2017年9月27日水曜日

審決取消訴訟 商標 平成28(行ケ)10262  知財高裁 無効審判 不成立審決 請求認容


事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成29年9月13日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第1部 
 裁判長裁判官    清 水   節       
裁判官  中 島 基 至       
裁判官    岡 田 慎 吾   

「 1 取消事由2(商標法4条1項15号該当性判断 の誤り)について
・・・・・
イ  本件商標と引用商標との異同
  審決が認定したとおり,本件商標と引用商標とは,左右の上方に,左をより長くした長さの異なる二つの辺を有すること,その左右の辺の端を結ぶ曲線又は直線により図形の外形が形成されていることなどの点で共通するものであるが,構成各部分において,1)底部における曲線と直線の差異(辺の数の差),2)図形の内部における白抜き部分の有無の差,3)それぞれの辺から延びる曲線の傾斜の差,4)右上部の辺の傾斜方向の差,5)左上部の辺と曲線の接する部分の角(尖っているか丸まっているかの差)の差異などを有することに加え,被告が指摘するように,本件商標は,引用商標よりも縦幅が短く,本件商標と引用商標とは縦横比が相違することから,引用商標と比較して,平たい印象を受けることなどの差異を有することが認められる。以上のような差異,特に,2)図形の内部における白抜きの逆三角形部分の有無を考慮すると,本件商標と引用商標とを直接対比した場合の視覚的印象は別異のものということもできる。
  しかしながら,本件商標及び引用商標の全体的な構図をみると,本件商標と引用商標は,いずれも,その全体の図柄として左端に比して右端が高くなるように右上方に傾斜しており,左上部分には右上方向に傾斜している直線があり,その傾斜直線の左端から鋭角に中央下部へ延びる曲線があり,また,上記傾斜直線の右端から鋭角に左下方向へ向かうとともに,弧を描きながら湾曲して右上がりに緩やかな曲線が延びており,その曲線の終点である右上部から中央部に向けて曲線が延びている構成を有するものといえる。そして,上部の左端から右方向に延びる直線の傾斜角度及び湾曲した部分の下から右端に向かって上方に傾斜している曲線の傾斜角度は比較的類似していること,上記湾曲部の深さの比率や傾きの度合いも類似していること,本件商標と引用商標の左側部分における,それぞれの最も厚い部分の幅はほぼ同じであることなどの点において,本件商標と引用商標とは共通するものであり,本件商標の全体的な配置や輪郭等については,引用商標(特に上側部分)と比較的高い類似性を示すものであるということができる。
    (3)  引用商標の周知著名性
  証拠(甲6~81,118~125)及び弁論の全趣旨によれば,  引用商標は,我が国においては,昭和58年にスポーツシューズについて使用が開始され,その後,昭和62年からは,スポーツウェアやアパレル製品,スポーツバッグなどにも付されるようになり,平成10年には原告のハウスマークとして使用されており,平成19年以降には,原告の製品全てに付されるようになったこと,引用商標が使用開始された昭和58年以降,平成26年に至るまで,引用商標が付されたスポーツウェアやアパレル製品,スポーツバッグなどは多数販売され,その売上高は,平成20年度以降,毎年合計で1000億円以上に達していること,昭和58年から平成26年にかけて,引用商標を付した商品は,オリンピックなどのスポーツイベントで使用され,テレビ,雑誌,新聞その他多くのメディアにおいて紹介され,また,宣伝広告されてきたことなどが認められる。
  以上の事実に加え,原告の知名度に関する本件調査の結果(甲223)も考慮すると,引用商標は,原告の業務に係る商品である「スポーツシューズ,スポーツウェア,スポーツバッグ」などを表示する商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,スポーツ用品に関連する商品の需要者の間に広く認識されていたものと認められる。
    (4)  本件商標の指定商品と引用商標に係る商品
  本件商標の指定商品は,第18類「擬革,通学用かばん,バックパック,旅行用小型手提げかばん,スケート靴用革ひも,獣皮,傘」,第25類「被服,新生児用被服,水泳着,防水加工を施した被服,履物及び運動用特殊靴,帽子,メリヤス下着・メリヤス靴下,スカーフ,手袋(被服),スポーツジャージー及び競技用ジャージー,ティーシャツ,ジャケット(被服),フットボール靴,サンダル靴及びサンダルげた,運動靴」及び第28類「ゲーム用ボール,ボディビル用具,運動用機械器具,スノーシュー,ローラースケート靴,釣りざお,おもちゃ,アーチェリー用具,シャトルコック,運動用ネット,体操用具,ひざ当て(運動用具),保護用パッド(運動用被服の部分品),スケート靴,インラインスケート」であり,当該指定商品は,引用商標の著名性が需要者に認識されている分野であるスポーツ用品(運動用具)関連の商品を含むものであるといえる。
    (5)  商標の使用形態等における取引の実情
  証拠(甲12,19,28,29,34,36,38,40,43,54,68,69,112,165,167,175)及び弁論の全趣旨によれば,引用商標は,スポーツシャツ,スポーツジャージーなどのウェアや靴下,帽子などについて,刺繍やプリントなどによるいわゆるワンポイントマークとして付されているものも多くあること(なお,引用商標だけでなく,他の著名な図形商標も,スポーツ用品(運動用具)に関連する商品などにワンポイントマークとして付されていることが多いといえる。),シューズ(運動靴)については,靴の側面に商標を付する表示形態が多く採用されていることが認められる。また,証拠(甲9,10,22,23,25,28,120)及び弁論の全趣旨によれば,そのような態様で商標を付したスポーツシャツやシューズが商品カタログやスポーツ雑誌等において紹介されており,プロスポーツ選手等が上記の表示形態で商標が付されたスポーツシャツなどのウェアやシューズを身に付けている写真等も掲載されていること,また,プロスポーツ選手等が上記の表示形態で商標が付されたスポーツシャツなどのウェアやシューズを身に付けている場面を,プロスポーツの試合会場やテレビ中継等で目にする機会も多いことなどが認められる。そして,本件商標が,その指定商品である被服,スポーツジャージー,靴下,帽子,運動靴などの商品分野において使用される場合には,ワンポイントマークとして表示される可能性が高いものということができる(甲165,167,175)。
  このように,本件商標がワンポイントマークとして表示される場合などを考えると,ワンポイントマークは,比較的小さいものであるから,そもそも,そのような態様で付された商標の構成は視認しにくい場合があるといえる。また,マーク自体に詳細な図柄を表現することは容易であるとはいえないから,スポーツシャツ等に刺繍やプリントなどを施すときは,むしろその図形の輪郭全体が見る者の注意を惹き,内側における差異が目立たなくなることが十分に考えられるのであって,その全体的な配置や輪郭等が引用商標と比較的類似していることから,ワンポイントマークとして使用された場合などに,本件商標は,引用商標とより類似して認識されるとみるのが相当である(本件商標と引用商標の差異のうち,比較的特徴的であるといえる白抜きの逆三角形部分についても,外観において紛れる場合が見受けられる。)。さらに,多数の商品が掲載されたカタログ等や,スポーツの試合観戦の場合などにおいては,その視認状況等を考慮すると,特に,外観において紛れる可能性が高くなるものといえる。
 また,本件商標の指定商品は,「被服」を始め「帽子,メリヤス靴下,スカーフ,サンダル靴,ティーシャツ」等であり,日常的に消費される性質の商品が含まれ,スポーツ用品(運動用具)関連商品を含む本件商標が使用される商品の主たる需要者は,スポーツの愛好家を始めとして,広く一般の消費者を含むものということができる。そして,このような一般の消費者には,必ずしも商標やブランドについて正確又詳細な知識を持たない者も多数含まれているといえ,商品の購入に際し,メーカー名やハウスマークなどについて常に注意深く確認するとは限らず,小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないと考えられる。
    (6)  混同を生ずるおそれについて
  本件商標と引用商標は,全体的な構図として,配置や輪郭等の基本的構成を共通にするものであり,本件商標が使用される商品である被服等の商品の主たる需要者が,商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者であり,商品の購入に際して払われる注意力はさほど高いものとはいえないことなどの実情や,引用商標が我が国において高い周知著名性を有していることなどを考慮すると,本件商標が,特にその指定商品にワンポイントマークとして使用された場合などには,これに接した需要者(一般消費者)は,それが引用商標と全体的な配置や輪郭等が類似する図形であることに着目し,本件商標における細部の形状(内側における差異等)などの差異に気付かないおそれがあるといい得る。
  また,引用商標は,スポーツ用品(運動用具)関連の商品分野において,原告の商品を表示するものとして,需要者の間において著名であるところ,本件商標の指定商品には,引用商標の著名性が需要者に認識されているスポーツ用品(運動用具)関連の商品を含むものであるから,本件商標をその指定商品に使用した場合には,これに接する需要者は,著名商標である引用商標を連想,想起して,当該商品が原告又は原告との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。
 したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものとして商標登録を受けることができないというべきであるから,これと異なり,本件商標が同号に該当しないとした審決の判断には誤りがあるといわざるを得ない。 」

【コメント】
 中国のスポーツブランドerke(http://en.erke.com/)の商標登録に対し, 日本のスポーツブランドのミズノが無効審判を起こした事例の審決取消訴訟の事件です。
 問題となった商標は以下のとおりです。
 
 
  指定商品等は,以下のとおりです。
  第18類「擬革,通学用かばん,バックパック,旅行用小型手提げかばん,スケート靴用革ひも,獣皮,傘」,第25類「被服,新生児用被服,水泳着,防水加工を施した被服,履物及び運動用特殊靴,帽子,メリヤス下着・メリヤス靴下,スカーフ,手袋(被服),スポーツジャージー及び競技用ジャージー,ティーシャツ,ジャケット(被服),フットボール靴,サンダル靴及びサンダルげた,運動靴」及び第28類「ゲーム用ボール,ボディビル用具,運動用機械器具,スノーシュー,ローラースケート靴,釣りざお,おもちゃ,アーチェリー用具,シャトルコック,運動用ネット,体操用具,ひざ当て(運動用具),保護用パッド(運動用被服の部分品),スケート靴,インラインスケート」(参考訳文)  
 まあ何か似ているかも~ただ,何かというのはよく思い出せません。
 他方,引用商標は,以下のとおりです。
 
 
 ああ,ランバード(ミズノ)ですね。言われてみると似ているかなあという感じです。
 指定商品は当然,被っています。
 そして,無効審判においては以下のとおり判断されました。
商標法4条1項11号該当性について
  本件商標は,左右の上方に位置する二つの辺の端を互いに交わることのない二本の曲線で結んだ横長の図形を黒塗りしたものであるところ,その左右の辺は,左を右の7倍ほどの長さにし,それぞれがハの字型に下方に向けて広がり,図形中央下部は,キセルの雁首のように湾曲して描かれており,左上部の辺と二本の曲線とが接する部分は角が丸められている構成よりなり,全体として,直ちに何らかの具体物をモチーフとしたものとは特定することはできず,幾何図形の一種と認識させるものと認める。
  これに対し,引用商標は,左右の上方に位置する二つ辺と下部に位置する辺の端をそれぞれ互いに交わることのない曲線で結んだ横長の図形を黒塗りし,その中央部に逆三角形状の白抜き部分を有するものであるところ,その左右の辺は,左を右の6倍(引用商標1)又は4倍(引用商標2)ほどの長さにし,それぞれが左方向に傾斜し,底部に水平の辺を有するものであって,三つの片とそれぞれを結ぶ曲線とが接する部分は角が尖っている構成よりなり,全体として,尾がぴんと伸びた横向きの鳥のような印象を受けるものである。
  そこで,両商標を比較すると,両者は,左右の上方に,左をより長くした長さの異なる2つの辺を有すること,その左右の辺の端を結ぶ曲線又は直線により図形の外形が形成されていることなどの点で共通するものであるが,構成各部分において,1)底部における曲線と直線の差異(辺の数の差),2)図形の内部における白抜き部分の有無の差,3)それぞれの辺から延びる曲線の傾斜の差,4)右上部の辺の傾斜方向の差,5)左上部の辺と曲線の接する部分の角(尖っているか丸まっているかの差)の差異を有し,また,本件商標が何らモチーフを特定できないものであるのに対し,引用商標は鳥をモチーフとしたものとの印象を与えるものであるから,その構成全体から受ける印象も相違するものである。
  そうすると,これらの相違から,本件商標と引用商標とは,その構成全体としてそれぞれが看者に与える印象が大きく異なり,それぞれ異なったものとして記憶されるとみるのが相当であるから,時と処を異にして接した場合も外観において混同を生ずるおそれはないものというべきである。
  また,本件商標と引用商標は,特定の称呼,観念を生ずるものとはいえないから,称呼,観念においては比較することができない。
  以上によれば,本件商標と引用商標とは,その外観,称呼及び観念のいずれにおいても,混同を生ずるおそれのない非類似の商標である。
 どうでしょうか? これはこれで納得できる話です。
 15号についても,非類似だったので,混同は生じないとされました。

 まあそうではないですかね。

 他方,判旨の方は,何故か,類似としております。
 私にはどう見ても非類似に見えるのですが,判旨は,ワンポイントマークなどでの使用を念頭に置き,このような判断になっております。ならば,4条1項11号で判断すればいいのに,エクスキューズを残すためであろう,4条1項15号で判断したのも気に入りません。

 この似ているかも問題が出たのは,そこそこ古い話です。このネットの記事を見て下さい。2008年時点ですね。
 
 このerkeに関しては,人によってはNikeのスウッシュマークに似ている,とかいう話もあります。つまりは人によって感じ方は様々ってことです。
 特許庁の審判合議体が判断したように,ワンポイントマークでも区別はできると思いますけどね。何か結論ありきなような感じがして,実に気持ち悪いです。