2017年9月25日月曜日

審決取消訴訟 商標 平成29(行ケ)10049  知財高裁 拒絶審決 請求認容

事件番号
事件名
 審決取消請求事件
裁判年月日
 平成29年9月14日
裁判所名
 知的財産高等裁判所第2部 
裁判長裁判官     森              義      之 
 裁判官    永      田      早      苗 
 裁判官    古      庄              研  

「 2  判断
    (1)  前記1(3),(8)のとおり,「アドバンス助産師」認証制度は,既に助産師資格を持つ者であって,一定の助産実践能力を有する者を「アドバンス助産師」と認証するものであるところ,原告は,「アドバンス助産師」を認証する団体であることから,本願商標の出願をしたものである。そうすると,本願商標は,助産師でない者を「助産師」と称するために出願されたものではないから,本願商標が登録されたからといって,保助看法42条の3第2項の規定に違反する事態が発生するおそれがあるということはできない。
(2)  本願商標のうち「Advanced  Midwife」の文字部分の「Advanced」,「Midwife」の各欧文字は,「上級の」,「助産師」をそれぞれ意味する英語である(乙3,4)から,「Advanced  Midwife」の欧文字部分からは,「上級の助産師」の意味が生じるものと認められる。また,本願商標のうち,「アドバンス助産師」の文字部分からは,「上級の助産師」という意味が生じるものと認められる。 
 そうすると,本願商標は,「上級の助産師」の意味が生じる語を日本語表記及び英語表記で表示したものであって,本願商標全体としても,「上級の助産師」の意味を生じるということができる。
 ところで,①前記1(3)のとおり,「アドバンス助産師」制度は,助産関連5団体によって創設されたもので,「アドバンス助産師」を認証するための指標は,公益社団法人日本看護協会が開発したものであるから,その専門的知見が反映されているものと推認されること,②前記1(1),(2)のとおり,原告は,専門職大学院の評価事業のほか,助産師養成機関や助産所の第三者評価事業を行っており,助産分野の評価を適切に行えるものと推認されること,③前記1(6)のとおり,「アドバンス助産師数」は,厚生労働省により周産期医療体制の現状把握のための指標例とされていること,以上の事実からすると,「アドバンス助産師」認証制度は,一定程度の高い助産実践能力を有する者を適切に認証する制度であると評価されるべきものと認められる。また,前記1(3),(5)のとおり,「アドバンス助産師」認証制度は,平成27年から実施され,既に1万人を超える「アドバンス助産師」が存在すること,前記1(7)のとおり,各病院において,ウェブサイトに「アドバンス助産師」の認証を受けた助産師が存在することを記載し,充実した周産期医療を提供できることを広報していることからすると,「アドバンス助産師」は,国家資格である助産師資格を有する者のうち,一定程度の高い助産実践能力を持つ者を示すものであることが,相当程度認知されているものと認められる。
 そうすると,本願商標に接する取引者,需要者は,「アドバンス助産師」を,助産師のうち,一定程度の高い助産実践能力を持つ者であると認識するということができるところ,その認識自体は,決して誤ったものであるということはない。
(3)  国家資格の中には,知識や技能の難易度等に応じて,同種の資格の中で段階的にレベル分けされているものがあることが認められる(乙21~28)が,上級の資格を「アドバンス」と称する国家資格があるとは認められないこと(甲28参照)や前記のとおり「アドバンス助産師」制度が相当程度認知されていることからすると,「アドバンス助産師」が「助産師」とは異なる国家資格であると認識されるとは認められないし,仮に,そのように認識されることがあったとしても,以上の(1),(2)で述べたところからすると,本願商標が国家資格等の制度に対する社会的信用を失わせる「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」ということはできない。
(4)  したがって,本願商標が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号)に当たるということはできない。 」

【コメント】
 商標の拒絶査定不服審判の拒絶審決に対する審決取消訴訟の事件です。

 商標は,「Advanced  Midwife  アドバンス助産師」の標準文字です。
 指定役務等は, 第35類「市場調査又は分析,助産師のあっせん,助産師のための求人情報の提供」,第41類「セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供」,第44類「助産,医業,医療情報の提供,健康診断,調剤,栄養の指導,介護,医療看護その他の医業」及び第45類「乳幼児の保育」です。

 それで,論点が4条1項7号の公序良俗違反となると,審決の判断も一理あるような気もします。
その構成中,「助産師」の文字は,保健師助産師看護師法(以下,「保助看法」という。)3条に規定される国家資格の名称であり,同法42条の3第2項において,「助産師でない者は,助産師又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。」と,名称の使用について規定されているから,その資格を得ることができない請求人(原告)が,「助産師」の文字を有し,「上級の助産師」の意味合いが想起される本願商標を,その指定役務に使用することは,上記保助看法42条の3第2項の規定に抵触するおそれがあり,かつ,本願商標に接する取引者,需要者は,その構成中の「アドバンス助産師」の文字を捉え,国家資格である「助産師」の上級の国家資格であるかのごとく誤信する場合があるものといえる。 
  ところで,国家資格に係る規定は,国家が,公共の福祉その他政策上の目的のために,国民の職業選択の自由を制限してでも,一定の能力を有すると判定された者に限って一定の地位又は権限を付与する必要があると認めて法令をもってそのように定めたものである。したがって,国家資格と誤信されるおそれのある商標を登録し役務に使用することは,これに接する一般世人において,国家資格である「助産師」の制度に対する社会的信頼を失わせ,ひいては公の秩序を害するおそれがあるものといえる。
」 

 こういう関係で,この業界で有名なのは,「特許管理士」事件です。
 弁理士会との仁義なき戦いの末,弁理士会が望んだとおり,「特許管理士」は公序良俗違反として,商標が無効に確定したわけです。
 ですので,こういう話を聞くと,審決の方が正しいのでは?と思いがちなのですが,こういう事情がありました。
 「原告は,平成27年度より「アドバンス助産師」の認証業務を運営している。原告は,助産師資格保有者による公共的な性格を有する職能団体であり,助産関連5団体(原告,公益社団法人日本看護協会,公益社団法人日本助産師会,一般社団法人日本助産学会,公益社団法人全国助産師教育協議会。以下,「助産関連5団体」という。)が制定した認証要件(一定の実務経験,助産能力についての要件)を充たす助産師資格保有者に対してのみ,「アドバンス助産師」の認証を行っている。原告が実施する研修等は,助産関連5団体が定めた上記認証要件に即した内容である。
 したがって,原告が,アドバンス助産師認証業務を運営することにより,助産師資格に対する社会的信頼が害されることは想定できない。また,実際に「アドバンス助産師」という認証名を用いているのは,国家資格である助産師を保有する者であるため,周産期医療の利用者による国家資格である助産師に対する信頼が害されることもない。
  」

 全く無知というのは恐ろしいものです。私も知りませんでしたが,このような団体があり,「アドバンス助産師」というのも公的な認証名だったのです。
 なので,特許庁の審判は,あまりに形式に過ぎたということになります。とは言え,審査ならまだしも,審判で,このように頭の固い判断をしたというのはちょっと解せないなあと思う所があります。まさか原告が主張の出し惜しみをしたわけではないと思いますので,審判段階でももっと柔軟に判断して良かったのではないかと思います。