2019年4月17日水曜日

審決取消訴訟 商標 平成29(行ケ)10206  知財高裁 無効審判 不成立審決 請求認容

事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成31年3月26日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部                        
裁判長裁判官     森   義 之                                  
裁判官               森 岡 礼 子 
裁判官          古 庄   研 

「  (3)  本件商標と引用商標の対比
ア  外観
(ア)  共通点 
 本件商標と引用商標は,二つの耳がある頭部を有する四足動物が,右から左に向かって,跳び上がるように,頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で,前足と後足を前後に大きく開いている様子を,側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通する。
  そして,両商標の図形は,その向きや基本的姿勢のほか,跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から足にかけての曲線の描き方について,似通った印象を与える。
        (イ)  差異点
  本件商標の図形の動物は,引用商標の図形の動物に比べて頭部が比較的大きく描かれており,頭部と前足の間に間隔がなく,前足と後足が比較的太く,尻尾が大きく,口の辺りに歯のような模様が白い線で描かれ,首の回り飾りのようなギザギザの模様が,前足と後足の関節部分にも飾り又は巻き毛のような模様が,白い線で描かれ,尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾り又は巻き毛のような模様が白い線で描かれているほか,図形の内側に概ね輪郭線に沿って白い線が配されている。
 これに対し,引用商標の図形の動物は,本件商標の図形の動物に比べて頭部が比較的小さく描かれており,頭部と前足の間に間隔があり,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先端が若干丸みを帯びた形状となっており,図形の内側に模様のようなものは描かれず,全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされている。
      イ  観念
  本件商標からは,何らかの四足動物という観念が生じるのに対し,引用商標からは,「PUMA」ブランドの観念が生じる。
ウ  称呼
 本件商標からは,特定の称呼は生じないが,引用商標からは,「プーマ」の称呼が生じる。
エ  検討  
        (ア)  前記アのとおり,本件商標と引用商標は,そのシルエット,内部に白線による模様があるかなどにおいて異なるが,全体のシルエットは,似通っており,本件商標において,内部の白い線の歯のような模様,首の回りの飾りのような模様,前足と後足の関節部分の飾り又は巻き毛のような模様及び概ね輪郭線に沿って配されている白い線がシルエット全体に占める面積は,比較的小さい。
  したがって,本件商標と引用商標との間に外観上の差異は認められるものの,外観全体の印象は,相当似通ったものであるということができる。
 また,前記イ及びウのとおり,本件商標と引用商標は,本件商標からは何らかの四足動物の観念が生じ,特定の称呼は生じないが,引用商標からは,「PUMA」ブランドの観念と「プーマ」の称呼が生じる点で異なっているところ,本件商標から何らかの四足動物以上に特定された観念や,特定の称呼が生じ,それが引用商標の観念,称呼と類似していない場合と比較して,その違いがより明確であるということはできない
(イ)  前記(2)イのとおり,引用商標は,原告の業務に係る「PUMA」ブランドの被服,帽子等を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知著名な商標となっていたものである。
  また,本件商標は,「Tシャツ,帽子」を指定商品とするところ,前記(2)イのとおり,「PUMA」ブランドの商品としても,Tシャツ,帽子が存在し,引用商標と同様の形の図形を付した商品も存在していたのであるから,本件商標の指定商品は,原告の業務に係る商品と,その性質,用途,目的において関連するということができ,取引者,需要者にも共通性が認められる。
 さらに,本件商標の指定商品である「Tシャツ,帽子」は,一般消費者によって購入される商品である。
        (ウ)  これらの事情を総合考慮すると,本件商標の指定商品たるTシャツ,帽子の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,本件商標を指定商品に使用したときに,当該商品が原告又は原告と一定の緊密な営業上の関係若しくは原告と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあると認められる。
  したがって,本件商標には,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」があるといえる。 」

【コメント】
 世界中で有名なスポーツメーカーのプーマ(原告,無効審判請求人)と,沖縄のシーサーをモチーフとしたマークを商売としている人(被告,商標権者)との間での商標の無効審判事件です。
 
 特許庁での無効審判では,4条1項11号,15号,7号の違反はないとされ,不成立審決となりました。
 ところが,知財高裁では逆転で,審決取消(無効)となったものです。 

 商標はこんな感じです。
 まず,商標権者の方のシーサー商標はこんな感じです。
  
  ・商標第5392943号 
 ・指定商品又は指定役務 第25類  Tシャツ,帽子 

 他方,プーマの方はこんな感じです。
 
 そんなに似ているかなあという気がします。

 実は,この両者,相まみえるのは今回がはじめてではありません。
 パロディ商標で有名な事件,プーマ事件で以前戦っております(異議申立てからの,知財高裁平成20年(行ケ)第10311号平成21年2月10日判決,10311事件が確定してからの再度の異議審理からの知財高裁平成21年(行ケ)第10404号平成22年7月12日判決。)。
 ま,このときの異議事件は, 
 ・商標第5040036号
・指定商品
 第25類「Tシャツ,帽子」 
と,
 の,争いなので,本件の事件とは異なるのですけどね(でもこれも別事件で争われています。後述。)。


 上記のとおり,審決では非類似とされましたので,パッと見違います。
 だけど,私が勝手に名付けているスポーツ用品のワンポイントマークの理論,これで類似とされたのではないかと思います。
 
 例えば,一昨年,ランバードとエルケとの間での紛争は,まさにTシャツ等でのワンポイントマークにしたときに相紛らわしい,ということで,類似を認めたものでした。

 そして,今回も,上記の判旨のところにワンポイントマークとは言っていないものの,少なくとも原告はそう主張しており,そういうようなことを容れた上で,判断しているのは明らかです。
 と言いますのは,同時期に,上記の異議で争われた商標(第5040036号)については,知財高裁は非類似の審決を取り消していないからです(知財高裁 平成29(行ケ)10203,平成31年3月26日判決,同様の類型が,知財高裁平成29(行ケ)10204(商標は,第5392941号)と,知財高裁 平成29(行ケ)10205(商標は,第5392942号)の3つです。)。
 他方,今回のようなワンポイントマーク理論を用いたのが,あと1件ありまして,これが,知財高裁平成29(行ケ)10207です。商標は,第5392944号です。 
 つまり,ワンポイントマークの理論が適用されるような商標については,類似の結論で,それが適用出来ないような商標については,非類似という結論になっているのです。
 これら5つの事件を全部概観すると,この206事件についての判断も妥当な感じもしますね。

2019年4月16日火曜日

 特許取消決定取消訴訟 特許     平成30(行ケ)10109  知財高裁 取消決定

事件番号
事件名
 特許取消決定取消請求事件
裁判年月日
 平成31年3月26日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部                      
裁判長裁判官            森              義      之                               
裁判官                    佐      野              信                                  
裁判官                   熊      谷      大      輔 
「   4  取消事由2について
    (1) 本件発明に係る請求項1の「時間の経過に沿って分割された複数の期間のそれぞれに対して,互いに隣接する期間における前記対戦ゲームの進行を制御する対戦条件が異なるように,前記複数の期間の各期間の開始前に,前記対戦条件を設定する」,「前記複数の期間の各期間内において前記対戦条件は変化しない」との構成は,時間の経過に沿って分割された複数の期間(以下「最小単位期間」という。)の対戦条件が,隣接する最小単位期間の対戦条件と異なるように,同対戦条件を各最小単位期間の開始前に設定し,同対戦条件は進行を制御し,各最小単位期間内で変化しないというものである。したがって,本件発明1の「対戦条件を設定する」というためは,①隣接する最小単位期間の対戦条件が異なるものとなるように設定すること(以下「本件構成①」という。),②同設定を,各最小単位期間の開始前に行うこと,③同対戦条件は,対戦ゲームの進行を制御するものであること,④同対戦条件は各最小単位期間内において変化しないことが必要である
    (2) 引用発明1が本件構成①を具備しているかについて
      ア  本件構成①の意味
        (ア) 前記1で認定した本件明細書の記載からすると,本件発明1は,インターネットを通じて複数のプレイヤが同一のゲームに参加するソーシャルゲームにおいて,ゲームに参加するプレイヤにグループを結成させて,グループ同士で対戦させる機能を実装したゲームの制御方法に関する発明であるところ,同ゲームにおいては,レベルや攻撃力の低い初心者がゲームへの参戦に消極的になってしまうことや,得点を効率的に取得できる後半に参加者が多くなり,前半戦における参加率が低調となることという課題があり,本件発明は,同課題を解決するために,一つの時間枠の対戦を複数の期間に分割し,その分割された期間のうち隣接する期間における対戦条件を異なるものとなるように設定するという構成を採用したものと認められる。
 このように,ゲームの前半における参加率を増加させようとの本件発明1の目的を達成させるために,一つの対戦を複数の期間に分割して,各期間の対戦条件を異なるものに設定したことからすると,同対戦条件とは,これからゲームに参加しようとするプレイヤ一般に対して向けられた一般的な対戦条件を意味し,個々のプレイヤを特定した上で設定した対戦条件を含まないと解するのが相当である。 
 すなわち,例えば,本件実施例図7(a)においては,対戦の前半の最小単位期間の対戦条件は,「対戦能力の下位5名の攻撃値が30%アップすること」であり,対戦の中盤の最小単位期間の対戦条件は,「水属性に分類されるカードの攻撃値が30%アップすること」であり,対戦の後半の最小単位期間の対戦条件は,「プレイヤが女性であると攻撃値が30%アップすること」であるところ,仮に,前半の最小単位期間の対戦条件及び中盤の最小単位期間の対戦条件をともに「対戦能力の下位5名の攻撃値が30%アップすること」とした場合でも,ゲームに参加する具体的なプレイヤに着目すれば,前半における「対戦能力が下位5名」と中盤における「対戦能力が下位5名」とは異なることもあるから,攻撃値が30%アップすることになる対戦能力が下位の5名のプレイヤを具体的に特定し,対戦条件を,そのような特定のプレイヤの攻撃力を30%アップするというものと解すれば,隣接する最小単位期間の対戦条件も異なることになるが,このような対戦条件の設定の方法では,前半における参加率の上昇を図るという本件発明1の目的を達成することができないから,本件発明1は,そのような対戦条件の設定は想定していないというべきである。
 そして,本件発明1の請求項は,「時間の経過に沿って分割された複数の期間のそれぞれに対して,・・・対戦条件が異なるように,・・・前記対戦条件を設定する」というものであり,最小単位期間ごとに対戦条件が異なるように設定するとのみ規定され,対戦条件の異同を,ゲームに参加する個々のプレイヤの具体的な能力や属性等を考慮して判断することを規定する文言はないことからすると,上記の解釈は,上記請求項の文言からも,自然な解釈である。 
・・・
 イ  引用発明1が本件構成①を具備しているかについて
        (ア) 本件決定が判断している,引用発明1において本件発明1の「対戦条件」に対応する構成は,「バトルで勝利した回数に応じて回復薬や海原ドリンク等の異なる報酬が,条件を達成したバトル後に付与されること」である。
  そこで,「バトルで勝利した回数に応じて回復薬や海原ドリンク等の異なる報酬が,条件を達成したバトル後に付与されること」が本件発明1の「対戦条件」に対応するとした場合に,引用発明1の構成が本件構成①を具備するかについて検討する。
          a  「バトルで勝利した回数に応じて回復薬や海原ドリンク等の異なる報酬が,条件を達成したバトル後に付与されること」は,最小単位期間ごとに変化するものではなく,すべての最小単位期間において同一であるから,これを対戦条件と解すると,対戦条件を隣接する最小単位期間で異なるように設定していることにはならない。
  したがって,引用発明1の構成は本件構成①を具備していない

          ・・・
  (3)ア  以上のとおりであり,引用発明1は本件発明1の構成である本件構成①を具備しないから,引用発明1は,本件発明1と,少なくとも,この点で相違し,したがって,本件発明1が引用発明1と同一であるということはできない。
      イ  また,本件発明1と引用発明1との相違点である本件構成①が技術常識であるとも認められないから,本件発明1は,引用発明1に基づいて,当業者が容易に発明し得たということもできない。 」

【コメント】
 発明の名称を「ゲーム制御方法,サーバ装置及びプログラム」とする発明について,平成26年2月25日に特許(特許第6043844号)を得た特許権者である原告(グリー)が,異議申立てを受け,これにより特許が取り消されたため(新規性なし,進歩性もなし),取消決定訴訟を提起した事件です。

 クレームからです。
【請求項1】
 各プレイヤがクライアント装置を介して操作するキャラクタを構成員とするグループ同士の対戦ゲームを制御するためのゲーム制御方法であって,時間の経過に沿って分割された複数の期間のそれぞれに対して,互いに隣接する期間における前記対戦ゲームの進行を制御する対戦条件が異なるように,前記複数の期間の各期間の開始前に,前記対戦条件を設定するステップと,設定された前記対戦条件に基づいて,前記対戦ゲームを進行するステップと,を含み,前記複数の期間の各期間内において前記対戦条件は変化しない,ゲーム制御方法。


 図があるので,こっちがわかりやすいと思います。
  
 詳しくはわかりませんけど,何かボーナスタイムみたいなものがあり,そこで,対戦条件に変化が起きるのでしょうかね。

 さて,引用はとの一致点・相違点は以下のとおりです。
「   (ア)  一致点
 各プレイヤがクライアント装置を介して操作するキャラクタを構成員とするグループ同士の対戦ゲームを制御するためのゲーム制御方法であって, 時間の経過に沿って分割された複数の期間のそれぞれに対して,互いに隣接する期間における前記対戦ゲームの進行を制御する対戦条件が異なるように,前記複数の期間の各期間の開始前に,前記対戦条件を設定するステップと,
 対戦ゲームを進行するステップと, 

を含み,
 前記複数の期間の各期間内において前記対戦条件は変化しない, 

ゲーム制御方法。
        (イ)  相違点(以下「相違点1」という。)
 対戦ゲームを進行するステップにおいて,本件発明では「設定された対戦条件に基づいて」対戦ゲームを進行するのに対して,引用発明1ではその点につき明らかでない点。


 そうして,決定では,実質的に引用発明とは差がないと判断したのです。

 他方,この判決では,実質的な差が存在し,しかもそれが微差ではないことから進歩性までも認められました。

 要するに,引用発明では,個別的な対戦条件の変更又は統一みたいなものはあっても,ある期間を区切り,その中で,ある対戦条件を挙げてそれを前の期間とは変えて,ただし,その期間内ではその条件を一定とする, みたいなこととはちょっと違っていたのですね。
 ですので,そことの区別がついたということです。

 とは言え,こういうのって専門機関である特許庁の方がよくわかりそうなもんだと思いますけど,どうなんでしょ。