2017年3月17日金曜日

審決取消訴訟 特許 平成28(行ケ)10076  知財高裁 無効審判 不成立審決 請求棄却

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成29年3月14日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部 
裁判長裁判官 森 義 之
裁判官   片岡   早苗       
裁判官  古庄   研  

「 (1)  相違点2についての判断
 引用発明及び甲2発明は,共に,建築の際に用いられる羽子板ボルトに関するものであるから,その技術分野を共通にし,横架材等を相互に緊結するという機能も共通している。
 しかし,引用発明に回動不能構成を採用することには,引用発明の技術的意義を損なうという阻害事由がある。
 引用発明は,前記2(2)のとおり,従来の羽子板ボルトが有する,ボルト穴の位置がずれた場合に羽子板ボルトを適切に使用することができないという課題を解決するために,ボルト8 1 が摺動自在に係合する係合条孔9 2 を有する補強係合部10bを,軸ボルト4を中心として回動可能にするという手段を採用して,補強係合具10bが軸ボルト4を中心に回動し得る横架材16面上の扇形面積部分19内のいずれの部分にボルト穴17 1 が明けられても,補強係合具10bの係合条孔9 2 にボルト8 1 を挿入することができるようにしたものである。引用発明に相違点2に係る構成を採用し,引用発明の補強係合具10bを,軸ボルト4を中心として回動可能なものから回動不能なものに変更すると,補強係合具10bの係合条孔9 2 にボルト8 1 を挿入することができるのは,ボルト穴17 1 が係合条孔9 2 に沿った位置に明けられた場合に限定される。すなわち,引用発明は,横架材16面上の扇形面積部分19内のいずれの部分にボルト穴17 1 が明けられても,補強係合具10bの係合条孔9 2 にボルト8 1 を挿入することができるところに技術的意義があるにもかかわらず,回動不能構成を備えるようにすると,係合条孔9 2 に沿った位置以外の横架材16面上の扇形面積部分19内に明けられたボルト穴17 1 にはボルト81 を挿入することができなくなり,上記技術的意義が大きく損なわれることとなる。
 そして,引用発明の技術的意義を損なってまで,引用発明の補強係合具10bを回動不能なものに変更し,係合条孔9 2 に沿った位置にボルト穴17 1 を明けない限りボルト8 1 を挿入することができないようにするべき理由は,本件の証拠上,認めることができない。
 そうすると,引用発明の補強係合具10bを回動不能なものに変更することには,阻害要因があるというべきである。したがって,引用発明が相違点2に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。 
 そして,甲3文献に記載された事項は,「垂直材」(柱)と「横架材」(土台梁)とを接合する「羽子板ボルト」であって,上記阻害事由があるという判断に影響するものではないから,引用発明に相違点2に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
 したがって,本件発明1は,引用発明,甲2発明及び甲3文献に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 」

【コメント】
 特許の無効審判(不成立審決)に対する審決取消訴訟の事件です。
 発明は,「接合金具」(特許第4027278号) で,大工さんが,柱等を接合するのに使うような金具に関するものです。
 
 久々に進歩性,しかも阻害要因が問題となった事件です。
 
 クレームからです。
 [請求項1]
 第1構造材と第2構造材とを互いに垂直に接合する接合金具であって,
 第1構造材が垂直材であり,第2構造材が横架材であり,
 固定用孔を有し該固定用孔を介して固定材で上記垂直材の側面に当接固定される縦長の平板体と,該平板体に突出固定され,該平板体の平板部に対して垂直な方向に縦長の係合孔部を有する係合体とを具備し,
 上記係合孔部は,矩形状のプレートを折曲し,折曲により互いに接近した該プレートの両端部を該平板体の平板部に固定して形成されており,該係合孔部は,上記垂直材に上記横架材を引き寄せ接合させるのに用いられる引き寄せボルトを,上記平板部に対して垂直な方向の所望の位置にずらして挿通可能であり,
 上記引き寄せボルトを上記係合孔部に挿通し,その引き寄せボルトの両側に位置する,該係合孔部の相対向する一対の縁部間にまたがるように配したナットを該引き寄せボルトに螺合させることにより,上記垂直材と上記横架材とを緊結するようになされており,
 上記係合孔部は,相対向する上記一対の縁部間の距離にほぼ等しい直径を有する引き寄せボルトを,上記平板部に対して垂直な方向に2本並べて挿通可能な内寸を有していることを特徴とする接合金具。
 
 機械系の発明は本当文言からはわかりにくいです。
 図は,こんな感じです。
 
 こうすると, 多少わかるかもしれません。
 
 こんな感じで使うらしいです。こっちの図4の方がわかりやすいかもしれません。 

 ほんで引用発明は,こんな感じです。
 
 同じような感じですね。

 でも,違いがあります。

 一致点・相違点は以下のとおりです。

(一致点)
「2本の構造材を互いに垂直に接合する接合金具であって, 固定用孔を有し該固定用孔を介して固定材で上記構造材の側面に当接固定される縦長の平板体と,
 該平板体に突出固定され,該平板体の平板部に対して垂直な方向に縦長の係合孔部を有する係合体とを具備し,
  上記係合孔部は,矩形状のプレートを折曲し,折曲により互いに接近した該プレートの両端部を,上記平板体側に固定して形成されており,
 該係合孔部は,上記構造材を引き寄せ接合させるのに用いられる引き寄せボルトを,上記平板部に対して垂直な方向の所望の位置にずらして挿通可能であり,
  上記引き寄せボルトを上記係合孔部に挿通し,その引き寄せボルトの両側に位置する,該係合孔部の相対向する一対の縁部間にまたがるように配したナットを該引き寄せボルトに螺合させることにより,上記構造材を緊結するようになされており,
  上記係合孔部は,相対向する上記一対の縁部間の距離にほぼ等しい直径を有する引き寄せボルトを,上記平板部に対して垂直な方向に2本並べて挿通可能な内寸を有している,接合金具。」
  (相違点1)
「接合金具」が接合する対象である「2本の構造材」に関して,本件発明1は,
「構造材」の一方が「垂直材」であり,「構造材」の他方が「横架材」であるのに対して,引用発明は,「2本の構造材」がともに「横架材」である点。
(相違点2)
「(プレートの両端部を,上記平板体側に固定して形成される)係合孔部」に関して,本件発明1は,「プレートの両端部を該平板体の平板部に固定」して形成されているのに対して,引用発明は,「プレートの両端部を,ボルト穴を有する羽子板に固着した筒状軸受に挿入し回転自在とした軸ボルトに固定」して形成されている点。
  

 ポイントは相違点2です。本願発明では,ボルトを入れるところが固定されているのに対し,引用発明ではそこがヒンジ式に回動できるのですね。
 
 つまり,固定か回動化か,その違いです。
 
 この違いについて,引用発明では回動可能というところが発明の特徴なんだから,そこを固定してしまうと,引用発明の作用効果を奏することができん!として,阻害要因あり!としました。
 
 別に,引用発明自体にこれしちゃいかんと書いてあったわけではないですが,読み取れる技術的意義からからして,そこを固定しちゃダメだろうという認定を行ったわけです。

 これは致し方ないかなあという気が致します。

 あと注目するのは,一見,引用発明の方が「進歩」したような発明で,本願発明の方が退歩したような感もあります。ですが,進歩性の判断については,技術的な価値がどうだこうだというのは,基本関係ないということです。
 
 法文のとおり,進歩性には進歩が要らない!これがよくわかる事件なのではないでしょうか。