2020年1月23日木曜日

審決取消訴訟 特許 平成30(行ケ)10174 知財高裁 無効審判 不成立審決 請求認容

事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 令和元年12月26日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部  
裁判長裁判官          大      鷹      一      郎 
裁判官          古      河      謙      一 
裁判官          岡      山      忠      広  

「(3)  相違点Aの認定の誤りについて
        原告は,本件審決が認定した本件発明2と甲5発明との相違点Aのうち,甲5には,「頂部に設けられた横線シールは,前面パネルよりも裏面パネルに近い側に位置し,かつ,裏面パネル側に倒され」る構成が開示されており,この構成に係る部分は相違点ではなく,一致点であるから,本件審決の上記認定は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア  前記(1)の甲5の記載事項によれば,甲5には,「前面,裏面,側面,上面及び底面を有し,上面が前面に向けて傾けられており,縦シール部分は前面に設けられ,横シール部分が上面に設けられて裏面側に倒され,厚紙の成形による折り込み片が上面上に折り畳まれている,厚紙の折り畳み式包装容器」(甲5発明)が記載されていることが認められる。
 また,甲5の「図1~図4に示された包装容器1は,それ自体公知のように底と側壁と上壁領域とを有する被覆2からなる。包装容器は,上面が傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器の形態で示されている。この包装容器は,上面の領域に開口領域3を有している。」(5頁4行~8行,訳文5頁10行~13行)との記載から,甲5の図1及び図4記載の包装容器1は,「上面が傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器」であることを理解できる。
    そして,甲5の図1及び図4(別紙甲5図面参照)から,図4において左右の三角形の折り込み片の頂点の上側に描かれている2個の小さな三角形(別紙3-1の図4の拡大図参照)は,「横シール部分」を示したものと認められる。
 もっとも,甲5の図4には,2個の小さな三角形の間には「横シール部分」は図示されていないが,一方で,①図4記載の包装容器1は,「上面が傾けられたそれ自体公知の折り畳み式包装容器」であること,②本件優先日当時(本件優先日平成12年7月31日),紙製包装容器において,横線シールを横方向に横断的に設け,横線シールをする際に対向するシール領域同士が同じ長さとなるような構造とすることは,技術常識であったこと(前記(2)イ),③甲5の記載によれば,甲5の包装容器は,「蓋要素により再閉鎖可能な開口を備え,該開口は,最初の充填後に初めて開放する前には,前記開口を取り囲む前記被覆材料と少なくとも接続された実質的に平たい封印要素によって閉鎖されている包装容器」に関する考案(実用新案登録請求の範囲の請求項1ないし14)であり,「横シール部分」は,請求項1ないし14の考案特定事項とされていないから,図4において「横シール部分」の図示が省略されたとしても不自然ではないことに照らすならば,甲5の図4の2個の小さな三角形の間の下側には,横方向に横断的に設けられた「横シール部分」が存在するが,その描写が省略されていると理解できる。
 加えて,甲5発明のように片流れ屋根形状(「前面」の高さが「裏面」の高さよりも低い形状のもの)であって,「横シール部分」が横方向に横断的に形成されている場合には,横線シールをする際に形成される折り込み片(フラップ)において対向するシールが同じ長さとなるので(例えば,別紙3-2の展開図中の「横線シール位置」との記載の直下の青色の点の両側のシール部分(「30」及び「30」の記載に対応する部分)参照),設計上,必ず「横シール部分」は後方寄り(「裏面」に近い位置)に位置することになるものと認められることに照らすと,甲5には,甲5発明において相違点Aに係る本件発明2の構成のうち,「頂部に設けられた横線シールは,前面パネルよりも裏面パネルに近い側に位置し,かつ,裏面パネル側に倒され」る構成を備えていることが開示されているものと認められる。
 したがって,相違点Aのうち,上記構成は,相違点ではなく,一致点であるから,本件審決の相違点Aの認定には誤りがある。」
 
【コメント】 
 本件は,発明の名称を「紙製包装容器の製造法及び紙製包装容器」とする発明についての特許権(特許第4831592号)について,原告が無効審判を請求したものの(明確性要件違反,進歩性なし),不成立審決(訂正OK,あとの要件もOK)を下されたことから,審決取消訴訟を定期したものです。
 
 これについて,知財高裁4部の大鷹部長の合議体は,逆転で,審決を取り消しております。

 まずはクレームからです。
【請求項2】
        折目線に沿った折畳みによって形成された前面パネル,裏面パネル,側面パネル,頂部及び底部を持ち,内部に被充填物が充填された紙製包装容器であって,
 前記裏面パネルに縦線シールが設けられ,
 前記頂部及び底部に横線シールが設けられ,
 前記前面パネルの高さが前記裏面パネルの高さより低く,
 前記頂部に設けられた横線シールは,前記前面パネルよりも前記裏面パネルに近い側に位置し,かつ,前記裏面パネル側に倒され,
 該頂部成形による折り込み片が前記側面パネル上に斜めに折り込まれ,頂部が片流れ屋根形状に成形されることを特徴とする紙製包装容器
。 」

 こういう機構的発明は図がないとさっぱりわかりません。
 
  牛乳などの紙パック容器の発明ですね。
 縦線シールというのは,上下方向の切れ目を塞ぐ(シールする)やつです。
 他方,横線シールというのは,水平方向つまり底と蓋のシール部のことです。
 
 クレームのような構造だと何がいいかといいますと,従来は,縦線シールと横線シールが紙パックの上面を占めて,注ぎ口がおちょぼ口になってた,ほんでそれを改善したやつはあったけど,作りにくかった~,うちの発明はそういう所を改善した,らしいです。

 ふーんって感じです。

 主引例は甲5です。
 
 
 
 ほんで,主引例である甲5発明との一致点・相違点です。
 
「  (一致点)
「折目線に沿った折畳みによって成形された前面パネル,裏面パネル,側面パネル,頂部及び底部を持ち,内部に被充填物が充填された紙製包装容器であって,
 縦線シールが設けられ, 
 前記頂部及び裏面に横線シールが設けられ, 
 前記前面パネルの高さが前記裏面パネルの高さよりも低く, 
 頂部が片流れ屋根形状に成形されることを特徴とする紙製包装容器。」
である点。
        (相違点A)
 本件発明2では,「裏面パネルに縦線シールが設けられ」,「頂部に設けられた横線シールは,前面パネルよりも裏面パネルに近い側に位置し,かつ,裏面パネル側に倒され,該頂部成形による折り込み片が側面パネル上に斜めに折り込まれ」るのに対し,
 甲5発明では,「縦シール部分は前面に設けられ」,「横シールが上面に設けられて裏面側に倒され,厚紙の成形による折り込み片が上面上に折り畳まれている」点。
」 
 
 で,判旨は,一致点・相違点認定が誤りだとしております。 相違点Aのうち一部はない!だからやり直しだろう~ってことです。 

 審決では,上面(頂部)の横線シールについて,横線シールは,裏面パネルに近い位置にあって,裏面パネル側に倒されている構成なんぞは,甲5に示されていない,と判断しております。
 これに対し,訴訟の方では,以下の拡大図などを示し, シール部が若干裏面パネル側(拡大図だと上側)にずれていることを示しました。
 

 まあ確かに,この拡大図の2の左右2つある三角形は,二等辺三角形じゃないですね。
 とすると,裏面側にずれておりまして,しかもそれは横線シールの存在によるものだ,ってわけです。

 とすると,審決よりも訴訟に分があるかなあと思います。

 あと,本題とはずれますが,本件,
訂正前発明2は,物(紙製包装容器)の発明である。
 そうすると,訂正前発明2の特許請求の範囲には,「ウェブ状包装材料の縦線シールによるチューブ状成形,チューブ状包装材料内への被充填物の充填,チューブ状包装材料の横断方向への横線シール,一次形状容器の成形,該一次形状容器の個々の切断,折目線に沿った折畳みによる頂部,側壁及び底部を持つ最終形状への成形によって得られる」との紙製包装容器の製造方法(本件製造方法)の記載があるが,訂正前発明2の要旨は,本件製造方法により製造された物に限定して認定されるべきではなく,本件製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定されるべきである。
 と認定されております。つまりPBPクレームなわけです。
 
 まあ最近は,最高裁の判断を骨抜きにすべく, 「当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか」が明らかである場合や,単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合には,明確性要件不問ってなってますので,無効審判請求人もスルーしたのでしょうかね。
 
 しかし,そんなのインチキですよね。最高裁が言ったのとは違う要件を持ち出してるんだから,最高裁としては何勝手な要件作ってOKにしとんじゃ,下級審の分際で!ということになるのではないでしょうか。