2019年10月30日水曜日

不正競争     令和1(ネ)10037  知財高裁 控訴棄却(請求一部認容)

事件番号
事件名
 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日
 令和元年10月9日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第1部    
裁判長裁判官          高      部      眞  規  子      
裁判官          小      林      康      彦      
裁判官          関      根      澄      子 
 
「2  違法な引き抜き行為の有無(争点2)について
⑴  控訴人は,控訴人において開錠業務のノウハウ等を有していた本件元従業員らが,これを有しない被控訴人会社に就職し,開錠業務を行ったという事実関係からすれば,被控訴人会社の代表者である被控訴人Y1に,違法な引き抜き行為として不法行為を構成する行為があったことは明らかであると主張する。
⑵  労働者が使用者と競合する他の事業者に就職した場合においても,一般に,事業者が他の事業者の従業員に転職を勧誘する行為は,それだけでは直ちに自由競争の範囲を逸脱することはなく,不法行為を構成するものとはいえないと解される。 本件においては,前記1で説示したとおり,被控訴人Y1は,同Y2から解錠業者として独立する際のウェブ広告にかかる費用の見積もりをしてほしい旨相談されたことを契機に,被控訴人会社の業務として行ってはどうかと提案したほかに,本件元従業員らの転職に積極的に関与したとは認められない。
 本件元従業員らの行動についてみても,後記3で説示するとおり,そもそもグンマジを用いた開錠の方法やグンマジの構造・部材に関する本件情報が営業秘密に当たらないので,グンマジの使用をもって不正競争行為に該当するとはいえないことや,後記4で説示するとおり,被控訴人Y2及び同Y3を含む元従業員らが競業避止義務を負うものでないことにも鑑みれば,本件元従業員らが被控訴人会社においてグンマジを使用して開錠業務を行ったことに関し,違法とまで評価すべき点はない。
 そうすると,被控訴人Y1においてした行為が自由競争の範囲を逸脱することはなく,その行為が不法行為を構成するものとはいえない。
⑶  よって,被控訴人Y1において,違法な引き抜き行為として不法行為を構成する行為があった旨をいう控訴人の主張は,理由がない。
 ・・・・
4  被控訴人Y2及び同Y3の競業避止義務違反の有無(争点4)について
⑴  労働者が使用者と競合する企業に就職したり自ら開業したりしないという競業避止義務につき,使用者と退職者との間で,個別に退職後の競業避止義務に関する合意をしたとしても,このような合意は,退職者の職業選択の自由,営業の自由を制限するものであるから,無条件にその効力が承認されることはなく,使用者の利益,退職者の従前の地位,制限の範囲,代償措置の有無や内容から,退職者の競業避止義務を定める合意の効力を検討すべきものと解するのが相当である
⑵  控訴人は,被控訴人Y2のかかる合意の効力を主張するとともに,被控訴人Y3についても,競業避止義務を含む誓約書(甲93)が見つかったとして,当審において新たに証拠として提出する。
 しかしながら,前記前提事実(第2の2⑷)のとおり,被控訴人Y2が提出した誓約書(甲37)の内容は,場所的制限もなく一律に退職後3年間というある程度の長期間にわたり競合関係に立つ事業者への転職を禁止するものであること,被控訴人Y3から提出された誓約書も,証拠(甲93)によれば,退職後1年間にわたり場所的制限なく一律に競合関係に立つ事業者への転職を禁止するものであり,制限の範囲は広く,直ちにその効力を承認することはできない。
 そこで,控訴人は,使用者の利益や退職者の従前の地位の観点から,開錠という業務の性質上従業員に競業避止義務を課す必要性が高いことを主張し,また,開錠技師として入社した従業員に対しては比較的高額な賃金を支払っていたので,競業避止義務を課すことの代償措置は講じられていたとも主張する。
 しかしながら,控訴人においては,一般人を対象として有料で開錠技術等を教える本件講座を開講し,グンマジを使用するものも含めて開錠の方法が教えられ,本件講座と関係して,グンマジを29万8000円で販売していたことなどの前記の事情に照らすと,業務の性質上競業避止義務の必要性が高いという控訴人の主張の根拠は薄いといわざるを得ない。また,従業員にとっての賃金は,基本的には在職中の職務に関して支払われるとみるべきものであり,これを直ちに退職後の活動が制約されることの代償としてみることについては疑義がある上,本件事実関係の下において十分な措置があるといえるだけの事実関係を基礎付ける的確な証拠もない。
 そうすると,上記各誓約書は公序良俗に反して無効というべきである。」
 
【コメント】
 本件は,鍵の販売,取付け,修理等を業とする業者さんが,辞めた元従業員と,その新しい勤め先を相手取って,用具(グンマジ)の無断持ち出しと,引き抜きと競業避止義務について争いになった事案です。
 
 そうだ,このブログで初めての令和の事件番号じゃないですかね~。
 
 で,用具の無断持ち出しはそりゃダメということで,ほぼ決着がついているのですが,あとの,引き抜きと競業避止義務が問題になったというわけです。
 
 ちょっと前にエクステサロンの件で元従業員の競業避止義務に関する事件をここで紹介しました。そのときは,競業避止義務は認めませんでした(これは知財高裁3部の鶴岡部長の合議体でした。)。

 そして,今回,高部所長の合議体も,競業避止義務を認めておりません。
 
 さらに,今回特徴的なのは,引き抜きをした他社も訴えていたのですが,やはり引き抜きに対する請求は認めていません。

 ですので,よくあるパターンとして,退職者に競業避止義務の入った誓約書を書かせることがあると思いますが,はっきり言ってそれに頼っちゃダメということです。
 セキュリティはきちんとした上で,去る者は追わず来る者は拒まず,そのような方針(まあ前向きな方針というべきでしょうか。)で,会社経営するしかない,ってことです。当たり前のことかもしれませんね。