2019年7月18日木曜日

不正競争  平成29(ワ)31572  東京地裁 請求一部認容

事件番号
事件名
 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日
 令和元年6月18日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第46部    
裁判長裁判官            柴      田      義      明          
裁判官            安      岡      美  香  子 
裁判官            古      川      善      敬
 
「⑵ 不正競争防止法2条1項1号は,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止するものであるところ,商品の形態は,通常,商品の出所を表示する目的を有するものではない。しかし,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は宣伝広告や販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている(周知性)場合には,商品の形態自体が,一定の出所を表示するものとして,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当することがあるといえる。  
⑶  原告商品の形態の特徴(特別顕著性)について
ア  原告商品は, で述べたとおり,わずかな例外を除いて本件形態1´を備え,メッシュ生地又は柔らかな織物生地に,相当多数の硬質な三角形のピースが,2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて敷き詰めるように配置されることにより,中に入れる荷物の形状に応じてピースに覆われた表面が基本的にピースの形を保った状態で様々な角度に折れ曲がり,立体的で変化のある形状を作り出す。一般的な女性用の鞄等の表面は,布製の鞄のように中に入れる荷物に応じてなめらかに形を変えるか,あるいは硬い革製の鞄のように中に入れる荷物に応じてほとんど形が変わらないことからすれば,原告商品の形態は,従来の女性用の鞄等の形態とは明らかに異なる特徴を有していたといえる。このことは,新聞や雑誌といったメディアにおいて「画期的なデザインバッグ」(前記(1)カ(ウ)),「シンプルなピースが集まって自在に変化するユニークな形」(前記(1)カ(カ) ),「三角形のパーツをつなぎ合わせたフューチャーリスティックなデザイン(前記(1)カ(カ)),「特徴がはっきりしているので販売企業がイッセイミヤケだとすぐ判別でき」る(前記(1)カ(セ)))などと,そのデザインの独特さ,斬新さが取り上げられ,平成19年秋にはデザイン性と機能性を併せ持ったアイテムだけを厳選して掲載するニューヨーク近代美術館のデザインショップ・カタログの表紙に採用されたことからも裏付けられ,原告商品の形態は,これに接する需要者に対し,強い印象を与えるものであったといえる。
    したがって,原告商品の本件形態1´は,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していたといえ,特別顕著性が認められる
    なお,本件形態1´のうちの本件特徴①は,鞄に荷物を入れた場合に現れる形状であるが,鞄を荷物を入れるという通常の用途に従って使用した場合の形状であり,原告商品の販売の際にも中に物を入れた状態で陳列するなどして(後記 ),そのような使用時の形状が分かるように,あるいは使用時にそのような形状が現れることを強調して販売され,需要者もその形状を認識していたか認識することが容易にできたというものである。これらからすると,本件において,本件特徴①を含む本件形態1´を形態の特別顕著性や周知性,混同の有無を検討するに当たり商品の形態とすることが相当である。 
イ  これに対し,被告は,原告商品の形態に特別顕著性が認められるとしても,それは「1種類の直角二等辺三角形のピースを規則的・連続的に配置する」という点のみである旨主張する。
    ここで,原告商品の形態の開発過程において,これを担当したデザイナーらは,二等辺三角形以外の多くのパターンを検討した上で,1種類の二等辺三角形で構成される形態を採用し(前記(1)ア (ウ)),実際に,その後発売された原告商品のおよそ9割においては,ピースは直角二等辺三角形であり,この二等辺三角形のピース4枚が90度の頂点を中心に組み合わさり,正方形を構成するように規則的に配置されていたと認められる(前記(1)ア(イ) )。
    しかしながら,前記アのとおり,一般的な女性用の鞄等の表面は,布製の鞄のように中に入れる荷物に応じてなめらかに形を変えるか,あるいは硬い革製の鞄のように中に入れる荷物に応じてほとんど形が変わらないのに対し,原告商品の形態は,中に入れる荷物の形状に応じて相当多数のピースに覆われた表面が基本的にピースの形を保った状態で様々な角度に折れ曲がり,立体的で変化のある形状を作り出すものであり,この点において,従来の女性用の鞄等の形態とは明らかに異なる特徴を有していたといえる。そし て,需要者は,本件ブランドの専門店,新聞や雑誌あるいは街頭において,荷物を入れ表面が立体的に変化した状態の原告商品を観察するところ(前記・・・),その状態において,需要者は,従前の鞄との根本的な違いが存在する部分であることからも,原告商品の表面にピースの継ぎ目が折れ曲り,鞄の表面に様々な角度に傾いた相当多数の三角形を面とした多様な立 体形状が現れる点が強く印象付けられるといえる。実際に,原告商品を取り上げた雑誌や新聞等において,三角形が二等辺三角形であることや一種類であることなどを上げる記事がないわけではないものの(前記(1)カ(ソ),(チ),(ト),(ヌ)),大部分の記事は,原告商品の形態につき「三角形が連なった立体的なフォルムを自由自在に作り出している。」,「三角形のピースが寄せ集まって 一つとなり,そのピースの動きによって自在に形を変える」など,相当多数の三角形のピースが敷き詰められるように配置されることによって形成される多様な立体形状について述べるものが大部分である (前記(1)カ)。
    そうすると,本件特徴①ないし③´を備えている本件形態1´について,それのみで他の同種商品とは異なる顕著な特徴と捉えることが相当であり,被告の上記主張は採用することができない。 ・・・

⑵  被告商品の形態は前記(1)アのとおりであり,いずれも,本件特徴①及び②に加え,一定程度の硬質な質感を有する相当多数の三角形のピースを,タイルの目地のように2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて,敷き詰めるように配置するとの本件特徴③´を備えると認められる。そうすると,被告商品は,原告商品の顕著な特徴である本件形態1´を有する点において,原告商品と同一の商品等表示を使用するものといえる(なお,少なくとも, 本件形態1´が周知になった後において,被告商品に接した需要者は,そのピースの質感や鞄の生地等から,鞄に荷物を入れた状態の本件形態1´を認識するといえる。)。
  一方,前記1(1)ア(イ)のとおり,本件形態1´を備える原告商品のおよそ9割は,ピースは直角二等辺三角形であり,この二等辺三角形のピース4枚が90度の頂点を中心に組み合わさり,正方形を構成するように規則的に配置されているのに対し,被告商品は,特に被告商品1,3ないし8においては複数種類の三角形のピースが不規則に配置され,被告商品2ないし6,8のピースの一部は四角形である点において,相違する
    しかしながら,前記1(3)イで述べたとおり,需要者は,原告商品の形態を荷物を入れた状態で観察するところ,その状態では,原告商品の表面には凹凸が生じており,原告商品の表面に直角二等辺三角形のピースが規則的に並べられているという点よりも,ピースの継ぎ目が折れ曲り,鞄の表面に,様々な角度に傾いた相当多数の三角形を面とした多様な立体形状が現れる点が,需要者に強い印象を与えるということができる。また,このような表面に凹 凸が生じた状態においては,同じ直角二等辺三角形であっても,傾きによって様々な大きさ及び角度の三角形に見えることに加え,継ぎ目が不規則に折れ曲がるため,ピースが規則的に並べられているか否かは需要者に強い印象を与えないといえる。加えて,被告商品2ないし6,8に用いられている四角形のピースは,いずれも正方形ではなく不規則な台形であり,周囲の三角形のピースに調和している上,その数も三角形52枚に対して4枚(被告商品2),三角形151枚に対して17枚(被告商品3),三角形131枚に対して5枚(被告商品4,5,8),三角形74枚に対して13枚(被告商品6)と少なく,注意深く観察しなければピースの一部が四角形であることは分からない。
    そうすると,中に荷物を入れた状態の原告商品と,被告商品の外観は,タ イルを想起させる一定程度の硬質な質感を有する相当多数の三角形のピースを,タイルの目地のように2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて,敷き詰めるように配置するという本件特徴③´が需要者に印象付けられるのに対し,被告商品の複数種類の三角形及び四角形が不規則に配置されているとの特徴は,両商品を離隔的に観察した場合に判別し得る相違点とまでは いうことができない。 のとおり,インターネット上において,被告商品と同様に複数種類の相当多数の三角形のピースが不規則に配置された鞄を原告イッセイミヤケの商品であると誤認する,投稿に不自然な点がうかがわれない一般需要者によるとみられる投稿が複数存在することも,これを裏付けるといえる。 
    以上によれば,原告商品の形態と被告商品の形態は,全体として類似するということができる。 」

【コメント】
 マスコミでも多少話題になった,イッセイミヤケのBAOBAOバッグを巡る不正競争防止法の事件です(もう1ヶ月前の判決ですが。)。
 
 原告が当然イッセイミヤケ等で,被告がよくネット通販等で見られる業者です。 

 まず,判旨によく出る本件形態1’ですが,以下のとおりです。

いずれも鞄等を構成する柔 らかい生地の表面に,相当多数のタイル状の三角形のピースを2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて敷き詰めるように配置するとの特徴を有しており,本件特徴①及び②,並びに,「その上にタイルを想起させる一定程度の硬質な質感を有する相当多数の三角形のピースを,タイルの目地のように2mmないし3mm程度の同一の間隔を空けて,敷き詰めるように配置する」という特徴(以下「本件特徴③´」という。)を備えていた(以下,同形態を「本件形態1´」)という。)。
 
 と言っても,これは現物を見た方がいいでしょう。
 まずは,原告商品1です。
 
 
 次に被告商品1です。
 
 三角形の形が若干ちがいますが(判旨にもその辺の評価があります。),ものを入れると似たような感じなるなど,これは形態模倣かなあという感じがします。
 
 画期的なデザインだそうで(私のような素人が見てもそれはそうだと思います。),そうなると保護の範囲も広くなるのかなあなんて思ったりもします(別に当てこすりじゃありません。)。