2017年10月13日金曜日

侵害訴訟 商標 平成28(ネ)1737  大阪高裁 控訴棄却


事件番号
事件名
 不正競争行為差止等請求控訴事件
裁判年月日
 平成29年4月20日
裁判所名
 大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官        山 田 知 司 
裁判官            中 尾   彰
裁判官寺本佳子は,転補のため署名押印することができない。  
裁判長裁判官         山 田 知 司  

「ウ  次に,前記認定事実(4)イのとおり,少なくとも平成26年6月頃,「石けん百貨」という表示(スペースなし表示)を含む本件広告のハイパーリンク先の楽天市場リスト表示画面に石けん商品が陳列表示された場合があったことが認められるから,この場合について検討する。 

(ア)  「石けん百貨」は造語であるから,ユーザーがGoogle等で「石けん百貨」をキーワードとして検索をする動機は,典型的には,「石けん百貨」ブランドの石けん商品を買いたい,その販売店や販売価格を知りたい,当該商品の特徴等の情報を知りたいなどといったものであると考えられる。そのような動機に基づきGoogle等で「石けん百貨」をキーワードとして検索をしたユーザーが,検索結果表示画面に表示された「【楽天】石けん百貨大特集」等と記載のある本件広告を見て,これに関心を持ってハイパーリンクをクリックして移動した画面には,楽天市場内を「石けん百貨」をキーワードとして検索した結果として,石けん商品の紹介がその販売店等の情報と共に表示されたのである。
  このことをユーザーから見れば,本件広告は,そのハイパーリンク先である楽天市場リスト表示画面と一体となって,「石けん百貨」ブランドの石けん商品を買いたいなどの動機によりGoogle等で「石けん百貨」をキーワードとして検索をしたユーザーを,被控訴人の開設するウェブサイト内にある,「石けん百貨」の指定商品である石けん商品が陳列表示された石けん商品販売業者のウェブページに誘導するための広告であると認識される。そして,本件広告の広告主が被控訴人であることからすれば,被控訴人は,控訴人の登録商標である「石けん百貨」の指定商品である石けん商品に関する広告を内容とする情報に「石けん百貨」という標章を付して電磁的方法により提供したといえるかのようである
(イ)  しかしながら,「石けん百貨」をキーワードとする検索連動型広告である本件広告がGoogle等で表示されるに至ったのは,前記認定事実(1)のとおり,●(省略)●
  また,楽天市場内には「石けん百貨」ブランドの控訴人の商品を取り扱う店舗はないにもかかわらず,楽天市場内を「石けん百貨」をキーワードとして検索した結果である楽天市場リスト表示画面に石けん商品が陳列表示されたのは,前記認定事実(3)のとおり,楽天市場内の加盟店の出店ページにキーワードとして「石けん百貨」が含まれていたからであると認められる。そして,前記前提事実(4)のとおり,加盟店の出店ページは各加盟店が自らの責任でコンテンツを制作しており,被控訴人は制作に関与していない。このように,「石けん百貨」をキーワードとして楽天市場内を検索した結果である楽天市場リスト表示画面に表示される内容(何も表示されないか,「石けん百貨」の指定商品が表示されるか,同指定商品ではないものが表示されるか)は,専ら被控訴人が制作に関与していない加盟店の出店ページ中の記述によって決まり,加盟店が同記述を変更すれば表示される内容もそれに従って変動するが,被控訴人は判断も関与も認識もしていないと認められる。
  以上のとおり,●(省略)●各加盟店が自らの責任で制作した出店ページを検索する仕組みを通じて,被控訴人が広告主である検索連動型広告に「石けん百貨」という具体的な表示がされ,かつ,そのハイパーリンク先である楽天市場リスト表示画面に石けん商品が陳列表示されたことが直ちに被控訴人の意思に基づくものとはいい難い。すなわち,加盟店が,出店ページのコンテンツを制作することにより,被控訴人の広告と検索の仕組みを利用して,当該石けん商品に「石けん百貨」という標章を付したといえる場合があることはともかくとして,それについて判断も認識もしていない被控訴人が,当該石けん商品に「石けん百貨」という標章を付したと直ちにいうことはできないため,被控訴人の行為は,商標法2条3項8号所定の要件の一部を欠くことになるから,当然に被控訴人が控訴人の商標権を侵害しているとはいえないのである。
(ウ)  もっとも,上記の仕組みは,控訴人が指摘するとおり,被控訴人自身が構築したものであるから,被控訴人は,これによって惹起される事態は,被控訴人が広告主である検索連動型広告に「石けん百貨」という表示がされ,かつ,そのハイパーリンク先である楽天市場リスト表示画面に石けん商品が陳列表示されたことを含めて,あらかじめ包括的に認容していて,「石けん百貨」という標章が付されたことも自己の行為として認容しており,控訴人の商標権を侵害しているといえないかが問題となる。
  しかし,本件の全証拠によっても,上記のような検索連動型広告及び●(省略)●は,被控訴人が商標権の侵害又はその助長を意図して構築したものであるとも,客観的に見て専ら商標権侵害を惹起するものであるとも認めることはできない。
  控訴人は,検索連動型広告において,検索されたキーワードをそのまま広告に表示させることは本来必要とされていない旨主張するが,上記のような検索連動型広告が商標権保護の観点から許されないと直ちにいえるものでもない。また,控訴人は,被控訴人が自らの利益のために本件広告を出していることを指摘するが,そのことをもって直ちに商標権侵害行為を惹起することも辞さない意図であると認めることもできない。 かえって,被控訴人は,加盟店に対しては,前記認定事実(5)のとお
り,知的財産権侵害を禁止する規約や,隠れ文字の使用を禁止するガイドラインにより,被控訴人の運営するインターネットショッピングモールである楽天市場に関連して商標権侵害行為が惹起されないよう規制をしている。
  被控訴人が広告主である検索連動型広告に「石けん百貨」という表示がされ,かつ,そのハイパーリンク先である楽天市場リスト表示画面に石けん商品が陳列表示されるというような商標権侵害の事態が生じないようにするためには,被控訴人が行っている上記のような規制から更に進んで,一定のキーワードの取得を制限する管理を行うことが考えられる。実際,被控訴人は,検索連動型広告に係るキーワードの管理においては,加盟店の規約違反等が判明した場合には,●(省略)●などの運用を行っている。しかし,これを事前に漏れなく網羅的に行おうとすれば,あらゆる登録商標について,楽天市場の出店ページの内容と取扱商品との関係を調査して,それが商標権侵害となるか否か(正規品を販売している場合,指定商品役務が異なる場合や商標的使用でない場合もあり得る。)といった調査が必要になると考えられる。楽天市場の規模からするとその調査対象は膨大なものとなる上,ユーザーの検索行動も,加盟店の出店ページも,常に変化するものであるから,上記調査は著しく困難といえる。そして,楽天市場は,上記調査が著しく困難である主な原因となっている,膨大な加盟店及び取扱商品を擁していること自体によって,商品の供給者及び需要者の双方にとって有用な存在となっているといえる。
  以上の事情に照らすと,被控訴人が検索連動型広告及び●(省略)●を構築していることから,被控訴人がこれによって惹起される事態を包括的に認容しており,被控訴人が広告主である検索連動型広告に「石けん百貨」という表示がされ,かつ,そのハイパーリンク先である楽天市場リスト表示画面に石けん商品が陳列表示されたことについても,被控訴人は,「石けん百貨」という標章が付されたことを自己の行為として認容していたとまでいうことはできない
(エ)  控訴人は,本件広告のハイパーリンク先の楽天市場リスト表示画面に石けん商品が陳列表示されたのが加盟店の隠れ文字使用によるものであっても,それは,被控訴人にとって想定外の事態とはいえないこと,規約等の違反を常時監視できないのなら,●(省略)●をやめるべきであること,被控訴人と同業のAmazonにおいては,出店ページに隠れ文字の設定ができない仕様になっており,隠れ文字の設定ができないシステムの作成も可能であったことを主張する。
  しかし,前記認定事実(5)のとおり,被控訴人は隠れ文字の使用を禁止し,「P1」の出店ページの隠れ文字を認識した際には,同店の商品ページをサーチ非表示にし,隠れ文字の削除を求める等の対応をとっているのであって,被控訴人が加盟店の隠れ文字使用による結果を包括的に認容していたとは認められない。また,隠れ文字の設定ができないシステムの作成をしていなかったことについても,同システムが通常の仕様として普及しているのにこれを採用しなかった場合はともかく,そのような事情の認められない本件において,同システムの採用が可能であったとの一事をもって,被控訴人が加盟店の隠れ文字使用による結果を包括的に認容していたということもできない。楽天市場が加盟店4万店超,取扱商品1億5000万点超という膨大な規模であり,出店ページのコンテンツは各加盟店により次々と変更されていくことに照らせば,隠れ文字禁止の規約違反を常時監視することは非現実的であり,これをしていなかったことをもって,加盟店の隠れ文字使用による結果を包括的に認容していたとすることもできない
  したがって,控訴人の上記各主張は,被控訴人が「石けん百貨」という標章が付されたことを自己の行為として認容していたとはいえないとの判断を覆すものではない。
(オ)  他方,被控訴人が広告主である,「石けん百貨」との表示を含む検索連動型広告のハイパーリンク先の楽天市場リスト表示画面において,登録商標である「石けん百貨」の指定商品である石けん商品の情報が表示された場合には,これをユーザーから見れば,前記ウ(ア)のとおり,両画面が一体となって,「石けん百貨」ブランドの石けん商品を買いたいなどの動機によりGoogle等で「石けん百貨」をキーワードとして検索をしたユーザーを,被控訴人の開設するウェブサイト内にある,「石けん百貨」の指定商品である石けん商品が陳列表示された石けん商品販売業者のウェブページに誘導するための広告であると認識されるのであるから,被控訴人が当該状態及びこれが商標の出所表示機能を害することにつき具体的に認識するか,又はそれが可能になったといえるに至ったときは,その時点から合理的期間が経過するまでの間にNGワードリストによる管理等を行って,「石けん百貨」との表示を含む検索連動型広告のハイパーリンク先の楽天市場リスト表示画面において,登録商標である「石けん百貨」の指定商品である石けん商品の情報が表示されるという状態を解消しない限り,被控訴人は,「石けん百貨」という標章が付されたことについても自らの行為として認容したものとして,商標法2条3項8号所定の要件が充足され,被控訴人について商標権侵害が成立すると解すべきである。 」

【コメント】
 ここでも紹介した検索連動型広告による商標権侵害の事件の控訴審です。
 実は,この一審の記事は,このブログで恐らく一番アクセスの多い記事で, 如何に潜在的注目があったかがわかります。
 
 ということで,事案の概要などは,一審の記事を見て下さい。
 
 さて,その控訴審が出たわけですが,結論は変わらず, です。しかし,一審よりも厳しいなあという感があります。

 一審では,検索連動型広告とその広告のリンク先とが一体と捉えられる場合には,商標権侵害の可能性があり,その一体基準は,「被告が本件広告を表示するに当たり,移動後の楽天市場リスト表示画面で石けん商品が陳列表示されることを予定し,利用していると評価し得ること」が必要としたわけです。
 
 他方,この二審は,「被控訴人が当該状態及びこれが商標の出所表示機能を害することにつき具体的に認識するか,又はそれが可能になったといえるに至ったときは,その時点から合理的期間が経過するまでの間にNGワードリストによる管理等を行って,「石けん百貨」との表示を含む検索連動型広告のハイパーリンク先の楽天市場リスト表示画面において,登録商標である「石けん百貨」の指定商品である石けん商品の情報が表示されるという状態を解消しない限り・・・」と判断したのです。
 
 つまり,一体+その状態の認識ないし認識可能性を有しての合理的期間内の解消をしない,という条件が合わさって,初めて侵害だとしたわけです。

 本件では,上記のとおり,一体については認めております(判旨の最初の方)。しかし,合理的期間内の解消があったとして侵害は認められないとしました。
 
 ということで相当高いハードルです。
 
 しかし,商標権の侵害に主観的な要件などは必要でしょうか?勿論,損害賠償には,「故意又は過失」が必要です。でも,差し止めは,物権的な請求権ですので,主観的要件は必要ないはずです。
 
 ですので,そのような観点から疑問が残る判決と言えます。
 

 あと本件では,重大な事実について,閲覧できません。それ故肝腎な部分でわからない点があります。
 
 判決の前提事実の認定はこのようになっています。
(1)  アドワーズ広告等における被控訴人によるキーワードの登録の仕組み(乙17,19,20)
●(省略)●
  これらの点に関し,控訴人は,●(省略)●とは認められない旨主張するところ,確かに,アドワーズ広告等の利用方法等について解説する「Googleアドワーズご利用ガイド」(甲19)や「スポンサードサーチのはじめ方」(甲20)には,広告主がキーワードを指定して登録する旨の記載があり,●(省略)●に関する記載は見当たらない。しかし,被控訴人のような大規模なインターネットショッピングモールを運営する事業者においては,Google等から一般の広告主とは異なる内容のサービスの提供を受けているとしても不自然ではない。かえって,被控訴人からGoogle等に対して登録しようとするキーワードは大量で,かつ,時々刻々変化させる必要があると考えられる。そうすると,●(省略)●ことは合理的であるといえるから,甲第19号証及び甲第20号証は,上記認定を左右するものではない。
  また,控訴人は,本件広告は,被控訴人が「石けん百貨」等のキーワードの顧客誘引力を利用して,被控訴人の売上げを増加させようとしたもので,「石けん 百貨」等のスペース表示ありの本件表示を含む本件広告についても,半角スペースを空けることで,広告の効果を大きく高めるためにした設定である旨主張する。
  しかし,被控訴人が「石けん百貨」,「石けん 百貨」等のキーワードを意図的にGoogle等に登録したことを認めるに足りる証拠はなく,加盟店4万店超,取扱商品1億5000万点超という規模のインターネットショッピングモールの検索連動型広告を出すに当たり,Google等に登録するキーワードにつき,それを表示した場合の宣伝効果を個別に検討・判断して登録しているとはにわかに考え難いところでもあるから,控訴人の上記主張は採用できない。
●(省略)●
(3)  楽天市場リスト表示画面での表示の仕組み

 個別のお客さんがアド広告を頼む場合は,キーワードを購入するようになっています。
 ところが,本件の被告の楽天のような大口顧客に対しては,そのようなシステムではないようなのです。
 
 しかし,具体的にどのようになっているかは,判旨に省略が多すぎてよくわかりません。また,キーワード登録の仕組みは一部開示もあるのですが,(2)は,それ自体省略されていて,ここに何が書かれていたのかさえよくわかりません。
 
 それ故,この事案を糧にしようと思っても,糧に出来ない部分が多々あることになってしまいます。
 
 
 さてさて,本件で問題となった論点は,実務では最近の大きな論点といえますので,何か戦える術を・・・という感がありましたが,どうやらなかなか難しいようです。
 
 ただし,一審は大阪地裁,二審は大阪高裁ですので,東京圏(東京地裁→知財高裁)の判断はまた違ってくるかもしれません。最近の東京圏の知財の裁判所は,プロパテント傾向がありますので(例えば,TRIPP TRAPP事件,コメダ珈琲事件など),このタイプの訴訟を起こすのであれば,東京の方が良いかもしれません。