2019年4月12日金曜日

侵害訴訟 特許  平成30(ネ)10060  知財高裁 控訴棄却(請求棄却)

事件番号
事件名
 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日
 平成31年3月20日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第3部    
裁判長裁判官           鶴      岡      稔      彦 
裁判官            高      橋              彩    
裁判官           間      明      宏      充 

「 (2) 構成要件Fの意義について
      ア  まず,構成要件Fの「入力」との文言の意味について検討する。
        (ア) 本件明細書には,構成要件Fの「入力」の意味を直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらない。
 他方で,本件明細書には,複数の箇所で「入力」との文言が使用されているところ,例えば,段落【0008】の「摩擦力による入力を,直接的または間接的に検出する」のように「物理的な力を加えること」との意味や,段落【0012】の「図14は,…文字を入力する例を示した図である。」のように「コンピュータに情報を与えること」との意味など,同一の文言であるにもかかわらず文脈によって異なる意味で使用されている。
 なお,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び【0062】の記載に基づいて,本件発明の「『当該変更結果を当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に記憶させる』とは,(背景の変更などの)変更結果を,(フォルダYに保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味しているといえる。」と判断しているが,これは構成要件Fの「入力」は「コンピュータに情報を与えること」を意味すると解したものといえる。
        (イ) この点について,控訴人は,構成要件Fの「入力」は,「力入力検出手段」により検出された当該表示対象に対する「力入力」,すなわち「物理的な力を加えること」を意味すると主張する。
 しかし,この解釈は,構成要件H,A及びDでは,「物理的な力を加えること」として「力入力」との文言が明示的に使用されているにもかかわらず,構成要件Fでは敢えて「入力」のように異なる文言が使用されていることと整合しない。
 また,構成要件Fの「入力」は,「当該変更結果」,すなわち,「保持された表示対象以外の表示態様を変更することにより,当該表示対象を相対的に変更させた結果」を目的語としていると解し得るところ,この場合に「入力」を「物理的な力を加えること」と解釈することは不自然である。さらに,「として」は,前に置かれた語を受けて,その状態,資格,立場等であることを表す語であるところ,「入力」を「物理的な力を加えること」と解すると,「入力として…記憶させる」との文言が意味するところを理解できないというべきである。
(ウ) 控訴人は,本件訂正審決が「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として…記憶部に記憶させる」とは,「(背景の変更などの)変更結果を,(フォルダYに保存することなどの)表示対象に対する情報として記憶することを意味している」と判断したことを指摘して,当該判断は控訴人の上記主張と整合するとも主張する。
 しかし,「物理的な力を加えること」と「コンピュータに情報を与えること」とは別個の概念であるから,構成要件Fの「入力」を「物理的な力を加えること」と解した上で,本件訂正審決の判断のように「コンピュータに情報を与えること」との意味をも有すると直ちに理解することは困難である(物理的な力が加わったことをコンピュータに検出させる場合には,両者の意味が重なっているともいい得るが,本件においては,上記説示のとおり,少なくとも「物理的な力を加えること」と解することは不自然であるから,両者の意味が重なっている場合と断ずることもできない。)。
        (エ) 以上によれば,控訴人の主張によっては,構成要件Fの「入力」の意味を一義的に理解することは困難であるというほかない。
      イ  仮に,構成要件Fの「入力」を,本件訂正審決が判断したように,「コンピュータに情報を与えること」と解したとしても,次のとおり,構成要件Fの意義は依然として不明確であるというべきである。
        (ア) 構成要件Fの「当該表示対象」は,構成要件Cの「前記位置入力手段にて検出された位置の表示対象」をいうと解される。
 本件明細書には,この「表示対象」の意味についても,直接定義していると認めるに足りる記載は見当たらないものの,発明の詳細な説明の記載に照らせば,アイコン等(【0021】),アイコンや文字列等(【0029】),アイコンや文字,記号,図形,立体表示対象など(【0035】)がこれに当たるものと解される。
 しかし,表示画面にアイコン等を表示させ,利用者が当該表示画面に接触した位置を検出し,当該接触位置に応じて処理を行う入出力装置においては,表示画面に表示するアイコン等のデータそのもの(例えば,スマートフォンの画面に表示されているカメラ様の画像データ)と,当該アイコン等と紐づけされた実体(例えば,カメラアプリケーション)とは,別個のものとされていることが多いと解されるところ,本件明細書の記載を精査しても,本件発明における「表示対象」が具体的にどのようなものであるのかは明らかといえない。
        (イ) また,上記ア(イ)のとおり,構成要件Fの「当該変更結果」は,「保持された表示対象以外の表示態様を変更することにより,当該表示対象を相対的に変更させた結果」と解し得るところ,「相対的に変更させた結果」についても,背景として設定されている画像が移動したピクセル数や,保持された表示対象と重なることとなったアイコン等の有無及びその種類など,さまざまなものがあり得る。
            そして,構成要件Fによれば,この「相対的に変更させた結果」は,「当該表示対象」に対する情報として与えるものであるが,ある対象に与え得る情報は,当該対象がアプリケーションかデータかや,その実装方法によっても大きく異なるものと解される。
            そうすると,上記(ア)のとおり,「当該表示対象」が具体的に意味するところが明らかでない上に,「相対的に変更させた結果」の意味内容も特定されていないことを考え合わせると,「当該変更結果を当該表示対象に対する入力として記憶部に記憶させる」の意義も明らかでないというべきである。
        (ウ) この点に関し,本件訂正審決は,本件明細書の段落【0035】及び【0062】の記載に基づいて,「当該表示対象に対する入力として前記コンピュータの(判決注:原文のまま)記憶部に記憶させる」とは,「表示要素『B』のデータをフォルダXからフォルダYに移動させて保存することを意味している」と判断した。
 しかし,本件訂正審決の説示においても,「表示要素『B』のデータ」がいかなるデータであるのかが具体的に特定されているとはいい難い。
            また,本件明細書の段落【0035】記載の「フォルダX」及び「フォルダY」と段落【0062】記載の「WINDOW1」及び「WINDOW2」の関係も明らかでなく,いかなる情報が「相対的に変更させた結果」に該当し,「フォルダXからフォルダYに移動させ」ると理解することになるのかについても具体的な指摘がされているとはいえない。
ウ  以上検討したところによれば,結局のところ,構成要件Fの意義は不明確というべきである。
 そして,構成要件Fの意義が不明確である以上,被告各製品が構成要件Fを充足すると認めることはできない。
  」

【コメント】
 発明の名称を「入力制御方法,コンピュータ,および,プログラム」とうする 特許第5935081号 の特許権者である原告が,アップルを訴えた特許権侵害の事件です。
 一審では,乙8文献に基づく新規性欠如の無効理由が存すると認められるとして,請求棄却になりました(東京地方裁判所・平成29年(ワ)第14142号,平成30年6月28日判決)。

 まずはクレームから。
 「 H  表示画面への接触操作において力入力を伴うか否かによって異なる処理を行うことで操作入力の多様性を高めた情報処理装置であって,
A  表示画面にスライドせずに接触したオブジェクトの力入力を,直接的または間接的に検出する力入力検出手段と,
B  前記オブジェクトが前記表示画面に接触した位置を検出する位置入力手段と,
C  前記位置入力手段にて検出された位置の表示対象を前記位置に保持しつつ,
D  前記力入力検出手段により検出された前記力入力に応じて,当該表示対象以外の表示態様を変更することにより,
E  当該表示対象を相対的に変更させ,
F  当該変更結果を当該表示対象に対する入力として記憶部に記憶させる変更手段と,
G  を備えたことを特徴とする情報処理装置。

 構成要件のHは訂正で加わったものです。乙8との差異を出すためのものです。
 
 このように,力入力とあるところから,iphoneの3Dtouchを念頭に置いているということがわかります。
 図面です。
 
 
  まさに,iphoneの3Dtouchという感じがします。
 
 そして,問題になったのは,構成要件F「 当該変更結果を当該表示対象に対する入力として記憶部に記憶させる変更手段と, 」です。 
 
 これが,不明確すぎて, あてはめもできないということなのです。
 サンドウィッチマンのあーちょっと何言ってるかわからないってやつですね。

 まあしかし,これは結論が先にあるかなあという気がします。
 
 例えば,力入力でも結局電気信号に変換されますので,それが記憶されることはあります。
 つまり, 「「入力」を「物理的な力を加えること」と解すると,「入力として…記憶させる」との文言が意味するところを理解できないというべきである。」という判示などは,ちょっとどうかなあと思います。
 もちろん,あるときは「力入力」といい,あるときは「入力」といい,というのはあまりよろしくない所だと思いますけど。
 
 ですので,裁判所がその気になれば,十分文言も不明確じゃなく,あてはめも十分なくらいだとは思います。でもしかし,これでアップルから金を取るか~と裁判所に思わせてしまったのでしょうね。それでジ・エンドです。
 
 ということで,無効の抗弁で記載不備の主張がないにもかかわらず,クレームの文言の不明確さで,請求が棄却になったという近時本当に珍しいレアケースとなった次第です。