2015年10月14日水曜日

侵害訴訟 特許 平成27(ネ)10097 知財高裁 控訴棄却(請求棄却)


事件番号
事件名
 差止請求控訴事件
裁判年月日
 平成27年10月8日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 田 中 芳 樹
裁判官 鈴 木 わ か な

「 1 争点⑴(被控訴人による被告製品の製造,販売,輸出の事実の有無)について

⑴ 控訴人は,被控訴人に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造,販売及び輸出の差止めを請求しているところ,同請求が認められるためには,被控訴人において被告製品の製造,販売及び輸出をしていること又はそのおそれがあることが立証されなければならない。
 しかしながら,本件において,控訴人は,被控訴人が被告製品の製造,販売及び輸出をしていること又はそれらの行為に及ぶおそれがあることについて,何らの立証をしていない。
 なお,証拠(乙ハ1~3)によれば,①被控訴人がインターネット上で運営するショッピングモール「楽天市場」は,出店者が,被控訴人との間の契約に基づき,出店ページを開設するなどして出店者の物品の販売又は役務の提供を行うものであること,②上記物品の売買又は役務の提供は,出店者と上記出店ページを閲覧した者,すなわち,顧客との間で行われ,出店者は,顧客に対し,取引の当事者は出店者と顧客であることを明確に表示する旨が上記ショッピングモールの利用規約(乙ハ1)に明記されていることが認められ,これらの事実によれば,たとえ被告製品が上記ショッピングモール上に紹介されていたとしても,直ちに被控訴人が自ら当該被告製品を販売しているということはできない。
⑵ 控訴人は,被控訴人が共同不法行為責任を負うなどと主張する。それが,出店者の販売行為を教唆,幇助するものであるという趣旨であるとしても,以下のとおり,被控訴人に対して特許法100条1項に基づく販売の差止めを請求することはできない。
ア すなわち,特許法100条1項は,特許権を侵害する者又は侵害するおそれがある者(以下「特許権を侵害する者等」という。)に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる旨を規定しているところ,特許権を侵害する者等とは,自ら特許発明の実施(同法2条3項)若しくは同法101条所定の行為をした者又はそのおそれがある者を意味し,特許権侵害の教唆,幇助をした者は,これに含まれないと解するのが相当である。
 このように解する理由は,以下のとおりである。すなわち,①民法上,不法行為に基づく差止めは認められておらず,特許法100条1項所定の「侵害の停止又は予防」としての差止めは,特許権の排他的効力に基づき,特許法により特に定められたものである。②他方,教唆又は幇助による不法行為責任は,自ら他人の権利を侵害する者ではないにもかかわらず,被害者保護の観点から特に教唆及び幇助を共同不法行為として損害賠償責任(民法719条2項)を負わせることとしたものであり,上記①の特許権の排他的効力に基づく特許法100条1項所定の差止請求権とは,制度の目的,趣旨において異なる。③教唆又は幇助については,その行為態様として様々なものがあり,特許権侵害の教唆行為又は幇助行為に対して無制限に差止めを認めると,差止請求の相手方が無制限に広がり,差止めの範囲が広範にすぎるなどの弊害が生じるおそれがあるところ,特許法101条所定の間接侵害の規定は,上記弊害の点に鑑み,特許権侵害の幇助行為の一部の類型に限り侵害とみなして差止めの対象としたものと解されるから,それを超えて幇助行為一般及び教唆行為について差止めを認めることは,同条の趣旨に反するものということができる。
イ そして,前記⑴によれば,被控訴人が本件発明を実施したとは認められず,特許法101条所定の行為をしたとも認められないし,そのおそれもないから,被控訴人に対する製造,販売及び輸出の差止請求が認められる余地はない。
⑶ 以上のとおり,控訴人の本件差止請求は,理由がない。」

【コメント】
 これは特許権者が,ショッピングモールの主催者(楽天)を訴えたものです。 

 原審の東京地裁民事46部(長谷川部長の合議体)は,構成要件充足性なしとして,原告の請求を棄却しました(平成26(ワ)23512号, 平成27年3月24日判決)。
 クレームは以下のとおりです。
炭酸カルシウムの方解石型構造による結晶構造体を備えた貝殻を粉砕した粉末からなる炭酸カルシウム粉末と該炭酸カルシウム粉末を焼成してなる酸化カルシウム粉末とが混合されていることを特徴とする洗浄剤。
 この炭酸カルシウム粉末について,「貝殻を粉砕した粉末そのものであることを要するものであり,ホタテ貝殻を粉砕した粉末を焼成して得られた酸化カルシウム粉末が化学反応を経て炭酸カルシウム粉末になったものは含まないものと解される。」と判断されたのでした。
 他方,控訴審でも構成要件充足性の判断はありますが,重要なのは,ショッピングモールを訴えた論点についてです(この論点について,一審の判断はありません。)。 

 商標権に関する事件で,やはり楽天が訴えられた,知財高裁平成22(ネ)10076号(平成24年02月14日判決)があります(チュッパチャップス事件)。
 このときも,実際の販売者ではないけれども,幇助的な立場の者(ショッピングモールの主催者など)を捕捉できないかが問題となりました。
 そして,当時の中野部長の合議体は,画期的なことに,商標法37条に規定する以外の行為についても,商標権侵害として捕捉できる余地を認めたのです。 
侵害者が商標法2条3項に規定する「使用」をしている場合に限らず,社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能というべきであり,商標法が,間接侵害に関する上記明文規定(同法37条)を置いているからといって,商標権侵害となるのは上記明文規定に該当する場合に限られるとまで解する必要はないというべきである。

 そのときの要件としては,「ウェブページの運営者が,単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず,運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い,出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって,その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは,その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り,上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し,商標権侵害を理由に,出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。」としました。
 つまり,管理・支配+利益享受(ここまでカラオケ法理)+知って合理的期間内に削除しない,の場合は,商標権侵害として,損害賠償に加えて差止までできる,ということです。
 他方,特許権の場合は,上記の本件の判示のとおりです。兎に角,幇助的なものは,特許法101条に規定されているもの以外に,差止は認めない!ということです。勿論,共同不法行為として,損害賠償請求できる余地はあるのでしょうが,差止はダメだと示されました。
 場合にはよっては差止を認めてもよいとする商標権とは大きな違いです。
 このように大きな違いが生じた理由はよくわかりませんが,やはり,見ただけである程度類否のわかる商標と,クレームと詳細に照らし合わせる必要のある特許とでは,ショッピングモールの主催者に求められる注意義務に大きな違いがあるからなのでしょう。 

 そうすると,今回のこの結論でも致し方ないところだと思います。
 あと,ヤフーなどを訴えた別事件もあり,これもまた控訴棄却(請求棄却)で終わっております(知財高裁平成27(ネ)10059号)。