2017年9月28日木曜日

審決取消訴訟 特許 平成28(行ケ)10236 不成立審決 請求認容

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成29年9月21日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 森 義之
裁判官 永田早苗
裁判官 森岡礼子
「(1) 特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)ア 請求項1及び2の「外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,」の部分(以下「記載事項A」という。)について
 記載事項Aは,本件発明の無洗米の製造装置における処理対象である玄米粒の構成について,その表層部から深層部に至る各部分の名称を順に列挙するものであり,上記無洗米の製造装置の構造又は特性に直接関連するものではない
イ 請求項1及び2の「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内,『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9)』,または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,」の部分(以下「記載事項B」という。)について
 記載事項Bは,本件発明の無洗米の製造装置を用いた精米方法又は上記無洗米の製造装置により得られる精白米の性状を表したものであり,上記無洗米の製造装置の構造又は特性を直接特定する記載ではない
ウ 請求項1及び2の「更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする」の部分(以下「記載事項C」という。)について
 記載事項C は,白米の表面に付着する「肌ヌカ」を無洗米機により分離除去する無洗米化処理を行うことを記載したものであり,本件発明の無洗米の製造装置が無洗米機をその構成の一部としていることを表しているが,それ以上に,上記無洗米の製造装置の構造又は特定を直接特定する記載ではない。
エ 請求項1及び2の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって,」の部分(以下「記載事項D」という。)について
 記載事項Dの「無洗米の製造装置であって」という部分は,本件発明が無洗米の製造のための装置の発明であることを示す記載であり,発明のカテゴリーを示して,その技術的範囲を定めるものと解される。
 記載事項Dの「旨み成分と栄養成分を保持した」という部分は,本件発明の無洗米の製造装置で製造される無洗米の特性を示したものであり,前記無洗米の製造装置の構造又は特性を直接特定する記載ではない
オ 請求項1の「全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い,」の部分(以下「記載事項E」という。)について
 記載事項Eは,それのみでは,これが精米工程,すなわち,方法を表すものなのか,請求項1の無洗米の製造装置に少なくとも摩擦式精米機が含まれているという構造を示すものなのか,必ずしも判然としない。
 しかしながら,本件明細書には,実施例として,第1精米機,第2精米機,第3精米機を構成に含み,これらはいずれも噴風摩擦式精米機であるが,第1精米機のみは研削式にする場合もあるという無洗米の製造装置が記載されており(【0030】),玄米は,第1精米機において中途精白米に仕上げられ,第2精米機において,更に精白度を高めた中途精白米に仕上げられ,第3精米機において,最適の白度に仕上げられる(【0032】)のであって,本件発明の精米装置では,「全行程,もしくは終末寄りの工程が噴風摩擦式精米機によって構成され,それが少なくとも全精米工程の少なくとも3分の2以上を占めている。」(【0037】)旨が記載されている。
 これらの記載を斟酌すると,記載事項Eは,本件発明1に係る無洗米の製造装置の構成につき,摩擦式精米機が全精白工程の少なくとも3分の2以上の工程を占めるように構成されたとの特定をしていると解することができるから,上記無洗米の製造装置の構造を示すものということができる。
カ 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,」の部分(以下「記載事項F」という。)について
 記載事項Fには,「精白除糠網筒の内面」を「ほぼ滑面状とな」すという動詞を用いた記載が含まれているが,「ほぼ滑面状」とされるのは「精白除糠網筒の内面」であり,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置が完成した状態において,精白除糠網筒の内面」が「滑面」(【0029】),「ほとんど,滑面状」(【0033】),又は「ほぼ滑面状」(【0037】)である旨が記載されており,従来の摩擦式精米機の「精白除糠網筒の内面」には「突起」が設けられていたが,本件発明1の無洗米の製造装置では,これを「滑面」にする旨(【0029】)の記載がある一方,精白除糠網筒の製造方法の記載はないから,記載事項F は,「精白除糠網筒の内面」が「ほぼ滑面状」である「精白除糠網筒」をその構成に含むことを,精白除糠網筒の内面の状態を示すことにより,特定したものと解される。したがって,上記無洗米の製造装置の構造を示すものということができる。
キ 請求項1の「且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,」の部分(以下「記載事項G」という。)について
 記載事項Gは,本件発明1に係る無洗米の製造装置を構成する精米機が,「精白ロール」を有するという,前記装置の構成を特定する記載と,その運転条件である回転数に関する記載を含むものであり,後者は,本件明細書の「それらの噴風摩擦式精米機の回転数も毎分900回転以上の高速回転で運転される」(【0031】),「本装置は毎分900回の高速回転をさせている」(【0033】)との記載に照らすと,本件発明1に係る無洗米の製造装置の構成につき,上記回転数以上で運転するものと特定していると解することができるから,上記無洗米の製造装置の構造又は特性を特定するものということができる。
ク 請求項1及び2の「及び,無洗米機を備えたことを特徴とする」の部分(以下「記載事項H」という。)について
 記載事項Hは,本件発明に係る無洗米の製造装置の構成には,無洗米機が含まれることを特定している。
 本件明細書には,実施例の説明として,無洗米機は,公知の無洗米機(【0031】,【0036】)と記載されているのみであって,当該無洗米機の構造又は特性についての記載は見当たらないが,「公知の無洗米機」であるという意味では特定されているということができる。
ケ 請求項1及び2の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」 の部分(以下「記載事項I」という。)について
 記載事項Iは,記載事項Dと同内容であり,前記エのとおりである。

(3) 以上の記載事項A~Iについての検討を総合すると,本件発明1の無洗米の製造装置は,少なくとも,摩擦式精米機(記載事項F)と無洗米機(記載事項C)をその構成の一部とするものであり,その摩擦式精米機は,全精白構成の終末寄りから少なくとも3分の2以上の工程に用いられているものである(記載事項E)上,精白除糠網筒(記載事項F)と精白ロール(記載事項G)をその構成の一部とするものであり,その精白除糠網筒の内面は,ほぼ滑面状であって(記載事項F),精白ロールの回転数は毎分900回以上の高速回転とするものである(記載事項G)と認められる。
 したがって,上記の無洗米の製造装置の構造又は特性は,記載事項A~Iから理解することができる。
 しかしながら,請求項1の無洗米の製造装置の特定は,上記の装置の構造又は特性にとどまるものではなく,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精し(記載事項B),白米の表面に付着する肌ヌカを無洗米機により分離除去する無洗米処理を行う(記載事項C)ものであり,旨味成分と栄養成分を保持した無洗米を製造するもの(記載事項D,I)である。
 このうち,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精する(記載事項B)ことについては,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明に係る無洗米の製造装置のミニチュア機で,白度37前後の各白度に搗精した精米を,洗米するか,公知の無洗米機によって通常の無洗化処理を行い,炊飯器によって炊飯し,その黄色度を黄色度計で計り,黄色度11~18の内の好みの供試米の白度に合わせて搗精を終わらせる時を調整して,本格搗精をすることにより行うこと(【0035】),このようにして仕上がった精白米は,亜糊粉細胞層が米粒表面をほとんど覆っていて,かつ,全米粒のうち,表面が除去された胚芽と胚盤が残った米粒の合計数が,少なくとも50%以上を占めていること(【0036】)が記載されており,結局のところ,ミニチュア機で実際に搗精を行うことにより,本格搗精を終わらせる時を調整することにより実現されるものであることが記載されている。
 したがって,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置につき,その特定の構造又は特性のみによって,玄米を前記のような精白米に精米することができることは記載されておらず,その運転条件を調整することにより,そのような精米ができるものとされている。そして,その運転条件は,本件明細書において,毎分900回以上の高速回転で精白ロールを回転させること以外の特定はなく,実際に上記のような精米ができる精白ロールの回転数や,精米機に供給される玄米の供給速度,精米機の運転時間などの運転条件の特定はなく,本件出願時の技術常識からして,これが明らかであると認めることもできない
 ところで,本件明細書の発明の詳細な説明において,亜糊粉細胞層(5)については,「糊粉細胞層4に接して,糊粉細胞層4より一段深層に位置して僅かに薄黄色をした」,「厚みも薄く1層しかない」ものであり(【0015】),「亜糊粉細胞5は・・・整然と目立って並んでいる個所は少なく,ほとんどは顕微鏡でも確認しにくいほど糊粉細胞層4に複雑に貼り付いた微細な細胞であり,それも平均厚さが約5ミクロン程度の極薄のものである」(【0018】)と記載され,胚芽(8)及び胚盤(9)については,「胚芽7の表面部を除去された」ものが胚芽(8)であり,それを更に削り取ると胚盤(9)になる(【0023】)と記載されている。しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,米粒に亜糊粉細胞層(5)と胚芽(8)及び胚盤(9)を残し,それより外側の部分を除去することをもって,米粒に「旨み成分と栄養成分を保持」させることができる旨が記載されており(【0017】~【0023】),玄米をこのような精白米に精米する方法については,「従来から,飯米用の精米手段は摩擦式精米機にて行うことが常識とされている」が,その搗精方法では,必然的に,米粒から亜糊粉細胞層(5)や胚芽(8)及び胚盤(9)も除去されてしまうこと(【0024】,【0025】)が記載されている。また,本件明細書の発明の詳細な説明には,「摩擦式精米機では米粒に高圧がかかり,胚芽は根こそぎ脱落する」から,胚芽を残存させるには,研削式精米機による精米が不可欠とされていた(【0029】)ところ,研削式精米機により精米すると,むらが生じ,高白度になると,亜糊粉細胞層(5)の内側の澱粉細胞層(6)も削ぎ落とされている個所もあれば,糊粉細胞層(4)だけでなく,それより表層の糠層が残ったままの部分もあるという状態になること(【0027】)が記載されている。
 そうすると,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上において胚盤又は表面を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精することは,従来の技術では容易ではなかったことがうかがわれ,上記のとおり,本件明細書に具体的な記載がない場合に,これを実現することが当業者にとって明らかであると認めることはできない。
 本件発明1は,無洗米の製造装置の発明であるが,このような物の発明にあっては,特許請求の範囲において,当該物の構造又は特性を明記して,直接物を特定することが原則であるところ(最高裁判所平成27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号904頁参照),上記のとおり,本件発明1は,物の構造又は特性から当該物を特定することができず,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても,当該物を特定することができないから,特許を受けようとする発明が明確であるということはできない。」

【コメント】
 本件は,精白米または無洗米の製造装置の発明(製造方法の発明ではありません。)について,無効審判の不成立審決についての審決取消訴訟の事件です。

 そして,上記のとおり,逆転で無効!となったものです。

 まずは,クレームからです。
【請求項1】(本件発明1)
 外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内,『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9)』,または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって,全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い,前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,
且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,及び,無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。

 長いクレームではあり,専門用語も飛び出してはいますが,工程(プロセス)が含まれていることは明白です。
 ですので,物の発明にもかかわらず,プロセスが入り込んでいるとなると,当然明確性要件が気になります。

 しかし,最高裁でのプロダクトバイプロセスクレームの事件にもかかわらず,その後の知財高裁では,まあまあそう目くじらを立てなさんな,大体でいいのよみたいな感じになっております(例えば,この事件などです。)。

 ですが,最近,明確性要件違反で無効となった事件が相次いでおります。
  例えば,この事件です。 

 知財高裁4部で久々に明確性で無効の判決が出たのが鏑矢になったのかどうかわかりませんが,結構目立つかなあと思います。

 本件では上記のとおり,装置の発明にもかかわらず,ポイントとなる精米がその装置の構造や特性だけでどうなるかきちんと記載されておりません。つまり,発明の装置の,いわば外の話が重要だということです。他方,その装置の外の話は,技術常識ではないことから,どうなってんのこれ?ということに陥ってしまったわけです。
 これはまずいですね。

 特許庁は,発明者や出願人にとっては,親のような立場,親のようなインセンティブしか働かない所です。
 つまり,厳しいことを言うのも,子(発明者や出願人)のため,うまく独り立ちしてほしいなあ(特許をとって欲しい) という思いからです。
 なので,ちょっとしたことには目をつむりがちです。
 
 しかし,無効審判の請求人は,赤の他人であり,可愛い子なんて思う立場ではありません。出来れば居なくなって欲しい,そんな立場です。
 そして,裁判所は,居なくなって欲しいとまでは思ってないとは思いますが,赤の他人であることは変わりません。

 そういう場所に引きずり出された場合にでも,耐えられる明細書でなければ,本来いけない筈です。今回の判決はそのようなことを強く感じさせるものです。

 なお,明確性要件の判断については,知財高裁第1部の規範を踏襲していると思います(第三者に不測の不利益〜)。

2017年9月27日水曜日

審決取消訴訟 商標 平成28(行ケ)10262  知財高裁 無効審判 不成立審決 請求認容


事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成29年9月13日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第1部 
 裁判長裁判官    清 水   節       
裁判官  中 島 基 至       
裁判官    岡 田 慎 吾   

「 1 取消事由2(商標法4条1項15号該当性判断 の誤り)について
・・・・・
イ  本件商標と引用商標との異同
  審決が認定したとおり,本件商標と引用商標とは,左右の上方に,左をより長くした長さの異なる二つの辺を有すること,その左右の辺の端を結ぶ曲線又は直線により図形の外形が形成されていることなどの点で共通するものであるが,構成各部分において,1)底部における曲線と直線の差異(辺の数の差),2)図形の内部における白抜き部分の有無の差,3)それぞれの辺から延びる曲線の傾斜の差,4)右上部の辺の傾斜方向の差,5)左上部の辺と曲線の接する部分の角(尖っているか丸まっているかの差)の差異などを有することに加え,被告が指摘するように,本件商標は,引用商標よりも縦幅が短く,本件商標と引用商標とは縦横比が相違することから,引用商標と比較して,平たい印象を受けることなどの差異を有することが認められる。以上のような差異,特に,2)図形の内部における白抜きの逆三角形部分の有無を考慮すると,本件商標と引用商標とを直接対比した場合の視覚的印象は別異のものということもできる。
  しかしながら,本件商標及び引用商標の全体的な構図をみると,本件商標と引用商標は,いずれも,その全体の図柄として左端に比して右端が高くなるように右上方に傾斜しており,左上部分には右上方向に傾斜している直線があり,その傾斜直線の左端から鋭角に中央下部へ延びる曲線があり,また,上記傾斜直線の右端から鋭角に左下方向へ向かうとともに,弧を描きながら湾曲して右上がりに緩やかな曲線が延びており,その曲線の終点である右上部から中央部に向けて曲線が延びている構成を有するものといえる。そして,上部の左端から右方向に延びる直線の傾斜角度及び湾曲した部分の下から右端に向かって上方に傾斜している曲線の傾斜角度は比較的類似していること,上記湾曲部の深さの比率や傾きの度合いも類似していること,本件商標と引用商標の左側部分における,それぞれの最も厚い部分の幅はほぼ同じであることなどの点において,本件商標と引用商標とは共通するものであり,本件商標の全体的な配置や輪郭等については,引用商標(特に上側部分)と比較的高い類似性を示すものであるということができる。
    (3)  引用商標の周知著名性
  証拠(甲6~81,118~125)及び弁論の全趣旨によれば,  引用商標は,我が国においては,昭和58年にスポーツシューズについて使用が開始され,その後,昭和62年からは,スポーツウェアやアパレル製品,スポーツバッグなどにも付されるようになり,平成10年には原告のハウスマークとして使用されており,平成19年以降には,原告の製品全てに付されるようになったこと,引用商標が使用開始された昭和58年以降,平成26年に至るまで,引用商標が付されたスポーツウェアやアパレル製品,スポーツバッグなどは多数販売され,その売上高は,平成20年度以降,毎年合計で1000億円以上に達していること,昭和58年から平成26年にかけて,引用商標を付した商品は,オリンピックなどのスポーツイベントで使用され,テレビ,雑誌,新聞その他多くのメディアにおいて紹介され,また,宣伝広告されてきたことなどが認められる。
  以上の事実に加え,原告の知名度に関する本件調査の結果(甲223)も考慮すると,引用商標は,原告の業務に係る商品である「スポーツシューズ,スポーツウェア,スポーツバッグ」などを表示する商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,スポーツ用品に関連する商品の需要者の間に広く認識されていたものと認められる。
    (4)  本件商標の指定商品と引用商標に係る商品
  本件商標の指定商品は,第18類「擬革,通学用かばん,バックパック,旅行用小型手提げかばん,スケート靴用革ひも,獣皮,傘」,第25類「被服,新生児用被服,水泳着,防水加工を施した被服,履物及び運動用特殊靴,帽子,メリヤス下着・メリヤス靴下,スカーフ,手袋(被服),スポーツジャージー及び競技用ジャージー,ティーシャツ,ジャケット(被服),フットボール靴,サンダル靴及びサンダルげた,運動靴」及び第28類「ゲーム用ボール,ボディビル用具,運動用機械器具,スノーシュー,ローラースケート靴,釣りざお,おもちゃ,アーチェリー用具,シャトルコック,運動用ネット,体操用具,ひざ当て(運動用具),保護用パッド(運動用被服の部分品),スケート靴,インラインスケート」であり,当該指定商品は,引用商標の著名性が需要者に認識されている分野であるスポーツ用品(運動用具)関連の商品を含むものであるといえる。
    (5)  商標の使用形態等における取引の実情
  証拠(甲12,19,28,29,34,36,38,40,43,54,68,69,112,165,167,175)及び弁論の全趣旨によれば,引用商標は,スポーツシャツ,スポーツジャージーなどのウェアや靴下,帽子などについて,刺繍やプリントなどによるいわゆるワンポイントマークとして付されているものも多くあること(なお,引用商標だけでなく,他の著名な図形商標も,スポーツ用品(運動用具)に関連する商品などにワンポイントマークとして付されていることが多いといえる。),シューズ(運動靴)については,靴の側面に商標を付する表示形態が多く採用されていることが認められる。また,証拠(甲9,10,22,23,25,28,120)及び弁論の全趣旨によれば,そのような態様で商標を付したスポーツシャツやシューズが商品カタログやスポーツ雑誌等において紹介されており,プロスポーツ選手等が上記の表示形態で商標が付されたスポーツシャツなどのウェアやシューズを身に付けている写真等も掲載されていること,また,プロスポーツ選手等が上記の表示形態で商標が付されたスポーツシャツなどのウェアやシューズを身に付けている場面を,プロスポーツの試合会場やテレビ中継等で目にする機会も多いことなどが認められる。そして,本件商標が,その指定商品である被服,スポーツジャージー,靴下,帽子,運動靴などの商品分野において使用される場合には,ワンポイントマークとして表示される可能性が高いものということができる(甲165,167,175)。
  このように,本件商標がワンポイントマークとして表示される場合などを考えると,ワンポイントマークは,比較的小さいものであるから,そもそも,そのような態様で付された商標の構成は視認しにくい場合があるといえる。また,マーク自体に詳細な図柄を表現することは容易であるとはいえないから,スポーツシャツ等に刺繍やプリントなどを施すときは,むしろその図形の輪郭全体が見る者の注意を惹き,内側における差異が目立たなくなることが十分に考えられるのであって,その全体的な配置や輪郭等が引用商標と比較的類似していることから,ワンポイントマークとして使用された場合などに,本件商標は,引用商標とより類似して認識されるとみるのが相当である(本件商標と引用商標の差異のうち,比較的特徴的であるといえる白抜きの逆三角形部分についても,外観において紛れる場合が見受けられる。)。さらに,多数の商品が掲載されたカタログ等や,スポーツの試合観戦の場合などにおいては,その視認状況等を考慮すると,特に,外観において紛れる可能性が高くなるものといえる。
 また,本件商標の指定商品は,「被服」を始め「帽子,メリヤス靴下,スカーフ,サンダル靴,ティーシャツ」等であり,日常的に消費される性質の商品が含まれ,スポーツ用品(運動用具)関連商品を含む本件商標が使用される商品の主たる需要者は,スポーツの愛好家を始めとして,広く一般の消費者を含むものということができる。そして,このような一般の消費者には,必ずしも商標やブランドについて正確又詳細な知識を持たない者も多数含まれているといえ,商品の購入に際し,メーカー名やハウスマークなどについて常に注意深く確認するとは限らず,小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないと考えられる。
    (6)  混同を生ずるおそれについて
  本件商標と引用商標は,全体的な構図として,配置や輪郭等の基本的構成を共通にするものであり,本件商標が使用される商品である被服等の商品の主たる需要者が,商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者であり,商品の購入に際して払われる注意力はさほど高いものとはいえないことなどの実情や,引用商標が我が国において高い周知著名性を有していることなどを考慮すると,本件商標が,特にその指定商品にワンポイントマークとして使用された場合などには,これに接した需要者(一般消費者)は,それが引用商標と全体的な配置や輪郭等が類似する図形であることに着目し,本件商標における細部の形状(内側における差異等)などの差異に気付かないおそれがあるといい得る。
  また,引用商標は,スポーツ用品(運動用具)関連の商品分野において,原告の商品を表示するものとして,需要者の間において著名であるところ,本件商標の指定商品には,引用商標の著名性が需要者に認識されているスポーツ用品(運動用具)関連の商品を含むものであるから,本件商標をその指定商品に使用した場合には,これに接する需要者は,著名商標である引用商標を連想,想起して,当該商品が原告又は原告との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。
 したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものとして商標登録を受けることができないというべきであるから,これと異なり,本件商標が同号に該当しないとした審決の判断には誤りがあるといわざるを得ない。 」

【コメント】
 中国のスポーツブランドerke(http://en.erke.com/)の商標登録に対し, 日本のスポーツブランドのミズノが無効審判を起こした事例の審決取消訴訟の事件です。
 問題となった商標は以下のとおりです。
 
 
  指定商品等は,以下のとおりです。
  第18類「擬革,通学用かばん,バックパック,旅行用小型手提げかばん,スケート靴用革ひも,獣皮,傘」,第25類「被服,新生児用被服,水泳着,防水加工を施した被服,履物及び運動用特殊靴,帽子,メリヤス下着・メリヤス靴下,スカーフ,手袋(被服),スポーツジャージー及び競技用ジャージー,ティーシャツ,ジャケット(被服),フットボール靴,サンダル靴及びサンダルげた,運動靴」及び第28類「ゲーム用ボール,ボディビル用具,運動用機械器具,スノーシュー,ローラースケート靴,釣りざお,おもちゃ,アーチェリー用具,シャトルコック,運動用ネット,体操用具,ひざ当て(運動用具),保護用パッド(運動用被服の部分品),スケート靴,インラインスケート」(参考訳文)  
 まあ何か似ているかも~ただ,何かというのはよく思い出せません。
 他方,引用商標は,以下のとおりです。
 
 
 ああ,ランバード(ミズノ)ですね。言われてみると似ているかなあという感じです。
 指定商品は当然,被っています。
 そして,無効審判においては以下のとおり判断されました。
商標法4条1項11号該当性について
  本件商標は,左右の上方に位置する二つの辺の端を互いに交わることのない二本の曲線で結んだ横長の図形を黒塗りしたものであるところ,その左右の辺は,左を右の7倍ほどの長さにし,それぞれがハの字型に下方に向けて広がり,図形中央下部は,キセルの雁首のように湾曲して描かれており,左上部の辺と二本の曲線とが接する部分は角が丸められている構成よりなり,全体として,直ちに何らかの具体物をモチーフとしたものとは特定することはできず,幾何図形の一種と認識させるものと認める。
  これに対し,引用商標は,左右の上方に位置する二つ辺と下部に位置する辺の端をそれぞれ互いに交わることのない曲線で結んだ横長の図形を黒塗りし,その中央部に逆三角形状の白抜き部分を有するものであるところ,その左右の辺は,左を右の6倍(引用商標1)又は4倍(引用商標2)ほどの長さにし,それぞれが左方向に傾斜し,底部に水平の辺を有するものであって,三つの片とそれぞれを結ぶ曲線とが接する部分は角が尖っている構成よりなり,全体として,尾がぴんと伸びた横向きの鳥のような印象を受けるものである。
  そこで,両商標を比較すると,両者は,左右の上方に,左をより長くした長さの異なる2つの辺を有すること,その左右の辺の端を結ぶ曲線又は直線により図形の外形が形成されていることなどの点で共通するものであるが,構成各部分において,1)底部における曲線と直線の差異(辺の数の差),2)図形の内部における白抜き部分の有無の差,3)それぞれの辺から延びる曲線の傾斜の差,4)右上部の辺の傾斜方向の差,5)左上部の辺と曲線の接する部分の角(尖っているか丸まっているかの差)の差異を有し,また,本件商標が何らモチーフを特定できないものであるのに対し,引用商標は鳥をモチーフとしたものとの印象を与えるものであるから,その構成全体から受ける印象も相違するものである。
  そうすると,これらの相違から,本件商標と引用商標とは,その構成全体としてそれぞれが看者に与える印象が大きく異なり,それぞれ異なったものとして記憶されるとみるのが相当であるから,時と処を異にして接した場合も外観において混同を生ずるおそれはないものというべきである。
  また,本件商標と引用商標は,特定の称呼,観念を生ずるものとはいえないから,称呼,観念においては比較することができない。
  以上によれば,本件商標と引用商標とは,その外観,称呼及び観念のいずれにおいても,混同を生ずるおそれのない非類似の商標である。
 どうでしょうか? これはこれで納得できる話です。
 15号についても,非類似だったので,混同は生じないとされました。

 まあそうではないですかね。

 他方,判旨の方は,何故か,類似としております。
 私にはどう見ても非類似に見えるのですが,判旨は,ワンポイントマークなどでの使用を念頭に置き,このような判断になっております。ならば,4条1項11号で判断すればいいのに,エクスキューズを残すためであろう,4条1項15号で判断したのも気に入りません。

 この似ているかも問題が出たのは,そこそこ古い話です。このネットの記事を見て下さい。2008年時点ですね。
 
 このerkeに関しては,人によってはNikeのスウッシュマークに似ている,とかいう話もあります。つまりは人によって感じ方は様々ってことです。
 特許庁の審判合議体が判断したように,ワンポイントマークでも区別はできると思いますけどね。何か結論ありきなような感じがして,実に気持ち悪いです。


 

2017年9月26日火曜日

審決取消訴訟 特許 平成29(行ケ)10001  拒絶審決 請求認容

事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成29年9月19日
裁判所名
 知的財産高等裁判所所第4部 
裁判長裁判官          髙      部      眞  規  子 
裁判官          山      門              優
裁判官          片      瀬              亮
 
「 ⑴  本件補正発明の「基礎体」の意義
ア  特許請求の範囲の記載
 本件補正発明の特許請求の範囲には,本件補正発明の「基礎体」とは,「支柱の下端部を固定する鋼製基礎」を構成するものであること,「支柱」と「締付部材により締め付け固定され」ること,「地中に埋設されること」及び「支柱」が「貫通して先端部分が地中に突出している」こと,並びに「上下に貫通した筒状」のものであることが記載されている。
 そうすると,特許請求の範囲の記載には,「基礎体」とは,「地中に埋設」され,別の部材である「締付部材」により「支柱」を固定し,また,「支柱の下端部を固定する」,「上下に貫通した筒状」の部材であるという程度の特定しかない。
イ  本願明細書の記載
(ア)  本件補正発明においては,鋼製基礎が上下に貫通した筒状の基礎体から構成されるから,設置する基礎体の数を増やすことにより設置面積を増加させることなく鋼製基礎の抵抗面積を増やすことができるとされている(【0008】)。このように,鋼製基礎を構成する基礎体の機能として,抵抗面積を増やすことが着目されているところ,【図1】によれば,ここにいう抵抗とは,基礎体が地盤と接触することにより,地盤からの抵抗を受けることを意味することは明らかである。また,基礎体が地盤からの抵抗を受けるのは,その反対の力である支柱の荷重を基礎体が地盤に伝えているからである。そうすると,基礎体は,支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受ける部材であるということができる。
 また,本願明細書においても,「基礎体と支柱とは,締付部材により締め付け固定されているので,基礎体の着脱が容易である」,「基礎体4と支柱2とは,ボルトとナットにより締め付けるバンド5により固定さる」と記載され(【0008】【0016】),「基礎体」と,「基礎体」と支柱を固定する締付部材とは,区別して記載されている。 
(イ)  したがって,特許請求の範囲の記載に加え,本願明細書の記載も併せて考慮すれば,「基礎体」とは,「地中に埋設」され,別の部材である「締付部材」により「支柱」を固定し,支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受けることにより,「支柱の下端部を固定する」,「上下に貫通した筒状」の部材という意義を有するものと解される。
ウ  用語の一般的意義
 本件補正発明は,円形鋼管や角鋼管を使用した鋼管ポール及びその設置方法に関するものであるところ(【0001】),土木・建築の分野において「基礎」とは,「上部構造物の荷重を地盤に伝えるための工作物」(甲15),「柱,壁,土台およびつかなどからの荷重を地盤または地業に伝えるために設ける構造部分」(甲16)を意味する。
 このように,基礎という用語は,上部構造物の荷重を地盤に伝える工作物や構造部分という一般的意義を有するものとされている。
 したがって,本件補正発明の「基礎体」を,前記イ(イ)のとおり解することは,基礎という用語の一般的意義にも沿うものである。
エ  「基礎体」の意義
 よって,本件補正発明の「基礎体」とは,「地中に埋設」され,別の部材である「締付部材」により「支柱」を固定し,支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受けることにより,「支柱の下端部を固定する」,「上下に貫通した筒状」の部材という意義を有するものと認められる。
⑵  引用発明の「支持基礎」
ア  引用発明の「支持基礎」は,「土中に埋込んで柱状物を支持する」ものであって,「ベースの中央部にパイプを溶接で強固に突設し,平板状の羽根をベースのパイプ取付面の四隅に配設し,羽根の一辺をパイプ側面と固着させ」たものであるから,「ベース」,「パイプ」及び「平板状の羽根」から構成される。
 そこで,引用発明の「ベース」,「パイプ」及び「平板状の羽根」のうち,本件補正発明の「基礎体」,すなわち,別の部材である「締付部材」により「支柱」を固定し,支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受けることにより,「支柱の下端部を固定する」,「上下に貫通した筒状」の部材に相当する部分は,いずれかについて検討する。
イ  「ベース」及び「平板状の羽根」について
 引用例には,「横方向の土圧を受ける平板状の羽根をベースに立設すると共に一辺をパイプに固着して,支持基礎の底面部,正面部,側面部の投影面積をコンクリートブロックのそれぞれの部分に略同じくした場合この支持基礎を埋込むにはコンクリートブロック埋込み時と同じ大きさの穴を堀り,埋込み後は堀り出した土をリブ間等にほとんど埋戻して土中にしっかり固定させる。この支持基礎は横方向の投影面積がコンクリートブロックと同一寸法であるので横方向の荷重に対する反力は同一となる。又,リブ間には土を埋戻す為,支持基礎の重量が軽いにも拘らず埋戻した土の重量で引抜き力に対する抵抗力も充分大きなものとなる。」と記載されている(4頁8行~5頁3行)。
 同記載によれば,引用発明の「ベース」は埋め戻した土の重量で引抜き力に対する抵抗力を発揮する部分であり,「ベース」において支柱の引抜き力が地盤にかかることが前提になっており,また,「平板状の羽根」は横方向の荷重に対する反力を発揮する部分であり,「平板状の羽根」には支柱の横方向の荷重が地盤にかかることが前提になっていると認められる。
 したがって,引用発明の「ベース」及び「平板状の羽根」は,少なくとも,支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受ける部材である。
ウ  「パイプ」について
 引用例には,「パイプ」について,「柱状物を挿入するパイプ」(実用新案登録請求の範囲,3頁15行~16行),「パイプ(2)に柱(7)を挿入し,パイプ(2)との隙間に砂(8)を詰め込んで固定する。」(6頁18行~7頁2行)と,支柱を固定することが記載されるにとどまり,地盤との関係については記載されていない。
 また,引用例には,「パイプ」について,支柱を固定する旨記載されているところ,「パイプ」と,「ベース」及び「平板状の羽根」との関係について,「平板状の羽根を前記ベースのパイプ取付面に立設すると共に羽根の一辺をパイプ側面に固着し」,「正方形のベースの中央部にパイプを溶接し」などと記載されているから(3頁17行~4頁1行,同頁8行~10行,6頁5行~8行),「パイプ」は,支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受ける部材である「ベース」及び「平板状の羽根」に固着,溶接されて,支柱を固定するものということができる。
 そうすると,引用発明の「パイプ」は,支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受ける部材に相当するということはできない。
エ  さらに,引用例には「本考案では,柱状物構造の支持部と土中での支圧部を」「お互いに連続しているが別形状とし」たと記載され(4頁5行~8行),「支持基礎」における「土中での支圧部」と「柱状物構造の支持部」とが互いに区別されている。
 このことは,引用発明の「ベース」及び「平板状の羽根」を,支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受ける部材に相当し,「パイプ」をこのような部材に相当しないと区別して解することと整合するものである。
⑶  本件補正発明と引用発明との対比
 引用発明の「柱状物」「柱先端部」「柱状物構造」は,それぞれ,本件補正発明の「支柱」「先端部分」「鋼管ポール」に相当する。また,引用発明の「炭素鋼を使用し」「柱状物を支持する支持基礎」は,本件補正発明の「前記支柱の下端部を固定する鋼製基礎」に相当する。
 そして,前記検討によれば,引用発明の「ベース」及び「平板状の羽根」は,別の部材により「支柱」を固定し,支柱の荷重を地盤に伝え,地盤から抵抗を受けることにより,「支柱の下端部を固定する」部材であって,引用発明の,「ベースのパイプの取付部に貫通穴を設けることにより,柱状物は,柱先端部が」「ベースを貫通して土中に突出している」構成は,本件補正発明の「前記支柱は前記基礎体を貫通して先端部分が地中に突出していること」に相当し,引用発明の「土中に埋込んで」は,本件補正発明の「地中に埋設され」に相当し,さらに,これらによれば,引用発明の「ベース」及び「平板状の羽根」は,本件補正発明の「基礎体」に相当する。一方,「パイプ」が,本件補正発明の「基礎体」に相当するということはできない。
 したがって,本件補正発明と引用発明とは,「支柱と,前記支柱の下端部を固定する鋼製基礎とを有する鋼管ポールであって,前記鋼製基礎は基礎体から構成され,前記基礎体は地中に埋設され,前記支柱は前記基礎体を貫通して先端部分が地中に突出している鋼管ポール」である点で一致し,相違点1及び2(前記第2の3(2)イ(イ)及び(ウ))のほか,以下の点で相違する(原告主張に係る相違点3に同じ)。
 「基礎体」に関して,本件補正発明は「上下に貫通した筒状」であるのに対し,引用発明は「中央部にパイプを溶接で強固に突設し」た「ベース」と当該「ベースのパイプ取付面の四隅に配設し」た「平板状の羽根」とからなる点。 
⑷  相違点3の容易想到性  相違点3に係る本件補正発明の構成は,引用例,周知例1及び周知例2のいずれにも記載されていないし,示唆もされていないから,これらに基づいて,当業者が容易に想到することができたということはできない。 」

【コメント】
 信号のポールに関する発明についての,拒絶審決(進歩性なし)に対する審決取消訴訟の事件です。
 
 最近,私の興味が主として構成要件該当性になっておりますので,進歩性の論点で紹介するのは珍しくなっているかもしれません。
 
 さて,クレームからです。
 
【請求項1】灯具,信号機,標識,アンテナなどの装柱物を支持する支柱と,前記支柱の下端部を固定する鋼製基礎とを有する鋼管ポールであって,前記鋼製基礎は上下に貫通した筒状の基礎体から構成され,前記基礎体と前記支柱とは締付部材により締め付け固定され,前記基礎体は地中に埋設され,前記支柱は前記基礎体を貫通して先端部分が地中に突出していることを特徴とする鋼管ポール。
 
 結構簡単なクレームですが,図がないと分かりにくいです。
 
 
 上の図1が全体の発明で,下の図3が問題の基礎体です。
 こういう感じで鋼板をブロック状にしたもので,上下に貫通しています。これらの凹部でパイプを挟み込むんで固定し,ブロック状の貫通部に土を入れて地面下に固定するということになります。

 これで分かりましたかな。

 他方,引用発明です。
 
 ポイントとなる,基礎体に当たる所だけです。
 
 で,一致点・相違点です。
 
(ア)  一致点
 支柱と,前記支柱の下端部を固定する鋼製基礎とを有する鋼管ポールであって,前記鋼製基礎は上下に貫通した筒状の基礎体から構成され,前記基礎体は地中に埋設され,前記支柱は前記基礎体を貫通して先端部分が地中に突出している鋼管ポール。
  (イ)  相違点1
  「支柱」に関して,本件補正発明は,「灯具,信号機,標識,アンテナなどの装柱物を支持する支柱」であるのに対し,引用発明は,「安全柵,ポール,案内用のロープ張り,その他簡易車庫等構造物」の「支柱(柱状物)」である点。
  (ウ)  相違点2
  「支柱」及び「基礎体」に関して,本件補正発明は,「基礎体」と「支柱」とは「締付部材により締め付け固定され」るのに対し,引用発明には,その特定がない点。

 上記の判旨のとおり,ここまではいいとして,原告が納得いかなかったのは,構造が違うので,機能もちょっと違うのではないか?という点です。
 
 引用発明の基礎体は,羽根のようになっております。そして,羽根を囲う鋼材はありません。なので,貫通しているとも言い難くなっております。 

 とすると,この部分は相違点を看過したのではないか~ということになり,そして,その相違点がどこにも示されていないので,進歩性あり!となったわけです。
 
 単純な発明であっても,丹念に見ていかないといけないということです。