2016年11月11日金曜日

侵害訴訟 特許  平成28(ネ)10042  知財高裁 控訴棄却(請求棄却)


事件番号
事件名
 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日
 平成28年10月26日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 古 河 謙 一
裁判官 鈴 木 わ か な

「 ウ 「押付部材」の意義
 前記アのとおり,「押付部材」の一態様として「絶縁球」から成るものがあることから,本件明細書には,「押付部材」についても,上記イと同様の内容が開示されているものということができる。
 したがって,「押付部材」は,「球状面からなる球状部」を有するものであり,本件明細書において,小型化の要請にこたえて接触端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量を小さくしながら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明の課題を解決するための構成として,①コイルバネとプランジャーピンとの間に介在するものであり,コイルバネの付勢を受けてその力をプランジャーピンに伝達し,同力を,プランジャーピンの軸方向に作用させてプランジャーピンの突出端部を本体ケースから突出させるとともに,プランジャーピンの軸に対して垂直の方向に作用させてプランジャーピンの大径部を本体ケースの管状内周面に接触させるものであること,②「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されているので,同傾斜凹部の外周側において大径部を軸方向に延長させた側周部があり,大径部の表面積をより大きくして,大径部をより確実に本体ケースの管状内周面に接触させることが開示されている。
 そして,本件発明は,コイルバネの付勢により,「押付部材」の「球状面からなる球状部」を,プランジャーピンの大径部の「傾斜凹部」に「押圧」することによって,上記付勢に係る力を「押付部材」を介してプランジャーピンに伝達する際,プランジャーピンの軸方向及び軸に対して垂直の方向に作用させるものと解される。
⑵ 構成要件Dの「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」について
・・・
 これらの記載によれば,コイルバネが,押付部材を介して,プランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢することは,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケースの管状内周面に接触させつつも,その接触圧力を過度に高めることもないという効果を奏するものであるところ,傾斜凹部の中心軸がプランジャーピンの中心軸とオフセットされている場合,コイルバネがプランジャーピンを上記方向に付勢することを確実なものとするということができる。

⑶ 構成要件Dの「押圧」について
 前記⑴ウ及び⑵アによれば,「押圧」とは,コイルバネの付勢に係る力を「押付部材」を介してプランジャーピンに伝達するものであり,その際,上記力をプランジャーピンの軸方向のみならず,軸に対して垂直の方向に作用させることによって,プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの管状内周面に接触させるとともに,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させることによって,ブランジャーピンから本体ケースへ確実に電流を流し,前記の本件発明の課題を解決するものであると解される。

⑷ 被告製品の充足性について
ア 被告製品と本件発明との技術的意義の相違について
(ア) 被告製品の構成について
 被告製品は,別紙2のとおり,プランジャーピン,コマ状部材,コイルバネ及び本体ケースによって構成されており,前記第2の2⑸のとおり,本件発明の構成要件AからCを充足するものである。
(イ) 本件発明と被告製品の技術的意義の相違について
 証拠(甲4,甲32の1・2,乙38,54)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の技術的意義につき,以下のとおり認められる。
 プランジャーピンは,その大径部に略円錐面形状を有する傾斜凹部を備えているものであるが,コイルバネにより付勢されて本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように設計されている。コマ状部材は,導電性を有するものであり,その球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き,本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように構成されている。プランジャーピン及びコマ状部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう, コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置は,オフセットされている
 このように合計4つの電流経路を確保することにより,被告製品の電気抵抗が低減し,被告製品を流れる電流についてコイルバネを通る経路以外の経路が存在しないという事態が生じる可能性は低くなり,コイルバネに流れる電流量が抑えられる。加えて,コイルバネが●●●●●●●によって被覆されていることから,絶縁性ボールを使用する必要はない。
 他方,本件発明においては,前記⑵のとおり,①傾斜凹部を略円錐面形状とすることによって,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させることができ,それにより,押付部材を介してプランジャーピンに伝達されるコイルバネの付勢に係る力の方向を安定させ,②さらに,傾斜凹部の中心軸をプランジャーピンの中心軸とオフセットさせることにより,コイルバネがプランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢することを確実なものとすることによって,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケースの管状内周面に接触させて本体ケースへ確実に電流を流すことを可能とするものである。
 以上によれば,被告製品と本件発明とは,押付部材とプランジャーピンとの接触に関し,技術的意義を異にするものということができる。
 ・・・・
イ 構成要件Dの「押付部材」に該当する構成の有無
 前記アのとおり,被告製品のコマ状部材は,それ自体が本体ケースの内周面に左
右2箇所で接触して
電流経路を確保している。
 他方,前記⑴のとおり,本件明細書において,「押付部材」につき,小型化の要請にこたえて接触端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量を小さくしながら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明の課題を解決するための構成として,「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されていることが開示されている。本件明細書において,「押付部材」自体が本体ケースに接触して電流経路を確保することは,開示されていないものというべきである。
 したがって,被告製品のコマ状部材は,構成要件Dの「押付部材」に該当しない。
 ほかに,被告製品の構成中,「押付部材」に相当するものはない。
ウ 「押圧」について
 前記アのとおり,被告製品は,プランジャーピン及びコマ部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう,コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置をオフセットしている。被告製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き,本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するという構成自体からも,通常,コマ状部材の球状部の中心が,プランジャーピン底面の最深位置,すなわち,傾斜凹部の中心軸上に位置することは,考え難い。現に,別紙2は,コイルバネの付勢によって,コマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押し,それによって,プランジャーピンの突出端部が本体ケースから突出するとともに,プランジャーピンの大径部の外側面が本体ケースの内周面に押し付けられている状態であるが,コマ状部材の球状部の中心は,明らかに傾斜凹部の中心軸からずれている。
 よって,コマ状部材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは,コマ状部材の球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものではないから,構成要件Dの「押圧」に該当せず,ほかに,被告製品の構成中,「押圧」に該当するものはない。 」

【コメント】
 例の,島野製作所とアップルの特許権侵害訴訟の控訴審の事件です。
 概要などは,一審時にここでもコメントしましたので,そちらを見てください。 

 さて,文言侵害について,ポイントは以下のとおりです。

 本件特許では,電流は,プランジャーピン→本体ケースという風に流れるのです。ですので,押圧部材は,電流の通り道にはなりません。そのため絶縁体でもよいのです。

 他方,被告製品では,電流の,プランジャーピン→コマ状部材→本体ケースという流れがあります( プランジャーピン→本体ケースという流れもあると思います。)。ですので,コマ状部材は絶縁体では困ります。
 
 また,プランジャーピン→本体ケースという流れを確実なものにするために,コマ状部材は偏心しております(下の図が被告製品の断面図)。


 

 ですので,そもそもの技術的思想が異なるのだ!という感じになっております。

 一審の際は,球(本件特許)とマッシュルーム(被告製品)での,形状の違いがクローズアップされておりました。ですので,負けた方としては何とも惜しい所で負けてしまったような感想を持ちがちです。

 しかし,今回の二審は,そもそも技術的思想が違うのだ,はなっから全然違う技術なのだ,と大差の負けを宣告し,もう諦めなさいと言っているように思えます。

 その結果,均等侵害についても,「前記2によれば,本件発明と被告製品は,上記本質的部分において相違することが明らかであるから,均等侵害の成立を認める余地はない。」と,均等の第一要件でも切っております。

 一審の判示からすると,均等の第5要件をクリアできなさそうなのですが,さらに,第1要件すらもクリアできないのだ!もう全く違う技術なのだ! と念押ししております。
 要するに,今回,文言侵害の所で,そもそもの技術的思想が異なるのだと判旨で強調したのは,均等侵害の可能性を潰すためなのでしょう。


 高部部長としては,弁護士に高い金を払って負け試合を延々と続けるよりも,ここら辺で諦めて,本業に邁進した方がいいのでは?というある意味仏心を出したのかもしれません。