2019年11月6日水曜日

侵害訴訟 特許  平成30(ネ)10006等  知財高裁 原判決変更(請求一部認容,特許A,Bとも))

事件名
 特許権侵害行為差止等請求控訴,同附帯控訴事件
裁判年月日
 令和元年9月11日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第3部                          
裁判長裁判官           鶴      岡      稔      彦                                  
裁判官                   上      田      卓      哉                                  
裁判官                   山      門              優 
 
 
特許Aについて
「   イ  本件発明A1の技術的範囲の属否について
        (ア)  構成要件D,D-1及びD-2の意義 
 a(a)  本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,「第2の記憶媒体」は「所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する」ものであり(構成要件B-2),「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき」(構成要件D)に,「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ」(構成要件D-1),「上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させる」(構成要件D-2)ことを理解できる。
 一方,上記特許請求の範囲には,「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期について,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され」た直後のステップであって,第2の記憶媒体によりゲーム装置が作動する前の時点に限定して解釈すべき根拠となる記載はない。
⒝  次に,前記ア(イ)のとおり,本件明細書Aの発明の詳細な説明には,「本願発明」は,第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラム及び/又はデータと上記拡張ゲームプログラム及び/又はデータの双方によってゲーム装置を作動させ,上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラム及び/又はデータのみによってゲーム装置を作動させるという構成を採用することにより,第1の記憶媒体と第2の記憶媒体とを所有するユーザは,第2の記憶媒体に記憶されている標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容を楽しむことが可能となる等の効果を奏することが記載されており,この点に技術的意義があるものと認められる。
 そして,本件発明A1の上記技術的意義に照らすと,「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期を,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され」た直後のステップであって,第2の記憶媒体によりゲーム装置が作動する前の時点に限る必然性は見いだし難い。本件明細書A全体をみても,「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期を上記の時点に限定することによって,その他の時点で上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込む場合と比して有利な効果を生じるなどの技術的意義があることについての記載も示唆もない。
⒞  以上の本件発明A1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Aの記載によれば,本件発明A1の「上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込」む時期は,「上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され」ている場面であれば足り,第2の記憶媒体がゲーム装置に装填された直後のステップであって,第2の記憶媒体によりゲーム装置が作動する前の時点に限定されるものではないと解すべきである。 
・・・
(ウ)  イ号方法の構成要件充足性について
          a  イ号方法のうちイ-1号方法等以外のもの 
  証拠(甲A5,7~9,11,14,19,21~25)及び弁論の全趣旨によれば,イ号方法のうちイ-1号方法等以外のもの(イ-9,16ないし22,23②及び24ないし40号方法。以下「イ-9号方法等」と総称する。)の構成は,別紙9「イ号方法の構成」記
載のとおりであると認められる。
  そして,本件発明A1の構成要件とイ-9号方法等の構成との対比は,別紙9「イ号方法の構成」記載のとおりであるから,イ-9号方法等は,本件発明A1の構成要件をすべて充足するものであって,本件発明A1の技術的範囲に属するものと認められる。
 これに対し被控訴人は,イ-9号方法等の構成は,別紙3「イ号方法説明書(被控訴人)」記載のとおりであり,イ-9号方法等は構成要件D,D-1及びD-2を充足するものではない旨主張する。
 しかしながら,上記主張は,構成要件D,D-1及びD-2は,第2の記憶媒体によりゲーム装置を作動させる前に,「所定のキー」が読み込まれているか否かを判定するものであると解することを前提とするところ,かかる解釈を採用できないことについては,前記(ア)aのとおりである。
 したがって,被控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することはできない。 

・・・
 ⑸  争点1-2-1(本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づく本件発明A1及びA2の進歩性の欠如の有無)について
ア  本件ゲームシステムA1により公然知られた発明又は公然実施をされた発明
(ア)  証拠(乙A2~6,8~10,13,14(枝番号を含む。))及び
 弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 
 本件特許出願A(平成6年12月9日)前に発売されていたファミリーコンピュータ(昭和58年発売。乙A5の3),ファミリーコンピュータディスクシステム(昭和61年2月21日発売。乙A6の2),ゲームソフト「魔洞戦紀」(昭和61年12月19日発売。乙A3の2),ゲームソフト「勇士の紋章」(昭和62年5月29日発売。乙A3の4)及びテレビを用いて実現されるゲームシステムを作動させる方法は,本件特許出願Aの前に,公然知られていた(以下「本件公知発明1」という。)。
 本件公知発明1の構成は,次のとおりである。 
・・・・
イ  本件発明A1と本件公知発明1の対比
 本件発明A1と本件公知発明1とを対比すると,以下の相違点が存在することが認められる。
(相違点1-1)
一の記憶媒体,二の記憶媒体が,本件発明A1は,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」であるのに対し,本件公知発明1は「セーブデータなどを記憶可能なディスク」である点。
(相違点1-2)
  本件発明A1の「第1の記憶媒体」は,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除くから,「所定のキー」はセーブデータを含まないのに対し,本件公知発明1では,魔洞戦紀DDIに包含される「所定のキー」が,魔洞戦紀DDIに記憶されたセーブデータであって,魔洞戦紀DDIにセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報である点。
ウ  相違点の容易想到性について
(ア)  本件公知発明1の技術思想
 本件公知発明1の内容に加え,前記アに掲記の各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,①ディープダンジョン(DD)シリーズの後作「勇士の紋章」は,前作「魔洞戦紀」の続編であって,両者は,魔洞戦紀において,魔王が勇剣士に倒され平和を取り戻したものの,勇士の紋章において,魔王が復活し,勇剣士が再び冒険するという一連のストーリーを有するゲームであること,②「魔洞戦紀」の勇剣士のキャラクタを,「勇士の紋章」に転送することにより,「魔洞戦紀」の「勇剣士」を,「勇士の紋章」の「勇士」として復活させることができること,③「魔洞戦紀」において,キャラクタのレベルが16以上であれば,レベル1からではなく,レベル2のキャラクタとして「勇士の紋章」でプレイできること,④このような場合に,「魔洞戦紀」から転送されたレベル16以上のキャラクタは,「勇士の紋章」においては「勇剣士の子孫」として復活すること,⑤「魔洞戦紀」のキャラクタリストは,「魔洞戦紀」において,特定のキャラクタでゲームをプレイしている途中で中断し,その後,中断した場面からゲームを再開してプレイするために,ディスクにセーブされたものと解されることが認められる。
 上記認定事実によれば,本件公知発明1は,前作と後作との間でストーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にしたりすることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対して,続編である後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起し,これにより後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。
        (イ)  相違点1-1について
 前記(ア)のとおり,本件公知発明1は,キャラクタでプレイするゲームにおいて,セーブされたキャラクタを前作のゲームから後作のゲームに転送するものであり,前作のゲームにおいて,プレイ途中でセーブして,なおかつ,キャラクタのレベルが16以上である場合に,後作のゲームにおいて,ゲームのプレイが有利になるという特典が与えられるものである。
 そうすると,本件公知発明1は,少なくとも,前作において,ゲームをプレイ途中でセーブするとともに,ゲームをある程度達成した,すなわち,前作のゲームにおいて,キャラクタのレベルが16以上となるまでプレイしたという実績があることが,後作においてプレイを有利にするための必須の条件であり,「キャラクタ」,「プレイ実績」を示す情報を前作の記憶媒体にセーブできることが本件公知発明1の前提であって,「キャラクタ」,「プレイ実績」の情報をセーブできない記憶媒体を採用すると,前作のゲームにおける「キャラクタ」,「プレイ実績」の情報が記憶媒体に記憶されないこととなり,「前作のゲームのキャラクタで,後作のゲームをプレイする」,「前作のキャラクタのレベルが16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムを動作させる」 という本件公知発明1を実現することができなくなることは明らかである。
 したがって,仮に,被控訴人の主張するとおり,ゲームプログラム及び/又はデータを記憶する媒体としてCD-ROMを用いることが本件特許Aの出願前において周知技術であり,また,同一タイトルのゲームをCD-ROMやROMカセットに移植することが一般的に行われている事項であったとしても,本件公知発明1において,記憶媒体を,ゲームのキャラクタやプレイ実績をセーブできない「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更する動機付けはなく,そのような記憶媒体を採用することには,阻害要因がある
 以上のとおりであるから,本件公知発明1において,相違点1-1に係る本件発明A1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものであるとは認められない。 
・・・
  ⑺  争点1-3(控訴人の損害の有無及び損害額)について
        控訴人は,特許法102条3項により算定される損害額を主張する。同項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
ア  その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
(ア)  特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。
 特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなど様々な契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
 したがって,実施に対し受けるべき料率は,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。 
・・・
(ウ)  実施に対し受けるべき金銭の額
a  前記(イ)のとおり,本件訴訟において本件特許Aの実際の実施許諾契約の実施料率は現れていないところ,本件特許Aの技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,本件アンケート結果では2.5%(最大値4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)であり,同実施料率は正味販売高に対する料率を想定したものであることが認められる。そして,このことを踏まえた上,侵害品に係るゲームソフトにおいては,ゲームのキャラクタや内容,販売方法の工夫等が,その売り上げに大きく貢献していることは否定できないとはいえ,本件発明A1に係る技術も,売上げの向上に相応の貢献をしていると認められることや,本件発明A1の代替となる技術は存在しないこと,控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど,本件訴訟に現れた事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し受けるべき料率(以下「本件実施料率A」という。)は,消費税相当額を含む被控訴人の正味販売価格に対し,3.0%を下らないものと認めるのが相当である。 
・・・
c  以上によれば,本件特許権Aの侵害について,特許法102条3項により算定される損害額は,別紙10のとおり計算され,その合計額は1億1667万3710円となる。 」


特許Bについて
「(ア)  構成要件EないしGの意義
  a  本件発明B1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,「特定の状況」(構成要件E,F)とは,「キャラクタの置かれている状況」であり,当該「状況にあるか否か」を「特定状況判定手段」により判定されるものであること,「振動情報制御手段」(構成要件F,G)とは,「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する」手段であることを理解できる。
 一方,特許請求の範囲には,「特定の状況」について定義した規定はなく,上記「特定の状況」をゲーム中の全場面において「画像情報からは認識できない」状況であると解釈すべき根拠となる記載はない。
 また,特許請求の範囲には,「振動情報制御手段」から「送出」される「体感振動情報信号」について,「画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための」もののみであると解釈すべき根拠となる記載はない。
b  次に,前記ア(イ)のとおり,本件明細書Bの発明の詳細な説明には,「本願発明」の遊戯装置は,遊戯者が操作する入力手段と,この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備えた遊戯装置であって,上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と,上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と,上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段とを備えるという構成を採用することにより,遊戯者が,周囲にその特定の状況を悟られることなく,自己のみが知り得る秘密の状態の下でゲームを進行できるとともに,振動を体感的に知得できることにより迫力や現実感が増大するという効果を奏すること,また,ゲームの状況が所定の規則性に従い変化している場合に,上記特定状況判定手段が特定状況にあると判定し,ゲームの変化の態様に応じた体感振動情報信号,例えば,振動の発生周期(間欠周期)を短くするための体感振動情報信号を送出することにより,遊戯者は一層高度な現実感やスリルを味わえるという効果を奏することが記載されており,この点に本件発明B1の技術的意義があるものと認められる。
 そして,本件発明B1の上記技術的意義に照らすと,上記「特定の状況」をゲーム中の全場面において「画像情報からは認識できない」状況に限定したり,上記「振動情報制御手段」から「送出」される「体感振動情報信号」を,「画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための」もののみとする必然性はみいだし難い。例えば,ゲーム中のある場面において,キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあることを画像情報から認識でき,その情報を体感振動情報信号として送出したとしても,ゲーム中の別の場面では,キャラクタの置かれている状況が上記特定の状況にあることを画像情報から認識できないのであれば,かかる場面において,キャラクタの置かれてい
る状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号を送出することにより,前記ア(イ)の本件発明B1の効果を奏するといえる。
 加えて,本件明細書B全体をみても,「特定の状況」や「振動情報制御手段」から「送出」される「体感振動情報信号」を上記のとおり限定することによって,かかる限定を付さない場合と比して有利な効果を生じるなどの技術的意義があることについて記載も示唆もない。
c  以上の本件発明B1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書Bの記載を総合すれば,①「特定の状況」(構成要件E,F)とは,「キャラクタの置かれている状況」であり,当該「状況にあるか否か」を「特定状況判定手段」により判定されるものであって,「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する」ものであれば,その状況が,ゲームの全場面において「画像情報からは認識できない」状況である必要はなく,②「振動情報制御手段」(構成要件F,G)とは,「上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号」として「送出」する機能を有するものであれば,当該機能のみを有するものに限定されないと解される。
・・・
(イ)  ロ号装置の構成要件充足性について
a  証拠(甲B3~5,13~15)及び弁論の全趣旨によれば,ロ号装置の構成は,原判決別紙「ロ号装置説明書(控訴人)」記載のとおりであると認められる。
 そして,本件発明B1の構成要件とロ号装置の構成との対比は,原判決別紙「ロ号装置説明書(控訴人)」記載のとおりであるから,ロ号装置は,本件発明B1の構成要件をすべて充足するものであって,本件発明B1の技術的範囲に属するものと認められる。 
・・・
  イ  本件発明B1と公知発明b1の対比
          本件発明B1と公知発明b1とを対比すると,以下の相違点が存在することが認められる。
        (相違点1)
 本件発明B1と公知発明b1とは,本件発明B1の「振動情報制御手段」は,「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する」ものであるのに対し,公知発明b1の「ボディソニック駆動情報制御部」は,「上記特定状況判定部がニンジャキャラクタの近くに戦車が存在する状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できないニンジャキャラクタの近くに戦車が存在することをボディソニック駆動情報信号として送出する」ものであり,キャラクタの置かれている状況に応じて振動の間欠周期を異ならせるものではない点。
ウ  相違点の容易想到性について
  (ア)  乙B18記載の発明との組合せ
  a  乙B18(実開平6-34693号公報。平成6年5月10日公開)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1ないし3」については別紙12を参照)。 
・・・
  以上によれば,乙B18には,モニターTVの映像との相乗効果により,トロッコのスピードの変化をレール継ぎ目の振動の間隔を変化させることにより表現し,臨場感を表すことが開示されている。
 一方,上記のようなトロッコのスピードの変化はモニターTVの映像で認識できるものであるから,乙B18における振動は,画像情報からは認識できない情報に基づいたものとはいえない。
 したがって,乙B18は,相違点1に係る本件発明B1の構成,すなわち,「上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する」を開示するものではない。 
・・・
 ⑷  争点2-3(控訴人の損害の有無及び損害額)について 
・・・
イ  実施に対し受けるべき金銭の額
          前記アのとおり,本件訴訟において本件特許Bの実際の実施許諾契約の実施料率は現れていないところ,本件特許Bの技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,本件アンケート結果では2.5%(最大値4.5%,最小値0.5%,標準偏差1.5%)である。このことに加え,本件発明B1に係る技術は,侵害品であるゲームソフトにとってそれなりに意味を有するものであり,かつ代替性もないものであるとはいえ,ロ号製品の売上げ及び利益への貢献度は,同製品の設定,ビジュアル,演出,キャラクターなど訴求力の高いものと比較すると低く,イー9号製品等における本件発明Aの重要性と比べても,その価値は低いものであること,控訴人と被控訴人は競業関係にあることなど,本件訴訟に現れた事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し受けるべき料率は1.5%を下らないものと認めるのが相当である。
 したがって,本件特許権Bの侵害について,特許法102条3項により算定される損害額は,1410万円(9億4000万円×1.5%)となる。」 

【コメント】
 本件は,マスコミ等でも話題になった,原告であり特許権者のカプコンと,被告のコーエーテクモとの間での特許権侵害訴訟の控訴審の事例です。
 
 一審はここでも紹介しました。
 特許Aがここで,特許Bがここです。
 
  さらに,裏で,審決取消訴訟もやっておりまして,これもここで紹介しました。 
 特許Aがここで,特許Bがここです。 

 まあですので,クレームとか技術的背景とかはそれぞれの所を見てもらった方が早いかなと思います。

 なので,ここでは一審とどう違うのか?っていう所に焦点を絞りましょう。
 
 まず,特許Aからです。
 充足論 
 一審 無~♫  
 二審 構成要件Dのキーの読み込みの解釈について多少の議論あり⇒だけど限定せず侵害
 
 無効論 
 一審 RMMに比べて進歩性なし 
 二審 RMMに比べて進歩性あり(阻害事由あり)
 
 損害論
 一審 無~♫
 二審 102条3項で3%(今年夏前に出た大合議事件の規範に準拠)
 
 こう見ると,無効論で進歩性ありとなったのが大きかったかなあと思います。つまりは,審決取消訴訟踏襲って所でしょうか。
 あと,損害論は102条3項だけなので,原告の実施はなかったのかもしれませんね(珍しい!)。
 
 続いて,特許Bです。
 充足論 
 一審 「特定の状況」の解釈について争いあり⇒だけど限定せず侵害  
 二審 一審踏襲
 
 無効論 
 一審 大した議論なし
 二審 審決取消訴訟で多少議論になった実願平3-38665号(実開平6-34693号)の証拠(乙B18)については,結局相違点1の記載がなかったとして,弱火な話に。
 
 損害論
 一審 102条3項で0.5%
 二審 102条3項で1.5%
 
 こう見ると,損害論で料率が違ったというのが一番大きかったのでしょうね。
 
 だけど,合計額で見ると,特許Aによる額がほとんどを占めてるって言ってよいと思いますので,まあ結局大した話ではありません。
 
 ということで, ポイントは,特許Aに関する無効論って所でしょうか。審決取消訴訟でそこが,侵害訴訟の一審と真逆の結論でしたので,既にそこで雌雄は決した感があります。
 
 あと,この判決も通常の知的財産裁判例のところで検索したら,漸く検索できました。最近の・・・には結局アップされないままだったように思います。 
 
 さて,本件は,様々な論点のある噛みしめ甲斐のある判決だと思います。ここでの紹介を読むだけではなく,実物を是非鑑賞した方がいいと思いますね。