2019年7月16日火曜日

侵害訴訟 特許    平成31(ネ)10009  知財高裁 控訴棄却(請求一部認容)

事件番号
事件名
 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日
 令和元年6月27日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部                        
裁判長裁判官          大      鷹      一      郎                                
裁判官          古      河      謙      一                                
裁判官          岡      山      忠      広  
 
「イ  特許法167条は,特許無効審判の審決が確定したときは,当事者及び参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができないと規定している。この規定の趣旨は,先の審判の当事者及び参加人は先の審判で主張立証を尽くすことができたにもかかわらず,審決が確定した後に同一の事実及び同一の証拠に基づいて紛争の蒸し返しができるとすることは不合理であるため,同一の当事者及び参加人による再度の無効審判請求を制限することにより,紛争の蒸し返しを防止し,紛争の一回的解決を実現させることにあるものと解される。このような紛争の蒸し返しの防止及び紛争の一回的解決の要請は,無効審判手続においてのみ妥当するものではなく,侵害訴訟の被告が同法104条の3第1項に基づく無効の抗弁を主張するのと併せて,無効の抗弁と同一の無効理由による無効審判請求をし,特許の有効性について侵害訴訟手続と無効審判手続のいわゆるダブルトラックで審理される場合においても妥当するというべきである。
 そうすると,侵害訴訟の被告が無効の抗弁を主張するとともに,当該無効の抗弁と同一の事実及び同一の証拠に基づく無効理由による無効審判請求をした場合において,当該無効審判請求の請求無効不成立審決が確定したときは,上記侵害訴訟において上記無効の抗弁の主張を維持することは,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに,前記アの認定事実によれば,①控訴人らは,本件訴訟の原審において,本件特許について,明確性要件違反,サポート要件違反,乙22を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如,乙23を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如等の無効理由による無効の抗弁を主張したこと,②控訴人らのうち,控訴人日進のみが本件特許を無効にすることを求める別件無効審判を請求し,本件特許の設定登録時の請求項1及び2に係る発明の無効理由として「無効理由1」ないし「無効理由5」を主張し,被控訴人は別件無効審判手続において本件訂正をしたところ,特許庁は,本件訂正を認めた上で,控訴人日進主張の「無効理由1」ないし「無効理由5」により本件特許を無効とすることはできないとして,別件無効審判の請求は成り立たないとの別件審決をしたこと,③控訴人日進が別件審決に対する審決取消訴訟を提起しなかったため,別件審決は,原判決の言渡し前に確定したことが認められる。
 加えて,控訴人日進が原審及び当審において主張する乙22を主引用例とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理由は,確定した別件審決で排斥された「無効理由3」と実質的に同一の事実及び同一の証拠に基づくものと認められるから(前記ア(ウ)),被控訴人日進が当審において乙22を主引用例とする本件訂正発明の進歩性欠如の無効理由による無効の抗弁を主張することは,訴訟上の信義則に反するものであり,民事訴訟法2条の趣旨に照らし許されないと解すべきである。 」
 
【コメント】
 特許権侵害訴訟の控訴審の事件です。
 一審(大阪地方裁判所平成28年(ワ)第6494号,平成30年12月18日判決)では原告が勝訴し,これに不服の被告らが控訴したものです。
 
 被控訴人(原告)の特許は,発明の名称を「薬剤分包用ロールペーパ」とする発明についての特許(特許第4194737号。)です。
 
 クレームは以下のとおりです。
【請求項1】  非回転に支持された支持軸の周りに回転自在に中空軸を設け,中空軸にはモータブレーキを係合させ,中空軸に着脱自在に装着されるロールペーパのシートを送りローラで送り出す給紙部と,シートを2つ折りしその間にホッパから薬剤を投入し,薬剤を投入されたシートを所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする加熱ローラを有する分包部とを備え,ロールペーパの回転角度を検出するために支持軸に角度センサを設け,分包部へのシート送り経路上でシート送り長さを測定する測長センサを設け,ロールペーパを上記中空軸に接合回転可能に接合する手段をロールペーパと中空軸が接する端に設け,両センサの信号に基づいてシート張力をロールペーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するようにした薬剤分包装置に用いられ,中空芯管とその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いたロールペーパとから成り,ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するために,支持軸に設けた角度センサでシートの巻量が検出可能な位置に磁石を配置し,その磁石をロールペーパと共に回転するように配設して成る薬剤分包用ロールペーパ。

 この手のは図がないと全くわかりませんね。
  
 図1がこんな感じです。 
 従来,薬剤を入れる分包用のペーパーってロール紙からほどき,そこに薬を入れ熱融着等する際に張力の調整が効かずずれたり,また張力の調整をしたら振動が生じるなどして上手くいかなかったらしいですね。
 それを本件は,上手く解決したというものらしいです。
 
 で,肝腎なのは,そういう技術的なことではありません。
 本件では,被告側から,無効審判が提起され((無効2017-800089号事件),ししかしながら,不成立審決で,そのまま確定となっております。
 
 そのため,上記の判旨のとおり,もう控訴審で同じ無効理由を主張することは許さんとされたのですね。
 実は,昨年末に同様の判示がありました(知財高裁平成29(ネ)10086)。このブログでも紹介しました。その際は,3部の鶴岡部長の合議体でしたが,今回は,4部の大鷹部長の合議体です。

 ですので,知財高裁の判断は固まったと言ってよいでしょう。
 ポイントは,途中でやめるな!これに尽きます。被告側は肝に銘じるべきでしょうね。