2016年1月8日金曜日

2015年言い渡し判決のまとめ

1 年が明けましたので,昨年(2015)言い渡しのあった判決について,注目すべきものをまとめておきたいと思います。

 ですので,今回は特別編です。

2 特許
 仕事では特許に関わることが多いため,選んだのも特許が多くなってしまいました。言い渡し順にご紹介します。

(1) 東京地裁平成24年(ワ)15621号(平成27年1月22日判決
 過剰な差し止めの可能性があるとして,請求自体が棄却になったものです。一部の差し止めも認めなかったという極めて珍しい判決ではないでしょうか。

(2)知財高裁平成26年(行ケ)10087号(平成27年1月28日判決
 上位概念への訂正が新規事項追加に当たるかどうかが問題になったものです。そして,この判決は上位概念への訂正を新規事項追加に当たらないと判断しました。弁理士の方には実に参考になる判決だと思います。

(3)最高裁平成24年(受)1204号(第2小法廷平成27年6月5日判決
 言わずと知れた,PBPクレームの大合議の方の上告審です。技術的範囲の解釈を物同一性説で判断するとしました。しかし,明確性の要件を厳しくみることになりましたので,今後はPBPクレームは根絶やしになるでしょう。なお,事件は知財高裁に戻らず,原告の請求放棄で終わったようです。

(4) 最高裁平成24年(受)2658号(第二小法廷平成27年6月5日判決
 こちらは,PBPクレームの発明の要旨認定での解釈が問題となった方です。そして,こちらも,物同一性説で判断するとしました。注目すべきものであることは確かです。

(5) 知財高裁平成26年(ネ)10104 号(平成27年6月16日判決
  知財高裁で,クレームの限定解釈を行ったという,いまどき珍しい判決です。ただし,判決を読むとわかるのですが,それも妥当ではないかと思われる事例です。

(6) 知財高裁 平成27(ネ)10097号( 平成27年10月8日判決
 特許の海賊品をネットショップで売っていた場合の,ネットモールの責任が問題になったものです。商標や著作権では問題になりそうですが, 特許では珍しいと思います。ちなみに,本件の判示では例外なくネットモールは無責だとしました。

(7)  知財高裁平成26(ネ)10109号(平成27年10月28日判決
 訂正の要件に言う特許法126条6項の,「・・・実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはならない。」の意義が問題になりました。そこでの議論の,実質的な理由として,間接侵害の成立範囲の差異を挙げております。
 今後,上記のPBPクレームの対応ということで,物の発明から方法の発明への訂正が問題となる事例が多々出てくると予測されますが,物の発明と方法の発明では間接侵害の成立範囲が異なるという理由で許されない事例も出てくるのではないかと思われます。

(8) 最高裁平成26(行ヒ)356号(平成27年11月17日判決
 特許権の存続期間の延長が問題となったベバシズマブ事件です。つまり,昨年は,最高裁で特許の事件が3つもあったのです。

(9)知財高裁平成26(行ケ)10228号(平成27年11月25日判決
 進歩性はこれ一つにしておきましょう。飯村部長の所謂新傾向判決から,約7年経ちました。この7年間の傾向とは真逆のアンチパテントな判決です。新傾向時代であれば,組み合わせに動機付けなし,とされたでしょうが,今はこのような判決も出るというわけです。

(10)知財高裁平成27(ネ)10075号( 平成27年11月30日判決
 なんとびっくりすることに,無効の抗弁の理由として,冒認で権利行使不可となったものです。よくよく調べるとかなり様々な事情のある事件のようですが,冒認で権利行使不可となったのはキルビー判決以降で初めてではないでしょうか。

3 特許以外
 特許以外は2件です。
(1)知財高裁平成26年(ネ)10063号(平成27年4月14日判決
 子供の椅子の著作物性が問題となった事件です。そして,なんと驚くことに,この事例では著作物性を認めました。様々な評者が様々なところで色々書いておりますが,特許の最高裁の事件と並ぶほど,大きなインパクトのあった事件ではないでしょうか。

(2)知財高裁平成27(ネ)10037平成27年11月5日判決
 商標のゆーとぴあ事件です。商標の実務家に極めて評判の悪かった一審(侵害を認めた)とは真逆の,請求棄却判決です。 これで,権利者以外の誰しも納得したのではないかと思います。

4 昨年は特許では法改正(職務発明絡み)や,最高裁があり,商標も法改正(新商標)などがあり,著作権も上記のインパクト判決があり,知財にとっては大きな年でした。

 唯一意匠は,音無しだったのですが,今年は意匠の審査基準の変更が予定されていることから( デジタル機器の操作画像のデザインについて),若干波風の立つこともあると思います。