2016年4月22日金曜日

保全異議 著作権 平成28(モ)40004 東京地裁 決定認可


事件番号
事件名
 保全異議申立事件
裁判年月日
 平成28年4月7日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 嶋 末 和 秀
裁判官 笹 本 哲 朗
裁判官 天 野 研 司
 
著作者性
「 イ まず,前記1(3)で認定したとおり,本件著作物では,①表紙において,「A・X・B・C編」と表示され,②はしがきにおいて,これら4名が,「この間の立法や,著作権をめぐる技術の推移等を考慮し,第4版では新たな構成を採用し,かつ収録判例を大幅に入れ替え,113件を厳選し,時代の要求に合致したものに衣替えをした」主体として表示されている。上記①のような,氏名に「編」を付する表示(編者の表示)は,その者が編集著作物の著作者であることを示す通常の方法であるとみられる(この点は,氏名に「著」を付する表示すなわち著者の表示が言語の著作物の著作者を示す通常の方法であるのと同様と解される。)ところ,本件著作物における上記②の表示をも併せ考慮すると,本件著作物には,その公衆への提供の際に,債権者を含む上記4名が編集著作者名として通常の方法により表示されているものであることは明らかというべきである。したがって,著作権法14条により,債権者は,編集著作物たる本件著作物の著作者(編集著作者)と推定される。
 なお,債務者は,前記1(3),(4)のとおり,これまで債権者を本件著作物の「編者」として扱ってきたものであるが,「編」と表示されている者(「編」者)が著作権法上の編集著作者とは異なる場合も少なくないなどと主張する。しかしながら,そのような場合も存するとしても,だからといって,編者の表示が上記のとおり編集著作者名を示す通常の方法であることを直ちに否定することはできず,これを否定するに足りるほどの社会的事実を示す的確な疎明資料はない。
ウ そこで,上記イの判断を前提に,本件において,債権者が本件著作物の編集著作者であるとの推定を覆す事情が疎明されているか否かについて検討する。
 前記1(4)で認定した事実によると,①債権者は,執筆者について,特定の実務家1名を削除するとともに新たに別の特定の実務家3名を選択することを独自に発案してその旨の意見を述べ,これがそのまま採用されて,本件著作物に具現されていること,②本件著作物については,当初から債権者ら4名を編者として『著作権判例百選[第4版]』を創作するとの共同の意思の下に編集作業が進められ,編集協力者として関わったD教授の原案作成作業も,編者の納得を得られるものとするように行われ,本件原案については,債権者による修正があり得るという前提でその意見が聴取,確認されたこと,③このような経緯の下で,債権者は,編者としての立場に基づき,本件原案やその修正案の内容について検討した上,最終的に,本件編者会合に出席し,他の編者と共に,判例113件の選択・配列と執筆者113名の割当てを項目立ても含めて決定,確定する行為をし,その後の修正についても,メールで具体的な意見を述べ,編者が意見を出し合って判例及び執筆者を修正決定,再確定していくやりとりに参画したことを指摘することができる。そして,執筆者の執筆する解説は,本件著作物の素材をなしているところ,その執筆者の選定については,とりわけ実務家を含めると選択の幅が小さくないこと,債権者が推挙した当該3名の人選について,誰が選択しても同じ人選になるようなものとはいえないことに照らせば,債権者による上記①の素材の選択には創作性があるというべきである。その上,上記③の確定行為の対象となった判例,執筆者及び両者の組合せの選択並びにこれらの配列には,もとより創作性のあるものが多く含まれているところ,債権者が編者としての確定行為によりこれに関与したとみられるのである。そうすると,上記①ないし③を総合しただけでも(その余の債権者主張事実の有無について認定・判断するまでもなく),他の共同著作者の範囲はともかくとして,債権者が本件著作物の編集著作者の一人であるとの評価を導き得るところ,本件において,前記イの推定を覆す事情が疎明されているということはできない。
 したがって,債権者は,編集著作物たる本件著作物の著作者の一人であるというべきである。」

翻案該当性ないし直接感得性
「ア 前記1(5),(6)で認定した事実によると,①判例の選択については,本件著作物の収録判例と本件雑誌の収録判例とで97件が一致しており(そのうち94件は審級も含めて全く同一であり,3件は審級のみ異なり対象事件が同一である。),割合的には,本件著作物の収録判例113件のうち約86%が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致部分が本件雑誌の収録判例116件のうち約84%を占めていること,②執筆者(執筆者の執筆する解説)の選択については,本件著作物における執筆者と本件雑誌における執筆者とで93名が一致しており,割合的には,本件著作物の執筆者113名のうち約82%が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致部分が本件雑誌の執筆者117名のうち約79%を占めていること,③判例と執筆者(執筆者の執筆する解説)の組合せの選択については,本件著作物における組合せと本件雑誌における組合せとで83件が一致しており,割合的には,本件著作物における判例と執筆者の組合せ113件のうち約73%が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致部分が本件雑誌における判例と執筆者の組合せ117件のうち約71%を占めていること,④判例及びその解説(以下,併せて「判例等」という。)の配列については,本件著作物の判例等と本件雑誌の判例等とで合計83件の配列(順序)が一致しており,割合的には,本件著作物の判例等113件のうち約73%の判例等の配列(順序)が本件雑誌にも維持され,かつ,当該一致部分が本件雑誌の判例等117件のうち約71%を占めていること,⑤判例等の配列を位置付ける項目立てについても,本件著作物の大項目及び小項目の立て方と本件雑誌の大項目及び小項目の立て方とでその大半が一致していることを指摘することができる。そうすると,本件著作物と本件雑誌とで判例等の選択及び配列が全体として類似していることは明らかであって,本件著作物の判例等の選択・配列の大部分が本件雑誌にも維持されていることが確認できるとともに,本件雑誌の判例等の選択・配列を見たときに本件著作物のそれに由来する上記各一致部分の全部又は一部を優に感得することができる。
 そして,本件著作物及び本件雑誌に掲載される判例と執筆者の執筆する解説が編集著作物たる本件著作物及び本件雑誌の素材であるところ,その表現(素材の選択又は配列)の選択の幅(個性を発揮する余地)を考えると,『判例百選』の性格上,判例の選択や判例等の配列に係る選択の幅はある程度限られるものの,執筆者の選択すなわち誰が執筆する解説を載せるかという選択の幅は決して小さくない上,どの判例の解説の執筆者として誰を選ぶかに係る選択の幅は極めて広いというべきである。そうすると,上記①ないし⑤で指摘した,本件著作物と本件雑誌とで表現(素材の選択又は配列)上共通する部分には,創作性を有する表現部分が相当程度あるものということができる(なお,編集著作物における素材の選択及び配列に係る上記各一致部分の組合せ全体に創作性を認めることもできると考えられる。)。
 以上の事情を総合すれば,本件著作物と本件雑誌とで創作的表現が共通し同一性がある部分が相当程度認められる一方,本件雑誌が,新たに付加された創作的な表現部分により,本件著作物とは別個独立の著作物になっているとはいい難い。
 このように検討したところによると,本件雑誌の表現からは,本件著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるというべきである。」
 
【コメント】 
 昨年少し話題になった著作権判例百選第5版をめぐる,債権者である大渕哲也先生と債務者である株式会社有斐閣の戦いの事件です。

 本件に先立つ仮地位に基づく仮処分の方は,判旨にあるとおり,東京地方裁判所平成27年(ヨ)第22071号仮処分命令申立事件であり,平成27年10月26日に仮処分決定(「債務者は,別紙雑誌目録記載の雑誌の複製,頒布,頒布する目的をもってする所持又は頒布する旨の申出をしてはならない。」)が出ております。
 
 仮地位に基づく仮処分は,民事保全法23条2項に基づくもので,通常満足的仮処分と呼ばれております。認容に相当する仮処分決定が出れば,本案で確定したと同様(別途執行が必要な場合もあります。),債権者の満足が得られるからです。 

 しかし,民事保全は暫定的に早急に決定を出すものであるため,間違っていることもあります。そこで,同じ審級でもう一度審査してもらうのが,今回のような保全異議ということになります(民事保全法26条)。

 さて,内容ですが,まず大渕先生の編集著作物への著作権については認められております。これは,著作権判例百選第4版に対するものです。
 
 つぎに,この第4版と第5版では, ①判例は97件が一致,②執筆者は93名が一致,③判例と執筆者の組合せは83件が一致,④判例等の配列は,合計83件の配列(順序)が一致,⑤項目立ても,その大半が一致,していたのです。
  つまり,第4版と第5版とはそっくりなわけです。
 
 もちろん,個々の判例の解説は全く違うでしょうが,今回編集著作物への著作権の話ですので,これで十分なはずです。

 ですので,保全異議が認められないのもさにあらんってところでしょう。有斐閣は,この後保全抗告をするのかもしれません。
 まあそれよりも,損害賠償請求でもした方が効果的でしょうね。あと,今回の保全事件の担保は300万円だったようですが,「債権者に代わり第三者弁護士hに債務者のため300万円の担保を立てさせた上」とあり,この辺は謎です。
 
 ということで,結論はいいとして,気になるのはなぜこのような紛争に至ったかです。
 第5版の経緯には,こんな記載があります。
(7) 本件雑誌の企画から本件仮処分決定に至る経緯等
ア 平成26年8月頃,債務者において,本件著作物の改訂版(『著作権判例百選[第5版]』。以下,単に「第5版」ということがある。)を出版することが企画に上がった。債務者の担当者であったEは,同月4日,A教授に対し,この企画について,A教授が間もなく古稀を迎える年齢であったことなどからA教授には編者を依頼できないように思うがどうかなどと相談した。A教授は,Eに対し,自身は編者就任の意向はない旨告げた上,本件著作物発行後の債権者の言動に対する認識等に基づき「もはや債権者を外すことはやむを得ない。」と考えたことから,債権者を編者とせずB教授及びC教授の両名を中心に両名が考える編者構成で進めるのがよい旨を示唆した。そして,債務者において,これを含めて検討した結果,本件著作物の編者のうちA教授及び債権者には第5版の編者を依頼しないことが決定された。
 そこで,Eは,同年9月24日,債権者と面談し,「本件著作物の編者は,A教授,債権者,B教授及びC教授であるが,第5版の編者については,A教授と債権者に依頼することはせず,B教授及びC教授を中心とした新体制で進めたい。」旨を告げ,その理由としては,本音は言わず,「債権者が審議会など行政関係の仕事で全く身動きがとれない様子であり,その上に債務者からも複数の仕事をお願いしており,そちらの方も滞っている状態であるので,これに加えて第5版の編者就任をお願いして健康に差し障りがあっては大変であること」を挙げたが,債権者は,回答を留保して面談を終えた。Eは,同日,A教授に対し,「債権者は納得はされていないご様子で,ご了解をいただけたとまでは言えないが,認めないとか許さないといったご発言はなかった。ともかく挨拶は済んで,筋は通したといえようかと思う。」旨報告した。もっとも,債権者は,納得できなかったことから,Eに対し再度の説明を求めるメールを送信し,その後,同年10月30日に両名の間で2回目の面談が行われた。
 さらに,債権者は,同年11月14日に,Eに対し,「なぜ蛇蝎のごとく嫌われ,切られる羽目になるのか,やはり分からない。率直に聞かせてほしい。」と連絡し,同日,再び両名の間で面談がされることとなった。この面談においては,Eは,債権者については,①色々引き受けて身動きがとれなくなるという既に伝えた前記理由のほか,②学習用の基本教材としての『判例百選』の性格に適合しない編集方針をお考えのように見受けられること,③編者自らが原稿提出が遅かったり規定枚数を超えたりするのでは他の執筆者に示しがつかず,刊行計画が守られないおそれがあること,④自分の考えどおりに進めないと気が済まず,共同作業は難しい方のように思われることという理由を伝えた。これに対し,債権者から「債務者に迷惑はかけないようにする」旨の反論等があったが,Eは,「先生が本当にそのようにしてくださるというなら嬉しいですが,既にA先生に対しては,X先生にも退いていただくと申し上げています。そうでないとなると今度はA先生がお許しにならないかもしれませんので,今日のこの話をA先生にお伝えして,A先生のご判断を仰ぎます。」と話して,その場を引き取った。
 Eは,同月19日,A教授に対し,第5版の編者に自分も加わるべきであるという債権者の申出についての意見を聴いたところ,A教授からは,「これまでの債権者の振る舞いを考えると共同作業は無理ではないか。この判断に異議があれば聞く。」との回答を受けた。そこで,Eは,翌20日,債権者に対し,A教授の上記回答内容を記載した上,「その他いろいろな方からも事情をうかがった結果,編集部としても,債権者に先日お会いして申し上げた懸念はやはり誤解に基づくものではなく,債権者に編者をお願いすると刊行準備作業がスムーズに進まなくなって,計画に遅れを生ずるおそれが大きいと判断いたしました。」,「今回はご希望に添えない結果となりますこと,どうかご了承くださいますようお願い申し上げます。」と記載したメールを送信した。(以上につき,甲12,21,33,乙5,106,109,110〔添付資料1・2〕,審尋の全趣旨)
イ Eは,平成26年11月21日,債務者の代表取締役社長e(以下「e社長」という。)に対し,「『著作権判例百選[第5版]』の編者の件で少し面倒を抱えている。」「A教授と債権者にご勇退いただいてB教授・C教授以下の先生方にお願いするようにしようとしたところ,債権者がご納得にならない。」「債権者は,まだ編者を退くような年齢ではないが,降りていただくべきだろうというのがA教授のご判断であり,また,編集部としても,A教授という重石がいなくなると債権者が自分中心で勝手なことをなさり,場合によっては他の編者の気分を害して編集作業がストップしたり,あるいは執筆者たちのモチベーションを下げたり,というおそれが高いと判断した。」などと報告した。
 同月28日には債権者と債務者の法務部門担当取締役f(以下「f取締役」という。)との間で,さらに平成27年1月6日,同月23日及び同年2月5日には債権者とe社長及びf取締役との間で,それぞれ第5版の出版に関する話し合いが持たれたが,第5版の編者に債権者を入れるか否かの点について合意が付かなかった。そして,債権者は,同日の話し合いにおいては,e社長及びf取締役に対し,自身は本件著作物の編集著作権を有するのでその侵害となる改訂版については差止めを請求することもできる旨告げた。(以上につき,甲12,21,乙5,110,111,審尋の全趣旨)

 うーん,何だかちょっと切ない感じがします。
 大御所に嫌われ,外されるというのがご自身でもわかったのでしょう。学者とは世の中でもっともチャイルディッシュな人たちだと言われることもありますが,まさにそんな感じがします。
 むしろ,有斐閣がトバッチリというような気がするのは私だけでしょうか。



2016年4月19日火曜日

侵害訴訟 特許 平成27(ワ)12414 東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日
 平成28年3月30日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第29部 
裁判長裁判官 嶋末  和秀 
裁判官鈴木 千帆 
裁判官笹本 哲朗

「 (1) 本件各処分の対象となった物について
  ア  特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨
 特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許法67条2項の「安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的,手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるもの」(以下「政令処分」という。)を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするものである(最高裁平成26年(行ヒ)第356号同27年11月17日第三小法廷判決〔以下「平成27年最判」という。〕参照)。
 すなわち,特許法は,同法67条1項において,特許権の存続期間を特許出願の日から20年と定めるが,同時に,同条2項において,その特許発明の実施について政令処分を受けることが必要であるために,その特許発明の実施をすることができない期間があったときは,5年を限度として,その存続期間の延長をすることができると定めて,特許権の存続期間の延長登録制度を設けた。「その特許発明の実施」について,政令処分を受けることが必要な場合には,特許権者は,たとえ,特許権を有していても,特許発明を実施することができず,実質的に特許期間が侵食される結果を招く(もっとも,このような期間においても,特許権者が「業として特許発明の実施をする権利」を専有していることに変わりはなく,特許権者の許諾を受けずに特許発明を実施する第三者の行為について,当該第三者に対して,差止めや損害賠償を請求することが妨げられるものではない。したがって,特許権者の被る不利益の内容として,特許権の全ての効力のうち,特許発明を実施できなかったという点にのみ着目したものであるといえる。)。そして,このような結果は,特許権者に対して,研究開発に要した費用を回収することができなくなる等の不利益をもたらし,また,開発者,研究者に対しても,研究開発のためのインセンティブを失わせることから,そのような不都合を解消させ,研究開発のためのインセンティブを高める目的で,特許発明を実施することができなかった期間について,5年を限度として,特許権の存続期間を延長することができるようにしたものである。
 なお,特許法施行令2条は,政令処分として,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第84号による改正前の題名は,薬事法。以下,同改正の前後を通じて「医薬品医療機器等法」という。)の承認や農薬取締法の登録を定めているところ,これらの処分は,いわゆる講学上の許可に該当し,製造販売等の行為が,一般的抽象的に禁止され,各行政法規に基づく個別的具体的な処分を受けることによって初めて,当該行為を行うことが許されるものであるから,特許権者が,許可を得ようとしない限り,当該製造販売等の行為を禁止された法的状態が継続することになる。しかし,特許法は,特許権者が,許可を得ようとしなかった期間も含めて,特許発明を実施することができなかった全ての期間(5年の限度はさておいて)について,存続期間延長の算定の基礎とするのではなく,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった期間,すなわち,当該政令処分を受けるために必要であった期間に限って,存続期間延長の対象とするものとした。この点については,「その特許発明の実施をすることができない期間」とは,政令処分を受けるのに必要な試験を開始した日又は特許権の設定登録の日のうちのいずれか遅い方の日から,当該政令処分が申請者に到達することにより処分の効力が発生した日の前日までの期間を意味すると解すべきであるとした裁判例(最高裁平成10年(行ヒ)第43号同11年10月22日第二小法廷判決・民集53巻7号1270頁)に照らしても明らかである。
 このように,特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許発明を実施する意思及び能力があってもなお,特許発明を実施することができなかった特許権者に対して,政令処分を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為について,当該政令処分を受けるために必要であった期間,特許権の存続期間を延長する措置を講じることによって,特許発明を実施するこ
とができなかった不利益の解消を図った制度であるということができる(知財高裁平成25年(行ケ)第10195号同26年5月30日特別部判決〔以下「平成26年知財高判」という。〕,知財高裁平成20年(行ケ)第10460号同21年5月29日第三部判決参照)。
イ  特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力 特許法68条の2は,「特許権の存続期間が延長された場合(第67条の2第5項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は,その延長登録の理由となつた第67条第2項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては,当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には,及ばない。」と規定している。
 この規定によれば,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は,政令処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物〔以下,鍵括弧を付して「当該用途に使用される物」という。〕)(以下,かかる政令処分の対象となった物を鍵括弧を付して「(当該用途に使用される)物」ということがある。)についての当該特許発明の実施行為にのみ及ぶということになる。
 また,前記アで説示したところに照らせば,特許権の存続期間の延長登録の制度は,特許権者が特許発明を実施する意思及び能力があっても,政令処分を受けることが必要であったためにその特許発明を実施することができなかったという特許期間の侵食を,特許発明全体の範囲(特許法70条)ではなく,当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「(当該用途に使用される)物」の範囲について回復させるというものと解される。
 したがって,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は,原則として,政令処分を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為,すなわち,当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「(当該用途に使用される)物」についての実施行為にのみ及び,特許発明のその余の実施行為には及ばないと解するのが相当である。
 もっとも,特許権者が研究開発に要した費用を回収することができるようにするとともに,研究開発のためのインセンティブを高めるという目的で,特許期間の延長を認めることとした特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨に鑑みると,侵害訴訟における対象物件が政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の範囲をわずかでも外れれば,存続期間が延長された特許権の効力がもはや及ばないと解するべきではなく,当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」と相違する点がある対象物件であっても,当該対象物件についての製造販売等の準備が開始された時点(当該対象物件の製造販売等に政令処分が必要な場合は,当該政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点と解される。)において,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして,その相違が周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないと認められるなど,当該対象物件が当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の均等物ないし実質的に同一と評価される物(以下「実質同一物」ということがある。)についての実施行為にまで及ぶと解するのが合理的であり,特許権の本来の存続期間の満了を待って特許発明を実施しようとしていた第三者は,そのことを予期すべきであるといえる。なお,上記のように解すると,政令処分を受けることによって禁止が解除される特許発明の実施の範囲よりも,存続期間が延長された特許権の効力が及ぶ特許発明の実施の範囲が広いことになるが,上述した意味での均等物や実質同一物についての実施行為の範囲にとどまる限り,第三者の利益が不当に害されることはないというべきである。
ウ  政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合について
 本件各処分は,いずれも医薬品に係る厚生労働大臣の承認である。
 医薬品医療機器等法の規定に基づく医薬品の製造販売の承認の審査事項は,医薬品の「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」(医薬品医療機器等法14条2項3号柱書き)と定められているから,医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認がされるに際しては,当該医薬品の「用途」を特定する事項に該当すると考えられる「用法,用量,効能,効果」について必ず審査されることになる。したがって,同承認は,特許法68条の2括弧書きの「その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合」に該当するものと解され,政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合,同法68条の2の延長された特許権の効力の及ぶ範囲を検討する際には,「当該用途に使用される物」についての特許発明の実施か否かを判断しなければならず,「物」及び「用途」の特定が必要となる
 医薬品医療機器等法の規定に基づく医薬品の製造販売承認を受けることによって可能となる(禁止が解除される)のは,その審査事項である医薬品の「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」(医薬品医療機器等法14条2項3号柱書き)の全てについて承認ごとに特定される医薬品の製造販売であると解されるとしても,前記ア,イのとおりの特許権の存続期間の延長登録の制度目的からすると,上記審査事項の全てではなく,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わる審査事項(医薬品の成分の発明の場合は,「成分,分量,用法,用量,効能,効果」である〔平成27年最判参照〕。)の範囲で,当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」(「物」及び「用途」)を特定することが相当というべきである。
 そして,上記審査事項のうち,「名称」は,医薬品としての実質的同一性を左右するものではなく,また,「副作用その他の品質,有効性及び安全性」は,医薬品としての実質的な同一性があれば,これらの事項もまた同一となる性質のものであって,いずれも「物」及び「用途」を特定するための独立の事項とする必要性はないのに対し,「成分,分量」は,「物」それ自体としての客観的同一性を左右するものであるところ,「用途」に該当し得る性質のものではないから,「物」を特定するための事項とみるべきであり,他方,「用法,用量,効能,効果」は,「物」それ自体としての客観的同一性を左右するものとはいえないが,「用途」に該当し得る性質のものであるから,「用途」を特定するための事項とみるべきである。
 したがって,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)及び分量」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である。ただし,延長登録制度の立法趣旨に照らして,「当該用途に使用される物」の均等物や「当該用途に使用される物」の実質同一物が含まれることは,前示のとおりである(なお,平成26年知財高判は,「分量」については,「延長された特許権の効力を制限する要素となると解することはできない」旨判示しているが,その趣旨は,「分量」は,「成分」とともに,「物」を特定するための事項ではあるものの,「分量」のみが異なっている場合には,「用法,用量」などとあいまって,政令処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で均等物ないし実質同一物として,延長された特許権の効力が及ぶことが通常であることを注意的に述べたものと理解するのが相当と思われる。)。
エ  本件各処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」について
 前記前提事実によれば,本件処分1,同3及び同5の対象となった医薬品がエルプラット50であり,本件処分2,同4及び同6の対象となった医薬品がエルプラット100であり,本件処分7の対象となった医薬品がエルプラット200であることが認められ,証拠(甲3)によれば,その性状・組成は,次前記前提事実によれば,本件処分1,同3及び同5の対象となった医薬品がエルプラット50であり,本件処分2,同4及び同6の対象となった医薬品がエルプラット100であり,本件処分7の対象となった医薬品がエルプラット200であることが認められ,証拠(甲3)によれば,その性状・組成は,次のとおりであることが認められる。
   
 また,証拠(甲3,4,11の1ないし11の6,乙3の1ないし3の3,17ないし19)及び弁論の全趣旨によれば,エルプラット50,エルプラット100及びエルプラット200は,「物」を特定するための事項である「成分」及び「分量」のうち,「分量」のみが異なるものであって,いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないものとされている(ただし,25℃±2℃/60%RH±5%RHの条件下で12か月及び24か月保存後には,0.1wt%を若干超える程度〔モル濃度換算で,5×10 -5 M~1×10 -4 Mの範囲〕のシュウ酸を含有するに至ることがある。なお,証拠〔甲2,乙11,13,16の2〕によれば,水溶液中のオキサリプラチンが時間を追って分解し,シュウ酸イオンが自然発生するものと考えられる。)ものと認められる。
 そうすると,「物」に係るものとしての「分量」及び「用途」に係るものとしての「効能,効果,用法,用量」の点をひとまず措くとすれば,本件各処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」とは,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まない製剤ただし,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)であると認められる。
  (2) 被告各製品は本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」と
いえるかについて
  前記前提事実,上記(1)エの認定事実,及び弁論の全趣旨によれば,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の「成分」は,いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみ(ただし,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)であるのに対し,被告各製品の「成分」は,いずれも「オキサリプラチン」と「水」以外に,添加物として「濃グリセリン」を含むものであり,その使用目的は,「安定剤」であることが認められる(被告製品3における添加物(濃グリセリン)」の使用目的は,被告製品1及び同2と同じであると推認される。)。
  そうすると,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」と被告各製品とは,その「成分」において異なるものというほかはない。したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」とはいえない。・・・」

「 (3) 被告各製品は本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の
均等物ないし実質同一物に該当するといえるかについて
  ア  考え方
  上記(2)のとおり,被告各製品が本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」とはいえないとしても,前記(1)イで説示したところによれば,被告各製品と本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」との相違が,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明の種類や対象に照らして,周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではない場合には,その「当該用途に使用される物」の均等物,あるいはその「当該用途に使用される物」の実質同一物と認めるのが相当である。
 医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る特許発明において,「当該用途に使用される物」との均等物,あるいは「当該用途に使用される物」の実質同一物かどうかを判断するに当たっては,例えば,次のように考えることができる。当該特許発明が新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など,医薬品の有効成分(薬効を発揮する成分)のみを特徴的部分とする発明である場合には,延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で,有効成分以外の成分のみが異なるだけで,生物学的同等性が認められる物については,当該成分の相違は,当該特許発明との関係で,周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等に当たり,新たな効果を奏しないことが多いから,「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たるとみるべきときが少なくないと考えられる。他方,当該特許発明が製剤に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明である場合には,延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で,有効成分以外の成分が異なっていれば,生物学的同等性が認められる物であっても,当該成分の相違は,当該特許発明との関係で,単なる周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等に当たるといえず,新たな効果を奏することがあるから,「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たらないとみるべきときが一定程度存在するものと考えられる。
  イ  本件発明の種類及び対象
  そこで,本件発明の種類や対象について検討するに,本件明細書には,従来技術,発明の目的及び課題の解決に関し,次の記載がある。・・・

  ウ  検討
 上記のとおり,本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する発明であり,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,原告は,その実施として,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないとするエルプラット点滴静注液(製剤)について本件各処分を受けたものである。これに対し,前記前提事実,上記(1)エ及び(2)の各認定事実,証拠(乙4)並びに弁論の全趣旨によれば,被告各製品は,「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」のほか,有効成分以外の成分として,「オキサリプラチン」と等量の「濃グリセリン」を含有するもので,オキサリプラチンを水に溶解したもの(以下,「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」以外の成分の有無を問わず,「オキサリプラチン水溶液」という。)にグリセリンを加えたのは,オキサリプラチン水溶液の保存中に,オキサリプラチンの分解が徐々に進行し,類縁物質であるジアクオDACHプラチンやその二量体であるジアクオDACHプラチン二量体を主とした種々の不純物が生成するため,オキサリプラチンの自然分解自体を抑制するということを目的としたものであることが認められる。これを,本件発明との関係でみると,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,オキサリプラチン水溶液にオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを加えることが,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たると認めるに足りる証拠はなく,むしろ,オキサリプラチン水溶液に添加したグリセリンによりオキサリプラチンの自然分解を抑制するという点で新たな効果を奏しているとみることができる(なお,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」については,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがあることは,前示のとおりである。また,オキサリプラチン水溶液に添加されたシュウ酸がオキサリプラチンの自然分解を抑制することは知られているが,シュウ酸は人体に有害な物質である。)。
 そうすると,被告各製品は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする本件発明との関係では,本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる物であり,当該成分の相違は,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明との関係では,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たるとはいえず,新たな効果を奏するものというべきである。
 したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するということはできない。 」

【コメント】
 昨年, 最高裁で薬の延長登録出願にまつわる事件がありました(ベバシズマブ事件です。平成27年11月17日判決。)
 これは,あくまで特許庁との行政処分(延長登録が認められるかどうかということ。)について争った事件です。ですので,その結果として,延長登録が認められた場合にどのような効力があるかは射程の範囲外となります。

 そして,その効力については,特許法68条の2が規定しています。

(存続期間が延長された場合の特許権の効力)
第六十八条の二  特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない。

 つまり延長されたからと言って,100%の効力で延長されるのではなく,その中の一部,つまり処分により制限された部分のみが延長された場合の効力になるのですよ,と言っているわけです。

 とは言え,実際のあてはめの際には,これってどうなの?というのはよくあります。
 「ここで犬の散歩をさせてはいけない」というときに,馬を連れてきたり,トカゲを連れてきたりするのはどうなのでしょう?という話です。

 さて,まずは,クレームです。

A  濃度が1ないし5mg/mlで
B  pHが4.5ないし6の
C  オキサリプラティヌムの水溶液からなり,
D  医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量
が当初含量の少なくとも95%であり,
E  該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,
F  腸管外経路投与用の
G  オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。

 こんな感じです。
 実は,このクレームというかこの特許,何度も無効審判を起こされ,その度に審決取消訴訟まで行って(知財高裁平成22(行ケ)10122号,知財高裁平成23年1月31日判決。知財高裁平成27(行ケ)10105号,平成28年3月9日判決など。),生き延びています。しぶといやつです。

 本件でもそのしぶとさが生きるかと思いましたが,まあ侵害訴訟は相手あってのものですので,ちょっと勝手が違ったようです。

 さて,この東京地裁の論理は以下のような感じです。
・延長登録出願した特許権の効力の,原則は,特許法68条の2のそのままの文言とおり。例外は,実質同一物ということで若干広がる。
・原則を検討する場合の「物」の同一性は,上記ベバシズマブ事件で見る。すなわち,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)及び分量」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定される。
・ 本件でのあてはめを検討する。
 「当該用途に使用される物」とは,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まない製剤(ただし,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)である。
 他方,被告製品には, 添加物として「濃グリセリン」を含むものであることから,同一性がない。
 したがって,原則の範疇外。
・例外の要件の検討。
 本件発明の種類や対象に照らして,周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではない場合には,実質同一物である。
・例外のあてはめを検討する。 
 上記のとおり,被告製品には, 添加物として「濃グリセリン」を含み,当該成分の相違は,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明との関係では,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たるとはいえず,新たな効果を奏するものというべきであって,例外にも当てはまらない。
・以上のとおり,原則,例外のどちらにも当てはまらず,非侵害。 

 このような論理になると思います。かなり論理を重ねていく話ですので,規範の部分が長くなります。ですので,ここでも長く引用させて頂きました。

 ということで,薬関係を扱っている方以外にははっきり言ってそんな重要ではないかもしれませんが,取り敢えず,ということです。