)  争点2-1(構成要件1Aの充足性)について
      ア  控訴人は,構成要件1Aは,画像情報を取得する機能の有無に限らず,
「画像情報・・・を対応するパターンに変換するパターン変換器」であると主張する。 
 本件発明1の構成要件1Aは,「画像情報,音声情報および言語を対応するパターンに変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,」というものであるところ,画像情報を取得する機能の有無に限らないという控訴人の主張によると,本件発明1は,パターンに変換する画像情報が取得されたものでない場合には,パターン変換器は,予め保持している画像情報を対応するパターンに変換するものということになるが,このとき画像情報は,パターンに変換されることも,また,パターンとして記録されることもなく,画像情報として予め保持されていたものということになる。
  しかし,本件発明1の特許請求の範囲及び本件明細書等1には,画像情報が,パターンに変換されることも,また,パターンとして記録されることもなく,予め保持されたものであるとは読み取ることができる記載はない上,かえって,本件明細書等1の段落【0017】には,「【課題を解決するための手段】(請求項1に対応)」として,「この発明における思考パターン生成機は画像情報,音声情報および言語をパターンに変換する。画像情報は画像検出器により検出され,対象物に応じたパターンに変換される。・・・」と記載され,画像検出器により検出されるものとされている。
  したがって,本件発明1の構成要件1Aが,画像情報を取得する機能の有無に限らないとの控訴人の主張を採用することはできない。
  そして,本件装置が,外部から入力された表情等に関する画像をパターンに変換する機能を有していると認めるに足りる証拠がないことは,原判決「事実及び理由」の第4の2(2)イに判示するとおりである。
  よって,本件装置が構成要件1Aを充足していると認めることはできない。 」

【コメント】
  本件は,発明の名称を「自律型思考パターン生成機」とする特許権1(特許第5737641号 )と, 発明の名称を「自律型知識向上装置 」とする特許権2(特許第5737642号 )と,発明の名称を「自律型知識分析器」とする特許権3を有する原告(自然人:人工知能技術開発等を目的とする訴外株式会社オメガ・レゾンの代表取締役)が,被告を特許権侵害として訴えた特許権侵害訴訟の事件です。

 一審(東京地裁平成29(ワ)15518,令和元年6月26日判決)では構成要件該当性がないとして,請求棄却になりました。

 そして,この二審でも同様に構成要件該当性がないとして,控訴棄却になっております。

 そういうよくあるパターンの原告負け事件なのですが,ではなぜここで取り上げたかというと,クレームがなかなか貴重な感じがしたからです。
本件発明1
      1A  画像情報,音声情報および言語を対応するパターンに変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,
          1B  パターンの設定,変更およびパターンとパターンの結合関係を生成
するパターン制御器と,
          1C  入力した情報の価値を分析する情報分析器を備え,
          1D  有用と判断した情報を自律的に記録していく自律型思考パターン生成機。
  」
 なかなかに広いクレームだという感があります。

 さらにこんなクレームもあります。
 「 本件発明2-1 
          2A  言語情報をパターンに変換するパターン変換器と,パターンおよびパターン間の関係を記録するパターン記録器と,
          2B  処理を行うためにパターンを保持するパターン保持器と,パターン保持器を制御する制御器と,パターン間の関係を処理するパターン間処理器を備え,  10
          2C  入力した言語情報の意味,新規性,真偽および論理の妥当性を評価し,自律的に知識を獲得し,知能を向上させる人工知能装置。

 構成要件2Cを見てください。一歩進んだ感があります。
 
 本件発明1の方は, 外部入力データを前提としているのに,被告装置の方はそうなっておらず(内蔵データのみ),構成要件該当性なしと判断されております。

 他方,本件発明2-1の方は,構成要件2Cが上記のような書きぶり(意味,新規性,真偽および論理の妥当性)ですから, 現在の最先端の技術力をもってしても,構成要件該当性がある!というのは難しいと思います。

 ですので,判決も,「本件装置が,意味を評価した上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得していると認めることはできない。」,「本件装置の質問は,顧客の要望を明らかにするためのものであって,真偽を判断するためのものであるとは認められないから,本件装置が,真偽を判断した上で,自律的に知識を獲得していると認めることはできない。」, 「論理的な結論を得るためには,情報間の結合関係を正確にする必要はあるが,必ずしも入力した言語情報の真偽の妥当性を評価する必要性は認められない。」 という感じで判断しております。

 ということですので,広いクレームではあるのですが,ちょっと未来志向過ぎて(特許権者自身も今のところ実施できていないのではないかと思います。),このレベルまで誰もまた到達していないところが玉にキズだった事件ではないかと思います。

 あと10年,20年経てば,構成要件該当性のある技術も実現しているかもしれませんが,そのときは,この特許自体エクスパイアしているでしょうね。

 

2019年12月26日木曜日

審決取消訴訟 特許 平成31(行ケ)10049  知財高裁 無効審判 無効審決 請求認容

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 令和元年12月11日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第3部                        
裁判長裁判官  鶴      岡      稔      彦                                  
裁判官         上      田      卓      哉                                 
裁判官      山      門              優 
 
「⑸  相違点の容易想到性の判断
        事案に鑑み,相違点1-3の容易想到性の有無から判断する。
      ア  「少なくとも単独の受信者の識別子」の意義
        (ア)  本件特許の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明1の「少なくとも単独の受信者の識別子」とは,「ハンドヘルド装置」が,同装置に備わる「入力デバイス」を通じて,「操作者により決定された関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツ」と共に,「操作者から受け取」るものであり,同装置に備わる「無線トランスミッタを通じて,」同装置「から空間的に離間した遠隔サーバー」に送られ,「この遠隔サーバーが」,「操作者により決定された関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表す更なる表現」を,当該「少なくとも単独の受信者」「が受信するように」「送信」するものであることを理解できる。
(イ)  次に,前記⑴イのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本発明」は,モバイル装置を用いる音楽又は動画のようなコンテンツの形成及び分配を目的とするものであり,本件発明1の構成を採用することにより,ハンドヘルド装置の操作者において,同装置を用いて,遠隔サーバーに対し,同人により制御された時間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツの表現を与え,前記遠隔サーバーにより,前記時間的関係に従って配置された第1のコンテンツと第2のコンテンツとを表すメッセージを形成し,このメッセージを,前記操作者が指定した少なくとも1つの受信者に対して分配することができるという効果を奏するものである旨が記載されており,この点に本件発明1の技術的意義があると認められる。
(ウ)  以上の本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書の記載に鑑みると,本件発明1の「少なくとも単独の受信者の識別子」とは,「遠隔サーバー」が送信する「操作者により決定された…更なる表現」を受信する者を識別するための情報であり,ハンドヘルド装置の操作者が,同装置に前記識別子を入力することで,当該識別子により識別される特定の者を,前記更なる表現を受信する者として指定できる機能を有するものであり,これにより,受信者は,特段の操作を要することなく,上記表現を受信することができるものと解される。
    また,本件明細書の「本発明の実施形態」には,操作者が少なくとも1つの受信者を識別する方法として,「1つの電話番号を特定する」方法,「遠隔サーバーに記憶された電話番号又はeメール・アドレスのリストから1つの受信者を選択する」方法があり,当該遠隔サーバーにおいて,上記方法によって指定された受信先に対し,適宜な送達方法により上記更なる表現を送信することが記載されており(【0043】,【0044】),このことも,上記解釈を裏付けるものといえる。
イ  甲1の開示事項
 前記⑵ケのとおり,甲1には,演奏者と視聴者(聴衆)はそれぞれ,インターネット対応の HumBand TM を介して,演奏グループに参加することができ,演奏者はすべて,情報を自分の HumBand TM を介して送信し,視聴者はすべて,そのような演奏を,自分の HumBands TM を介して聴くことが記載されている。
 そして,前記⑵クのとおり,甲1には,「このサービス(ウェブ/チャット型サービスによるグループ対話式音楽演奏)を使用するために,人は,HumJam.com ウェブ・サイトに,名前とパスワードを用いてログインした後,オンライン・グループのメンバになる。」と記載されていることから,引用発明1の HumBand TM 楽器において,「パフォーマンス」の「聴衆」となるには,HumJam.com ウェブ・サイトに,名前とパスワードを用いてログインし,所定のランクのオンライン・グループのメンバになる必要があることを理解できる。一方,甲1には,かかる方法のほかに,HumBand TM 楽器において,「パフォーマンス」の「聴衆」となる方法は記載されておらず,その示唆もない。
 そうすると,仮に,被告の主張するとおり,甲1において,「演奏者」が「演奏グループ」(オンライン・グループ)の「ランク」を「HumBand TM楽器」に入力して,自己の参加する「ランク」を選択できることが開示されているとしても,甲1の記載からは,かかる選択によって,当該「ランク」に格付けされた者が当然に「パフォーマンス」の「聴衆」と指定されるものではなく,「聴衆」となるには,上記のような方法で所定のランクのオンライン・グループのメンバになる必要があることを理解できる。
ウ  相違点の容易想到性
 前記アのとおり,本件発明1の「少なくとも単独の受信者の識別子」とは,「遠隔サーバー」が送信する「操作者により決定された…更なる表現」を受信する者を識別するための情報であり,ハンドヘルド装置の操作者が,同装置に前記識別子を入力することで,当該識別子により識別される特定の者を,前記更なる表現を受信する者として指定できる機能を有するものと解される。  
  一方,前記イのとおり,甲1に記載された「ランク」は,本件発明1の「少なくとも単独の受信者の識別子」により実現している機能を果たすものではないから,これに相当するものとはいえない
 そうすると,本件審決が,「ランク」を「少なくとも単独の受信者の識別子」と呼ぶことは任意であるとして,両者が実質的に同一であることを前提に,当業者が相違点1-3に係る本件発明1の構成を容易に想到し得ると判断したことは,その前提を誤るものといえる。
 そして,演奏者から受け取った信号と伴奏とを組み合わせたパフォーマンスを,サーバにアクセスしている聴衆に同報通信する構成により,「ウェブ/チャット型サービスによるグループ対話式音楽演奏」を実現した引用発明1において,「少なくとも単独の受信者の識別子」を,演奏者に入力させる構成を採用する動機付けとなる記載は,甲1には見当たらず,また,かかる構成を採用することが,「ウェブ/チャット型サービスによるグループ対話式音楽演奏」における周知技術であるとも認められない。
 したがって,相違点1-3に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到できたものであるとは認められない。 」

【コメント】
 本件は,発明の名称を「実時間対話型コンテンツを無線交信ネットワーク及びインターネット上に形成及び分配する方法及び装置」とする特許権(特許第5033756号)を有する原告(台湾の人です。)に対して,被告(グーグル エルエルシー)が無効審判を請求したところ,特許庁が無効審決(進歩性なし)を下したため,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起した事件です。
 
 これ対して,知財高裁3部の鶴岡部長の合議体は逆転で審決を取り消しました。
 つまりは,進歩性はあるよ,ということです。
 
 まずはクレームからです。
【請求項1】
 ハンドヘルド装置であって,
 操作者へ出力を提示する可視的ラスター・ディスプレイを含む少なくとも一つの出力デバイスと,
 操作者から入力を受けるスイッチ配列を含む少なくとも一つの入力デバイスと,
 無線トランスミッタと,
 前記少なくとも1つの出力デバイス,前記少なくとも1つの入力デバイス及び前記無線トランスミッタの動作を制御する処理回路と,
  前記処理回路で実行可能なプログラムとを備え,そのプログラムは,
  前記ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するように,その操作に関する情報を前記可視的ラスター・ディスプレイを通じて表示させ,
  前記出力デバイスを通じて操作者へ,(a)前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバー又は(b)取り外し可能なメモリ・デバイスから与えられる第1のコンテンツの表現を提示させ,
 操作者により決定された関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツと,少なくとも単独の受信者の識別子とを前記入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ,
 前記無線トランスミッタを通じて,前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバーに対して第2のコンテンツの表現と少なくとも単独の受信者の識別子とを送ると共に,この遠隔サーバーが,前記操作者により決定された前記関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表す更なる表現を前記少なくとも単独の受信者が受信するように,前記更なる表現を送信させるように構成されているハンドヘルド装置。
  」

 なかなかに複雑ですね。
  図を見ましょう。
 
  こんな感じですが,これでもよくわかりません。
 ただ,判旨には以下のようなまとめがあります。
個人が自分自身の聴覚的又は視覚的コンテンツを形成し,これを友人らと共有する趣味が広がっているが,従来技術では,音楽及び動画のような聴覚的及び視覚的コンテンツの形成及び分配には,容易に持ち運べない装置の使用が要求されるという課題があった(【0004】)。
「本発明」は,モバイル装置を用いた音楽又は動画等のコンテンツの形成及び分配を目的としたものであり(【0005】),上記課題を解決するために,操作者が,ハンドヘルド装置を介して,遠隔サーバーに対し,少なくとも1つの受信者の識別と,操作者により制御された時間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツの表現とを与え,前記遠隔サーバーにより,前記少なくとも1つの受信者に対し,前記時間的関係に従って配置された第1のコンテンツと第2のコンテンツとを表すメッセージを送らせるという構成を採用した(【0006】)。
      上記構成を採用することにより,ハンドヘルド装置の操作者において,同装置を用いて,遠隔サーバーに対し,同人により制御された時間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツの表現を与え,前記遠隔サーバーにより,前記時間的関係に従って配置された第1のコンテンツと第2のコンテンツとを表すメッセージを形成し,このメッセージを,前記操作者が指定した少なくとも1つの受信者に対して分配することができるという効果を奏する(【0032】~【0036】,【0041】,【0043】,【0044】)。
  」

 つまり自分の撮った動画なんかを友人と簡単に共有する,そんな装置なわけです。
 
 で,引例(甲1)の一致点・相違点です。
(一致点)
「ハンドヘルド装置であって,
 操作者へ出力を提示するディスプレイを含む出力デバイスと,
 操作者から入力を受けるスイッチ配列を含む入力デバイスと,
 トランスミッタと,
 前記出力デバイス,前記入力デバイス及び前記トランスミッタの動作を制御する処理回路と,
 前記処理回路で実行可能なプログラムとを備え,そのプログラムは, 前記ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するように,その操作に関する情報を前記ディスプレイを通じて表示させ,
 前記出力デバイスを通じて操作者は,(a)前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバーから与えられる第1のコンテンツの表現を提示させ
 操作者により決定された関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツを前記入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ,
 前記トランスミッタを通じて,前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバーに対して第2のコンテンツの表現を送ると共に,この遠隔サーバーが,前記操作者により決定された前記関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表す更なる表現を前記少なくとも単独の受信者が受信するように,前記更なる表現を送信させるように構成されているハンドヘルド装置。」である点。 

 (相違点1-1)
 一致点の「操作者へ出力を提示するディスプレイを含む出力デバイス」の「ディスプレイ」に関し,本件発明1は,「可視的ラスター・ディスプレイ」であるのに対し,引用発明1は「小型ディスプレイ」である点。
(相違点1-2)
 一致点の「トランスミッタ」に関し,本件発明1は,「無線トランスミッタ」であるのに対し,引用発明1は無線である記載がない点。
(相違点1-3)
 一致点の「前記トランスミッタを通じて,前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバーに対して第2のコンテンツの表現を送る」に関し,本件発明1は,「第2のコンテンツの表現」に加えて「少なくとも単独の受信者の識別子」とを送るのに対し,引用発明1は,そのような特定がない点。
 これに伴い,一致点の「操作者により決定された関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテンツを前記入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ」に関し,本件発明1は,「第2のコンテンツ」に加えて「少なくとも単独の受信者の識別子を入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ」るのに対し,引用発明1は,「少なくとも単独の受信者の識別子を前記入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ」ることについて,記載されていない点。

 ポイントは相違点1-3なのですが,甲1発明ってこんなやつです。
 
  つまり,ネットを通じて演奏グループに入れ,そこで演奏したり聞いたりすることができるという発明なわけです。ま,広い意味でコンテンツの共有ということは言えるかと思います。
 
 ですので,かなり違った発明かなあと思います。
 特に判旨でも指摘しているとおり,本件発明にいう識別子の技術的思想が甲1には全くなく(「ランク」は識別子とは異なるもの),そこが周知発明等で埋められなかった以上,結論が審決と異なったのもやむを得ないかなと思います。

 さて,本件のポイントはもう一つあり,これは原告が個人で被告が何とグーグルなのですね。
 ほんで,現在,侵害訴訟が係属中らしいです(東京地方裁判所平成28年(ワ)第3978
9号)。
 ま,無効論が紛糾したりして,結構な時間経っているのでしょうね。とは言え,無効論がこの結論だということは,近々個人発明家がグーグルを破った!なんていう報道が出るかもしれません。