2019年4月16日火曜日

 特許取消決定取消訴訟 特許     平成30(行ケ)10109  知財高裁 取消決定

事件番号
事件名
 特許取消決定取消請求事件
裁判年月日
 平成31年3月26日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部                      
裁判長裁判官            森              義      之                               
裁判官                    佐      野              信                                  
裁判官                   熊      谷      大      輔 
「   4  取消事由2について
    (1) 本件発明に係る請求項1の「時間の経過に沿って分割された複数の期間のそれぞれに対して,互いに隣接する期間における前記対戦ゲームの進行を制御する対戦条件が異なるように,前記複数の期間の各期間の開始前に,前記対戦条件を設定する」,「前記複数の期間の各期間内において前記対戦条件は変化しない」との構成は,時間の経過に沿って分割された複数の期間(以下「最小単位期間」という。)の対戦条件が,隣接する最小単位期間の対戦条件と異なるように,同対戦条件を各最小単位期間の開始前に設定し,同対戦条件は進行を制御し,各最小単位期間内で変化しないというものである。したがって,本件発明1の「対戦条件を設定する」というためは,①隣接する最小単位期間の対戦条件が異なるものとなるように設定すること(以下「本件構成①」という。),②同設定を,各最小単位期間の開始前に行うこと,③同対戦条件は,対戦ゲームの進行を制御するものであること,④同対戦条件は各最小単位期間内において変化しないことが必要である
    (2) 引用発明1が本件構成①を具備しているかについて
      ア  本件構成①の意味
        (ア) 前記1で認定した本件明細書の記載からすると,本件発明1は,インターネットを通じて複数のプレイヤが同一のゲームに参加するソーシャルゲームにおいて,ゲームに参加するプレイヤにグループを結成させて,グループ同士で対戦させる機能を実装したゲームの制御方法に関する発明であるところ,同ゲームにおいては,レベルや攻撃力の低い初心者がゲームへの参戦に消極的になってしまうことや,得点を効率的に取得できる後半に参加者が多くなり,前半戦における参加率が低調となることという課題があり,本件発明は,同課題を解決するために,一つの時間枠の対戦を複数の期間に分割し,その分割された期間のうち隣接する期間における対戦条件を異なるものとなるように設定するという構成を採用したものと認められる。
 このように,ゲームの前半における参加率を増加させようとの本件発明1の目的を達成させるために,一つの対戦を複数の期間に分割して,各期間の対戦条件を異なるものに設定したことからすると,同対戦条件とは,これからゲームに参加しようとするプレイヤ一般に対して向けられた一般的な対戦条件を意味し,個々のプレイヤを特定した上で設定した対戦条件を含まないと解するのが相当である。 
 すなわち,例えば,本件実施例図7(a)においては,対戦の前半の最小単位期間の対戦条件は,「対戦能力の下位5名の攻撃値が30%アップすること」であり,対戦の中盤の最小単位期間の対戦条件は,「水属性に分類されるカードの攻撃値が30%アップすること」であり,対戦の後半の最小単位期間の対戦条件は,「プレイヤが女性であると攻撃値が30%アップすること」であるところ,仮に,前半の最小単位期間の対戦条件及び中盤の最小単位期間の対戦条件をともに「対戦能力の下位5名の攻撃値が30%アップすること」とした場合でも,ゲームに参加する具体的なプレイヤに着目すれば,前半における「対戦能力が下位5名」と中盤における「対戦能力が下位5名」とは異なることもあるから,攻撃値が30%アップすることになる対戦能力が下位の5名のプレイヤを具体的に特定し,対戦条件を,そのような特定のプレイヤの攻撃力を30%アップするというものと解すれば,隣接する最小単位期間の対戦条件も異なることになるが,このような対戦条件の設定の方法では,前半における参加率の上昇を図るという本件発明1の目的を達成することができないから,本件発明1は,そのような対戦条件の設定は想定していないというべきである。
 そして,本件発明1の請求項は,「時間の経過に沿って分割された複数の期間のそれぞれに対して,・・・対戦条件が異なるように,・・・前記対戦条件を設定する」というものであり,最小単位期間ごとに対戦条件が異なるように設定するとのみ規定され,対戦条件の異同を,ゲームに参加する個々のプレイヤの具体的な能力や属性等を考慮して判断することを規定する文言はないことからすると,上記の解釈は,上記請求項の文言からも,自然な解釈である。 
・・・
 イ  引用発明1が本件構成①を具備しているかについて
        (ア) 本件決定が判断している,引用発明1において本件発明1の「対戦条件」に対応する構成は,「バトルで勝利した回数に応じて回復薬や海原ドリンク等の異なる報酬が,条件を達成したバトル後に付与されること」である。
  そこで,「バトルで勝利した回数に応じて回復薬や海原ドリンク等の異なる報酬が,条件を達成したバトル後に付与されること」が本件発明1の「対戦条件」に対応するとした場合に,引用発明1の構成が本件構成①を具備するかについて検討する。
          a  「バトルで勝利した回数に応じて回復薬や海原ドリンク等の異なる報酬が,条件を達成したバトル後に付与されること」は,最小単位期間ごとに変化するものではなく,すべての最小単位期間において同一であるから,これを対戦条件と解すると,対戦条件を隣接する最小単位期間で異なるように設定していることにはならない。
  したがって,引用発明1の構成は本件構成①を具備していない

          ・・・
  (3)ア  以上のとおりであり,引用発明1は本件発明1の構成である本件構成①を具備しないから,引用発明1は,本件発明1と,少なくとも,この点で相違し,したがって,本件発明1が引用発明1と同一であるということはできない。
      イ  また,本件発明1と引用発明1との相違点である本件構成①が技術常識であるとも認められないから,本件発明1は,引用発明1に基づいて,当業者が容易に発明し得たということもできない。 」

【コメント】
 発明の名称を「ゲーム制御方法,サーバ装置及びプログラム」とする発明について,平成26年2月25日に特許(特許第6043844号)を得た特許権者である原告(グリー)が,異議申立てを受け,これにより特許が取り消されたため(新規性なし,進歩性もなし),取消決定訴訟を提起した事件です。

 クレームからです。
【請求項1】
 各プレイヤがクライアント装置を介して操作するキャラクタを構成員とするグループ同士の対戦ゲームを制御するためのゲーム制御方法であって,時間の経過に沿って分割された複数の期間のそれぞれに対して,互いに隣接する期間における前記対戦ゲームの進行を制御する対戦条件が異なるように,前記複数の期間の各期間の開始前に,前記対戦条件を設定するステップと,設定された前記対戦条件に基づいて,前記対戦ゲームを進行するステップと,を含み,前記複数の期間の各期間内において前記対戦条件は変化しない,ゲーム制御方法。


 図があるので,こっちがわかりやすいと思います。
  
 詳しくはわかりませんけど,何かボーナスタイムみたいなものがあり,そこで,対戦条件に変化が起きるのでしょうかね。

 さて,引用はとの一致点・相違点は以下のとおりです。
「   (ア)  一致点
 各プレイヤがクライアント装置を介して操作するキャラクタを構成員とするグループ同士の対戦ゲームを制御するためのゲーム制御方法であって, 時間の経過に沿って分割された複数の期間のそれぞれに対して,互いに隣接する期間における前記対戦ゲームの進行を制御する対戦条件が異なるように,前記複数の期間の各期間の開始前に,前記対戦条件を設定するステップと,
 対戦ゲームを進行するステップと, 

を含み,
 前記複数の期間の各期間内において前記対戦条件は変化しない, 

ゲーム制御方法。
        (イ)  相違点(以下「相違点1」という。)
 対戦ゲームを進行するステップにおいて,本件発明では「設定された対戦条件に基づいて」対戦ゲームを進行するのに対して,引用発明1ではその点につき明らかでない点。


 そうして,決定では,実質的に引用発明とは差がないと判断したのです。

 他方,この判決では,実質的な差が存在し,しかもそれが微差ではないことから進歩性までも認められました。

 要するに,引用発明では,個別的な対戦条件の変更又は統一みたいなものはあっても,ある期間を区切り,その中で,ある対戦条件を挙げてそれを前の期間とは変えて,ただし,その期間内ではその条件を一定とする, みたいなこととはちょっと違っていたのですね。
 ですので,そことの区別がついたということです。

 とは言え,こういうのって専門機関である特許庁の方がよくわかりそうなもんだと思いますけど,どうなんでしょ。