2016年12月29日木曜日

侵害訴訟 著作権 平成28(ネ)10054  知財高裁 控訴棄却(請求棄却)

事件番号
事件名
 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日
 平成28年12月21日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清 水 節
裁判官 片 岡 早 苗
裁判官古庄研は,差支えのため署名押印できない。
裁判長裁判官 清 水 節

「(1) 応用美術の著作物性について
ア 著作権法2条1項1号は,著作物の意義につき,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定しており,ここで「創作的に表現したもの」とは,当該表現が,厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの,作成者の何らかの個性が発揮されたものをいうと解される。
 控訴人は,本件シャフトデザイン等が,ゴルフシャフトという実用に供される物品に表現されたものであることなどを前提として,その著作物性を主張する(著作権法10条1項4号)から,本件は,いわゆる応用美術の著作物性が問題となる。
 ところで,著作権法は,建築(同法10条1項5号),地図,学術的な性質を有する図形(同項6号),プログラム(同項9号),データベース(同法12条の2)などの専ら実用に供されるものを著作物になり得るものとして明示的に掲げているのであるから,実用に供されているということ自体と著作物性の存否との間に直接の関連性があるとはいえない。したがって,専ら,応用美術に実用性があることゆえに応用美術を別異に取り扱うべき合理的理由は見出し難い。また,応用美術には,様々なものがあり得,その表現態様も多様であるから,美的特性の表現のされ方も個別具体的なものと考えられる。
 そうすると,応用美術は,「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に属するものであるか否かが問題となる以上,著作物性を肯定するためには,それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても,高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず,著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,著作物として保護されるものと解すべきである。
 もっとも,応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,美的特性を備えるとともに,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があり,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。そうすると,応用美術について,美術の著作物として著作物性を肯定するために,高い創作性の有無の判断基準を設定しないからといって,他の知的財産制度の趣旨が没却されたり,あるいは,社会生活について過度な制約が課されたりする結果を生じるとは解しがたい。また,応用美術の一部について著作物性を認めることにより,仮に,何らかの社会的な弊害が生じることがあるとすれば,それは,本来,著作権法自体の制限規定等により対処すべきものと思料される。 
イ(ア) これに対して,被控訴人は,著作権法,意匠法及び不正競争防止法の諸規定からすれば,実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは,その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り,著作権法2条1項1号の「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」に当たらないというべきである,と主張する。
 確かに,実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインについて,応用美術として著作権法による保護を求める場合には,応用美術が美術の著作物である以上,美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないが,応用美術には,装身具等の実用品自体であるもの,家具等に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々なものがあり,表現態様も多様であるから,前述したように,応用美術が一方において実用的機能を有することを理由として,一律に著作物性を否定することは相当ではなく,また,「美的」という観点からの高い創作性の判断基準を設定することも相当とはいえない。
 上記の見解に反する限度で,被控訴人の主張は採用できない。・・・

(2) 本件シャフトデザイン及び本件原画の著作物性
ア 認定事実・・・
ウ 本件シャフトデザイン及び本件原画の著作物性の有無
 控訴人は,①本件シャフトデザイン等の縞模様を含むベース部分は,トルネード(竜巻)をイメージし,人間のパワーの源である赤から,シャフトのカーボンを表す黒に昇華していく表現であり,ゴルフ界に嵐を巻き起こすという意味を込めている,②ブランドロゴの横字画部の右側を鋭角に伸ばすことでボールの弾道やエネルギーの伸びと指向性を表現している,③ブランドロゴをトルネード模様(縞模様)の上に配置することでシャフト縦方向へのパワーを表現する工夫を凝らしているから,本件シャフトデザイン等には創作性が認められるべきである,と主張する。
 しかし,①縞模様は,本件シャフトデザイン及び被告シャフト以外にもシャフトのデザインに用いられた例がある(乙1の添付資料8)上に,様々な物のデザインとして頻繁に用いられ,縞の幅を一定とせずに徐々に変更させていく表現も一般に見られるところである。ゴルフシャフトの色として,赤,黒及びグレーの3色を用いた例は証拠上複数見られる(甲30の3の中央の画像の真ん中のシャフト,甲30の4の中央の画像の一番上のシャフト,甲30の5の中央の画像の後ろのシャフト)。よって,本件シャフトデザイン等を縞模様とし,縞の幅を変化させ,縞の色として赤,黒及びグレーを選択したことは,ありふれている。
 また,②いわゆるデザイン書体は,文字の字体を基礎として,これにデザインを施したものであるところ,文字は,本来的には情報伝達という実用的機能から生じたものであり,社会的に共有されるべき文化的所産でもあるから,文字の字体を基礎として含むデザイン書体の表現形態に著作権としての保護を与えるべき創作性を認めることは,一般的には困難であると考えられる。しかも,本件において,「Tour AD」のブランドロゴは,上記ア(エ)のとおり,既存のフォントを利用した上で,「T」の横字画部を右に長く鋭角に伸ばしたものであるところ,文字として可読であるという機能を維持しつつデザインするに当たって,文字の一字画のみを当該文字及び他の文字の字画を妨げない範囲で伸ばすことは一般によく行われる表現であること,文字の一字画を伸ばした先を単に鋭角とすることも,平凡であることからすれば,この表現が個性的なものとは認められない。
 さらに,③ブランドロゴをトルネード模様の上に配置したことに関しては,シャフトのデザインに製品等のロゴを目立つように配置することは,他のゴルフクラブのシャフトにも頻繁に見られる(甲29,甲30の1~5)表現であり,細長いシャフトに文字を大書して目立たせる配置をすることの選択の幅は狭いから,ブランドロゴをトルネード模様の上に配置したことが個性的な表現とはいえない。よって,本件シャフトデザイン等に,創作的な表現は認められず,著作物性は認められない。」

【コメント】
 最近流行の工業製品のデザインを著作権で保護しようというやつの一例です。
 
 とは言え,請求棄却になっております。
 控訴人(原告)の原画等はこんな感じです。
 
 他方,被告製品のデザインはこんな感じです。 


 似ていると言えば似ているのですが,そもそも著作物じゃなければどんなに似ていようとも関係ありません。
 そして,知財高裁3部の清水部長の合議体は,上記のように判断して,請求に理由なしとしたわけです。
 ちょっと前に幼児用箸の事件があり,それも第3部の事件だったのですが,それを踏襲するような話でした。 

 ですので,規範などはそれとほぼ同じということです。こういうのを見ると,何だか自分で広げた大風呂敷(TRIPP-TRAPP事件)を畳めずに困っている感じがして,実に滑稽だなあと思うのは私だけでしょうか。

 ところで,この事件,経緯によくわからない所あります。
 一審は,東京地裁平成27(ワ)21304(平成28年4月21日判決)でした。これによりますと,被告が広告代理店に,シャフトやカタログのデザインの発注をかけ,デザイナーである原告が広告代理店からこれを請け負ったということになります。

 ディールというかスキームというかはよくある話です。勿論,原告の方は,広告代理店から,相応のデザイン料を受け取っております。
 にもかかわらず,原告のデザイナーは最終的なお客の被告を訴えたのです。 ちょっとどうかしているという感じが非常にします。私が発注者だったら,こんな所は二度と使いませんね。

 最近権利意識の勘違いというか濫用気味の方も多いですから,発注者としては,広告代理店との契約にインデム条項を必ず入れておくようにして,他方,広告代理店としては,デザイナーとの契約に,念のため著作権等は買い取りで,人格権も不行使の条項を入れておくことがリスク回避にとって必須と思われます。

 世知辛い世の中となっておりますが,致し方ない所でしょう。