2017年4月12日水曜日

不正競争  平成28(ワ)12829  東京地裁 請求棄却

事件番号
事件名
 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日
 平成29年3月30日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第47部 
裁判長裁判官          沖 中 康 人
裁判官          廣 瀬 達 人
裁判官          村     井     美   喜   子  
 
「  ア  商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,その登録商標と同一の商標を付したものを輸入する行為は,許諾を受けない限り,商標権を侵害するが(商標法2条3項,25条),そのような商品の輸入であっても,①当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり(第1要件),②当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが,同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が,我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって(第2要件),③我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実
質的に差異がないと評価される場合(第3要件)には,いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である(最高裁判所平成15年2月27日第一小法廷判決・民集57巻2号125頁)。
      イ  原告は,NIC社製のセラコート塗料を購入した米国協力業者から国際航空貨物運送業者を介して同塗料の送付を受けた国内協力業者から購入しており,このことは証拠(甲23ないし28,37ないし40)から明らかであるから,原告の輸入行為は第1要件を充足する旨主張するので,検
討する。
          なお,本件発言等3は平成27年11月18日頃にされたものであるから,ここで第1要件を充足することが立証されるべき原告の輸入行為は,上記時点より前のものであることは当然であり,かかる観点から検討を行うこととする。
          まず,上記各証拠は作成時期が1年以上異なるものも含まれているから,これらを一体として一連の輸出入等に関する証拠であると解することはできない。
  そして,証拠(甲23,24)及び弁論の全趣旨によれば,米国に所在する氏名不詳の者(以下「A」という。)が,平成28年4月,NIC社に同社製のセラコート塗料を注文してこれを購入したこと,及び,米国に所在する氏名不詳の者が,同年5月5日,品名「PAINTS.VARNISHES  &  SOLUTIONS,N.E.S」について,日本に所在する氏名不詳の者に対する輸入許可を受けたことが認められる。しかしながら,これらは,そもそもいずれも本件発言等3より約4月以上も後の事実であるから,本件発言等3の内容が虚偽であるか否かの点に直接関係を有しない上,輸入許可を受けた主体がAであるかは不明であり(甲24は公正証書〔甲39〕の確認対象になっていない。),輸入許可に係る貨物がNIC社製のセラコート塗料であるかも不明であり,原告が上記の日本に所在する氏名不詳の者から上記荷物を受領したと認めるに足りる証拠もない。
          次に,証拠(甲25ないし28,39)及び弁論の全趣旨によれば,Aが,平成27年7月25日付けで,日本に所在する氏名不詳の者(以下「B」という。)に対し,品名「塗料」,総個数「3」を内容とする国際航空貨物(運送状番号808486953648)を発送して同月27日に輸出し,同月30日付けで,品名「液体入りプラスチック容器  Cerakote」「0.8kg  H-168×1pce」とする内容点検確認を受けたことが認められる。しかしながら,上記輸出入に係る荷物がNIC社製のセラコート塗料であるかは不明であり,原告がBから上記荷物を受領したと認めるに足りる証拠もない。
          さらに,証拠(甲39,40)によれば,原告が,平成28年5月25日付けで,Bから品名を「セラコート」とする代金の請求を受けたことは認められるが,これは本件発言等3より約6月も後の事実であり,上記代金の対象が本件発言等3より前の取引に係るものであることも認めるに足りないから,本件発言等3の内容が虚偽であるか否かの点に直接関係を有しないし,そもそも,当該「セラコート」がNIC社製のセラコート塗料であるか自体も不明である。
          そうすると,原告の提出する上記各証拠をもって,原告が,本件各発言等の前から,米国協力業者及び国内協力業者を介して,NIC社製のセラコート塗料を継続的に輸入したと認めることはできず,他に当該事実を認めるに足りる証拠はない。加えて,本件全証拠を検討しても,日本国内において流通するセラコート塗料にNIC社製ではない非真正品が存在しないと認めるに足りる証拠もない。
          以上によれば,原告の輸入行為が第1要件を充足すると認めることはできない。
      ウ  したがって,本件発言等3を「虚偽」の事実の告知・流布であると認めることはできない。  」

【コメント】
 不正競争防止法の2条1項15号,信用毀損行為の事件です。

 独占代理店と並行輸入業者との争いというよくあるパターンですが,独占代理店の代表者のフェイスブックでのメッセンジャーアプリを使っての個人宛のメールが「虚偽の事実を告知」に当たるか,問題になったものです。
 
 そして,まず,判決では,「事実を告知」には当たるとしました。
 個人のアカウントだから,フェイスブックそのものではなくメッセンジャーアプリだから,てなことでお気楽に色々言うのは気をつけた方がいいですね。
 
 つぎに,本件では,珍しく,「虚偽」に当たらないとしたのですね(判旨)。
 
 これは,並行輸入のフレッドペリー事件(最高裁判所平成15年2月27日)の要件を検討したものです。
 この判決の要旨は,適法性,同一人性,品質の実質同一性の3つの要件と言われています。そして,今回の事件では,そのうち1番めの適法性要件で切られたわけです。
 
 つまり,「当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであ」るかどうかはわからん!ということですね。

 なので,商標権侵害だ→「虚偽」じゃないじゃん→信用毀損じゃないじゃん,となったわけです。

 まあ,これでは原告も収まりがつかなさそうですので,二審に行くでしょう。本番はこれからかもしれませんね。