2019年2月1日金曜日

不正競争  平成30(ネ)10038  知財高裁 控訴認容(請求一部認容)

事件番号
事件名
 不正競争行為差止等請求控訴事件
裁判年月日
 平成31年1月24日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部  
裁判長裁判官          大      鷹      一      郎  
裁判官          古      河      謙      一
裁判官          関      根      澄      子 

「2  争点1(被告商品は原告商品の形態を模倣した商品に該当するか)について
(1)  不競法2条1項3号により保護される原告商品の形態について 
・・・
(イ)  次に,不競法2条1項3号は,他人が資金,労力を投下して商品化した商品の形態を他に選択肢があるにもかかわらず,ことさら模倣した商品を,自らの商品として市場に提供し,その他人と競争する行為は,模倣者においては商品化のための資金,労力や投資のリスクを軽減することができる一方で,先行者である他人の市場における利益を減少させるものであるから,事業者間の競争上不正な行為として規制したものと解される。
  このような同号の趣旨に照らすと,同号によって保護される「商品の形態」とは,商品全体の形態をいい,その形態は必ずしも独創的なものであることを要しないが,他方で,商品全体の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合には,特段の資金や労力をかけることなく作り出すことができるものであるから,このようなありふれた形態は,同号により保護される「商品の形態」に該当しないと解すべきである。そして,商品の形態が,ありふれた形態であるか否かは,商品を全体として観察して判断すべきであり,全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出してそれぞれがありふれたものであるかどうかを判断することは相当ではない。
  しかるところ,乙1(「オリジナル・ツェブラ・サックス・ストラップ  ホームページ」)には,アジャスター(調節つまみ),革パッド,ブレード(紐)及びフックのパーツにより構成される「ツェブラ・ストラップ」の写真が掲載されているところ,アジャスターは,中央部から左右斜め上方に伸びる辺(両翼)を有するY字状であり,中央部の形状が四角形状でない点,両翼の角度が約90度であり,鈍角ではない点,中央部の穴の位置などにおいて原告商品のV型プレートの形態(別紙「原告商品の形態」)と明らかに相違し,基本的構成態様においても,ブレードクリンチを有していない点で,原告商品の全体としての形態と相違する。
  また,乙2(「Protec  LC305M  Neck  Strap」)に掲載された「Neck  Strap」は,ブレードクリンチを有していない点で原告商品の形態と相違するほか,アジャスターは,中央部から左右に伸びる辺(両翼)を有する形状であるものの,中央部の形状が四角形状でない点,中央部の穴が3つであり,4つでない点,中央部の穴の位置などにおいて原告商品のV型プレートの形態と相違し,基本的構成態様においても,ブレードクリンチを有していない点で,原告商品の全体としての形態と相違する。
  さらに,乙3(国際公開公報(WO  00/41589)・訳文乙11)記載の「キャリングストラップ」の「滑車装置」(図11)(アジャスターに相当)は,T字状であり,中央部が四角形状でない点,乙4(再公表特許公報(WO2008/107939))記載の「楽器用ストラップ」の「楽器連結具」(アジャスターに相当)は,細長い棒状である点,乙5(「新型説明書公告本」(TWM443110U1)・訳文乙12)記載の「吊り部品」の「支持ロッド」(図3,4)(アジャスターに相当)は,細長い棒状であり,4つの穴のある四角形状部と「吊り紐」で連結している点において,いずれも原告商品のV型プレートの形態と明らかに相違し,基本的構成態様においても,革パッド部分の形状が原告商品の全体としての形態と相違する。
  そうすると,乙1ないし5から,原告商品の販売が開始された平成28年3月当時,原告商品の形態がありふれた形態であったものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(ウ)  したがって,被控訴人の前記主張は理由がない。
ウ  被控訴人は,旧原告商品からモデルチェンジされた商品である原告商品の形態と旧原告商品の形態は実質的に同一であるから,原告商品の形態は,旧原告商品の形態とは別の形態として,不競法2条1項3号により保護されるものではない旨主張する。
  そこで検討するに,旧原告商品(検甲1)は,別紙「旧原告商品目録」のとおりのサックス用ストラップであり,基本的構成態様が,V型プレート,革パッド,ブレードクリンチ,ブレード(紐)及びフックの5つのパーツにより構成され,5つのパーツは,ブレードクリンチの留めネジ(六角ボルト)を緩めてブレード(紐)を外すことにより,分解することができる点,V型プレートは,中央部の四角形状とその上部から左右に伸びる辺からなり,両翼の先端(左右の端)のそれぞれに穴が1つずつ,中央部に穴が4つあるという基本的形状を有する点,革パッドは,2枚の革を張り合わせ,内部に丸みを帯びた三角形状の2つのクッションを配置し,中央部にクッションを入れずに窪みを設け,中央部から左右の端に向けて幅が狭くなったテーパー型のパッドである点において,原告商品(検甲2)の形態と共通する。
  しかしながら,原告商品のV型プレートと旧原告商品のV型プレートの形態は,別紙「原告商品と旧原告商品の変更点」記載の図4(a)及び(b)のとおり,原告商品のV型プレートは,旧原告商品のV型プレートと比べ,中央部の四角形状から左右に伸びる両翼の形状及び幅が大きく変更され,細長くなっており,両者の形態は一見して明らかに相違することが認められる
  加えて,サックス用ストラップの形態において,V型プレート(アジャスターに相当)は,需要者が注意を引きやすい特徴的部分であることを踏まえると,V型プレートの形態の上記相違により,原告商品から受ける商品全体としての印象と旧原告商品から受ける商品全体としての印象は異なるものといえるから,原告商品の形態は,商品全体の形態としても,旧原告商品の形態とは実質的に同一のものではなく,別個の形態であるものと認められる
  したがって,被控訴人の上記主張は理由がない。
  この点に関し原判決は,①原告商品は,旧原告商品からモデルチェンジされた商品であり,V型プレート,革パッド及びブレード(紐)が旧原告商品からの変更部分である,②原告商品の形態が,旧原告商品の形態の保護期間(不競法19条1項5号イ)が経過した後であっても,同法2条1項3号の保護を受け得るのは,そのV型プレートの変更部分が商品の形態において実質的に変更されたものであり,その特有の形状が美観の点において保護されるべき形態であると認められることによるものであるから,同号による保護を求め得るのは,この変更部分に基礎を置く部分に限られる旨判断したが,前記イ(イ)で説示したとおり,同号の趣旨に照らすと,同号によって保護される「商品の形態」とは,商品全体の形態をいうものであり,また,上記のとおり,原告商品の形態と旧原告商品の形態は,実質的に同一の形態とは認められないから,原判決の上記②の判断は妥当ではない。
エ  以上によれば,原告商品の形態は,その商品全体の形態が,不競法2条1項3号により保護されるべきものと解される。
 
(2)  形態の実質的同一性について 
・・・
イ  そして,原告商品(検甲2)の形態と被告商品(検甲3)の形態とを対比すると,①両者は,基本的構成態様が,V型プレート,革パッド,ブレードクリンチ,ブレード(紐)及びフックの5つのパーツにより構成され,5つのパーツは,ブレードクリンチの留めネジ(六角ボルト)を緩めてブレード(紐)を外すことにより,分解することができる点,V型プレートは,中央部の四角形状とその上部から左右に伸びる辺からなり,両翼の先端(左右の端)のそれぞれに穴が1つずつ,中央部に穴が4つあるという基本的形状を有する点,革パッドは,2枚の革を張り合わせ,内部に丸みを帯びた三角形状の2つのクッションを配置し,中央部にクッションを入
れずに窪みを設け,中央部から左右の端に向けて幅が狭くなったテーパー型のパッドである点において共通し,②V型プレートをはじめとする各パーツの具体的な構成態様においても,形状,色彩,光沢及び質感において多数の共通点(別紙「原告商品と被告商品の各構成態様」のC,D,F,HないしK,N,P,Q,S,T,VないしX,aないしd,fないしhの各欄のとおり)があり,原告商品と被告商品から受ける商品全体としての印象が共通することによれば,商品全体の形態が酷似し,その形態が実質的に同一であるものと認められる
  もっとも,原告商品と被告商品とは,V型プレートにおける中央部の側面及び下面(底辺)の形状,中央部の4つの穴のうち,上部の2つの穴の位置及び間隔,両翼の角度及びその先端部分の角度,光沢,ロゴの位置,革パッドの内側の革の色,革パッドの長さ及びクッションの大きさ,ブレードクリンチの色彩及び光沢,フックの色彩等において相違するが,次に述べるとおり,これらの相違は,商品の全体的形態に与える変化に乏しく,商品全体からみると,ささいな相違にとどまるものと評価すべきものであるから,原告商品の形態と被告商品の形態が実質的に同一であるとの上記判断を左右するものではない。・・・ 」 

【コメント】
 サックス用ストラップの形態模倣が問題になった不競法の事件です。
 一審 (東京地裁平成29(ワ)21107号, 平成30年3月19日判決)では,請求棄却になったのですが(地裁29部,嶋末部長の合議体でした。),知財高裁で逆転の原告勝利となったものです。
 
 お互いの商品は,以下のような感じです。
  
 
 一審では,モデルチェンジしたときから,「日本国内において最初に販売された日」はスタートするものの,モデルチェンジした部分のみを保護する旨の判示でした。そのため,モデルチェンジした部分,具体的には,V型プレートが相違するとして,棄却されたわけです。
 
 ところが,控訴審では,保護されるのは商品の全体であり,しかも本件では,モデルチェンジ前後で同一性もないのだから,V型プレート部分のみに着眼するのはダメだとしたわけです。
 
 その上で,全体の印象が共通で,全体の形態は酷似しているのだから,形態模倣としたのです。なお,一審の際,着目されたV型プレートの違いはささいな相違と判断したようです。 
 そのV型プレートに的を絞った写真がこちらです。
  
 
  結構違うようにも見えますが,まあ全体優先ならささいな相違なのでしょうね。
 
 まあしかし,商品の形態というのは目に見えるものですから,目に見えない特許などと比べると,通常,予測可能性は高いと思います。 
 ところが,今回,一審と控訴審で真逆の結果です。知財事件って企業にすると,なかなか戦略の立てられないものと言えそうです。