2019年9月9日月曜日

不正競争     平成31(ネ)10002  知財高裁 控訴認容(請求認容)

事件名
 不正競争行為差止請求控訴事件
裁判年月日
 令和元年8月29日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部                        
裁判長裁判官          大      鷹      一      郎                                
裁判官          古      河      謙      一                                
裁判官          岡      山      忠      広 
 
「4  争点1-3(被告商品の販売は原告商品と「混同を生じさせる行為」に当た
るか)について
(1)  原告商品の形態は,控訴人が昭和59年に「SBバック」の商品名で原告商品の販売を開始した当時から,他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有していたものであり,その後被告商品の販売が開始された平成30年1月頃までの約34年間の長期間にわたり,他の同種の商品には見られない形態として,控訴人によって継続的・独占的に使用されてきたことにより,少なくとも被告商品の販売が開始された同月頃の時点には,需要者である医療従事者の間において,特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに,原告商品の出所を表示するものとして広く認識されていたこと,原告商品と被告商品は,同一の形態に近いといえるほど形態が極めて酷似し,被告商品の形態は,原告商品の形態と類似することは,前記2(2)ア及び3(1)ウ認定のとおりである。
 そして,前記1の認定事実によれば,医療機器の取引プロセス等に係る取引の実情として,①医療機関が医療機器を新規に購入する場合,医療従事者が,医療機器メーカー又は販売代理店の販売担当者から,商品説明会等で当該医療機器の特色,機能,使用方法等に関する説明を受けた後,臨床現場で当該医療機器を1週間ないし1か月程度試行的に使用し,使い勝手,機能性等の評価を経た上で新規採用を決定し,医療機器メーカー又は販売代理店に対して当該医療機器を発注することが一般的であり,一定の病床数を有する医療機関にあっては,医師,看護師その他の医療スタッフから構成される「材料委員会」が開催され,その構成メンバーによる協議を経て,当該医療機器の新規採用が決定されているが,一方で,個人病院や病床数が少ない医療機関にあっては,材料委員会が開催されることなく,医師の意向により新規採用が決定される場合も少なくないこと,②医療機関が従前から使用している医療機器を継続的に購入する場合,各種医療機器の画像,品番,仕様,価格等が記載された医療カタログに基づいて,医療機器メーカー又は販売代理店の販売担当者に対して品番等を伝えて発注し,また,インターネット上のオンラインショップで購入する場合があること,③消耗品等の比較的安価な医療機器については,医療機関が新規に購入する場合においても,医療カタログに基づいて医療機器メーカー又は販売代理店の販売担当者に対して品番等を伝えて購入したり,オンラインショップで購入することもあること,④医療機関においては,用途が同じであり,容量等が同様の医療機器については,一種類のみを採用し,新たな医療機器を一つ導入する際には同種同効の医療機器を一つ減らすという「一増一減ルール」が存在するが,「一増一減ルール」は,主に大学病院,総合病院等の大規模な医療機関において採用されており,小規模の医療機関においては,各医師がそれぞれ使いやすい医療機器を使用する傾向が強いため,そもそも「一増一減ルール」が採用されていない場合があり,また,「一増一減ルール」を採用している医療機関においても,徹底されずに,医師の治療方針から特定の医師が別の医療機器を指定して使用したり,新規の医療機器が採用された後も旧医療機器が併存する期間があるなど,同種同効の医療機器が複数同時に並行して使用される場合があり得ること,⑤バーコードで医療機器を特定して発注や在庫管理を行い,また,医療機関で使用される物品の発注,在庫管理,病棟への搬送などのサービス(SPD)を事業者に委託している医療機関もあるが,全ての医療機関において,このようなバーコードを利用した医療機器の発注,在庫管理やSPDの委託を行われているわけではなく,SPDの委託率も決して高いもの
ではないこと,⑥原告商品及び被告商品は,消耗品に属する医療機器であり,カタログ販売のほかに,商品画像とともに,品番,型番,価格等掲載されたオンラインショップ(「アスクル」のウェブサイト)による販売が行われていることなど,両商品の販売形態は共通していることが認められる。
 以上を総合すると,原告商品の形態が,控訴人によって約34年間の長期間にわたり継続的・独占的に使用されてきたことにより,需要者である医療従事者の間において,特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに,原告商品の出所を表示するものとして広く認識されていた状況下において,被控訴人によって原告商品の形態と極めて酷似する形態を有する被告商品の販売が開始されたものであり,しかも,両商品は,消耗品に属する医療機器であり,販売形態が共通していることに鑑みると,医療従事者が,医療機器カタログやオンラインショップに掲載された商品画像等を通じて原告商品の形態と極めて酷似する被告商品の形態に接した場合には,商品の出所が同一であると誤認するおそれがあるものと認められるから,被控訴人による被告商品の販売は,原告商品と混同を生じさせる行為に該当するものと認められる。 」

【コメント】
 医療器具(ポータブルのディスポーザブル低圧持続器。要らん血だとか膿だとかを排出させる器具のようです。)の模倣品について,不競法2条1項1号の周知表示かどうかが問題になった事件です。
 
 一審(東京地裁平成30(ワ)13381号,平成30年12月26日判決)では, 周知表示にも当たり,類似でもあるけれど,混同が生じない!という実にまれな理由により請求棄却になったものです(29部,山田部長の合議体でした。)。
 そこで,不満のある原告が控訴したわけです。
 
 一審では,以下のように判示されました。
「前記認定によれば,原告商品及び被告商品の取引態様については,専門家である医療従事者が,医療機器の製造販売業者や販売業者の担当者から,当該医療機器の特色,機能,使用方法等に関する説明を受けて,当該医療機器の購入を決め,医療機器専門の販売業者に対して当該医療機器を発注するというプロセスをたどって取引されているのであり,しかも,多くの医療機関においては,医療機器の使用について,医療機関が医療機器を採用するにあたっては,同種の医療機器については,一種類のみを採用するという原則的な取扱いであるいわゆる一増一減のルールが採用されているというのである。そして,原告商品と被告商品には商品自体には商品名及び会社名が記載され,それぞれ別々のパンフレット(甲1,20)が作成されて別々に販売される上,需要者である医療従事者も医療機器に関する専門知識を有する者なのであるから,被告商品の販売行為によって需要者である医療従事者において原告商品と被告商品の出所が同一であると誤認するおそれがあるとは認められない。」
 
 ま,要するに,排他的に採用されるものだし,ちゃんと区別できるでしょ!というわけです。
 
 ところが,二審ではオーソドックスに,いやいやいや,周知表示になっているということは相当キャラが立っているわけで,類似ということであれば,普通混同起こすでしょ!ということでしょうね。
 
 
  この写真が,原告商品と被告商品ですが,よく似ていますよ。
 
 まあ一審の山田部長の合議体は,些か理論倒れというか頭でっかちというか,優等生に有りがちの木を見て森を見ずパターンだったのかなあと思います。