2017年9月12日火曜日

不正競争  平成28(ワ)25472  東京地裁 請求認容

事件番号
事件名
 不正競争行為差止請求事件
裁判年月日
 平成29年8月31日
裁判所名
 東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官  柴 田 義 明 
 裁判官  萩 原 孝 基
裁判官  大 下 良 仁 

「⑵  商品において,形態は必ずしも商品の出所を表示する目的で選択されるものではない。もっとも,商品の形態が客観的に明らかに他の同種の商品と識別し得る顕著な特徴を有し,かつ,その形態が特定の事業者により長期間独占的に使用されるなどした結果,需要者においてその形態が特定の事業者の
出所を表示するものとして周知されるに至れば
,商品の当該形態自体が「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)になり得るといえる。
⑶  原告商品形態の特徴について
ア  まず,原告商品形態の特徴について検討する。 
 (ア)原告商品は,外観が別紙原告商品目録記載の各図のとおりのものであり,原告商品形態①~⑥を有する。すなわち,原告商品は,組立て式の棚として,側面の帆立(原告商品形態①),棚板の配置(原告商品形態③),背側のクロスバー(原告商品形態④)が特定の形態を有するほか,帆立の支柱が直径の細い棒材を2本束ねたものであるという特徴的な形態(原告商品形態②)を有し,また直径の細い棒材からなる帆立の横桟及びクロスバー(原告商品形態⑤)も特定の形態を有するもので,それらを全て組合せ,かつ,全体として,上記の要素のみから構成される骨組み様の外観を有するもの(原告商品形態⑥)である。このような原告商品形態は原告商品全体にわたり,商品を見た際に原告商品形態①~⑥の全てが視覚的に認識されるものであるところ,原告は,原告商品の形態的特徴として原告商品形態①~⑥が組み合わされた原告商品形態を主張するので,以下,上記原告商品形態が他の同種商品と識別し得る顕著な特徴を有するか否かを検討する。
 (イ)ここで,原告商品及び同種の棚の構成要素として,帆立,棚板,クロスバー,支柱等があるところ,これらの要素について,それぞれ複数の構成があり得て(前記⑴ケ),また,それらの組合せも様々なものがあり,さらに,上記要素以外にどのような要素を付加するかについても選択の余地がある。原告商品は,原告商品と同種の棚を構成する各要素について,上記のとおりそれぞれ内容が特定された形態(原告商品形態①~⑤)が組み合わされ,かつ,これに付加する要素がない(原告商品形態⑥)ものであるから,原告商品形態は多くの選択肢から選択された形態である。そして,原告商品形態を有する原告商品は,帆立の支柱が直径の細い棒材を2本束ねたという特徴的な形態に加えクロスバーも特定の形態を有し,細い棒材を構成要素に用いる一方で棚板を平滑なものとし,他の要素を排したことにより骨組み様の外観を有する。原告商品は,このような形態であることにより特にシンプルですっきりしたという印象を与える外観を有するとの特徴を有するもので,全体的なまとまり感があると評されることもあったものであり(同キ),原告商品全体として,原告商品形態を有することによって需要者に強い印象を与えるものといえる。このことに平成20年頃まで原告商品形態を有する同種の製品があったとは認められないこと(同ク)を併せ考えると,平成16年 5 頃の時点において,原告商品形態は客観的に明らかに他の同種商品と識別し得る顕著な特徴を有していたと認めることが相当である。
イ  被告は,原告商品形態①~⑥のうちの各個別の形態を取り上げ,それらがありふれた形態であり,原告商品が他の同種の商品と識別し得る特徴を有しない旨主張する。 
  しかし,前記アに述べたところに照らし,原告商品形態が他の同種の商品と識別し得る特徴を有するといえるか否かを検討する際は,原告商品形態①~⑥のうちの個別の各形態がありふれている形態であるか否かではなく,原告商品形態①~⑥の形態を組み合わせた原告商品形態がありふれた形態であるかを検討すべきである。したがって,原告商品形態①~⑥のうちの各個別の形態にありふれたものがあることを理由として原告商品形態が商品等表示とならなくなるものではない。
  また,被告は,原告商品形態①~⑥のうちの各個別の形態について,特有の機能等を得るために不可避的に採用せざるを得ない形態である旨主張する。しかし,上記各個別の形態について,原告商品形態とは異なる構成を採ることができ(前記⑴ケ),かつ,原告商品形態が上記各個別の形態の組合せからなることに照らせば,原告商品形態が特定の機能等を得るために不可避的に採用せざるを得ない構成であるとの被告の主張は採用することができない。 ・・・

⑷  周知性について
ア  前記⑴ア及びイのとおり,原告は,原告商品形態を有する商品を平成9年以降継続的に販売してきた。原告商品の販売実績は,相当の台数及び額に及んでいた。また,同イ~オのとおり,原告商品につき,原告商品形態が一見して認識し得る状態で平成9年から全国の多数の店舗において展示,販売され,それによって原告商品形態は全国の店舗を訪れた顧客の目に触れた。さらに,原告商品形態を掲載したカタログ,チラシ等による大規模な宣伝広告活動及び原告商品形態が分かる写真を含む記事を掲載した多数の雑誌等の発行がされ,それらによって原告商品形態が全国の一般消費者の目に触れたということができる。ユニットシェルフは,パーツも有し,棚とパーツが組み合わされたりするものであるが,原告商品形態を有する原告商品は,「スチール棚セット」等のセットとして扱われ,カタログにおいても,そのようなセットとして,高さや幅が異なる複数の種類の原告商品の写真が原告商品形態を一見して識別できる形で掲載されて宣伝され, また,店舗においてもそれらのセットとして販売されていたことがうかが
える。そうすると,原告商品は,全体の外観に特徴を有する原告商品形態を有する一連の商品として,原告商品形態を一見して認識し得る形で長期間,相当大規模に宣伝等され,販売されてきたといえる。
  そして,原告商品のような大きさを有する棚はこれを設置する室内においても目立つものであるところ,原告商品形態は原告商品全体の外観に関わり,また,原告商品は全体的なまとまり感があると評されることもあったようなものであることなどから,原告商品の購入者は,原告商品形態を含む原告商品のデザインにも着目してこれを購入したことがうかがわれる。
  他方,原告商品形態と同じ形態の商品が平成20年頃までの間に販売されたことを認めるに足りない。
  このように特徴のある原告商品形態を有する原告商品が,5年を超える期間にわたる上記のような態様等での原告の独占的かつ相当大規模な宣伝販売活動等により,購入者を含む需要者の目に触れてきたことからすると,原告商品形態は,平成16年頃には,原告の出所を示すものとして需要者に認識され,不正競争防止法2条1項1号にいう商品等表示として需要者の間に広く認識されたものとなったものと認めることが相当である。・・・

2  争点⑵(原告商品と被告商品の類似性及び混同のおそれの有無)について 
⑴  原告商品形態と被告商品形態の構成は,前記前提事実⑶のとおりである。
  これによれば,原告商品形態と被告商品形態は,①側面の帆立が,地面から垂直に伸びた2つの支柱と,その支柱の間に地面と平行に設けられた支柱よりも短い横桟からなり,②帆立の支柱が,棒材を,間隙を備えて2本束ねた形となっており,③帆立の間に横桟より少ない数の平滑な棚板が配置されていて(棚板の配置されていない横桟が存在する),④X字状に交差するクロスバーが帆立の支柱のうち背側に位置する2つの支柱の間に掛け渡されており,⑤帆立の横桟及びクロスバーが上記支柱と同程度の直径の細い棒材からなり,⑥帆立,クロスバー及び棚板のみで構成された骨組み様の外観(スケルトン様の外観)を有しているという各点で共通する。 
  他方,上記支柱,横桟及びクロスバーを構成する棒材の直径が,原告商品形態においては6~7mmであるのに対し,被告商品形態においては6mm程度である点で相違する。
  上記①~⑥の共通点は,正面から視た際に認識し得る左右の帆立の支柱,棚板及びクロスバーの特徴のみならず,側面又は斜めから見た際に認識し得る上記支柱等のほか支柱の間の横桟の特徴が同一である点にあり,原告商品及び被告商品の全体にわたる。これに対し,上記の相違点は,棒材の直径及び棚板の厚さが1mm程度異なるにすぎず,商品全体を見た際に直ちに判別し得る相違とはいい難い。そうすると,被告商品形態は原告商品形態とそのほぼ全部において同一であるといえるものである。  
⑵  被告は,被告商品は,原告商品と①全体の質感,棚板の取り付け部品,棚板の質感,寸法が異なる,②販売活動の形態が異なる,③需要者は原告商品と被告商品をそれぞれのブランドにおいて明確に区別していると主張する。
  上記①につき,前記前提事実⑶及び証拠(検証の結果〔写真1,2,7,8,15~20〕)によれば,原告商品及び被告商品の色のほか,寸法につき,原告商品1(タイプ1)及び被告商品1を対比すると少なくとも脚部の 5 幅,支柱の高さ,棚板の幅,奥行き及び高さ,クロスバーの長さがいずれも最大で1cm程度異なり,他にも,一部の製品の幅,原告製品3及び被告製品3につき高さがそれぞれ異なると認められる。
  しかし,原告商品は,高さ,奥行きや棚板の材質が異なる複数の種類の商品について,いずれもユニットシェルフの基本セット等として宣伝,販売等された。高さや棚板の材質が異なるが,いずれも原告商品形態を有する複数の商品について,上記のとおり宣伝,販売されて,原告商品形態が原告の出所を表示するものとして周知になったことに照らせば,被告が主張する寸法の違いや色の違いによって,被告商品に接した需要者が被告商品形態について原告の出所を表示するものと直ちに認識しなくなるとはいえない。そして, 原告商品形態と被告商品形態の類似性の程度が高くほぼ全部において同一であるといえるものであるところ,それらの形態が,商品全体の外観に関し,かつ,商品を構成する各要素であって,需要者に最も強い印象を与えるものであること,原告商品と被告商品が大きく異なるのが商品全体の幅及び高さであって他の部分の違いが僅かであることからすると,被告商品に接した需要者は被告商品の形態が原告の出所を表示すると認識するといえる。
  上記②及び③につき,被告商品形態が,前記のような原告商品形態と高い類似性を有することに照らせば,販売活動の形態やブランドが異なることから需要者が被告商品を原告商品と混同するおそれがないとはいえない。
⑶  以上によれば,被告商品は,原告商品と混同を生じさせるものであると認 25 めるのが相当である。」
 
【コメント】
 報道も少し出た,例の良品計画VSカインズの棚の訴訟の事件です。 
 ただ,こういう報道だと不正競争防止法,ということだけしか分からなかったので,てっきり,形態模倣での請求かと思っておりました。

 しかし,上記のとおり,この事件は,周知表示,つまり形態のセカンダリーミーニングによる請求ですので,些かびっくりするところがあります。
 
 原告の商品です。
  
 
 他方,被告の商品です。
  
 
 どうですかね。色合いが金属光沢(原告)と,白色(被告)という違いはありますが,それ以外はかなり似ています。
 
 ですが,ポイントは,上記の原告の商品の形態について,商品等表示として認めてよいか?という所が肝腎です。
 
 夏の初めころにここで紹介した,40部の事件がありました。 
 それは蒸留塔の不規則充填物,という実にマニアックな製品の,やはり商品等表示性が問題になったものでした。
 
 さらに,その前には,コメダ珈琲の事件でも,商品等表示性を認めて,原告(債権者)が勝っております。 

 最近の流行りなのでしょうね。

 しかし,これでいいのでしょうか?原告の商品は平成9年ころから売り出したということで,今年で20年です。現在の意匠法は,登録から20年の保護期間になっておりますが,平成18年法改正で改正されるまでは,登録から15年でした。
 そうすると,どちらにせよ,もうエクスパイアされてもおかしくない期間が過ぎております。
 
 にも関わらず,商品等表示と認められると永久です。勿論,商標権も半永久権ですが,あちらは更新料などのお金を払い続ける必要があるわけです。ところが,この商品等表示に該当すると,お金は要らない,そして永久的な保護という,全く産業の発達に寄与しない状況となるわけです。
 
 これはちょっとおかしい感があります。
 
 勿論,全部が全部保護しなくてもよいと言っているわけでありません。
 誰がどう判断してもセカンダリーミーニングがすごいな,というようなものは当然保護されるべきでしょう。しかし,本件の事例,これでよいのでしょうか?
 
 顕著な特徴はかなりあると思います。 柱部が細棒の二重になった所だとか,デザインは確かにあまり他にないものだと思います。
 しかし,周知でしょうか?家具屋に棚を買いに行った需要者に見せて,ああ,これは良品計画のやつですね~と答えてもらえるものでしょうか?こちらは実に疑問だと思います。
 
 カインズの方は当然控訴しましたので,第二ラウンドの結果を待った方が良さそうですね。